マサラタウンに向かうことにした朱志香たち。
「朱志香さんは――」
「ああ、そういう硬いのはナシにしようぜ。私友達からはジェシって呼ばれてるんだ」
「え? でも……」
ヒビキは躊躇したように言葉を詰まらせた。
一方でその隣を歩いていたコトネは微笑み、朱志香を見る。
「いいじゃない。呼ばせてもらおう? ね? ジェシさん!」
「じゃ、じゃあぼくも。よろしくジェシさん」
「おお! まあ本当はさん付けもいらないんだけど……、そこはいっか!」
一同は歩く中で身の上話を。
まず分かったのは、ここ数日の間に、あの山羊が出現しはじめたのだという事。
現在は警察が捜査しているらしいのだが、詳細は不明であると。
後はヒビキたちの話か。
「へー、そうなんだ。すごいね」
トキワシティとマサラタウンをつなぐ1番道路。
朱志香たちは並んで歩くうち、ヒビキたちの事情を聞く。
改めて聞くとなかなかポケモントレーナーと言うのは大変である。
まだ10代の内から親元を離れ一人旅。それぞれの町にいるジムリーダーと戦うだけではなく、秘境に足を運んでポケモンを捕獲したり、悪いヤツらと戦ったり。
(一方の私は18にもなって……)
勉強いやだぜ。
うぜーぜ。
バンドたのしーぜ。
親がめんどうだぜ。
駄菓子が食べたいぜ。
うぜーぜ。
「………」
首を振る朱志香。いかん、自分が小さく見えてきた。
話題を変えようではないか。朱志香はまだ嘉音を抱きかかえており、同じくコトネはマリルを抱えている。
さらにヒビキの頭にはヒノアラシが乗ってるじゃないか。
「進化させてないんだね」
「うん。マリルはずっと一緒だったから、なんかちょっと抵抗あって」
「ぼくはヒノアラシが進化したくないみたいで」
ははあと唸る朱志香。
進化キャンセル一つとっても理由はいろいろあるものだ。やはりゲームでは感じられなかった『心』をそこに感じた。
「ところで、二人はなんでマサラタウンに? 私は――」
朱志香は適当に観光と言っておく。すると少し興奮した様子でヒビキが前に出た。
「ジェシさんはレッドさんを知ってますか?」
「え? ああ、まあ、そりゃね!」
来た! と、思う。
その後、説明を始めるヒビキ。当時『絶対王者』と呼ばれたワタルを撃破してチャンピオンになったグリーン。
そのグリーンをすぐにチャンピオンの座から引きずり落とした男、それがレッドである。
「しかも、二人は同じマサラタウン出身なんですよ!」
「あとね、ポケモン図鑑の所有者なんです! すごいよねマリル!」
マリルも頷いていた。
同じとき、同じ場所でポケモンをもらった幼馴染が冒険の果てにぶつかり合う。なんとも滾るシチュエーションではないか。
多くの人間がレッドやグリーンに憧れた。それはヒビキも同じである。
「なるほど。だからレッドの故郷に行って、強さの秘密を調べたいわけだ」
「はい! いつかぼくもレッドさんみたいなポケモントレーナーになりたいって、ずっと思ってましたから!」
ヒビキは頭に乗ったヒノアラシを撫でながら呟く。
憧れる気持ち。近づきたい気持ち。そういうものは、もちろん朱志香にも分かる。
ゲーム盤といえど、確かな世界。ヒビキたちは確かにココに生きているのだ。盤は世界、それは朱志香とていろいろと思うところがある。
ヒビキの瞳はまっすぐに見えた。だから応援してあげたい。
「あッ、ところでさ、そのレッドって今どこにいるの?」
レッドファンならばそれは知っているはず。
なんだったらここでゲームセットかもしれない。朱志香は淡い期待を抱くが――
「実は――、分からないんです」
「え?」
「レッドさんが今どこにいるのか、何も報道されてなくて」
チャンピオンになったレッドは、ある日、その座を退いた。
グリーンはトキワシティのジムリーダーになったようだが、レッドがどこに消えてしまったのかは何も報道されなかった。
もちろんメディアは知りたい。
マスコミもレッドの関係者にしばらく張り付いていたが、母親には連絡を入れておらず、グリーンに聞いても知らぬ存ぜぬの一点張りであった。
結局そのまま時間が過ぎてしまい、レッドは今も行方不明である。
ただ、母親が捜索願を出していない以上、事件性は低いと見ている。
だから皆の間では、チャンピオンの重圧に耐え切れず、どこかでひっそりと暮らしているのだろうと理由付けされていた。
「へぇ、そうなんだ……」
「でもっ、そういうの無しにして、ぼくはレッドさんのファンですから。いつかどこかで会って、いろんな話がしたいんです」
「うん! 大丈夫だよ。ヒビキならいつかレッドに会えるって」
