バトルスピリッツ アナクロニズム   作:にしはる

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02 死を恐れぬ軍勢 バルトアンデルス回生

 昼下がり。真夏の日光は弱まることを知らず、焼けたアスファルトには陽炎が立ち上る。ただ外にいるだけで暑い。この炎天下で動こうものなら、汗だくになるのは考えなくても分かる。

 そんなことを神田(かんだ)俊道(としみち)は冷房の効いた部屋で思った。大型のテレビをつけたまま、テーブルに広げたカードとにらめっこをしている。

 ちなみに彼の暮らすアパートにエアコンなどはなく普段は扇風機で暑さをしのいでいたのだが、今はそのような戦いとはかけ離れた涼しい部屋にいた。当然であるが、ここは神田の家ではない。

「人んちってこと、分かってる?」

 そう問うたのは、金髪の少女。少女というにはいくらか大人びているものの、女性と呼ぶには少々子供っぽい顔立ち。神田は彼女の体つきも子供っぽいと思っているが無粋なことは口にしない紳士であった。

 少女と女性の中間くらいの見た目の彼女は名前を崎間(さきま)深月(みつき)という。

 水滴のついたグラス二つを載せたお盆を持つ深月は、今更のように訊ねた。

 それを聞きながら、神田は「理解はしてる」と座椅子の背もたれに寄りかかって背後に立つ彼女を見上げた。

「でもさあ、人間って一度ラクすると戻れなくなるじゃん? 俺はもうここから離れられない」

「ダメ人間」

「ダメ人間製造できる空間で日々暮らしてるお前には言われたくない」

「まあ、……反論できないわけですけど」

 諦めたように神田のはす向かいに座ると、深月はグラスの一つを手にし緑茶を流し込んだ。グラスの中に浮かぶ氷が音を立て、その音がなんとなく冷涼さを演出する。もともと部屋はエアコンで涼しいとはいえ、目で涼を楽しむのも必要かな、と彼女は思った。

 神田も一方のグラスを持ち、「サンクス」と深月に礼を言って冷えた緑茶を飲み干す。

「それで、デッキは出来たの?」

 深月が神田の手元のカードの束を見遣る。そこにはカードが重なり、それなりの厚さになっていた。目測でもデッキと分かる程度の厚み。

「まあ、そうだな。回してないからどう動くかはまだ未知数だけど」

 デッキを手にして、神田はそれをシャッフルする。カードを裏向きでセットして、上から4枚を引く。深月がその手札を覗き込んだ。

「相変わらず、ビャク・ガロウとは仲が良いわね」

 深月が言うように、神田の引いたカードの中にはビャク・ガロウのカードが含まれていた。

「まあ、ちょっと度が過ぎるみたいだけど?」

 彼女が笑う。

 神田も苦笑した。

 というのも、彼が引いた手札4枚の内、3枚がビャク・ガロウだったのである。紛れもなく、単なる手札事故であった。

「まあ、実戦で回ってくれればいいんだよ」

「実戦でもビャク・ガロウに愛されすぎてマズいことになったりして」

 グラスを下げる深月に、神田は頭を小突かれる。

「ちょっと相手してくれ」

 その頭をさすりながら、カードを片付けると、彼女にそう対戦を申し込んだ。

「ん、いいよ」

 やるからには本気で行くと言って、深月は先日使ったマ・グーデッキを自分のストレージボックスから引き抜いた。

 

 

