うみねこのなく頃に ポケモンマスター殺人事件   作:ホシボシ

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この作品、うみねこを知ってる人からすればある矛盾みたいなものがあると思います。
のちのちに説明するつもりですが、少し簡単にネタバレしたものを活動報告に乗せようと思います。
気になる方は『うみねこについて』をご覧ください。

うみねこ原作について、ごっつりネタバレしてるんで、まだ見てない人は見ないでね。


第4話 『Blue Balance』-1

 

 

ゲストハウスを模した空間で、戦人たちは顔を合わせていた。

 

 

「さてと、作戦なんだが――」

 

 

戦人は人差し指をたてて、ひとつ提案を。

 

 

「まずは、おっぱいチャージってのはどうだ? 朱志香と紗音ちゃんのを一揉み、いや二揉み――」

 

 

10秒後、戦人は両手両足を広げて壁にめり込んでいた。

白目をむいており、真里亞がツンツンしているが起きる気配はない。

 

 

「うぜーぜ」

 

 

朱志香は煙をあげている拳を払い、足を組みなおす。

 

 

「譲治兄さん。バカは放っておいて、私たちだけで知的な会話をしようぜ」

 

「………」

 

 

譲治は汗を浮かべながらロボットのように頷いていた。

しかし、やはりチームの中心がいなければ話にならない。

結局戦人が回復するのを待って、仕切りなおすことに。

 

 

「さ、さてと、作戦なんだが――、っておい朱志香睨むなよ。あれは冗談だって」

 

「うー、真里亞の揉むー?」

 

「ま、真里亞……! 今その発言は誤解を――」

 

 

いけない、これでは話が前に進まない。戦人は咳払いをして話を前に。

 

 

「と、とにかくエルドヴィッヒと戦ってみて思ったのは――ッ!」

 

 

エルドヴィッヒは極端に復唱要求を拒む。

これがやりにくくて仕方ない。後手後手に回るだけではなく、視界が狭まり、見えるものも見えなくなる。

 

 

「なによりも、"シュレディンガーの猫"を突破できない」

 

「は? 猫? 猫なんてどこにもいないぜ? 何言ってんだよ戦人」

 

「お馬鹿の朱志香は少し黙ってろ。それで――」

 

 

10秒後、戦人は両手両足を広げて天井にめり込んでいた。白目をむいて――

 

 

「朱志香ちゃん!!」

 

「ごめーん! つい昔のクセで……!」

 

 

戦人回復(以下略

 

 

「いいか! シュレディンガーってのは!」

 

 

戦人は表情に疲労を乗せながら説明を開始する。

 

 

「中が見えない箱があるんだ。その中に猫が入ってるんだけど、ボタンを押すと箱からランダムで毒ガスが出てくる」

 

「うー! ひどい! 猫ちゃんかわいそう!」

 

「ざ、残酷ですね」

 

「うげー、戦人お前なんてことを……」

 

 

女性陣は抱き合って、青ざめてる。軽蔑の目が戦人を捉えていた。

いやいやおかしい、おかしい。戦人は思い切り首を振って、身を乗り出す。

 

 

「なんでオレが悪いみたいな空気なんだよ! 本当にあるワケじゃなくて、そういう考え方だって」

 

 

大切なのはボタンを押した後だ。

そう。ボタンを押すとランダムでガスが出る。

音は――、たぶんしないのだろう。完全防音。だとしたら猫がどうなっているかは、箱を開けるまでは分からない。

 

それはつまり、箱を開けるまでは猫が『生きている』とも『死んでいる』とも考えられるわけだ。どちらも否定できず、同時に肯定もできない。

箱の中には猫が『生きている』世界と、『死んでいる』世界が同時に存在している。そしてそれは魔女とのチェスにも似ている。

レッドは死んでいる。レッドは生きている。それは猫箱を開くまでどうとでも言えるし、無限に続く不毛な話だ。

だからこそ赤で少しずつ箱を透けさせていくべきなのだが、エルドヴィッヒはどうにもそれが遅い。

 

 

「さっきだって、兄貴の攻撃が通ったんだから、その説が相手にとって都合が悪かったのは明らかだ」

 

「そういえば、戦人くんの青いビームも魔女に直撃していたね」

 