しかしそんな想いをあざ笑うように、濁った声が耳に張り付く。
一同は音がした方向、『上』を見る。するとそこには箒に跨った
「ヒーッヒヒヒヒ!!」
「お前はッ、テラー!!」
どうやら盤に降り立ったのはピッグフェイスだけでは無かったようだ。
テラーもまた盤に降り立っていた。先ほどの山羊は彼女が呼んだものだ。
異形を放ち、それを打ち倒した『ポケモン以外の力』を感じ取ったからココに飛んできた。
「右代宮朱志香ァァ、まさかお前もココに来ていたとはねッ! ヒーッヒヒ!!」
「お前ら――ッ、何を企んでやがる!」
「別になにもぉ? ただねェ、ウロチョロされるのは目障りなのさ!!」
両手を広げるテラー。するとその周りに闇の塊が浮かび上がっていく。
「どうやってココに来たのかは知らないが、さっさと消えろォオ!!」
両手を思い切り振るうと、闇の弾丸も同じくして発射されていき、朱志香を狙う。
「グッ! オォオオオオ!!」
朱志香はヒビキとコトネを庇うようにすると、エンチャントを発動。
燃える拳を思い切り地面に叩きつけて火柱を発生させる。
巻き上がる炎は弾丸をかき消すが、テラーは空中を飛行しながら次の弾丸の群れを用意していた。
だがコトネが出現させたデンリュウが光の壁を展開し、飛来してきた弾丸を受け止めていく。
「じぇ、ジェシさん! あれはなにっ!?」
「ナイス! コトネ! 説明は後でな!!」
すると地面にいた嘉音が前に出る。
「お任せくださいお嬢様。ボクがヤツを倒します!」
「え? あッ、でも嘉音くん……!」
朱志香の制止をふりきり、嘉音はトコトコと前に出る。
またも尻尾に爪楊枝のようなブレードを貼り付け、魔女を睨みつける。
「あ? なんだコイツ! ホレェエ!」
「よしてよッッ!!」
テラーが腕を振るうと闇の突風が放たれ、嘉音はひっくり返されてしまう。
手足をバタつかせている嘉音。どうしようもない。やはりカメの姿ではまともに戦う事ができないようだ。
朱志香はすぐにメリケンサックを装着して戦闘態勢に。さらにヒビキたちもモンスターボールを構えていく。
「おんやァ? 面倒な事になりそうだねぇ。アタシぁ、そういうのは嫌いなんだ」
故に――、変える。テラーは笑った。
朱志香は魔法抵抗力である『エンドレスナイン』を持っていない。
エンチャントを発動するための魔力の種は、所詮フェザリーヌから与えられただけのもの。
ならば見せようではないか、"魔女の力"を。
「ヒーッヒヒ! メタフィールド展開!!」
空に亀裂が走った。地平線まで伸びる空へ、真っ黒な亀裂が。
「引きずり込む!!」
空が、割れた。
青空は紫色に染まり、黄緑色に光る三日月が姿を見せる。
それだけではない。テラーがかざしてみせた掌に、真っ黒な球体が生まれる。
「死は理由があってこそ生まれるもの! そうさね、レッドは"殺"されたのさ! ヒーッヒヒヒ!!」
テラーは笑い、その球体を握りつぶす。
「"ヒビキ犯人説"を展開! 朱志香ァ、アンタの隣にいるボウヤこそッ! レッドの命を奪った悪党さ!!」
「!?」
"ミニゲーム"。強制的にゲームを仕掛ける手だ。
戦人とエルドヴィッヒが行っていた戦いを、盤の中でも始めようというのだ。
テラーが仕掛けるのは、つまり、ヒビキがレッドを殺したという説。それを打ち砕けぬのならば朱志香には回避不能の『赤』での一撃が待っているだろう。
「ヒーッヒヒヒヒ!!」
魔女の笑い声が響く中、ヒビキとコトネは何が起こっているのかが分からずに停止している。
特にヒビキは会話の中に自分が出てきた意味をまだ理解していないようだ。
一方で朱志香は拳を合わせて舌打ちを漏らす。
ほら、早速と空からは赤い光弾が放たれているところだ。
朱志香に拒否権は無い。ミニゲームが始まった以上、赤が飛来する以上、ゲームのルールに従って戦うしかない。
「バカ言ってんじゃねーぜ! ヒビキは優しい子だ! ましてやレッドに憧れてた! なのに殺すなんて、そんな事ができる筈が無いぜ!!」
朱志香の拳に青く揺らめく炎が宿る。
拳を振るうと炎は弾丸となって発射、テラーが放った光弾に直撃すると相殺する。
いや、まだだ。砕け散った赤い弾丸は、その破片を刃に変えて朱志香に向かっていった。
「ヒーッヒヒヒ! 魔女よりも人間を知らないガキだね! 憧れ? バカが! ヒビキはレッドに嫉妬していた!」
「ッ! なにぃ……ッ?」
朱志香は反射的にヒビキを見る。
その視線の意味、会話の内容、それらを察して、ヒビキは複雑そうに目を逸らした。
「そ、そんな。ぼくはそんなこと……、何を言って――ッ」