 デッキの動きを一通り試したあと、深月の暮らすアパートを出て先日と同じカードショップへ。彼女の自宅からショップまで徒歩でも5分とかからない。

 この近さが深月をカードゲーマーに仕立て上げた要因の一つのようだ。

「それで、神田」

 ショップまでの道のりも半分といったところで、深月が素敵な笑顔で神田に顔を向けた。

「あんだ?」

 少し先を歩く彼女に神田は眠たげな目を合わせる。

 すすす、と深月が神田に迫り、両の手のひらを彼に広げて、見せた。

 手のひらのはなにもない。深月の手相があるだけだ。

 神田は「どうした?」と、首をかしげると「察し悪いなあ」と深月が口を尖らせた。

「カードあげたしなんか見返りちょーだい」

 そして、そう言った。

 先刻の素敵な笑顔の正体は、物をねだる時の表情だったようだ。

「お前の善意による提供じゃねえの?」

「んにゃわきゃない」

 巻き舌で深月が言う。

「まあ、最初はムショーテーキョーでもいっかなあって思ったけど、アンタの飯がうまかったから作らせようかと」

「マジか。あんなん誰だって作れ……」

 いや、待てよ、と神田は言葉をそこで切った。むしろあの程度の食事を提供するだけで、カードが貰えるのであれば安いもんじゃないか。

 そう考え直し、神田は悪い笑みを深月に見えないように浮かべた。

「まあ、いいや。オッケー了解した。また飯作ったら今回のカードはチャラになるんだな?」

「うんっ」

「じゃ、さっさと行こうぜ」

 神田は邪悪な笑みが露呈する前に、目をきらきらさせる深月を促しショップへと歩かせる。それに昼日中いつまでも戸外にいたくない。

 自動ドアをくぐると、身体の表面を冷気が駆け抜けていくのが分かる。表皮に浮かんでいた汗がなおさら涼しさを際立たせた。

「それにしても、いつも寒い」

 深月は肩を抱いて、神田にバッグを要求した。彼が差し出すバッグを受け取り、パーカーを引っ張り出すと深月はそれを着込んだ。

「じゃあ、まああとは帰るまでそれぞれ勝手に」

「りょーかい」

 深月が手を振る少年の元へ行ったのを確認して、神田はこれからどうしようかと店内を見渡した。手の空いている人をしらみ潰しに探していると、背中に熱風を感じた。

 彼が振り返ると、新たなお客さんらしき人が入口に立っていた。濡れ羽色と呼ぶにふさわしい美しい黒髪の少女だ。髪は肩口を撫でるくらいの長さ。

 神田が綺麗な髪だなと思ったのは一瞬で、その後は彼女の奇特な服装に眉にシワを寄せた。

 8月の厳しい日射にもかかわらず、その人物は黒かった。むろん肌が黒いというわけではない。装いが真っ黒なのだ。

 シースルーの黒い肩出しブラウス。その内側のキャミソールはなお黒い。透き通るような、病的ともとれる肌の白さが余計に黒さを際立たせている。そして黒いショートパンツ。同色のニーハイブーツ。

 右腕に提げるのは黒い日傘。ふちには白いレースがあしらわれているが、全体の印象がそれで覆るはずもなく、むしろその差し色によって黒が強調されている。

 その姿に神田は不審げな目をやって、入口から離れることにした。

 のだが、二の腕まで覆う黒い手袋をした手が神田の腕を捕らえる。

 直感的に関わらない方がいいのではと思っていた彼は行動を阻害されてしまう。少女の掴む手に力はほとんど加わっていないので振り払うことは容易であったものの、事態が面倒な方面に進むことを危惧した神田はありったけの笑顔で「どうしましたか?」と少女を肩越しに見遣った。彼の表情が軽く引きつっていたのは言うまでもない。

「バトル、いいですか」

 黒い双眸が神田を見上げ、そう言った。

「……分かった。バトルしよう」

 逡巡したものの、デッキを早く回したかった神田にとって、その申し出は悪いものではなかった。

 彼の中で少女は不審者認定をされたままであったが、特殊なのはその体裁だけだと自分に言い聞かせ、神田は少女と連れだってバトルフィールド使用の申請を店長にしたのであった。

 それから数十分。行われていたバトルが終わり、神田と少女がバトルフィールドに降り立つ番が来た。

「先に自己紹介でも。俺は神田俊道、よろしく」

一縷(いちる)。よろしく」

 一言の自己紹介を終えて、店長が新たなバトルが開始することをアナウンスすると、客の多くがバトルに注目する。

「ゲートオープン界放!」

 恒例のかけ声で、バトルは始まった。

 

 

 * * *

 

 

 神田は先日の深月とのバトルぶりにこの場所に立つことになる。

 円形のフィールドを見るだけで、あの時のバトルの記憶が呼び覚まされた。

 前回は敗北したが、今回は負けられないと意気込み、デッキをシャッフルした。

 一方で、一縷と名乗った少女は表情を変えずに神田同様にデッキを混ぜている。その顔からはなにも読み取れないが、彼女の双眼はバトルフィールドをなめ回すように見ていた。

「もしかして、ここは初めてか?」

 神田が訊ねると、一縷はこくりと頷いて「ショップも初めてきた」と抑揚なく答えた。

 感情が表層に浮き出ない喋りと顔色のため、神田はどう対応したものかと考えつつ、まあバトルをすれば分かることもあるだろうと、意識をバトルに向けた。

 ある人物が言っていた、バトルは対話だと。

「じゃあ俺からいかせてもらう。スタートステップ!」

 そして、神田の先攻で幕が開けた。

 

第1ターン

<神田>

リザーブ:4 手札:5 ライフ:5

 

「むう……」

 意気込んで先攻を選択したものの、手札を見た瞬間に神田の顔が曇った。彼にしては珍しく、ポーカーフェイスを忘れ去っているようだった。

 とはいえ、最悪の手札ということでもなかった。ドローしたカードで、ある程度は手札事故気味の手札から持ち直せる可能性があったのだ。

「マジック、ストロングドローを使う。自分は3枚ドローに、その後2枚手札を破棄」

 デッキの上から3枚のカードを手札に加え、残すカードの選別をする。

「俺はこの2枚を破棄する」

 