「ああ。ま、ありゃあオレの復讐の一発みたいなモンだがよ。それでも兄貴からの情報で撃った青が魔女にダメージを与えたのは事実だ」

 

 

つまり『レッドに食事を持ってきた人物Xがいる』という事なのだろうが、向こうが情報を開示しない以上、猫箱によりどんな事を言っても埒が明かない。

現にダメージは与えたが、トドメは刺せなかった。

 

 

「要するにアレは、レッド死亡説を構成する柱の一本を叩き割っただけにしかすぎない」

 

 

まだ反論ができる。もしくは真実をなぞるだけの場合、あの様な結果になる。

それを重ねることで暴論を通すこともできるが、時間が掛かる。

 

それではマズイのだ。

なぜならエルドヴィッヒが復唱要求に応えなかったり、盤の情報を詳しく開示しないのは、人間を見下していると言う点もあるのだろうが、なによりも時間が無駄に過ぎる事を望んでいるからだろう。

時間が経てばそれだけ呪いの蕾が育つ。そうすれば真里亞が危ない。

そう、エルドヴィッヒはまともにゲームをする気はないのだ。まずは何よりも蕾を開花させて真里亞を呪殺するつもりだ。

開花までは約三日だと言っていた。まだ時間はあるかもしれないが、あの調子でゲームを進めていたら間に合わないと思われる。

 

 

「うー……」

 

 

真里亞は不安げにうつむく。まだ体に異変は出ていないが、これから苦しくなるかもしれない。苦しいのは――、いやだ。

そうしていると背中が軽く叩かれる。顔を上げると、朱志香が笑っているのが見えた。

 

 

「大丈夫だって。心配すんな真里亞。みんながついてるんだ」

 

 

戦人も同じ事をしてくれたか。

真里亞はニコリと笑うと、強く頷いた。

ともあれ気合だけではどうしようもない。譲治はメガネを光らせると、深刻な表情を浮かべた。

 

 

「それにしても、何か方法はあるのかい?」

 

「全ての真実に至れば、一撃で心臓をぶっ壊せると思う」

 

 

青で一部一部を端的に攻めるのではなく、何があったのかを全て解き明かすことができれば完全なるチェックメイトを決めることができる。

今回の場合ならば、レッドが生存している事をいかなる否定も寄せ付けないやり方で証明すればいいのだが、コレがなかなか難しい。

 

 

「とにかくその為には盤を攻略することが鍵だと思ってる」

 

 

レッドに食事を運んだ人物。

そこをもっと深く掘り下げていきたいが、なにぶん盤はエルドヴィッヒが管理しているため情報を得るのは困難だ。

復唱要求に応えなかった敵が、盤を深く見せてくれるとは思わない。

だからこそ、フェザリーヌは扉を作ってくれたのか。

 

 

「扉って――」

 

 

朱志香は扉を見る。上半分が赤色で、下半分が白色に塗られた扉だった。

それはモンスターボールのカラーリングと同じだ。フェザリーヌはあれが盤へ続く扉だと言った。

つまり、ポケットモンスターの世界に足を踏み入れるトンネルと言うわけだ。

向こうで得られる情報を駆使して猫箱を破壊するのだ。

 

 

「問題は誰が行くのかだけど――」

 

 

手はすぐに挙がった。

 

 

「私が行くぜ」

 

「朱志香、いいのか?」

 

「私はグダグダ面倒な考えを並べるより、動いていた方が性に合うんだ」

 

 

朱志香も真里亞に付き合っていたからポケモンの知識はある程度、持ち合わせている。

そうと決まればさっさと立ち上がり、扉の前に立った。

するとそこで嘉音も肩を並べる。

 

 

「お嬢様は、ボクがお守りします」

 

「ほ、本当に? 嬉しいぜ。えへへへへへ!!」

 

「おいおい、鼻の穴が伸び伸びだぜ朱志香。まるでゴリ――」

 

 

10秒後、戦人は床下にめり込んでいた。

一方で朱志香と嘉音は扉を開けると、さっさと中に入っていく。

扉の向こうは真っ暗。なにも見えない。そのまま暗闇を10歩ほど歩いたときに、朱志香と嘉音は激しい揺れを感じた。

空間が揺れているのではなく、立ちくらみのような感覚だ。

 

すると頭の中に情報が入ってくる。

きっとフェザリーヌのアシストだろう。

盤での動きや、設定が箇条書きのように羅列されていく。

 

・盤の中では、役割が自動的に与えられる。

 

・役割を与えられるのは一人であり、複数で盤に降りた場合は、役割を与えられたものの使徒となる。

 

・必要な情報やシステムの解説は携帯電話で行える。

 

 

これらの情報を整理している間に、朱志香は気づいた。

使徒とはなんだろうか? つまりあれか? 命令を聞くものと思えばいいのか?

