「お母さん、ぼくの個性ってなにかなぁ。オールマイトみたいにかっこいいのがいいなあ」
「出久ならきっと、かっこいい個性持ってるよ!」
緑谷親子は病院の待合室にいた。
個性の発現が周囲の子よりも遅れていることを不安に思い出久の母、引子が個性診断のため病院に連れてきた。
血液検査やレントゲンなど幾つかの項目を終え結果を待っている。
「どんな個性かなー僕も火吹いたりできるかなーーー」
もれなく4歳までに「個性」は発現する。
もうすぐ5歳を迎えようとする息子に個性が未だ見つからないのは母親としては非常に不安であった。
現代社会において「無個性」はイジメの対象になってしまう。就職にすら不利になることもある。
どんな個性でも良い、息子に個性が宿っていて欲しいと引子は願っていた。
「出久くーん、緑谷出久くーん」
診察室から看護婦が顔をのぞかせる。
「は、はい!!!!」
出久は緊張した面持ちで診察室へ向かう、その後ろを引子が着いていく。
「お、お願いします!」
出久が椅子に腰掛け、先生に診断の結果を尋ねた。
「出久くんの足の小指の関節は一つしかなかった。無個性の場合はこれが二つあるんだ。
つまり出久くんにはしっかりと個性が宿っている。まだ出てきていないだけだよ、焦らなくて大丈夫だねぇ。」
先生は出久と引子にそう告げる。
「やった!僕個性出るって!」
「よかったね出久!」
二人は顔を見合わせて手放しに喜ぶ。
「個性が発現するまではいろいろなことにチャレンジしてみるといいでしょう。派手な個性はすぐに解りますが、中には限定的なものもある。例えば感電してから初めて使える個性だったり、高いところから飛び降りてから使える個性だったり・・・極端な例ですがそういったものもあるんです。
これからは、今までと違ったところに連れて行ってあげたりしてくださいね。」
無個性ではないと解り安心しきっている引子に対して先生が助言する。
「解りました。ありがとうございました、先生。」
息子のことをしっかりと考えてくれる先生に対して感動を覚えつつ、緑谷親子は病院を後にした。
ーーーーー出久に個性が発現したのはその夜だった。
「出久ーごはんできたわよーーー」
「はーい」
平穏、平和というものは時として一瞬で崩れ去る。
「今日の唐揚げh・・・・キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
それはヴィランよりも身近に潜み・・・・
「い、出久!!!!!でた!!!でた!!!!!!!!!」
何世紀も前から人類の敵だった恐怖の権化
「ゴキブリが!!!!!!!そこにいるよ出久!!!!!!!!!!!」
「・・・・え?」
緑谷出久の足元に、数センチほどのソレがいた。
「うわああああ!!!あっち行け!!!!!」
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
「いやあああぁぁ出久こっちに来させないで!!!!」
「うわああそっちいくな!!!!!」
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
「でもこっちくるなああああああ!!!!!とまれ!!!!!!!」
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ・・・・・ピタッ
「はぁ・・・・はぁ・・・・・」
ゴキブリは出久と引子の間を行ったり来たりしていたが、出久の叫びと同時に動きを止める。
「い、出久、それ、お、追い出して・・・・・」
「かあさんの個性で引きつけて捕まえたらいいじゃん!!!!」
「出久!?何言ってるの!?個性でもそんなの触りたくないよ!!!」
出久はとんでもない提案をするが、少し深呼吸をしてからゴキブリを見つめる。
「ご、ゴキブリくん・・・・おねがいだからウチから出て行ってくれないかな・・・・?」
恐怖のあまりゴキブリに対して交渉を持ちかける出久。
もちろん虫が人間の言葉を理解するわけもない。
通常なら。
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
ゴキブリは勢いよく玄関へと走り出す。
「わっ!」
出久は驚きつつも逃すわけにも行かず、ゴキブリの後を追う。
玄関まで行った時さらに出久は驚愕する。
ゴキブリがこちらを見つつドアの前で待機しているのだ。
「ま、まさかね・・・・」
「ドアあけてあげるから、ゆっくり外に出て行くんだよ。」
出久がドアを開けるとゴキブリはゆっくりと緑谷家を後にした。
「これが・・・・僕の・・・《個性》・・・・・・?」
人は生まれながらに平等じゃない。これは齢4歳にしてみんなが知る社会の現実
そして緑谷出久の、最初で最後の挫折だ。