「赤が語るのは真実! ヒーッヒヒヒ!」
「ッ、ヒノォ!」
テラーが
だがしかし『赤』によって調子の上がってきたテラーは、そのスペックも上昇している。腕を振るうと赤いエネルギーが空中に漂い、炎をかき消す結界となる。
「嫉妬が原因で人を殺した人間もいる。当然さね、男の嫉妬ほど醜い感情は無いねぇ」
「極論かざしてんじゃねぇぜクソババア! 嫉妬ひとつ、人間なら当然の感情さ! いちいち嫉妬で人を殺してたら世の中ッ、殺人鬼だらけだぜ! それだけで殺しの理由になってたまるかよ!」
朱志香は飛んできた赤い破片を裏拳で破壊するが、まだ破片はいくつも周囲を漂っている。
「もちろん! だがね、嫉妬が原因で人を殺したヤツと、ヒビキが抱いている嫉妬のレベルは同等だ!」
「ッ!?」
「つまりこれはヒビキの抱く嫉妬が、殺意に昇華しうる可能性があることを証明している!」
「うぜェぜ! 人間には理性があるだろ! 自分を抑えることができるんだ! 獣じゃねーんだよ!!」
そもそも本人がそこにいるではないか。
その上でこんな茶番を続ける事ほど馬鹿らしい事はない。朱志香はうんざりしたように首を振ると、ヒビキを見る。
「言ってやれよヒビキ! あのババアに自分は無実だって!!」
「もちろん! どうしてぼくがレッドさんを殺さなきゃいけないんだ! ぼくは何もしてない!」
「ヒーッヒヒヒ! 犯人ほどそう言うものさ! 赤くない言葉になんの意味がある!?」
ウソつきが人を殺す世界だ。人はいつも真実を仮面で隠す。
やってない? バカが、そんな事をいちいち信じていたら、犯罪者なんて永遠に捕まらないだろう。
テラーは両手を前にかざし、そんな事を熱弁する。
「その
その時、赤い刃が朱志香の肩をかすった。
「グッ!」
動きが鈍ったところで、朱志香は背中に刃を受けた。
「お嬢様!」
「大丈夫ッ。それより――」
朱志香はヒビキを見る。
ヒビキの額には汗が浮かび、顔も青ざめていた。
なにやら様子がおかしい。するとそれを把握したのか、テラーは下卑た笑い声を響かせる。
「ヒビキィ! 否定したいのならすればいい! 己の中にある嫉妬の詳細を教えておくれよ! 今ッ、ここで! みんなに!」
「………」
「できるものならだけどねェ! ヒーッヒヒヒヒ!!」
ヒビキは確かに沈黙し、拳を握り締めるだけで何も語らなかった。
それはつまり否定ができないという事でもある。そうだ、確かにヒビキはレッドに嫉妬していたのだ。
その理由。その理由。その理由――……。
「ヒビキッ!?」
朱志香が吼える。しかしヒビキはビクッとしたように肩をすくめ、目を泳がせていた。
どうやら彼は自分がなぜレッドに嫉妬しているかを言えないようだ。
「どうして言えないんだ! どうして黙ってるんだよ!」
「そ、それは――ッ!」
ヒビキは一瞬、理由を話そうと口を開いた。しかしまたすぐに口を閉じてしまう。
そうしているうちに赤い刃は勢いを増し、朱志香も防戦一方になっていく。
「くっ! お嬢様! ボクを抱えてください!!」
現在の嘉音ではジャンプ一つまともにできない。せめて朱志香に抱えられれば刃を受け止める壁くらいにはなれると思っていたが――
「冗談! この右代宮朱志香! 仲間を盾にするほど腑抜けちゃいねぇぜ!!」
朱志香は嘉音からあえて離れる。朱志香を追尾していく赤い破片。
こうなってしまっては仕方ない。嘉音は踵を返すと、すぐにヒビキのもとへ詰め寄る。
「ヒビキ様! お願いです! お嬢様のためにも反論を!」
「ッ、ヒビキくん!」
反論なき状態が続けばテラーの主張する説が正しいと世界に認識され、メタフィールド内にいるテラーの力が上がっていくばかりだ。
だからまずは、どんな暴論であれ返さなければならない。
その異質な戦いの仕組みを理解したのか、コトネもヒビキに視線を送る。
しかし肝心のヒビキは言葉を詰まらせた。
もちろんヒビキも仕組みを理解しているのだが、それでも躊躇が生まれてしまう。
だがこうしている間にも朱志香の体に刃が触れていく。
いけない、ダメだ、ヒビキは前に出て叫ぶ。
「も、もちろん! ぼくはやってません! ぼくはレッドさんに憧れてたんです! なのにどうして――ッ!」
違う。そうではない。
赤で嫉妬が宣言された以上、そこを否定するのは無意味だ。
だから嫉妬の内容を明かした上で、『そんな事で人を殺すことはない』と青で反論すればいのだが、どうにもこれが……。
「ヒビキ様!」「ヒビキくんっ!」
嘉音とコトネに迫られ、ヒビキの顔色はますます悪くなっていく。
「……れ、レッドさんは、ぼくより帽子が似合っていたから」