じゃあ自分が使徒になったら――

 

 

『朱志香、ボクの命令を聞け』

 

(ぐへへっ! ありだな、これは有りだぜぇえッ!!)

 

 

真っ赤になって目を見開いている朱志香。だが待て、逆と言う可能性もある。

 

 

(そしたら私が嘉音くんに命令を――ッ!?)

 

 

なんと言うことだ。朱志香の脳内で祭りが開催される。

いや、まあ、使用人が主人の命令を聞くのは普段どおりなのだが、完全に命令(下ネタ)である。

 

 

『お、お嬢様ッ、い、いけません!』

 

『なんだよ、主人の命令が聞けないって言うのか?』

 

『そ、それはッ、でも!』

 

『おしおきだぜ。今から嘉音くんは私の奴隷だ』

 

『お、お嬢様の命令なら――、仕方ありませんね……』

 

(おぉおぉおお! こっちも有り有り! 大有りだぜェエッッ!!)

 

 

そんな馬鹿な事を考えていると、いつの間にか周りが暗闇ではなく、町に変わっているではないか。

 

 

「ぉォ、いきなりだな……!」

 

 

服装自体は変わりないが、遠くに見えるのはポケモンセンターではないか。

間違いない、盤の中、つまりポケットモンスターの世界だ。朱志香は早速携帯を取り出してみる。

すると情報どおり、ゲーム画面が表示されていた。タップを行うことでメニューを表示させることができ、朱志香はプレイヤー情報を確認する。

 

 

・ミニスカート

 

 

(ミニスカート……、つー事は、私がプレイヤーってことか)

 

 

確かにスカートは短いか?

そこでハッとする朱志香。と言うことは嘉音が使徒と言うことになるが、周りに嘉音の姿はない。

 

 

「あれっ? 嘉音くん? おーい! どこ行っちゃたんだぁ?」

 

 

そこで気づく。いつの間にか朱志香の腰にモンスターボールが"三つ"くっ付いているのが見えた。

その中の一つがブルブルと震えている。まさか――、朱志香がそのボールを投げると、光が溢れてシルエットを形作る。

 

 

「嘉音くん! って、あれッ!?」

 

 

中から出てきたのは嘉音だが、何かおかしい。

どう見てもカメである。頭は嘉音のままだが、体は完全にカメになっており、大きな甲羅が目立っている。

心なしか目の光も消え、やる気のない、アンニュイな表情になっている。

とはいえ、なにより本人が驚いているのか、顔にはビッシリと汗が浮かんでいた。

 

 

「な、なんだこれは! お、お嬢様ボクは一体……!?」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 

携帯を確認する朱志香。

すると手持ちモンスターの欄に、嘉音の名前があった。

 

 

「かめのんくん!?」

 

 

どうやら『郷に入っては郷に従え』と言うことなのか。

朱志香がポケモントレーナーとしての役割を与えられた以上、それに仕える嘉音は、『ポケモン』になったようだ。

名前はかめのん、こんなポケモンはもちろんいないが、おそらく盤の駒として役割を与えられたのだから、世界には適応できているのだろう。

 

 

「な、なんと言う事だ……!」

 

「えへへ! でも可愛いぜ嘉音くん!」

 

「う、嬉しくありません!」

 

 

そこで朱志香の携帯が震えた。

通話の部分をタップすると、モニタの向こうに戦人たちが映る。

 

 

『見えるか、朱志香』

 

「おお、ばっちりだぜ」

 

『こっちのテレビでお前の様子がある程度写ってる。とりあえず、レッド関係の情報を集めてくれ』

 

