バトルスピリッツ アナクロニズム   作:にしはる

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03 天地鳴動

神田(かんだ)俊道(としみち)、オレとバトルしろ!」

 少年による唐突な宣戦布告に神田は「は?」と面倒臭そうな表情をした。

 デッキを前に突き出す少年に神田は向き直って、彼の顔を見る。真剣な表情。冗談のような顔色は一切ない。

「いきなりなんだ? 俺は一縷(いちる)とのバトルで疲労困憊(こんぱい)だから連チャンは勘弁して欲しいんだが。で、どういう風の吹きまわしだ?」

 神田と少年の繋がりは薄い。お互いに崎間(さきま)深月(みつき)の知り合い程度の認識しかないはずである。

 しかし今この瞬間を切り取ると少年が神田に対して敵意をむき出しにしていることが分かる。神田からすれば、何故敵意を向けられているか分からない状況であった。

 すると少年は深月を指差す。

「ねえちゃんがから聞いたぞ! 神田はねえちゃんのカレシでもないのに家に入り浸ってるって!」

「……確かに入り浸ってるが、それがどうした」

「そういうの不純異性交遊っていうんだ!」

 ビシィ! と神田を指差して少年はそう言い切った。

 それに対して神田は一度目を彼方にやって、とても面倒だなあと心の中で溜息をつく。

「あー、そう。で、君はなにがしたいんだ? えーと、名前なんだっけ。よしぞうだっけ?」

「全然ちげーし! オレは灰島(はいじま)卓郎(たくろう)だ! 覚えとけ」

 神田の問いに対しての回答は先送りにし、少年こと卓郎はなかなか渋いフルネームを名乗った。

「それでオレは神田とバトルしたい。いや、する。オレが、お前を倒す!」

 やる気は非常に伝わる。しかし要領は全く得ない返答。神田は深月を仰ぐが、彼女もなにがなにやら、と手のひらを返して首を振る。

 卓郎が妙に張り切っているのは深月が発したなにかしらの言葉であるのは間違いない。彼女があまり意識せず言った言葉がどうやら卓郎のスイッチを押したらしく、今に至る。

 現状をはっきりと理解している人物は誰もいない……と思いきや、不意に一縷(いちる)が口を開いた。

「あの子は、多分、嫉妬してる」

「ん? 嫉妬ってなにに……」

 彼女の言葉に神田は疑問を呈する直前、卓郎がなにに嫉妬しているのかを悟った。そして意地の悪い笑みを浮かべる。

「な、なんだよ……ニヤニヤして」

 その笑顔に卓郎が少し腰を引く。なにか嫌なものを感じ取ったようだ。

「いや、うん。お前崎間のこと好きなんだろ? そうかそうか、なるほどね。お前はあいつのことが好きで好きでたまらなかったわけか。それでいつも崎間と一緒にいたってことだろ? そんな時に俺が崎間とショップに現れて楽しげに会話してるのを見たり、おそらく崎間があんまり考えずに話した俺があいつの家に出入りしてるって話を聞いたりして嫉妬心を燃やしていたわけだ。違うか?」

「か、かか……神田ァ! 別に今言わなくてもよかっただろ!? こんな人の多いとこで!」

 図星だったのか、卓郎の顔が真っ赤になる。彼の血液がみな顔に集中しているのかもしれない。

「ふむ……。ま、それは悪かった。で、お前は俺とバトルしてなにがしたいんだ? というより、バトルしたあとでなにを求めてる?」

「な、なにって……」

 少し戸惑う卓郎に神田が笑いを堪えつつ攻めるように言葉を綴る。

「ほら、たとえば崎間の貞そ――ぐッ」

「はいちょっと黙ろうねー」

 触れてはならない話題にさしかかったその瞬間、深月が神田の首根っこを引っ掴み黙らせた。

 そしてそのままずるずると引きずり、一縷や卓郎が見守る中、神田の首に腕を回し、首締めの姿勢。表情筋の動きは笑顔を示しているが、目は全く笑っていなかった。

「てめーはなにを言おうとしたのよ?」

「あれでも言葉を選んだつもりだ」

「言おうとしたことに変わりはないよね?」

「まあな」

 あっけらかんと認めた神田に、深月は彼から離れると額に手をあてて首を振った。やれやれ、と体現している。

「で、俺は少年の嫉妬心によるバトルを受けなきゃならんわけ? つか、バトルだけならまあ受けてもいいんだけど、それに付随するものがなんか面倒そうだし」

 首を回し、けだるげに神田が言う。

 深月も「うむむ」と唸って、どう丸く収めるべきかと首を捻った。

 考えること数十秒。深月がゆっくり頭を上げる。

「後腐れなければいいんだけど、そういう解決法は思いつかなかないね。でも勝った方になにか特典でもあればいいんじゃない?」

「全っ然解決に繋がってないんだけど?」

「まあ、全体的にごまかせればいいかなあと」

「そうか、なるほどね。たとえばあれか、勝ったやつの言うことをなんでも聞くとかそういうのか、崎間が」

「そうそう……っておい! 最後の一言なによ!?」

 崎間の華麗なノリ突っ込みを避けて神田が卓郎に対峙した。

「聞け、俺とバトルしてお前が勝てばあの崎間おねーさんがなんでも言うこと聞いてくれるってよ。もちろんエロいことも可だ。だが、お前が負けたらあいつは……あとは言わなくても分かるよな?」