「ヒヒヒヒヒヒィ! ヒビキはウソをついている! ヒビキの嫉妬の理由は今、語ったものではない!!」
赤により破片の攻撃力が上がる。
逆効果だ。ますますテラーの主張するヒビキ犯人説が補強され、刃のスピードと攻撃力が上がってしまう。
「グアアッ!!」
朱志香の背に、刃が直撃した。
赤い鮮血が飛び散り、ヒビキは目を見開く。
「ごッ、ごめんなさい!」
「ヒビキさん! どうしたんですか! なぜウソを!」
叫ぶ嘉音。
だがそこでコトネはハッと表情を変える。
戦いのルールは分からないが、だからと言って見ているだけの必要はなかったのだ。
だからこそすぐにデンリュウを呼び出し、光の壁を朱志香の周りに出現させる。
それを見てヒビキも慌ててボールを投げる。出現するのはスピアー。
「スピアー! 朱志香さんを助けて! あの魔女に攻撃を!!」
了解したのか、スピアーはすぐにテラーへ向かうが――
「無駄だ! アタシのスペックは赤により強化されている!」
赤い突風がスピアーを吹き飛ばし、さらに赤い破片は光の壁を粉々に砕く。
「ヒーッヒヒヒヒ! ほらほらどうしたんだいヒビキィ! お前のせいだぞォ!?」
「そ、それは――ッッ!!」
「ヒヒヒハハ! どうやら言えないみたいだねぇ。そりゃあそうさね、だってそれは動機になってしまう!」
人を殺せるだけの理由。レッドを殺める証拠。
そうだ、なぜヒビキは嫉妬の理由を言えないのか?
「そんなものは一つしかない! ヒビキがレッドを殺したからさ! その理由が、嫉妬の詳細にある!!」
「違う! ぼくは――ッ!」
「なら証明してみろ! 内容を大声で叫ぶのさ! ヒーッヒヒヒ!!」
できない。分かっている。
だができないと言う事は少々マズい。疑いが加速し、黒はより大きくなっていく。
ほらほら、もう結論に迫ってしまった。
「つまりこの事件の真相は、ヒビキがレッドを殺害した。あまりにも単純な"ミステリー"なのさねェ!」
赤い槍が生まれる。朱志香は目を細めた。
(あれは流石に防げない。なんでもいいから反論を――!)
そう思った時、腰に震動を感じた。
瞬間、朱志香の脳にフラッシュバックしていく情報。
そういえば忘れていた。腰についていたモンスターボールの数は『3』つ。
「そうか!」
嘉音がポケモンになったように、別の誰かも『ポケモン扱い』としてこの世界に来ていたのならば?
可能性はある。いや、だからこそ震えたのではないか?
だが誰だ? 確認は――、そんな時間はない。
「こうなりゃヤケだ! なんでもいいから状況をッッ!!」
だから朱志香はそれを、放る。
「死ぬがいいわ! 右代宮朱志香!!」
同時にテラーは赤い槍を投げた。
刹那、モンスターボールが割れる。
「ミステリー。あなたはそう言いましタネ」
「ッ!?」
「ノックス! 第ッ一条! 犯人は物語当初の登場人物以外を禁ズ!!」
見えたのは、赤い、太刀。
「ヒビキは『金』、もしくは『ハートゴールド』の登場人物デス! つまり第二世代! レッドを殺す資格があるのは、第一世代に登場するキャラクターのみデス!!」
その刃は迫る槍を両断すると、朱志香に触れることなく消滅させる。
現れたのは小柄な少女。髪形は縦ロール、青い帽子には鍵で作った十字架が見える。
同じく青い制服をなびかせ、左腕に装備されている黄金のガントレットを地面に押し当てる。
「さらに、ノックス第七条! 探偵が犯人であることを禁ズ!」
ガントレットから赤い衝撃波が発生し、朱志香の周りを飛び回っていた赤い破片を全て吹き飛ばす。
「ワタシが宣言しまショウ! 今ゲームの探偵役は『ヒビキ』デス! よって、彼が犯人である事はありえまセン!」
「ノックス十戒!? まさかお前さんは――ッッ!!」
「続けて! ウィラード!!」
もう一つのモンスターボールも割れていた。
中から飛び出した赤いメッシュの男は、黒い剣を振りかざしていた。
「ヴァンダイン20則! 第7則! 死体なき事件であることを禁ず!!」
黒い斬撃が発射され、テラーへ向かっていく。
先ほどと同じく赤いエネルギーを放ち、それを受け止めるが、黒の斬撃は赤を破壊するとそのまま空中を突き進む。
「グぉ!?」
テラーはなんとか体を反らして斬撃を回避するが、先ほどまで浮かべていた笑みは消えている。
ノックス、そしてヴァンダイン。それは魔女にとっては有名な名だ。
「異端審問官か!」
朱志香の前に立っていた少女の名は、『ドラノール・A・ノックス』。そして青年は『ウィラード・H・ライト』だ。
青い制服は異端審問官の証。この二人は天界所属、つまり"天使"である。