<神田>

破棄:剣王獣ビャク・ガロウ、コノハガニン

 

「これでターンを終える」

 神田は溜息交じりに告げて、一縷のターンへと移った。

 

 

 * * *

 

 

「にいちゃん、ビャク・ガロウ捨てちまったぞ?」

 バトルフィールドの外では少年と深月がバトルの傍ら、あちらのバトルを見守っていた。

 少年がそう深月に訊き、彼女は「へえ」と頷く。

「では戦略のお勉強の時間です」

 彼の疑問に深月がかけてもいない眼鏡を押し上げる仕草。

「神田はストロングドローでキースピリットとするビャク・ガロウを破棄したけど、どうしてそうしたでしょう」

 深月の提示した質問に、少年は「んー」と首をかしげた。

「とりあえず、コストが重いから破棄したんだとは思う」

「それもそうね。でもそれだけじゃない。これは推測だけど、きっと神田の手札にはもう1枚のビャク・ガロウがあるはず。普通、手札が悪くてもキースピリットは残したくなるもの」

 更に深月は続ける。

「最初から手札入れ替えを行ったのは手札の巡りが悪いから。もちろん手札事故でなくてもドローはするものだけど」

 彼女は気づいていた。神田の素が出たことに。ライフ1でも動じず相手である深月を挑発してみせた彼が動揺しているあたり、初手は身動きもままならなかったほどだろう。

「でもまあ、ドローでなんとかなりそうって顔になったけど」

 そう深月が言うと、少年が眉にシワを寄せて彼女に訊いた。

「あのさ、ねえちゃんとあのにいちゃんってどーゆー関係なの? まさか、アベック!?」

「なんでそんな古くさい言葉で表したかはわかんないけど、少なくともそうじゃないわ」

「そっか……」

 安心した、という風に少年は胸をなで下ろした。

 

 

 * * *

 

 

第2ターン

<一縷>

リザーブ:5 手札:5 ライフ:5

 

 手札を見、リザーブを見、指折りなにかを数える一縷。

 コアの計算だろうと神田は遠目に推測しながら、最初のターンは重要だろうと思考を巡らせた。

 一縷とは初めてのバトルのため、当然デッキ内容は分からない。故に彼女の1ターン目は注目する必要があった。

 基本的に初動で大方どのようなデッキか見当がつく。

「メインステップ。シキツルを召喚」

 一縷が召喚したのは紫のスピリット。全身が骨のツルが翼をはためかせフィールドに降り立つ。

「召喚時効果、カードを1枚ドロー。これでターンエンド」

 うかつに動くようなことはせず、一縷はターンを終えた。

 それを見て、神田はまずコアシュートに警戒をしなくてはならないなと、コアの運用に制約がつきまとうのを面倒に思いながら、ターンの開始を宣言した。

 

第3ターン

<神田>

リザーブ:5 手札:6 ライフ:5

 

「くノ一ジョロウを召喚する。コアを2つのせておく」

 本来なら神速召喚をしたいスピリットであるが、背に腹はかえられない。さすがにいつまでもフィールドをカラにしておくのは得策ではない。

「これで、エンド」

 神田も動かず第3ターンを終えた。

 

第4ターン

<一縷>

リザーブ:5 手札:6 ライフ:5

シキツル(Lv1)

 

「メインステップ。魔剣は闇を導く、魔剣デスサイズ召喚」

 一縷が召喚を宣言すると、バトルフィールドがにわかに暗くなる。シキツルのすぐそばが一層暗くなり、そこだけ暗闇が増した。

 そしてその暗がりは確固たる闇へと変わり、その闇からまがまがしい装飾の施された(つか)がゆっくりと、はえてきた。

 刃の切っ先までが姿を見せると闇は薄れていきその武器の全容が明らかになった。

 柄の近くに水晶をくわえたドクロ。(いかり)にも似た形状の刀身には紋様が彫られている。

 首を刈り取る死神のためにあつらえられたような、そんな見た目の剣刃(つるぎ)だった。

「召喚時効果、『ダークネス』と名のつくスピリットカードがでるまでデッキをオープンする。上限は6枚」

 地面に突き刺さるデスサイズの刀身の紋様が不気味に光り出すと、それに反応して一縷のデッキが次々オープンされていく。

 彼女が6枚目にオープンされた死神剣聖ダークネス・メアを手札に加えると、ほかのカードはトラッシュへと破棄される。

 

<一縷>

破棄:黒き骸王バルトアンデルス、闇騎士ラモラック、トーテンタンツ、魔界七将ベルドゴール、マーク・オブ・ゾロ

 