「了解、私に任せな!」

 

 

朱志香は携帯を切ると、辺りを見回す。

ゲームもうろ覚えだし、ここが一体どこなのかもサッパリだ。

ならばまずは情報収集に限る。朱志香は嘉音を抱きかかえると、さっそくポケモンセンターを目指した。

 

 

「よし行こう! かめのんくん!」

 

「止してよお嬢様! 一人で歩けるよ!!」

 

「遠慮するなって。ふふふ!!」

 

 

重くないし、甲羅は固いが体はフワフワで気持ちがいい。

そうやって朱志香は自動ドアを超えてポケモンセンターへ。ゲームじゃそんなに広くはなかったが、さすがに重要スポットだけあって、人も多いし、設備も多い。

たとえば旅のトレーナーに配慮してか、フレンドリーショップではさまざまな雑貨品や冒険に役立つアイテムが並んでおり、宿泊場もあるし、喫茶店も完備である。

 

 

「へー、かなり本格的だなぁ。ワクワクしてきたぜ」

 

 

朱志香は迷った挙句、喫茶店に向かうことに。

この盤の人間がどんなご飯を食べるのか興味があったし、じっくり話を聞けそうだったからだ。

 

そうやって店内に入ると、食事をしたり、コーヒーを飲んだりしている人が目についた。

パッと見、メニューは現実世界と変わらないようだ。正直、ポケモンをかっ食らう様を想像していたのだが、どうやらこの盤にはポケモンだけではなく普通の生物も存在しているらしい。

本日のおススメに、鮭のムニエルと、キャベツと枝豆のペペロンチーノとあるじゃないか。

 

 

(そう言えばインド象とかネタになってたっけ? まあいいや)

 

 

そんな中、朱志香はふと一人の少女に目がとまる。

茶色い髪を二つ結びにして、大きなリボンのついたキャスケット帽子を被ったオーバーオール姿の少女だ。

彼女の前には冗談かと思うほど巨大なプリン(食べ物の)がおいてあり、少女はクリームがたっぷりとついたそれをバカバカ口の中へぶち込んでいく。

 

 

「はー、すごいなぁ……!」

 

「フードファイターと言うものでしょうか。細い方のほうが食べるようですね」

 

 

確かに最近はテレビのバラエティーでもたびたび取り上げられる。

案外大食いと言うのは太っている人よりも、やせている人のほうが嘘のように食べられるものである。

見たところ、大食いチャレンジをやっているようには見えない。つまりあれは個人的な食事なのだろう。

その時、朱志香は大きく頷いた。直感が働いたのだろう。

すばやく足を進めると、その少女の前に座り込んだ。

 

 

「ごめーん、今ちょっと時間ある?」

 

「えぅ! ぁ! はい!?」

 

 

いきなり話しかけられたものだから、少女は目を丸くして大きく肩を震わせていた。

するとゴクン! と音がして少女はプリンを飲み込んだ。口についたクリームをぬぐいながら、少し怯んだように朱志香を見る。

 

 

「あ、もしかしてポケモンバトルですか? ごめんなさい、今はちょっとぉ……!」

 

「え? あ、いやッ、そうじゃないんだ。あのさ、実は私――」

 

 

事情を説明する朱志香。

と言っても、本当の事を話すと頭のおかしい人になるので、適当に嘘を織り交ぜていく。

旅の途中だが、方向音痴でどうしようもない、町についたが、マップもないのでサッパリである。ざっとこんな感じだ。

すると少女は朱志香の話を全て信じたようだ。純粋な子である。心が少し痛んだが、朱志香はこの少女から情報を引き出すことにした。

 

 

「ここは永遠の緑! トキワシティです。近くにはポケモンリーグがあって、ピカチュウが出るって噂のトキワの森もあるんですよ」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

「あたし"コトネ"って言いいますっ! 困ったことがあったら何でも聞いてくださいね!!」

 

「ありがとう。私は朱志香って言うんだ。よろしくコトネ」

 

 

朱志香は初対面の相手でも臆することなく気さくに話しかけていけるタイプの人間だ。

同性と言うこともあってか、コトネと仲良くなるのに時間は掛からなかった。

 

 

