吉良吉影は潮流へ 〜Another One Bites the Past(過去に食らいつけ)〜 作:Mr.アップルパイ
「そ、それじゃあ二人とも、カードをチェックしてください」
少年が二人にチェックを促す。
二人がカードを裏返し、そしてそれぞれの表情を作った。
ジョニーは完全なポーカーフェイスであるのに対し、ジョセフはニヤニヤとした顔で笑っている。
(俺様のハーミット・パープルをなめんじゃねーぜ〜〜〜)
身も蓋もない話だが、ジョセフは、イカサマをしていた。
ハーミット・パープルの繊維を目に見えないほどにほどいて、少年のシャッフルするトランプに伸ばしたのだ。
そして繊維で読み取ったトランプのインクの僅かな凹凸でカードの数字とマークを特定し、シャッフルの隙に好きなカードを上に入れ替えた。
(いきなり大役は怪しいから出来ねーが、フルハウスくらいなら運がいいで済むぜッッ!
ヤツの能力………………まだ詳しく分からない以上はイカサマがバレるのは避けた方がいいからな)
ジョセフの役は、スペードとダイヤのA、スペード,ダイヤ,ハートの10のフルハウス──────イカサマとは言い難くも強い、絶妙な役だった。
「それではベッティングラウンドに入らせてもらってよろしいですかな?」
ジョニーは毅然とした態度でジョセフに問う。
ジョセフはそれに首肯で答えた。
(カードの交換をしてこねぇ……………
相当自信があるのか?
いいや、或いはこれから何かのイカサマをするつもりなのか?)
「ちょっと待て。
チップがねェぜ?これじゃあ賭けが────」
ジョセフが問うと、ジョニーは笑いながらテーブルの上を指差す。
その先を見るといつの間にかジョセフの手元にはたくさんのチップが置かれていた。
そのチップには持ち主の顔が刻まれている。
「チップはお互いに50枚─────1枚失うと身体の2%がこのトランプに刻み込まれ、その部分は動かなくなる───全てのチップを失えば、貴方はこのカード達のように私のコレクションの一部となるのです」
ジョニーは白紙のトランプを見せた後、自分のコレクションをジョセフに見せる。
そこにはまるで、キングの柄が他の人間と成り代わったかのような模様があり、顔を見ればみな同じく悲痛な表情をしていた。
「それではベッティング・ラウンドへと参りましょう。
私から賭けさせていただきます───」
お互いに参加料のチップ一枚を場に出し、ジョニーがチップに手を付ける。
その時、ジョセフは目を見張った。
ジョニーが出したチップは、賭けることができる最大枚の、10枚だった。
「ベット」
「なッ、なんだとおォォォォォォォォォ──────!?」
ジョセフが動揺を隠しきれず、思わず立ち上がる。
「?どうしました?」
「くっ………(こいつ───なにかあるッッッ!!
余程自分の勝ちを確信できるなにかがッッ!)」
ジョセフはまだ戸惑いを残しつつも、コールだぜ、と吐き捨てるように言った。
「ほう………?ここでコールしますか………
最初にここで動揺を誘うのがいつもの作戦なのですが………
良いでしょう。チェック!」
ジョニーがこれ以上賭けの上乗せをしないことを宣言し、お互いにカードを場に出す体制に入る。
(ここまでイカサマをする気配なし……………何を考えてやがる?
1ターン目からカードの交換もせず10枚ベットなんてプロがすることじゃねえ。
本当に一体なにが─────)
「それでは二人ともカードを見せてください」
ジョセフが恐る恐るカードを見せる。
その額にはうっすらと汗が滲んでいる。
次の瞬間、ジョセフは目を疑った。
「なっッッッッッ────!?」
ジョセフの目に映ったのは、10,J,Q,K,Aの文字。
その全てに、ダイヤのマークが刻まれていた。
(ろ、ロイヤルストレートフラッシュだッッッ!!
ありえねー!259万8960分の4、つまり649740分の1の確率だぜーーーーッ!?
1ターン目からポーカー最強の役が出るわけねーッッ!
なにかイカサマをしているに違いない!!)
ジョセフが注意深くジョニーを観察するが、全く怪しい様子はなく、持っているカードも本物である。
そして、ジョセフがイカサマを見つけるよりも先に、タイムリミットが終わった。
「ぐっ!?」
ジョセフの左腕が、指の先から徐々に紙のように薄くなって行く。
その侵食とも言える現象は、彼の左腕を全てペラペラにし、脇腹をすこし抉ったところで止まった。
「OHHHHHHHH MYYYYYYYY GOOOOOOOOOOD!!!!」
彼の叫びなど意に介する様子もなく、紙のようになった部分は、ブチッ、とジョセフの身体からちぎれ、ジョニーの元へと向かった。
「参加料含め11枚─────22%の亡失ですな」
ジョセフの腕
「さて、続けましょうか」
「う、うわあああ!!」
トランプを配っていた少年が叫びながら逃げて行く。
「しまった………すこし刺激が強すぎましたか。
それではもう私が配ってしまってよろしいですか?」
ジョニーが話しかけるが、ジョセフの反応はない。
ただ俯くのみだ。
「どうかしましたか?痛いのなら降参すれば楽になれますが……………私としてはそれはあまり面白くありませんし………………」
ジョニーが悩んでいるところに、苦しそうな声が届いた。
「…………いいや、なんでもねェッ。
続けようぜ」
「Good!それでは配らせていただきます」
ジョニーが慣れた手つきでカードをシャッフルしていく。
その様子を見ながら、ジョセフは考えていた。
(一体何が起きているんだ………?