「そして、バーストをセット」

 一縷はカードを1枚伏せてバーストゾーンに。続けてシキツルでアタックをした。

 彼女のセットしたバースト、BPの低いスピリットでのアタック。そして極めつけは彼女のデッキの色。

 紫は破壊後のバーストが多数あると神田は深月から教わった。特に警戒すべきは、一縷が破棄したカードに含まれていたマーク・オブ・ゾロ。使用されるタイミングによってはこちらの被害が甚大になる可能性もあるカードである。

「来い、ライフで受ける」

 神田はブロックはせず、ライフを選択した。

 バーストを注意したのも理由の一端であるが、序盤のライフの一つくらいは問題ないと神田は考える。それに使用可能なコアも増加するのだから悪いことだけではない。

 シキツルのクチバシがバリアを震わせた。

 

<神田>

ライフ:5→4

 

 デスサイズに目をやり、一縷はほんのわずかだけ微笑む。

「エンド」

 そして不気味な笑みを貼り付けてターンを神田に受け渡した。

 

第5ターン

<神田>

リザーブ:5 手札:6 ライフ:4

くノ一ジョロウ(Lv1)

 

「さて、どうするか……」

 神田は声に出して思案を始めた。

 相手がトラッシュを肥やしているのは間違いない。カードをトラッシュ送りにする以外の目的でデスサイズを採用するとは考えにくい。紫にはリアニメイト効果を持つカードが多いため、トラッシュもある意味もう一つのデッキとして見ることができる。

「メインステップ、新しいスピリットでも使おうか。猪人ボアボアをLv2で召喚」

 神田のフィールドに甲冑を纏った人型のイノシシが現れる。鎖の両端が鉄球となったハンマーに類する武器を携えている。その鉄球にはトゲがついており、スピリット自体の見た目も含め、なかなかに恐ろしい容貌である。

「アタックステップ。行け、ボアボア」

 ボアボアは鎖の半ばを掴むと、頭上でハンマーを振り回し始めた。カウボーイのようなその動きから、鉄球を投擲した。

「アタック時効果。このスピリットのLvを1つ上のものとして扱いLv2にからLv3に。それに伴いBPも4000から8000に上昇」

 その効果に次いで緑のシンボルを条件とする連鎖(ラッシュ)が発揮され、ボアボアにボイドからコアが追加された。

「さあ、どうする」

 神田の問いに一縷は手札を一瞥するも、ライフで受けると宣言した。

 ボアボアの投げた鉄球が展開されたバリアをしたたかに打ち付けて、その衝撃で一縷の舞台が揺れる。そしてライフが一つ砕かれる甲高い音。

「くぅ……」

 一縷は胸を押さえ痛みに耐えるように身体を折り曲げた。

 

<一縷>

ライフ:5→4

 

「でも、この砕かれたライフが新たな力になる」

 彼女は顔を歪めながらもしっかりとした口調でそう言って、バーストをオープンした。

「ライフ減少時バーストか」

 神田は予測が外れたかと呟く。彼のバーストの知識はまだ乏しく、それの精度はまだまだであった。

「バースト、ラウンドテーブルナイツ。円卓の騎士の名の下に甦れ、魔界七将ベルドゴール!」

 前触れもなく、ボアボアの影より出現するベルドゴール。その存在に気づくよりも前に、ボアボアはベルドゴールの強靱な左腕の爪に切り裂かれ破壊された。

「召喚時効果、疲労状態のコスト4以下の相手のスピリット1体を破壊する。よってボアボアを破壊」

「……エンドだ」

 自分のターンでありながらフィールドをコントロールされてしまい、神田は悔しく感じながらもそれは無表情の仮面に隠しエンドを宣言した。

 

第6ターン

<一縷>

リザーブ:5 手札:6 ライフ:4

シキツル(Lv1)

魔界七将ベルドゴール(Lv1)

魔剣デスサイズ(Lv1)

 

「死を司る剣刃(つるぎ)の使い手をここに、死神剣聖ダークネス・メア召喚。Lvは2」

 動けない神田とは対照に、一縷はうまくデッキが回っているようで、一足先に大型スピリットを召喚した。

 黄金の装飾がなされた黒いローブを纏う影が、彼女のフィールドに現れる。深く被ったフードの奥底で怪しく光る赤い双眸。骨の手が掴むは金色の鎌。

「そして、合体(ブレイヴ)

 一縷が台の上のカードに手のひらをかざすと、魔剣デスサイズがひとりでに動きだし、ダークネス・メアに重なった。

 フィールドではダークネス・メアの鎌が消え、彼が手を伸ばすとデスサイズがその手のひらに収まった。

「アタックステップ、シキツルアタック」

 羽ばたき、飛び上がるシキツルに対し、神田の「ジョロウ、ブロックだ」の声にくノ一ジョロウが屈伸運動の要領で跳躍し、いくつものクナイをシキツルに投げつけた。シキツルは巧みな飛行でそれを交わしたが、回避されるのを見越してジョロウが仕掛けていた蜘蛛の捕まり、地面に落下し爆発する。