「ミス朱志香。どうぞ休憩を。ここはワタシ達が引き受けマショウ」
「助かったぜ。ありがとなドラノール!」
笑みを浮かべる朱志香とは別に、驚愕の表情を浮かべるテラー。
魔女にとって天使ほど厄介な相手はいない。ましてや現れた二人は天使の中でも名の知れた猛者ではないか。
「間違いない! 死刑宣告のドラノール! 魔術師狩りのライト……ッ! なぜ貴様らがココに!?」
それはドラノール達が所属している天界大法院へ依頼が来たからだ。
どこぞの魔女がまた人間や他世界を巻き込んだゲームを始めたらしいと。
瞬間、裏で視ていたフェザリーヌが朱志香に『記憶』を与えていた。
黄金夢想曲と呼ばれた催しで、朱志香はドラノールたちと会っている。
その記憶がリンクし、朱志香は状況を理解した。分かる。正義の天使様が助けに来てくれたのだと。
「楽しいか? 心をないがしろにするのは……」
ウィラード――、『ウィル』は、青いコートのポケットに手を突っ込んで、気だるげに聞いた。
頭痛のする話である。人間の世で犯罪が消えないように、こういう魔女は後を断たない。
魔法の力は確かに凄い、偉大だというのは分かる。だからと言って娯楽のために魔法で他者を踏みにじろうとする心を、ウィルたちは許せなかった。
「レッド死亡説。確かに可能性としてはあるのデショウ……。ですが、それを他者に押し付ける行為は許されまセン……」
ドラノールも付け加える。
ありとあらゆる可能性、創作はその存在を許されるべきだ。
しかしあたかもそれが真実のように主張するのは話が違ってくる。ましてや今回のように、凶器のようにするなど以ての外だ。
「だからこそ、潰しマス」
「ああ。覚悟しろよ」
天使たちの眼光が魔女を貫く。しかしテラーが浮かべるのはあくまでも笑みだった。
面白いではないか。魔女狩りを得意とする天使を退けたなら、それだけ名前も上がるというもの。
ましてやテラーには野望があった。未来を考えれば、天使など取るに足らない存在だ。
「ヒヒヒヒ! ヴァンダイン、そしてノックス! 確かにミステリーを軸にしたゲームならば、これほど手ごわい相手はいないだろうねぇ!」
現に今、ミステリーと言う単語をひとつ口にしただけでコレだ。
「だがねぇ、ありゃ言葉のアヤさ。このゲームはミステリーじゃない! ましてやファンタジーとも違う! ポケットモンスターと言う確固たる世界の話!」
「……!」
ドラノールは眉をひそめる。
ノックス十戒。魔女の中でも有名なソレを、テラーは確かに記憶していた。
ヴァンダインも同じだが、全てはミステリーを軸にした場合に発動される楔だ。
確かに今回はレッドと言う見えない死体を提示している。だがそれは何にもおかしな話ではなく、ましてやミステリーではないのだから、それらのシステムでは縛られない。
戦争映画で、被弾して死亡したモブキャラを誰が殺したのか議論するか?
モンスター映画で、なぜモンスターが噛み殺すのかを詳しく調べるか?
違うのだ。そういうものではないのだ。
「状況は確固たるバックボーンや環境があってこそ成立するものだ。ポケットモンスターの超能力はありとあらゆる常識を凌駕する!!」
テラーは再び光弾を生み出し、それを朱志香たちに向かって投げつける。
「浅はかナ!」
「ッ?」
だがその時、ドラノールが持つ赤い太刀が光を放った。小柄な体には不釣合いの武器《エモノ》を存分に振るい、光弾を両断してみせる。
「ノックス第五条。伏線なき異能力者の登場を禁ズ!」
「なにっ! 五条だと!?」
テラーが驚くのも無理はない。
ノックス第五条は長らく欠番になっていたからだ。しかしドラノールはそれを復刻させた。アレンジを加えてだ。
「ミステリーは常に進化していくものデス。それは人の可能性でもありマス。昔はナイフひとつで人を殺めていたものガ、今は鎌鼬やサイコキネシスで人を殺すこともできるノデス」
想像と創造を否定するつもりはない。だからこそ作ったのだ。新たな楔を。
一方でウィルは目を閉じてそれを聞いていた。ウィルはヴァンダインを受け継いだ身だ。
ヴァンダインは古臭いと一部の人間は否定している。ウィルはそれを否定も肯定もしない。
一方でドラノールは確かに時代に適応しようと努力している。全ては、異端を取り締まるために。正義のためにだ。
「何を使おうガ! どんな背景があろうガ! 人が人を殺メ、その罪を何らかの理由から隠そうとする以上、ミステリーたりえマス!」
たとえ死体がなかったとしても。
死亡説を訴え、真実を隠そうとする魔女。
そして盤の中でもレッドと言う存在の行方が分からぬ以上――!