イカサマをする気配もなければスタンド能力を使っている様子もない。
ただの運なのか……………?いや、そんなはずは………)
ジョセフが考える間にもカードはシャッフルされる。
そして、彼は覚悟を決めた。
(もうイカサマがバレるとかどうとか関係ねえぜ!
一か八かの大勝負に出るッッッ!
このジョセフ・ジョースター、今人生で一番ドキドキしちまってるぜ〜〜〜ッッ!!)
「それではカードの確認に入ろうか」
「ああ」
「…………」
ジョセフの強気な態度に少し戸惑うジョニーだが、それも直ぐにポーカーフェイスへと戻った。
彼に不安などない。何故なら、彼は必ず勝つことができると信じているからだ。
そしてジョセフの方は──────
(来たッッッ!!ダイヤのロイヤルストレートフラッシュ!!
これでヤツが勝つにはスペードのロイヤルストレートフラッシュを出すしかなくなったぜ!!)
ジョセフは相手の顔色を伺おうとしたが、ジョニーが全く表情を変えないので無駄だと悟った。
「ベッティング・ラウンド………次は俺からだ!
俺はッッッ!!10枚賭けるぜーッ!」
ジョセフが勢い良く10枚のチップを場に出す。
しかし、それに対してジョニーの返答は、ほんの少しの時間も使わなかった。
「10枚上乗せでレイズ」
「な、なにィィィィィィィィィィ─────!?」
ジョセフの顔が再び歪む。
今、彼の脳内には普段のムードメーカーな性格とは程遠い、不安と混乱が渦巻いていた。
(ありえねーッ!ここで態々そんな危険を犯す意味があるのか───ッッッ!?
いいや、この俺が負けるわけが無い!
きっとこれはヤツの作戦だ!!
俺を混乱させてマトモな判断力を奪おうって魂胆だぜ!)
「俺も10枚レイズだ!」
ジョセフがもう一つのチップの塔を前に押し出す。
(へっ!精神攻撃しようったってそうはいかねーよ!
逆に最低21枚大損こきなッッ!!)
「10枚レイズ」
「ッ────────!?」
ジョセフの頬から、汗がポトリと落ちる。
手に握ったカードはジョセフの握力で既にぐしゃぐしゃだ。
(なんだか─────とてつもなく嫌な予感がする!
ダメだ!ここで全賭け……………普段なら喜んでするところだが、こいつにはスペードのロイヤルストレートフラッシュを出しうるオーラがあるッッッ!!
例えこれが精神攻撃だとしても、ここでレイズをするのは───────いいや、コールすらダメだ!!
認めたくは無いが…………この勝負、負けかもしれねぇ!)
ジョセフがチップから手を離した。
「フォールド……降参だ」
「素晴らしい。賢明な判断です」
ジョニーがカードを机に出す。
その瞬間、ジョセフに、弾丸が目の前を掠めたかのような寒気が走った。
(スペードの…………ロイヤルストレートフラッシュ…………)
あと一歩、ジョセフが勇気を持ってコールしていたならば今頃彼は肖像画となり、男のコレクションに加えられていたのだ。
彼の危険察知能力が、命を救った。
しかし、払った代償がジョセフを襲う。
「う、わあァァァァァ!?」
ジョセフの体が頭と右手の指を残してペラペラになる。
辛うじて動く右指も、それ自身の重量で今にもちぎれそうだ。
まさに絶体絶命だった。
「31枚、即ち62%の亡失。
貴方にはあと16%しか残されていない………………今のうちに降参でもしますか?」
「……………いいから………さっさと………続きをしようぜ……………」
「───Excellent!良いでしょう!
私がこの手で決着を付けて差し上げます」
ジョニーがカードを集め、シャッフルを始める。
ジョセフの目には、絶望でも恐怖でもなく、自信のみが映っていた。
(もうイカサマがバレることなんて考えねーぜ!!
次はスペードのロイヤルストレートフラッシュだッッッ!
これならたとえどんなことがあろうとも俺が負けることは無いッ!)
ジョセフのハーミット・パープルがカードに絡みつき、順番を器用に変える。
ここで、ジョセフにとって予想外の出来事が起きた。
「ご注文になっていたコーラでございます」
店員が運んで来たドリンク────それはハーミット・パープルの軌道上に置かれた。
店員が机にドリンクを置き、手を放す。
直後、ドリンクが弓の矢のように、茨の弾性力で飛ばされて、中身が机に吐き出された。
机の上に張られている糸にもそれはかかる。
そしてジョニーの目には当然─────
「これは………………糸?
トランプに伸びて─────」
瞬間、先ほどまで紳士然としていたジョニーの顔が鬼の形相に変わる。
それはまるで自分の誇りを傷つけられたような顔だ。
「貴方、イカサマをしているなッッッ!!
いいか!私にとってイカサマとはポーカーを侮辱することと同じ!
そしてポーカーを侮辱することは私の存在を侮辱することと同じだッッ!!!!
二度とこんなことをするんじゃあないッッッ!!
次は無いぞ!」
突然豹変したジョニーにジョセフはただ唖然とするばかりだ。
そんな彼にはもう興味が無いという風にジョニーはまたカードをシャッフルする。
今度は定期的にカードの周りを手で空気を切るようにしていて、糸など伸ばす隙は無い。
(なんてこった……………くそ!ジョセフ・ジョースターよ!なにか良い策を思いつきやがれッッ!!)
頭を抱えてしばらく俯いていたジョセフだったが、突如、堂々と前を向いた。
いきなりの行動にジョニーはイカサマか、と一瞬身構えたが、何もないのを確認するとシャッフルを再開する。
(…………やっとだ………………準備は整ったぜッッッ!!!)
ジョセフは自信を持って前を向いた。