 スピリットを破壊されても一切動じず、一縷はアタックを継続する。

「ダークネス・メア、アタック。ここでアタック時効果発動」

 ダークネス・メアが魔剣デスサイズを持っていない手のひらを真横に伸ばす。すると手のひらの真下の地面が黒く染まり、その中から先ほど破壊されたはずのシキツルか現れた。

「なんだと!?」

 神田の驚きの声に一縷は静かでありながら楽しげに返す。

「ダークネス・メアは、死をも塗り替える。そしてこれがメインのアタック」

 ダークネス・メアの姿が消え、直後神田の眼前に出現する。魔剣デスサイズを振りかぶり神田のライフを狙う寸前で、彼はマッハジーを神速召喚しライフを奪われるのを阻止した。

 しかしまだ一縷にはアタックができるスピリットが2体も残っていた。

「マズいな……」

 神田はそう小さく口にして、甦ったシキツルのアタックをライフで受け、ライフを一つ減らした。

 

<神田>

ライフ:4→3

 

「今はこれでおしまい」

 一縷はベルドゴールを残しターンを終わらせた。

 

 

 * * *

 

 

「あの娘、強いわね」

 神田がシキツルをブロックしたのは神速召喚できるマッハジーが手札にある上での行動であったと深月は読むが、神田の考えをあの一縷と名乗った少女は逆手に取ったようだった。

「相手の頭数を減らそうとブロックしたのに、結局スピリットの数は変わらなかったわけか」

 一縷が圧倒的優勢であるのは言うまでもない。

「さて、アンタはこっからどう立て直すのかな」

 深月は楽しげに呟いた。

 

 

 * * *

 

 

第7ターン

<神田>

リザーブ:8 手札:5 ライフ:3

くノ一ジョロウ(Lv1)

 

 神田はこのターン剣王獣ビャク・ガロウをLv2で召喚するだけにとどまり受けの姿勢を取った。

 

第8ターン

<一縷>

リザーブ:4 手札:6 ライフ:4

 

「メインステップ、ダークネス・メアをLv3にアップ。そしてマジック、デッドリィバランスを使用。さあ、スピリット1体を指定して」

 一縷がマジック使用を宣言すると、フィールドの真ん中に巨大な天秤が出現した。

「いちるはシキツルを捧げる」

 彼女がスピリットを指定すると、選択されたシキツルが一方の皿に、他方の皿に神田が選んだくノ一ジョロウが乗った。

 先ほどまで揺れていた天秤が徐々に安定し、振れ幅が小さくなりやがて止まった。そして2体のスピリットは紫色の炎に焼かれ天秤と共に消滅した。

「それでまたそいつの効果で甦らせるって寸法か」

 神田は一縷のやろうとしていることを察して溜息をつく。今の彼は彼女の猛攻をしのぐのがやっとであり、それに拍車をかけているダークネス・メアを早めに破壊してしまいたいと考えていた。

「アタックステップ、ダークネス・メアでアタック」

 魔剣デスサイズと合体したダークネス・メアがふわりと浮かび、宙を駆け抜ける。アタック時効果によりシキツルがトラッシュから復活した。

「ビャク・ガロウでブロックする」

 ダークネス・メアは魔剣デスサイズと合体しておりBPは11000。対するビャク・ガロウのBPは9000。BPの上では前者が上回っていた。

 ダークネス・メアの振りかぶった魔剣と、ビャク・ガロウの刀が交錯する。

 両者の激しいつばぜり合いが続く。奇妙な形の剣の攻撃にビャク・ガロウは押され気味で、挙げ句口の刀を吹き飛ばされてしまう。

 尻尾の刀で応戦するが、唐突にビャク・ガロウの動きが鈍くなった。どうやらダークネス・メアが生み出した真っ黒な影がビャク・ガロウの挙動を阻害しているようだった。身動きのとれないビャク・ガロウにダークネス・メアが魔剣を突き立てようとする。

「フラッシュタイミング、ブリーズライド。ビャク・ガロウのBPをプラス3000する。よってBPは12000になる」

 魔剣がビャク・ガロウの頭を貫く寸前、強風が吹き込んで、遠くに転がっていたビャク・ガロウの刀がそれに伴って弾かれるように飛んできて、ダークネス・メアの黒いローブを切り裂いた。その隙をついてビャク・ガロウが起き上がり身体を左回りに回転させ、遠心力で重みを増した尻尾の刀の群れがダークネス・メアを引き裂いた。