「朱志香さんのポケモンめずらしいですね。ゼニガメ……? ううん、コータスかなぁ」「かめのんくんは……、なんだろ?」「家具です」「わ! 喋った!! すごいすごい!」「しゃ、喋るのって珍しい……、よね?」「もちろんっ! でもポケモンの中には喋るのもいるんですよ。たとえばえーっと、ラプラスとか、ルカリオでしょ? あと喋るニャースっていうのもテレビでやってたなぁ」「へ、へぇ!」「あ! かめのんくんプチトマトたべた! かわいいですね!」「だろ! かわいいんだよ嘉――、かめのんくんは!」「あ、照れてますよ!」

 

 

軽く談笑しながらも朱志香は考える。

勉強は大嫌いだが、言うて彼女も右代宮のエリート家系に生まれた身、学校では生徒会長であり、おのずと能力もついてきた。

真里亞のプレイは流し見程度だったが、トキワシティは記憶していた。

カントー地方、二番目の町。近くにはレッドの故郷であるマサラタウンがあるはずだ。

 

 

(ラッキーだな……)

 

 

もう少し情報がほしい。朱志香は会話を続けることに。

 

 

「でも、そのでっかいプリンすごいね」

 

「今、あたし待ち合わせしてるんです。でもヒビキくん遅くてっ! だから時間潰すのについ!」

 

「え?」

 

 

瞬間、朱志香の眼光がギラリと光る。今はまだ恋に恋する乙女である。

この女、色恋の気配を感じるとハイエナのようになってしまうのだ。

 

 

「えっへっへー、なんだよコトネぇ、そのヒビキってのは誰なんだー? んー?」

 

「えッ! あ、いやッ! 違うの朱志香さん! ヒビキくんは別にっ!」

 

「その割には顔が赤いぜー? へへへ」

 

「あ、あぅあうぅあぁ、そうなのかな? やっぱりヒビキくんとあたしってそう見られちゃうのかな? この前も一緒に言ったデパートで恋人限定のアンケートをとってる女の人に話しかけられたんですけどぉ……! で、でもでも、あたしは別にそういうつもりじゃっ! あぁぁ! でもううん、まったく意識してないかって言うとそうでもなくて――、そもそもですね朱志香さん、あたしとヒビキくんは幼馴染であって、そんなッ、こ、ここここここ恋人――、とかじゃ! あのッ! でも恋人が嫌だって言ってるんじゃなくて、あ、あたしは別に、その、むしろ全然そうなっても――って、でもでもヒビキくんはそうじゃないかもしれないから、でもあの――」

 

「お、おう」

 

 

コトネは真っ赤になった頬を両手で押さえている。

言葉の土石流が朱志香を飲み込んでいく。もしかしたらとんでもないパンドラの箱を開けてしまったかもしれない。

だがこれはこれで面白い。なんだったらもう少しこのネタを続けようかと思っていたら、そこでなにやら入り口のほうが騒がしくなってきた。

 

 

「ん? なんだ?」

 

「様子が変ですね」

 

 

朱志香は立ち上がり、目を細める。

すると男性が慌てたように入り口のほうで叫んでいるのが見えた。

 

 

「大変だ! 山羊が出たぞ!」

 

山羊(やぎ)――ッ?」

 

 

朱志香と嘉音は顔を見合わせると、すぐに立ち上がって走り出す。

ポケモンセンターを出ると、トキワの森へ続く道から人々が避難してくるのが見えた。

一方で朱志香は人の流れに逆らって走る。すると見えたのはポケモンとは言えぬ、異形のモンスターではないか。

 

 

「お嬢様! あれは――ッ!」

 

「ああ、覚えてるぜ!」

 

 

山羊(ヤギ)の従者。

魔界の住人であり、ヤギの頭に人型の体を持ったミノタウロスのような化け物だ。

今見えているのは執事服を着ている『従者型』と呼ばれるものだ。間違いなくエルドヴィッヒの従者だろう。

そういえばピッグフェイスと呼ばれた悪魔が盤の中に入っていくのを見た。あれが関係しているに違いない。

 

 

「人を襲っているのか!」

 

 

ちょうど、逃げ遅れた女の子がへたり込んでいるのが見えた。

 

 

「嘉音くん! 山羊を頼む! 私はあの子を!」

 

「はい!」

 

 

踏み込み、走る。

朱志香は女の子を抱え、嘉音はセコセコと足を動かして山羊に向かっていく。

相手は一体。いける! 嘉音は確信するが――

 

 

(……あれ? ちょっと待て)

 

 

嘉音の武器は魔法のブレードだ。

腕に出現さえて戦うのだが――、ブレードが出ない。

 

 

「グッ、ぐぐぐぐぐ――ッ!」

 

 

力を入れる。すると小さなブレードが、これまた小さな尻尾にはりついた。

 

 

(何だコレはァアァアァァァアア!!)

