吉良吉影は潮流へ 〜Another One Bites the Past(過去に食らいつけ)〜   作:Mr.アップルパイ

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4.完全和解

「てめえっなにしてやがる!」

 

ジョセフが呼びかけるが吉良はそれを聞いている様子もなく、ただただ驚いていた。

 

(あのスタンド、思い出したぞ、ジョセフ・ジョースター!

仗助と一緒にいたあの老いぼれの名前だ!

吉廣からスタンド能力と名前を聞いていた………

スタンドを見て思い出したッ!)

 

「おい、聞いてんのかよ〜、てめえ!」

 

「………どうやってここを?」

 

「へへっ、このよくわからねえツタみてえのが伸びてたから辿って来たらここに来たのさ」

 

吉良がジョセフの手を見ると、彼のハーミット・パープルが伸びている。

それを視線で辿って行くと、吉良の足に巻きついていたのだった。

 

「………いつの間に」

 

「とにかく、俺は出来るだけ戦いなんかしたくねえんだけどよ?

俺なりの意見を言わせてもらうと、スリに対して殺す、てのはちとやりすぎだと思うのよ」

 

ジョセフが少し軽快に、しかし目には確かな光を灯しながら言う。

 

「………一分だけ待ってくれないか?」

 

「あぁ?なんの一分だァ?今すぐその行動をやめりゃ、見なかったことにしてやるって言ってんだぜ?」

 

少し怒り気味に言うジョセフに対し、吉良が余裕を持った顔で言う。

 

「君たち二人を殺す時間さッッ!」

 

吉良が言った直後、少年が顔を青ざめる。

 

「ちゃ、茶髪の兄ちゃん、後ろだァァァァァァァ!!!」

 

吉良がニヤリ、と笑う。

ジョセフの後ろにはかなり膨らんだシアーハートアタックが飛び込んで来ているところだった。

 

(万が一少年が逃げ出した時のために屋敷の庭にシアーハートアタックを埋めておいてよかった………

おかげで少し遅れて彼に追尾をしてくれていた。

時間稼ぎの会話もこれで終わりだ!)

 

「JOJO!残念だったな!

君は私の策に嵌ったのだよッ!

いいか、動くんじゃあないッ、蜘蛛の糸に絡まれた虫けらみたいにそのまま野垂れ死ぬんだ!」

 

そこまで言ったところで、今度はジョセフが不敵な笑みを浮かべた。

先ほどまで笑っていた吉良は対照的に無表情になった。

 

「ノーノー、策に嵌ったのはお前の方だぜ?

周りをよく見てみろよ」

 

吉良が慌てて天井を見る。

そこにはまるでバリケードのように無数の茨が張り巡らされていた。

しかし、吉良は再び微笑んだ。

 

「フン、だからどうしたと言うのだ?

シアーハートアタックは既に貴様の眼前に迫っている。

今更壁や床からその茨を出したところで私やシアーハートアタックには届かないんじゃあないか?」

 

「おいおい、俺はよく周りを見ろ(・・・・・・・)って言ったんだぜ?

よーく見てみな?」

 

「時間稼ぎか?

悪いが私にそんなハッタリは通用────ッッッッ!?」

 

吉良が歩き出した途端、踏み出した右足に茨が絡みつく。

しかしその茨は床から出たものではない。

天井からも、壁からも、あらゆる面から吉良の右足を縛っていた。

 

「植物ってのはよ、ほっそ〜〜い繊維の集まりなわけよ。

その繊維を解いて一本にしてから使えば………どうなるんだろうな?

もう一度言うぜ?よく周りを見てみろよ?」

 

吉良がハッとした様子でポケットから香水を取り出し、キラークイーンの手で握り潰す。

出てきた液を乱暴に撒くと、それ(・・)は見えてきた。

液体に濡れた極細い糸が白く光っていた。

 

「ば、バカなッッ!?繊維単位での茨の結界だと!?

そんなもの、シアーハートアタックの力なら千切れるハズだッ!」

 

糸の結界に捕まったシアーハートアタックがギリギリとその身体をジョセフに向けて押し付ける。

 

「いいや、直感で分かる。

この茨はちぎれねえさ。

あえて言うなら、持続力:A、ってところだ」

 

ジョセフの言葉通り、シアーハートアタックを縛る茨はちぎれる事なく何十本もの繊維が絡みつき、やがて一本の茨となった。

その茨から新たな茨が伸び、シアーハートアタックを拘束して行く。

 

ジョセフは、一度も吉良から目を離すことなくシアーハートアタックを撃退したのだ。

 

「──ッ!」

 

ジョセフが手から茨を勢い良く伸ばす。

それは吉良の頬を掠めて、後ろにあるテレビに当たった。

 

「次は当てるぜ?