 闇に溶け込むように薄れていきダークネス・メアは破壊され、魔剣デスサイズだけがフィールドに残された。

 

第9ターン

<神田>

リザーブ:7 手札:4 ライフ:3

剣王獣ビャク・ガロウ(Lv2)

 

「メインステップ、ミツジャラシ召喚。効果でコアを追加しLv2にアップする」

 可愛らしいハチが現れ、神田にコアの恵みをもたらす。

「ミツジャラシをLvダウン。続けて……飛来せよ、プテラノストーン」

 神田が召喚したのは、深月のカードストレージで眠っていた赤のブレイヴカード。それはほとんど採用されることのないカードであり、そんなカードが出てくると想像できた観客はいないだろう。そのカードが神田のデッキに入っていることを知っているのは、彼と深月しかいない。バトルフィールド外では、深月がひとりでに笑っていた。

「なんだよ、どんなカードか分かんねえって顔だな。ま、日の目を見ないカードらしいからその反応も納得だけど」

 神田は自嘲するように笑う。

「プテラノストーン、召喚時効果。BP3000以下のスピリット2体を破壊する」

 空から迫る巨大な影。それは大きな翼を持つ翼竜であった。石の身体でプテラノストーンは一縷のフィールド上空を旋回、狙いを定めると急降下し、その規格外の翼でベルドゴールとデスサイズをなぎ払っていった。

「くう……」

 破壊により生じた爆風に一縷がよろめく。フィールドに残されたシキツルはプテラノストーンの特攻に慌てたのか翼をばたつかせていた。

「アタックステップ。突っ込めプテラノストーン!」

 神田側のフィールドから、再度プテラノストーンが飛び立つ。

 突撃するしか攻撃の術を持たない彼はただ愚直に一縷に向かって飛行する。

 その姿に一縷は(おのの)いたのか、ライフが4つあるにもかかわらずシキツルをブロックにあてた。

 高速で飛来する石の塊に、骨のツルはなにも反撃が出来ぬままそれの直撃を食らい、そのまま外縁まで押し込まれ岩の壁に衝突して破壊された。

「まだだ! ミツジャラシ行け!」

 つんざく羽音を響かせミツジャラシが飛び立つ。そのお腹の針が一縷のライフを奪おうとするその瞬間、一縷の舞台を真っ黒なベールが包んだ。そして繭のように丸くなる。

「な、なんだ?」

 神田もミツジャラシも驚きその身をすくませた。

 そのベールの中から一縷の声が届く。

「フラッシュタイミング……スケープゴート」

 その声の直後、獣の慟哭にも似た咆吼がフィールドを振動させた。

「骸の王、愚かなる者に断罪を。黒き骸王バルトアンデルス回生! Lvは2」

 巨大な繭が内側から裂け、異形の獣の三つ首と、尾のオロチが覗く。そして黒く鋭い翼を広げバルトアンデルスが姿を現した。

 一縷を守護するように彼女のいる舞台の横に立ち、三つの頭が首をもたげミツジャラシを見つめ、そして飛びかかった。

 唐突な出来事に反応する暇もなくミツジャラシは捕まり、鋭利な牙に咬みちぎられた。

「スケープゴートで召喚したスピリットはそのバトル終了時破壊される。けど、まだ終わらない」

 バルトアンデルスはフィールドを突っ切り、神田の舞台に飛びかかった。

「なん……!?」

 その行動に半歩退いた神田だったが、彼が奪われたのはライフではなく手札であった。彼の手から1枚のカードが離れ、トラッシュへと移動する。

「バルトアンデルスの破壊時効果は、相手の手札を破棄しそれがスピリットカードなら回復状態でフィールドに残る、という効果。破棄されたカードは、軍師鳥ショカツリョー。よってバルトアンデルスはこの場にとどまる」

「最悪だぜ……エンドステップ時、トラッシュのブリーズライドは手札に戻る」

 またしても自分のターンでありながら攻めきることができなかった。フィールドコントロールの高さでは、一縷には勝てないと神田は悟った。しかし、当然のことであるが彼は負けるつもりなどはなかった。

 

第10ターン

<一縷>

リザーブ:7 手札:6 ライフ:4

黒き骸王バルトアンデルス(Lv2)

 