 

 

イライラが止まらない。

ワケも分からず、いきなりカメみたいになったと思ったら、お次はコレである。

いや、見た目は爪楊枝みたいなブレードだが、威力は以前と変わらないかもしれない。

嘉音はトコトコと山羊に向かっていくが――

 

 

「ゥオオオオオオオオ!!」

 

 

吼えるヤギ。豪腕を伸ばして嘉音を捕まえると、そのまま思い切り投げ飛ばす。

 

 

「クッソォオオオオオオ!!」

 

 

イライラが終わらない。

嘉音、もとい、『かめのんくん』は甲羅をしたに地面に叩きつけられる。

 

 

「お? お!? オぃ!? なんだこれ!」

 

 

小さな手と足をジタバタさせるが、一向に体勢を整えられる気がしない。

 

 

「フンッ! フンッッ!!」

 

 

顔を真っ赤にして立ち上がろうとするが、甲羅が邪魔で立ち上がれない。

一方で山羊は前のめりになって嘉音へ近づいていく。

イライラが――! なんて、そんな嘉音とは別に、朱志香は女の子を避難させると踵を返して状況を確認する。

 

 

「嘉音くんに手を出そうなんざ、100年早いんだよッッ!!」

 

 

朱志香はメリケンサックを両手に装備すると、拳を叩き合わせてガチンッと音を鳴らす。

彼女の能力は『属性付与(エンチャント)』、文字通り様々な力をその肉体や拳に纏わせることができる。

その能力の源は感情だ。嘉音が危ないと言う焦り、ヤギがムカつくという怒り、嘉音を助けられたら好感度が上がるかもと言う期待。

そもそも持ち合わせている情熱。その想いが能力になり、朱志香に付与されていく。

 

焦りは『速度』へ。

怒りは『威力』へ。

期待は『貫通』へ。

情熱は『炎』へ。

 

あとは、そう、嘉音への恋慕は『リーチ』へ。

 

 

「オゥラアア!!」

 

 

朱志香が踏み込み、拳を振るうと、炎の塊が発射されて山羊に直撃する。

 

 

「グッ! ゴォォ」

 

 

山羊が動きを止めたところで、朱志香は一気に距離を詰める。

ボクシングで鍛えたフットワークに速度が追加された今、敵を眼前に捉えるのは難しいことではなかった。

 

 

「シュッシュッ!」

 

 

二発、ジャブを打ち込む。燃える手形が山羊の肉体に刻まれた。

そのままフック、ストレート、ボディーブローと続く拳。

 

 

「グゥウウ!!」

 

 

抵抗に山羊も拳を振るうが、それは虚しく空を切る。

上体を後ろへ反らすスウェーバックで攻撃を回避すると、朱志香は踏み込んで一気に山羊の懐に入った。

 

 

「ウゼーぜ」

 

 

天に突き上げた拳が山羊の顎を砕いた。

"乙女の無敵パンチ"とでも言えばいいのか。朱志香は勢いのまま飛び上がり、アッパーカットで山羊をより高く打ち上げる。

山羊の意識はブラックアウト。それだけではなく、空中で炎に包まれると、地面に落下したと同時に爆散した。

 

 

「大丈夫か嘉音くん!」

 

「も、申し訳ありません。お嬢様……」

 

 

もはや立つことを諦めていた嘉音。朱志香に抱えられ、ようやっと元の体勢に戻れた。

すると二人の名を呼ぶ声が。

見れば、コトネが走ってくるのが見えた。あの大きなプリンを処理するのに手間取っていたようだ。

 

 

「どうしたの朱志香さん! 大丈夫だった!?」

 