降参するなら今のうちだ」

 

吉良の頬から血が滴る。

吉良は一瞬で頭の中にあらゆる策を思い浮かべ、この満身創痍の身体に絶体絶命の状況に打開策はないと理解した。

よって、たどり着く結論はひとつ。

 

「……………分かった。すまなかった。

私も少しどうかしていた様だ」

 

彼は降参を選んだ。

それは決して臆病や保身ではない。

哲学者ソクラテスはかつて無知の知を主張したが、吉良も自分の限界を知っているという点では、賢い選択をしたと言えるだろう。

 

「や、やけに正直だな。

まあ、それならその右手も含めてさっさと俺ん家で治そーぜ!」

 

「…………ああ……………そうだな」

 

吉良が降参の意思を見せるとジョセフはシアーハートアタックの茨のみを解く。

そして吉良が静かにシアーハートアタックを戻したのを見て、部屋の結界も解いた。

 

(こいつ、相当強い………

無駄に戦って死ぬよりは仲間となった方が安心出来るな………)

 

吉良は、この期に及んでまだ打算的な考えを捨ててはいなかった。

 

しかし、この決断が吉良を変えることになるのはまだ先の話である。

 

「んじゃ、少年、お前はどうすんだ?

金、取ったんだろ?」

 

「あ、それは………無くなってしまったので………」

 

「………………では、私たちと共に行動をする、というのはどうだね?

JOJOのお婆さんはきっと相当の高齢だろう。

その身辺の世話や家事をしてもらう。

勿論、最低限の暮らしはジョジョが保証する。

給金は無いが、今までの暮らしよりはかなり充実した暮らしになるんじゃあないか?」

 

吉良の提案に、少年はすぐに首を縦に振った。

 

「おいおい、勝手に決めるんじゃねえよ、クイーン!

…………まあいいけどよ………少年、名前は?」

 

「す、スモーキー・ブラウンです!よろしくお願いします!」

 

「スモーキー君、さっきはすまなかったね。

仲良くしてくれ」

 

「はい!」

 

吉良とスモーキーが握手をする。

 

(これで表面上は和解だ。このガキがバカなおかげでジョセフ…ジョースターとの敵対は免れた。

脅威は消えたも同然………

安心して眠れるぞ)

 

三人の中で、思惑は違うものの笑顔が生まれた中、突如ノイズ音がした。

ザーっというテレビの砂嵐特有のノイズだ。

三人が一斉にある方向を見る。

先ほどジョセフがハーミット・パープルを当てたテレヒだった。

 

『今日の』『重大な』『お知らせ』『です』

 

次々とチャンネルが切り替わり、単語が並べられ、一つの文章を作って行く。

一つ一つの単語を切り取って文にしているのだ。

 

「な、なんだありゃあ!?」

 

「恐らく、あれが君のハーミット・パープルの本当の能力………」

 

『スピード』『ワゴン』『が』『ピンチ!』

『メキシコ』『に』『ある』『ドイツ』『の』『実験』『施設』『に』『GO!』

 

 

「スピードワゴンが!?」

 

「スピードワゴン?SW財団のことか?」

 

「その創設者の方さ!俺の知り合いなんだ!」

 

(……………?SW財団の創設者のロバート・E・O・スピードワゴンは既に死んでいるはずだが………)

 

テレビに一人の老人が体中を拘束されている姿が映し出された。

彼の顔は枯れ草のように疲弊しきっており、瞳はなにかを訴えているようにも見える。

 

「おいおい、マジかよ………」

 

ジョセフが口をぽかんと開ける。

しかし、状況は理解出来なくとも、自分のスタンドの能力、そしてやるべき事は理解したようだった。

 

「…………二人とも、悪いんだが、さっきまでの話は無しだ。

俺はメキシコに行ってくるぜ」

 

ジョセフが申し訳なさそうに自分の思いを告げる。

しかし一方、返ってきたのは彼にとって意外な返事であった。

 

「それなら私も行こう」

 

「ッッ!?おいおい、冗談はよせよ。

会って数時間の奴のためにニューヨークからメキシコまで行くやつなんていねーぜ?」

 

「いいや、私もそのスピードワゴン…………さんに色々と聞かなければいけないことがあるかもしれない」

 

「そ、それならさ!その間はJOJOの婆ちゃんの世話を俺がするよ!」

 

「………おめーら………」

 

ジョセフが感極まったような声をあげる。

吉良は爽やかな笑みを浮かべながらも頭では全く別のことを考えていた。

 

(先ほどのニュースで見た年………

スピードワゴンの生存、そしてジョセフ・ジョースターの年齢。

もはや間違いない!

私は、何十年も前にタイムスリップしているッッ!!)

 

「私もついていくわ」

 

「ッッ!?」

 

三人の前に一人の女が現れた。

吉良とともに車に捕まっていた桃髪の女である。

いつの間に意識を取り戻していたのだろうか。

 

「誰だか知らねえが、人のことにあんまり首突っ込むんじゃねーよ」

 

「いいえ、私にはあなた達と一緒にメキシコに行く理由があるわ。自分でもよくわからないけれど、そういう使命感に駆られている………」

 

「なんだ、それ…………?……まあ二人も三人も同じか。

それじゃあスモーキー、まだ信用できねえからSW財団の奴らは付けとくが、婆ちゃんの世話、頑張れよ!」

 

「は、はいっ!」

 

ジョセフら三人が屋敷から出る。

その後ろ姿を見送りながら、スモーキーは自分の手のひらをただ見つめていた。

 

(この能力………また使う機会があるような気がしてならない………)

 

そんなスモーキーの心の呟きは誰にも聞かれることなく霧散したのだった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

ジョセフとスモーキーが倒れていた路地に、足を踏み込む者がいた。

手には矢を握りしめ、背後にはボヤけた人型の像が見えている。

 

「フハハハハ!偶然手に入れたこの能力………これならッッ!」

 

 

男は一人、暗闇で笑っていた。


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