「メインステップ。ストロゥ・パペット並びにシュテン・ドーガを召喚」

 一縷は続けざまに2体のスピリットを呼び出した。わら人形と、両腕に枷と鎖のついた鬼。

「シュテン・ドーガ召喚時効果、トラッシュの系統:魔影を持つコスト3以下のスピリットをノーコスト召喚。三度(みたび)甦れ、シキツル」

 再三に渡ってシキツルがフィールドに復活する。こころなしかシキツルもうなだれていてだいぶ疲れていそうだった。

「骸王の軍勢は死をも恐れない。アタックステップ、シュテン・ドーガでアタック!」

 重そうな剣を構え走り出すシュテン・ドーガ。

 そのアタックに神田は1枚の手札を切った。

「フラッシュタイミング、サンダーウォールを使用。そのアタックはライフで受ける」

 彼が使ったのは、先日見たバトルで勝利を収めた少女が使った防護マジックだった。彼の少女と一言一句違わず、神田はマジックの使用を宣言した。

 あの時のように雷雲が出現し、神田の舞台を取り囲んだ。

 彼はシュテン・ドーガの剣による一撃をライフで受け、マジックの要件を満たす。

 

<神田>

ライフ:3→2

 

「サンダーウォールの効果、バトル終了時、自分のライフが2個以下ならアタックステップを終了する。俺のライフは残り2、残念だったな攻めきれなくて」

 神田は挑発するような言葉を吐いて、一縷のターンを強制終了させた。

「ターン、エンド……」

 悔しさを顔ににじませて、一縷はターン終了を宣言した。

 

第11ターン

<神田>

リザーブ:12 手札:2 ライフ:2

剣王獣ビャク・ガロウ(Lv1)

プテラノストーン(Lv1)

 

「ドローステップ……ははっ」

 不意に神田は吹き出した。引いたカードはハンドリバース。

 今までの引きの悪さは、この瞬間を引き立てるためなのではと思うくらいの、神引きだと神田は思った。

「メインステップ。マジック、ハンドリバース! 手札を全て破棄し、相手の手札と同じ枚数になるようにドローする」

 神田の手札が0枚から一気に5枚にまで増大する。それを一縷は面白くなさそうな表情で見遣っていた。

「俺の運がようやくめぐってきたらしいな。続けて、翡翠の小太刀 日輪丸を召喚!」

 空から落ちてきて大地に突き刺さる翡翠色の剣。それに応じてビャク・ガロウが吠え猛る。

「そうか、お前も待ってのか。待たせて悪かったな。翡翠の小太刀 日輪丸を剣王獣ビャク・ガロウに合体! 更にLv2にアップ!」

 ビャク・ガロウが日輪丸をくわえると、前回と同じように青の装束が翡翠色に染まる。

「アタックステップ、行けビャク・ガロウ! 日輪丸との合体によりBPは12000だ」

 大地を蹴り上げ疾走するビャク・ガロウ。日輪丸の切っ先を地面にかすらせながら愛との陣営に乗り込んだ。

「そっちにフラッシュがないならこっちからいかせてもらう。フラッシュタイミング、タフネスリカバリーを使用する」

 タフネスリカバリーの効果はスピリットのBPを+2000し、その後そのスピリットのBPが10000以上の時、回復させる効果である。

 駆けるビャク・ガロウにエメラルドの恵みが与えられ、全身が新緑色に輝いた。

「バルトアンデルス、阻め!」

 語気を強め、一縷がビャク・ガロウのアタックをブロックした。

「その瞬間、ビャク・ガロウの暴風の効果発動だ。スピリット2体を疲労させてもらうぜ」

 刀と牙が火花を散らす。その戦いの奥で待機していたストロゥ・パペットとシキツルが立っていられないほどの強風に巻き込まれ膝をつく。

「BPではこっちが上だ、どうする?」

 神田の問いかけに一縷は負けじと反論する。

「骸王は何度でも甦る。何回だって立ちふさがる!」

 彼女の声に応えるようにバルトアンデルスが吠え、鋭敏な動作でビャク・ガロウに応戦する。しかし、ビャク・ガロウの巻き起こす竜巻に身体を吹き上げられ、バランスを崩した刹那、日輪丸の一閃が走る。

 頭から尻尾までを、真横から切り裂かれたバルトアンデルスの身体は発光し爆発する。

「く……、まだ負けない! バルトアンデルスの破壊時効果、相手の手札を1枚破棄する!」

 爆風の中からバルトアンデルスの尻尾のオロチが驚異的な速度で伸び、神田の手札から1枚を無作為に奪い取った。

「破棄されたのはマッハジー。スピリットなのでバルトアンデルスは再びここに復活する!」

 煙がかき消えると、そこには無傷のバルトアンデルスがしっかりと四足で立っていた。

「死なないなら、闘うだけ無駄ってことか。もう一度行くぞ、ビャク・ガロウ!」

 回復状態であったビャク・ガロウは再度アタックする。

 そこで一縷がフラッシュを宣言した。

「フラッシュタイミング、トーテンタンツを使う。手札の魔剣デスサイズを破棄して、相手のスピリットのコア2個をリザーブに。不足コスト確保のためにストロゥ・パペットのコアも使う!」