「これはミステリーなのデス!」
「チィイイ!」
ドラノールが剣を天へかざすと、空間が弾け飛ぶ。
現れたのは巨大な大聖堂。さらに朱志香たちが立っている場所が、1番道路から、法廷のような場所に変わる。
ドラノールのフィールドだ。この世界はミステリー。だからノックス十戒が適応される。
そして、ヴァンダインも同じくして。ウィルは前に出るとテラーを睨み、叫んだ。
「そもそも全てを視させてもらったが、お前の仮説には大きすぎる穴がある!」
「聞かせてもらおうじゃないさ! その穴とやらを!!」
ご挨拶の意味をこめてテラーは光弾を放つ。だがウィルはそれを簡単にはじき返すと、斜めの方向に弾丸を吹き飛ばす。
「戦人とエルドヴィッヒの戦闘開始直後に提示された映像だ!!」
それはヒビキがレッドと出会う場面の映像だった。
そこでテラーは背後を振り返る。そこには赤い太刀だけではなく、青い小太刀を逆手に持ったドラノールが見えた。
天使の翼はないが、どうやら浮遊はできるらしい。重厚なガントレットをつけているにも関わらず、ドラノールはテラーとの距離をしっかりと詰め、刃を振るった。
「あの映像は未来の物デス! 今、ここにいるヒビキは、まだレッドとは会ってまセン! それはミス朱志香との会話で既に明言されていマス!」
「!」
「未来のシロガネ山の映像にて、ヒビキがレッドと初対面であることが既に赤で宣言されている以上! ヒビキがレッドを殺したということはありえまセン!」
「あれは、『あのレッド』と初対面だったという意味さ!」
テラーは魔法陣の結界でドラノールの剣を受け止める。
さらに、説く真相はこうだ。
ヒビキはシロガネ山に向かう前に既にレッドとは会っており、自分よりも強くて人に慕われているレッドに嫉妬して殺した。
そしてヒビキはレッドの死体を滅多に人が訪れないシロガネ山に隠すことを決める。
シロガネ山の洞窟奥深くに死体を隠したヒビキは、入り口よりも山頂を目指したほうが脱出が早いと考え、山頂に出る。
その際、殺したはずのレッドが立っているのを発見。ありえないと思ったヒビキは、正体を確かめるためにレッドに話しかけた。これが戦人とエルドヴィッヒがはじめの方に見た映像である。
そのレッドは幽霊ではなく、もっと強い意志が具現した『思念体』と呼ばれる存在。
ポケモンで言う、身代わり人形のようなものである。
「――とまあ、こういう事なのさ!」
「その推理は無効デス! ノックス十戒は適応済みデス。故ニ! 第七条ッ、『探偵が犯人であることを禁ズ』が、適応されマス! ヒビキは探偵役デス! 犯人ではナイ!!」
赤と青の一閃がテラーの魔法陣を破壊した。
テラーは悲鳴をあげながら地面に墜落する。しかしすぐに立ち上がると、持っていた箒を魔女の杖に変える。
「ヒーッヒヒ! まだだよ!!」
まだテラーに焦りはなかった。
「あえてアンタらに乗ってやろうかい? それでもね、主張ができるのさ! なぜならばノックス第八条は確か……、"提示されない手掛かりでの解決を禁ずる"、だったねぇ?」
「ええ、その通りデス」
「もはやこの場面に至るまで人を超越したポケットモンスターの力をお前たちは見ているはずさ!」
火を吹き、超エネルギーを生み出し、物を浮かし、重力を操る。そういう生き物が蔓延る世界での出来事なのだ。
殺害にそれを使わぬ理由はない。ヒビキが犯人ではない? 結構だ。もはやこの世界にて、直接人間が人間を殺すなどはありえない!
