違う世界へと旅立った少女の話をしよう。
彼女との出会いは一つの事件がきっかけだった。
…アレは残酷な事件だった。
彼女は元々は身寄りの無い孤児であった。そして物心がつく前に、とある資産家によって引き取られたのだ。
そして、資産家は廃墟となった遊園地を使い、その中で彼女を育てた。
そして、遊園地のアトラクションなどを使って、彼女を魔法の国のお姫様と錯覚するようにして育てたのだ。
勿論、魔法は実在しないし、呪文もでたらめ、両親や友人や家臣までもがニセモノで、彼女が14歳になった時に、
その人生そのものがドッキリでしたと嘲笑う為に、生かされてきた。
そして真実を突きつけられて全てを失った。
いや、喪ったという言葉には語弊があるかもしれない。
彼女には、最初から虚構以外は何も与えられていなかったのだから。
本当に胸糞が悪い話だ。
人間の闇というものを身を持って良く教えられたよ。
そして、彼女はまともな現実の世界へ復帰するための教育を受ける為に、今度こそまともな養父母の所へ里子に出された。
そして…、あるときこの世界から急に居なくなったんだ。
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「Mein Leben war sinnlos!!」
私の呪文に応える様に、世界は呪文に乗せられた意思に従い、灼熱の焔を顕現させる。
既存の物理法則に関わらず、一瞬前の世界とは一切関係の無い現象の断章を差し込む新法則。
私はようやく生きるべき世界を見付けた。
この世界では魔法は己のイメージを現実の世界にどこまでイメージできるかで発動再現度が違うの。
私が望む通りの世界へと、世界を改変する術――それが魔法。
現実に自分が魔法を産み出せるイメージを想像できない人には世界は応えない。
逆に、自分が魔法を再現できることを疑わずにイメージできる者にとっては、イメージの限りなく近い現象が再現されるという事。
つまり、私にはこの世界で魔の道の頂点にいると言う訳。
川が氾濫しては堤防を構築して、食糧難に困れば、森一帯を分解して平らな畑と代えて、植えた食物を急成長させて、
戦争になれば、敵の装備を全て自国の武器庫へと転送させた。当然戦争という程のものにさえならなかった。
消滅した森から溢れ出てきた周辺の怪物達も全て抹殺が完了して、他にも色んなことをやったから、
子供がいない、この国の国王の養子と認められて、後継者としての資格を得た。
もう私は本物のお姫様。
誰にも文句は言わせない。
私の願いのままに、この世界は存在して、
この世界の望むままに私は力を振るうだろう。
全は一で一は全。完全存在の直接説明。森羅万象の解読者。
私は世界を愛して世界に愛される、一番大切なお姫様―――――――――――――――――
―――――――――――――――という夢でも見ているんだろうね、『彼女』は。
ああ、見ているに違いない。
彼女に現実は耐えきれるものでは無かった。耐えてまで生きたいと思えるものでは無かった。
だから自ら命を絶った。ああ、仕方ない。仕方ないんだ。
彼女がかつて夢見ていた世界の様な不思議で素敵な現象は存在しえない。
現実には魔法も奇跡も無いんだ。
だから…、――だから彼女は
理不尽な目に遇った少女が耐えきれずあの世へと旅立った(1行)