「うん! もう大丈――」

 

 

そのときだった。周囲の地面から黒い靄が吹き上がると、それが人のシルエットを作り、山羊の従者となる。

今度は五体。それはポケモンのようなファンシーさは欠片もなく、血のように濁った赤い瞳が殺意と憎悪を振りまいていく。

コトネは突如現れた化け物に怯み、小さな悲鳴をあげて腰を抜かしていた。

 

 

「チッ!」

 

 

敵は五体だが、それなりに散らばっている。

嘉音がまともに戦えない以上、朱志香一人で何とかするしか無いのだが、コトネを守りながら戦うのは余裕とはいかない。

すると咆哮。コトネの背後、地面を突き破り山羊が姿を見せた。

どうやら山羊は六体のようだ。

 

 

「しまった!」

 

 

まさか地面から出てくるとは思わなかった。

朱志香は走るが、既に山羊は拳を振り上げ、コトネの頭を叩き潰そうとしているところだった。

 

 

「―――」

 

 

コトネはぎゅっと目を瞑り、頭を抑える。

だがもう遅い。豪腕はコトネを叩き潰し、肉塊に変える。

いや、待て。だがそれよりも速いものが一つあった。

 

針だ。

 

針が飛来すると、それは山羊の腕に突き刺さり、大きく怯ませる。

そして針は一つだけではない。ミサイルのように飛来する鋭利な弾丸は次々に山羊を捉えて動きを鈍らせる。

ましてその針は、一つたりとも朱志香やコトネには当たることはなかった。

 

 

「コトネちゃん!!」

 

 

その声を聞いた瞬間、コトネの怯える表情が消え、パッと笑顔を浮かべてみせる。

そして立ち上がると、全速力で走ってきた少年に手を振った。

 

 

「ヒビキくん!!」

 

 

現れたのは、中央が黄色い帽子を後ろ前に被った少年・ヒビキ。

隣には針を発射した毒蜂ポケモン・スピアーが浮遊していた。

すぐに敵意を感じて動き出す山羊たち。だが同時にヒビキもモンスターボールを思い切り投げている。

 

 

「ヘラクロス!」

 

 

大きなカブトムシが羽を広げて、空を疾走する。

光り輝く一本角は山羊の拳が届く前に、その胴体に突き入った。

ヒビキの手の動きに合わせて、そのままヘラクロスは角で山羊をホールドしながら飛行。空に舞い上がると、反転し、角を地面に向けた。

 

 

「メガホーンッッ!!」

 

 

そしてそのまま急降下。山羊を地面に叩きつけると、そこで爆散させる。

山羊は黒い霧となって跡形も無く消え去った。さらにヒビキはスピアーに指示を出している途中のようだ。

スピアーは指示を聞いてすぐに飛行を開始。両手の針を前に突き出して、高速回転をしなながら突進していく。

 

 

「ダブルニードル!!」

 

 

それはまさに『槍』の名を冠するに相応しい一撃だった。

スピアーは一撃で山羊の腹部を貫き、風穴をあけてみせる。本来ならばここで終わりかと思うが、そこの『もう一つ』を生み出すのがトレーナーの役割だ。

 

 

「トドメ針!!」

 

 

ヒビキの指示を理解し、スピアーは腹部の針を分離させて発射。

弾丸は棒立ちになっている山羊の頭部に命中し、そこで爆散させる。

 

だがまだ山羊は残っている。再び腕を伸ばしてコトネを狙っていた。

しかしその時、山羊は激しい抵抗感を感じた事だろう。

コトネだ。ヒビキの登場で彼女も余裕を取り戻したのか、自分のポケモンを出して戦闘を開始する。

 

まず姿を見せたのはライトポケモン・デンリュウ。

『光の壁』と言う結界を展開し、コトネと自身をバリアで包み込む。

それだけではない。光の壁は山羊の周りにも出現する。結界は自身を守る盾に終わるだけでなく、相手を閉じ込める箱に変わる。

三体の山羊が箱の中に閉じ込められた。一方でチャージを行うデンリュウ。集中力のいる作業も、相手が身動きとれないのだから邪魔は入らない。

 

 

「デンリュウちゃん! すっごいビームお願い!!」

 

 