「ヒビキではなく、ヒビキのポケモンがレッドを殺した! こういう事なのさ!」
その犯人、いや犯ポケは――
「スピアー!」
ヒビキの手持ちであるスピアーは第一世代のポケモンだ。
ノックス第一条である『犯人は
さらに超能力を操るキャラクターがいると提示されているので、死体を消失させることはあまりにも簡単である。
そもそも、今回のゲームは『レッドが死亡しているか・死亡していないか』を
「だからこれは死体なき事件ではない。アタシらは常に言ってるさね! レッドは死んでいると!」
「ありえないよ!」
コトネが叫ぶ。
と言うのも、モンスターボールには『とある機能』があった。それはセーフティーシステム、つまり『安全装置』である。
ポケモンバトルにて不正が起きないように、各ボールで捕獲されたポケモンは殺意による人間への攻撃ができないようになっている。
つまりヒビキがスピアーにレッドを殺させようとするのは不可能なのだ。
「ヒビキがボールを改造していた可能性があるねぇ」
ウィルは一瞬、ヒビキを見る。
金色の瞳がヒビキのモンスターボールを補足してサーチを行った。その結果――
「ねぇよ! ボールに細工はされてねぇ!」
ウィルが剣を振るい、斬撃を飛ばす。
しかしテラーは杖を振るって魔法陣を出現させると、それを盾にして攻撃を受け止めた。
「再改造したのかもねぇ。ヒヒヒ!!」
「モンスターボールの仕組みは複雑だ。素人に弄れるモンじゃねぇよ」
それに――、ウィルは剣を構えて走る。いちいちボールを改造したなんて仮説に付き合う必要はなかった。
「ヴァンダイン第12則! 真犯人が複数であることを禁ず!」
攻撃力の上がった刃だが、テラーはそれをしっかりと杖で受け止めた。
「スピアーがヒビキのために独断で犯行を行った可能性があるねぇ! 証人喚問!!」
ウィルの周りに半透明の人間が浮かび上がる。どうやらヒビキのスピアーを知っている人物らしい。
「あのスピアー、気の荒い性格でね。近づかないほうがいいよ……!」
「隣の家の息子が、あのスピアーに襲われたらしい。これが始めてじゃないとか」
どうやらヒビキのスピアーは好戦的な性格らしい。襲われた人も、一人ではないことが分かる。
「ヒヒッ、ハハァ! 分かるかいウィラード! あの毒っパチはねぇ、危険なヤツだったのさ! 荒くれ者が主人の意を汲んでレッドを刺し殺した。どこに矛盾がある!!」
テラーは杖でウィルの剣をはじくと、空間に爆発を起こして周囲を攻撃する。
ドラノールとウィルは剣を盾にしてガード。朱志香は腕を広げると、ヒビキとコトネを守るように爆風を受け止めた。
テラーの笑い声が聞こえる。
だから、それをかき消すため、少年は叫んだ。
「違う! 違うッッ!!」
「ひ?」
ヒビキは朱志香の前に出ると、拳を握り締めて叫んだ。
「ぼくのポケモンは、絶対にそんな事はしない! レッドさんを殺すなんてありえない!」
「ヒヒヒハハハ! またッ、お前さんはッ、そんなウソを!!」
「ウソじゃない! ウソじゃないよ! ぼくはただ――ッ」
分かっている。これを覆すのは――
「いい! 言うな! 無理に心をさらけ出す必要はねぇ!!」
ウィルはそう言うが、その心遣いはもう嫌だった。
「もうッ、ぼくのせいで皆が傷つくのは嫌なんだ!」
今も朱志香に庇われ、申し訳ない。情けない。なにより――
「そんなのっ、かっこ悪いよ!! コトネちゃんには見せたくないんだ!!」
「えっ?」
だからヒビキは叫んだ。なぜレッドに嫉妬していたのかを。
「ぼくはレッドさんに嫉妬してたよっ! だって、こ、コトネちゃんがレッドさんのことをかっこいいって言うから……ッッ!!」
ヒビキは赤く染まった表情を歪め、少し涙さえ浮かべていた。
言いたくなかった。晒したくなかった。けれどもそれ以上に――!
それを感じたからこそ、ドラノールが腰を落とす。
「傷つくミス朱志香を見て、この発言! ミスコトネへの感情を考えた場合、ヒビキが殺人を起こすと思いますカ?」
「クッ!」(あのガキ、まさかこの人の前で言うとは……!)
テラーの表情が確かに歪んだ。
ヒビキのシャイで奥手な性格を理解していたからこそ、勝負を仕掛けたのに。
するとガチャン! と、音がする。ドラノールが走り出したのだ。
「殺人を犯した場合、ミスコトネへ胸が張れるとおもいマスカ? 余計に嫌われると思うのが普通デス! ヒビキはそれを理解してル、よって殺人は不可能デス」
「そ、そんなもの! だからスピ――」
「ヒビキのポケモンは既に独断でヒビキを守るために動けるほどなついていマス。それは常に傍にいた証拠でアリ、ヒビキの性格もよく知っているデショウ。スピアーも、自分がレッドを勝手に攻撃すればヒビキがどういう目に合うのか分かっていマス。ましてミスコトネが悲しむ事も分かっていマス。ですのデ、スピアーはヒビキのためにレッドを殺すことはありえまセン!!」
「ヒーッヒ――」
「そういうのいらないデス。赤で否定をお願いします。コチラは青を提示していますノデ……!」
ドラノールの赤い太刀による強力な突きが繰り出される。
テラーは反射的に魔法陣のシールドでそれを防ぐが、凄まじい衝撃が走った。
「ヒッ、ヒヒ……!」
「青を提示済みデス。赤で否定をお願いしマス。あと、青を加えマス。ヒビキのマップにはまだシロガネ山が登録されていまセン。これはヒビキがまだシロガネ山に行っていない、なによりの証拠デス」
