吉良吉影は潮流へ 〜Another One Bites the Past(過去に食らいつけ)〜   作:Mr.アップルパイ

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20.開花②

「承太郎さん!」

 

「ぐ、ぐが、がはっ」

 

承太郎の喉元に突き刺さるナイフは、彼の首を貫通しても尚暴れることを辞めず、その首を断ち切ろうと激しく動いている。

 

「ぐっ…………ザ・ハンドッッ!!」

 

腹にいくつもの血溜まりを作っている億泰が、ナイフを引き寄せようともがくが、それも叶わず。

 

承太郎は既に地面に倒れ込んでいた。

 

「空条承太郎…………いつどんなトリックを使ってくるか分からない。

徹底的にやらなきゃあ、ダメだよなぁ?」

 

吉良は黒い笑みを浮かべながら、足元に落ちたナイフを拾い、承太郎の真上にぶらさげる。

 

「やめろォッッッ………」

 

億泰は尚もザ・ハンドでナイフを手繰り寄せようと、何度も何度も空間を削り取る。

 

しかし、ナイフは揺れることすらせず、むしろ仗助のみが後ろへと、吉良から離れ、億泰の方へと引きずられていくのみである。

 

「見苦しいな。…………そんな虫けらみたいなことをしなくたって、君たちもすぐに私が同じ場所へ送ってやるさ」

 

そう言って、吉良がナイフを落とす。

 

「く………ザ・ハンドォッ!」

 

ナイフは垂直に落ちるかと思いきや、途中で軌道を曲げ、わずかに承太郎の皮膚を切り裂いて地面に着地した。

 

 

 

 

完全敗北。

 

 

 

────承太郎は死んだ。

 

────億泰たちももうすぐ殺される。

 

 

 

 

────────そんな考えは、その場の誰も持っていなかった。

圧倒的に有利である吉良ですら、持っていなかった。

 

バキッ。

 

吉良の後ろで何かが壊れる音がした。

 

「植木鉢…………空間を削り取って、私の後ろの植木鉢を引っ張ってきた(・・・・・・・)ってわけだ。

…………飛んだ子供だましだな」

 

吉良が植木鉢を握りつぶしながら言い放つ。

 

 

これで奴らは万策尽きたのか?いいや、そんな訳がない。

 

吉良はまだ、彼らの切り札を疑っていた。

 

まだ何かあるはずだと。

 

しかし、それが何かを当てることは出来なかった。

 

だから、せめていつ何がきても対処できるよう、キラークイーンを仗助達の方へ向けて、最大限に警戒していた。

 

「東方仗助。貴様、さっきから何も話していないな。

何か悪巧みをしてるってことは分かってるんだ。

だから、私も少し悪巧みをさせてもらうよ」

 

そう言い放つと、吉良は少し乱暴に、足元にあるナイフを承太郎の首元へ寄せた。

 

「このナイフは、私のキラークイーンが既に爆弾に変えている。

君たちが妙な真似をしないように、私は今からカウントダウン(・・・・・・・)をしようと思う。

年越しのカウントダウンみたいなチャチなもんじゃあない。

 

────────3秒後にこのナイフを起爆する」

 

「──────!」

 

今まで俯き、無表情を保っていた仗助の顔が歪む。

 

「だから、もし何か秘策があるのなら早く使った方がいいと思うぞ?

3秒以内に私を止められなかったら、どちらにしろ彼は──────ドカン、だからな」

 

強調するように、吉良が見下しながら言う。

しかし尚も仗助には動く気配はない。

 

「─────3」

 

冷酷に、一切の戸惑いを見せず、吉良がカウントダウンを始めた。

 

「2」

 

仗助は動こうとしない。

 

「1」

 

吉良は少しの疑問を抱きつつも、カウントダウンを止めるつもりは一切なかった。

 

「0」「クレイジーダイヤモンドッッ!!」

 

「ついに来たなッッ!東方仗助ッッ─────!?」

 

仗助の右腕(・・)から繰り出されるパンチを吉良がガードする構えを見せる。

彼はその瞬間思い出した。

 

(そういやこいつ、右腕はもう折れて────!?)

 

 

 

目くらまし。

 

砂を使った目くらましだ。

 

それは策と呼ぶにはあまりに稚拙で、しかし確かに効果のある方法だ。

 

「ドラァッッッ!」

「まずいッッ!まともに食らっては────」

 

吉良は背筋にゾッとする感覚を覚えた。

 

 

 

パシッ。

 

 

 

そのパンチは、芯こそ感じるが、彼の想像していたものよりは数倍軽いものだった。

だが、吉良にはもはやそれを疑う余裕はない。

 

「これで終わりだッッ!」

 

シャー、と威嚇の声を上げながらキラークイーンがストレートを繰り出す。

そのパンチは仗助の腹にめり込み、彼を後方へと吹き飛ばした。

 

そして仗助は、吹き飛びながら、確かにこう言った。

吉良を力強く指さしながらこう言ったのだ。

 

「ぶん殴ったのは俺じゃあねえ…………あとは頼んだぜ、承太郎さん」

 

「!?────なにかまずいッッ!!キラークイーンッッ!早く起爆スイッチを───────!?

体が──────」

 

「いいぞッッ!!そのまま地面までめり込ませろ!Act 3ッ!」

 

予想外の攻撃。

 

広瀬康一は確かに、吉廣の攻撃で意識を失っていたはずだった。

 

なぜ?それに、いつの間に私に触れたのか?

 

「俺は……よォ、植木鉢なんか手繰り寄せてたんじゃあねェ…………。

ずっと引っ張ってきてたんだぜ…………患者(・・)医者(・・)を同時によォ…………」

 

「砂は目くらましのためなんかじゃあねえ。

バレたくなかったのさ──────テメーを殴るのは俺じゃあなく、康一だってことをッ!!」

 

最後の決めゼリフを言いながら、仗助は後ろの扉に激突する。

そして、そのまま意識を失ったようだ。

 

しかし、だからと言って吉良の脅威が消えた訳では無い。

 

「ぐ、ぐおおおおッッ!!」

 

吉良はなおも巨大化した重力に逆らい、スイッチを押そうと全力を注いでいた。

承太郎が消えれば彼らの士気も低くなるだろうという期待にかけて。

 

そして、承太郎を意識に入れている手前、彼がちらりと承太郎を見たのは、ごく自然なことだった。

 

 

 

 

 

 

「き……ら……吉影……………」

 

彼は起き上がっていた。

 

立つ体力は残されていなかった。

 

ただ、四肢を最大に使って、確かに地面に起き上がっていた。

 

喉からは空気の漏れる音が鳴りながらも、確かに吉良を見すえていた。

 

「ダメだッッ!!起爆が間に合わな──────」

 

「オラァッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、吉良は確かに自分の死を覚悟した。

 

だから、一瞬瞑った目を開いた時、彼は自分の目を疑った。

 

それは、あまりにもありえない光景だったから。

 

聡明な彼ですら、何が起きているかを理解するのに時間がかかった。

 

 

 

彼女(・・)は、承太郎の拳を受け止めていた。

 

 

 

 

全てをだしきった承太郎が、今度こそ息を止め、地面に倒れ込む。

 

 

 

 

 

「──────あんた、そういう人間だったのね」

 

 

 

 

 

 

 

ベルが、吉良を庇うようにして立っていた。


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