 ストロゥ・パペットが姿を消し剣王獣ビャク・ガロウのコア一つと、プテラノストーンのコア一つがリザーブに送られる。コアの数がLv1コスト以下になりプテラノストーンは消滅する。

「これでいちるを倒すことはできない」

 一縷が神田の攻める手段を潰したと愉快そうに笑う。それに対して、なぜか神田も笑ってみせた。

「ま、普通ライフが4つあって壁になるスピリットがいたらそう思うよな」

 神田はテレビで見たあのバトルを思い出していた。圧倒的不利の状況から彼の少女は見事な逆転を成し遂げたのだ。もしかするとあれは少女の思惑どおりの展開であった可能性もあるんじゃないかと、今更になって思う神田であったが、だとしてもあの場面では少女は負ける寸前に見えたのだ。

「一縷……だったな。お前の運の尽きはバルトアンデルスの破壊時効果でマッハジーを破棄したことだ」

「……どういう意味?」

「すぐにでも分かる。フラッシュタイミング、ジュラシックフレイムを使うぜ」

 神田が使ったのは、赤のマジック。炎の弾丸がシキツルを焼き尽くし、続けて炎をはらんだ風が吹き、バルトアンデルスが姿勢を崩した。

「BP3000以下のスピリット1体を破壊。その後、連鎖でスピリット1体を疲労させる効果だ」

「バルトアンデルスが!? で、でもその合体スピリットのアタックで減らせるライフは二つ」

 力なく膝をつくバルトアンデルスの真横をビャク・ガロウがトップスピードで走り抜ける。

「昔から、フラッシュだけは強いんだ。フラッシュタイミング、二枚目のタフネスリカバリーを使用する。コアはビャク・ガロウから」

 神田は最後の手札を切ってビャク・ガロウを再度回復させる。彼が一縷に運の尽きといったのは、この手札故のことであった。

 ジュラシックフレイム、タフネスリカバリーのいずれかが破棄されていたら神田に勝ち目はなかったのだ。

「う、そ……くう、ライフで受ける!」

 一縷は手札を取り落とし、膝をついた。

 そして彼女の舞台に展開したバリアに、ビャク・ガロウが尻尾を振り回し投げた数々の刀剣が突き刺さりライフを削る。

 

<一縷>

ライフ:4→2

 

「決めろビャク・ガロウッ!」

「それも、ライフで受ける!」

 一縷を振り返り、無理矢理身体を起こそうとするバルトアンデルスにビャク・ガロウは一瞥をくれて、日輪丸の一太刀で一縷のライフを砕いた。

 

<一縷>

ライフ:2→0

 

 ライフ破壊の衝撃を、手すりに掴まり耐えた一縷であったが、バトルが終わると台にうなだれかかった。

 

 

 * * *

 

 

「ありがとう、ございました」

 一縷は真っ先に神田の元に来ると、頭を下げた。

「んー、お疲れさん」

 彼女の頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でて、神田は疲れたと言って後方に倒れ込んだ。

「おじいさん、勝利おめでとう」

 そして彼を見下ろす深月。

「この年齢になるともう老化の一途たどるだけだな」

「なにを言ってる二十代」

 深月に頭頂部をつま先で蹴られ、神田は半身を起こした。そこで一縷と目が合った。

「どうかしたか?」

「なんでもない……けど」

 逆接の接続詞を口にしながらそこで言葉を切る一縷。

「けど、なんだよ。まあ別になんでもいいけどさ」

 神田が立ち上がってなんとなくレジに向かう。その背後をついて行く一縷。

 それから神田が店長と二言三言交わす間もなにも言わずに後ろに立っていた。

「懐かれたんじゃない?」とやってきた深月が言う。

「冗談はよせ、なあ? ちょっとレジに用事があったんだよな?」

 神田が一縷に話を振ると一縷はぽけーっとした顔で神田を見上げるだけ。

「バトルんときとキャラちが……ん?」

 そんなことを神田が言おうとしたとき、彼の袖が強く引っ張られた。

 そちらを見ると、いつも深月といる少年が神田の服を引いているようだった。

「どうした?」

「にいちゃん……いや、神田俊道、オレとバトルしろ!」

 少年は自分のデッキを神田に突きつけて、強い口調でそう宣戦布告した。




一週間で次の話を投稿するぞー!
→無理でした。

そんなわけで第二話でした。

相手のデッキは友人のデッキをモデルにしました。ありがとう友人。
まあデッキ内容は、バルトアンデルスとトーテンタンツ以外別物ですが。

次はモブ小学生かと思ったら、実はちゃんとした登場人物だった少年とのバトルの予定です。

最後に、誤字脱字、カード効果のミスなどありましたらコメントをいただけたらなと思います。もちろん感想も待っております。
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