「ぽ、ポケモンを遠隔操作して――」
「ですカラ、青を提示済みデス。赤で否定をお願いしマス。ちなみにもしもポケモンだけをシロガネ山に向かわせた場合、道中にいる野生ポケモンの存在はどうするのデスカ? 血の気の荒いものもいるデショウ。スピアーだった場合、次々と迫りくるポケモンを全て退けマスカ? できたとしてモ、レッドはどうするのでス? 彼の手持ちを全て倒せるノデショウカ? 不意打チ? 通せるとデモ? と言う事デスノデ、ポケモン単独での犯行は否定シマス」
青い剣が存分に魔法陣に打ち込まれる。
だんだんと強くなっていく衝撃に、テラーは表情を歪ませる。
「ヒヒヒ……! だからぁさァ!」
「だからッ! ワタシハッ! 青をッッ、提示ッ! 済みなんッデス! "ヒヒヒ"とかッ下らんッキャラ付け! いらないッデスッッ!」
赤い太刀、『赤鍵』が眩い光を放つ。
一度切ったら、赤い残痕が結界に張り付いた。そのままドラノールは無茶苦茶に切りまくっていく。
「提示済みデス! 提示済みデス! 提示済みデス! 済みデス! 済みデス!」
「うっ! グッッ!!」
「済みデス済みデス済み済み済みデスデスデスデス!」
無数に張り付いていく赤い線。
気づけば結界が赤く染まっていた。
「済みデス済みデス済みデス済みデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスッDie The death! Sentence to deathッ! Great equalizer is The Deathッッ!!」
相手を連続で切りさくドラノールの必殺技、"ヘイリッヒ・トーデスルタイル"。
ドラノールは猫のような目を思い切り見開き、両腕を広げて笑ってみせる。同時に打ち込まれたエネルギーが爆発した。
世界が一瞬、赤く染まり、粉々になった結界の破片を纏いながらテラーが転がっていく。
「ギャギッ! ガぶェ!!」
まだ終わらない。まだ終わっていない。
ウィルは全速力で走り、地面を滑る。
「お前のミステリーには心がねェ!!」
ヒビキが負をさらけ出したのだ。絶対にココで決めなければ、それこそ申し訳ない。
ウィルが地を滑りながら漆黒の刃をテラーに当てる。すると広がる巨大な魔法陣。黒に染まった円の中にテラーは完全に閉じ込められた。
そこへ一筋の閃光が走る。ウィルが切った刃の痕だ。
「レッドは皆の憧れの存在だ。コトネもそうだったんだろうな! ヒビキはそれをただの憧れではなく、恋情が混じっているのではないかと思い、レッドに嫉妬していた!」
また黒い円に一本の線が刻まれる。
魔法陣の中にはウィルも入っていた。そこで叫んでも音は遮断され、外に――、コトネに聞こえる事はない。
「ヒビキが嫉妬の理由を言えなかったのは何の事はない。コトネが好きだという事を本人に知られるのが怖かったからだ!」
「ガッ! グゥウ!!」
「確かに恋の嫉妬が原因で人を殺したヤツもいるだろう! だがヒビキはそうじゃない! 自分のせいで他人が傷つくことに耐えられなかった男がッ! コトネにいい格好を見せたいと思っている少年がッ! 負の感情に身を任せて人を殺せるものかよッッ!!」
黒い円に幾重もの線が走る。
「コトネもヒビキを気にする情報が提示されている。お前らの下らない娯楽に、あいつらを巻き込むんじゃねェ! ヴァンダインッ、第ッ! 20則!!」
ウィルは、剣を、鞘に収めた。
「愛なき幻想を禁ずッッ!!」
「ギェエエエエエエエエエ!!」
魔法陣に刻まれた線が光り、黒がバラバラに切断された。
テラーは再び地面にへばりつき、どす黒い血を吐き出している。
「おんのれェエ! 忌々しいヤツらだよ!」
テラーが立ち上がると、その体が煙を上げて融解を始めた。
一瞬、倒したと思ったが、どうやら違うらしい。ここにいるテラーは分身体のようだ。
だが反論はない。それもそうか、ヒビキは犯人ではないのだから。
ウィルが提示した青こそが全てを終わらせる
「覚えておくんだね。魔女は執念深いよ。ヒーッヒヒヒ!」
分身テラーは完全に消滅する。
そして分身を遠隔操作していた本体は、上位世界にて目を覚ました。
「ぐへぇ!」
いくら分身とはいえ、相当の魔力を注いでいたのか、ダメージがバックするらしい。
テラーは再び吐血すると、苛立ちから壁を殴りつける。
「カカカ。ずいぶんと派手にやられたものだなぁ」
「まさか異端審問官のエリートが二人も来るとはね」
魔女側の待機室。
ヴァレッタはシャンパンが入ったグラスを回すと、不適に笑ってみせる。
それはエルドヴィッヒも同じだった。通常、ドラノールとウィルの名前を聞いたら魔女は恐ろしさからそれだけで降参するものだ。
しかし三人にその様子はない。
「我らの計画が成功すれば、もはや魔女と言う概念は取り払われる。異端審問官など相手ではない」
魔女たちの笑い声が室内に木霊した。
どうやらそろそろゲームを再開するようだ。朱志香たちが、そして戦人たちが真相に近づく前に始末したいようなので。
『tips』
・ドラノール&ウィル
フェザリーヌがひそかに呼び出していた人間側の助っ人。
魔法を否定する楔、ノックス十戒とヴァンダインの二十原則を武器にしている天使たち。
………
申し訳ないんですが、今月はいろいろ忙しくてなかなか更新できないかも。
どうぞ気長にお待ちくだせぇ(´・ω・)