デンリュウは了解の意味をこめて、"電磁砲"を発射した。

全てを破壊するレールガンはその衝撃が凄まじく、デンリュウ単体で放てば標準がブレてしまい命中率は50%もいかないだろう。

しかし現在、コトネがデンリュウの首を掴んでアシストを行っている。

コトネはデンリュウの首の向きをかえて、電磁砲を的確に山羊へ命中させていくのだ。山羊は光の壁もろとも破壊され、黒い粒子となって消えていく。

 

丁度、最後の山羊も空を舞っているところだった。

ポケモンたちが猛威を振るうなか、朱志香も燃える拳を存分に打ちつけ、勝利を掴み取る。

周りに山羊は一体も残っていない。今度こそ静寂が訪れた。

 

 

「コトネちゃん! 大丈夫!?」

 

 

ヒビキはすぐにコトネに駆け寄ると、怪我が無いかをしきりに確認している。

 

 

「ごめんねッ、ちょっとトキワの森探検してたら遅くなっちゃって……!」

 

「ううん平気だよ。それよりっ、ヒビキくんこそ大丈夫? どこも痛くない? 今は興奮してるから痛くないだけで、どこか打ってたりしたら大変だよっ!」

 

「わ、わ、わ、大丈夫だよコトネちゃん!」

 

「「それより――」」

 

「あっ、ごめんねヒビキくん。先にどうぞ!」

 

「いやッ、ぼくこそゴメン! コトネちゃんからどうぞ!」

 

「ううん、ヒビキくんから言って?」「そんなぁ、悪いよ」「あたしは平気だよ?」「うーん、じゃあごめんね?」「ふふふ! 気にしないで!」「じゃあ、言うよ?」「うんっ!」

 

 

ヒビキは柔らかい笑顔を浮かべる。

 

 

「無事でよかった」

 

「ッ! じゃあ次はあたしね。助けてくれてありがとう。ヒビキく――」

 

「私ッ! 今ッ! 透明になってるとかじゃねーよな!!」

 

 

いつまで続くんだ!

朱志香は叫ぶと、至急コトネたちの世界を破壊し、割り入るように合流していった。

 

 

 

 

 

「――ッ」

 

 

一方で盤の外。

上位世界では戦人たちがその様子をテレビを通して確認していた。

 

 

「山羊だと……!?」

 

「やっぱりピッグフェイスが盤に降りてるみたいだね」

 

 

そこで紗音が眉を下げる。

 

 

「でも、なんのために、そんな事をしているんでしょうか……?」

 

 

沈黙する。漠然とした考えならばいくつか浮かんでくるが、ピンとくる物はなかった。

 

 

「真里亞はどう思う?」

 

「うー、きっとズルするんだよ。あの魔女、悪いヤツ!」

 

 

顎に手を当てる戦人。

ズル、悪いヤツ。ズル、悪いヤツ。卑怯。ゲーム。

戦人はゾッとした。我ながら最悪な考えが浮かんできたが、もしかしたらいい線をいってるのかもしれないからだ。

最悪すぎて笑えてくる。

 

 

「なあ兄貴、もしかしたらよ……」

 

「え? なんだい?」

 

「アイツら、自分で殺るつもりなんじゃねーのか?」

 

 

戦人たちは当然レッドが生きていると思っている。

しかし一つだけ、どうあったって戦人たちが勝てない状況を相手は作ることができる。

それは簡単な話で、レッドを殺せばいいだけだ。

 

 

「まさか、そんな……!」

 

「いや、あいつらならやりかねないぜ。なあ真里亞?」

 

「うー!」

 

 

コクコクと頷く真里亞を見て、譲治も震える手でメガネを整える。

 

 

「確かに。殺すとまではいかなくとも、重要な証拠を始末される可能性はあるね」

 

 

故に、朱志香の役割が重要になってくる。

本人も分かっているのか。早速ヒントが残されているだろうマサラタウンへ向かうようだ。

どうやらヒビキたちもマサラタウンに向かう予定だったらしく、朱志香たちは一緒に目的地を目指すことになった。

 

 

 

 






ボクはまだ『XYのミニスカート朱志香説』を推してます(´・ω・)
次回もちょっと遅れるかも。気長に待っててください
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