「か、神田ぁ……許さねえぞ! ねえちゃんに手ぇ出してみろ、オレがマジで許さねえ!!」

「ははは! おらかかってこい!!」

 二人して睨み合ったまま、バトルフィールドの転送台まで歩いて行く。

「あのバカクズ野郎……なんて話してんのよ」

 深月は痛い頭を抱えることしか出来なかった。

 彼女をよそに、バトルは始まる。

「ゲートオープン界放!」

 

 

 * * *

 

 

「じゃあ俺から行くぜ。スタートステップ」

 神田が先攻を取り、ステップを進める。

 

第1ターン

<神田>

リザーブ:4 手札:5 ライフ:5

 

「メインステップ、猪人ボアボアを召喚。これでエンドだ」

 神田は見た目のいかつい猪の戦士をフィールドに呼び出した。今さっき終えたばかりの一縷とのバトルで使用したスピリットだ。先ほどは活躍することもなくすぐに除去されてしまったが、今回は先鋒を務めることになった。

「行くぜオレのターン!」

 気合十分でターンを宣言し、卓郎のターンになる。

 

第2ターン

<卓郎>

リザーブ:5 手札:5 ライフ:5

 

「メインステップ。オレは彷徨う天空寺院を配置するぜ。これで終わりだ!」

 卓郎がネクサスを配置すると、彼の背後に龍をかたどった空中要塞のような巨大な岩が現れる。それは岩というより、島と呼んだ方が適切かもしれない。そしてその上にはいくつもの尖った柱のようなものがそびえ立っていた。

「へえ、ネクサスはそんな感じで置かれるわけね」

 神田がそんな感想を口にして、両者ともそれぞれ一回目のターンを終えた。

 

 続く第3ターン、神田はマッハジーをレベル2で召喚。猪人ボアボアの連鎖(ラッシュ)でコアを増やしつつ卓郎のライフを一つ削った。

 

第4ターン

<卓郎>

リザーブ:7 手札:5 ライフ:4

彷徨う天空寺院(Lv1)

 

「行くぜ、小さき竜が呼び覚ますは破滅をもたらす破壊の龍、プロフェット・ドラゴン召喚!」

 卓郎のフィールドに先に水晶のついた杖を持った、魔術師のようなドラゴンが現れる。

「召喚時効果、手札のコスト8以上のスピリットカードをオープンして手元に置くことで、オープンしたカード1枚につき1枚ドローする。オープンするのは滅龍帝ジエンド・ドラゴニスと幻羅星龍ガイ・アスラだ」

 彼が2枚のカードを手元で公開すると、背後にある彷徨う天空寺院に二つの巨大な影が降り立った。姿はぼやけ明確には見えないが、プロフェット・ドラゴンが呼んだスピリットであることには間違いがないだろう。

「さらにソウエン・ドラグーンを召喚。レベルは2」

 深月が使ったカグツチドラグーンと非常によく似たスピリットが召喚される。大きな違いは体色が赤ではなく蒼に変わっていることだ。

「アタックステップ、ソウエン・ドラグーンでアタック」

 卓郎の指示によりソウエン・ドラグーンが翼を広げ、フィールドを滑空する。

「来いよ、ライフだ」

 空中でとどまっているマッハジーを風圧で吹き飛ばし、神田のいる舞台にそのまま飛びかかるようにして、バリアを揺らしライフを砕いた。

 

<神田>

ライフ:5→4

 

「終わりだ」

 卓郎はエンドをしたが、神田は自分のターンを始めずに彼に質問を投げた。

「お前は、崎間をどうしたいんだ? 勝ったらなんでも言うこと聞いてくれるわけだが」

「んなこと言えるか!」

 神田が訊いた途端、焦ったように目を背ける。それとなく顔が赤くなっていた。

「いやいや、君がなにを想像してるか知らないが、そーゆーことばっか考えてんのか、ん? 別にそーゆーやつじゃなくてもいいんだよ。ほら、えーと……マ・グーよこせとか」

「んなことしねえっての。ったく、さっさとターン進めろよ」

「口の悪いやつだな」

 俺が言えたことじゃないな、と心で自重しながら自嘲しつつ、神田はターンを始めた。

 

第5ターン

<神田>

リザーブ:3 手札:5 ライフ:4

猪人ボアボア(Lv1)

マッハジー(Lv2)

 

「さて、どうするか……」

 神田は眉にシワを寄せた。

 フィールドの展開力は神田より卓郎の方が圧倒的だ。ネクサスやスピリットの効果を考慮すれば次の彼のターンで、手元に置かれたスピリットのどちらかは召喚してくるだろう。しかし、ネクサスとスピリットの効果が分からない彼は、考えるだけ無駄と思いフィールドを整えることを優先した。

「コノハガニンを召喚。ボアボアをレベル2にして、アタックステップに入る」

 彼が召喚したの奇妙な見た目のスピリット状態のブレイヴ。カニ、という名を冠しながらもハサミは持っておらず、触手に似た手をしている。額の青い飾りに反して、真っ赤な目をしている。

 神田はボアボアでのアタックを宣言した。ボアボアは自らの効果でレベル3となり、さらに連鎖でコアを増やす。

 鉄球を引きずりながら走り、ボアボアがプロフェット・ドラゴンのすぐ近くで鉄球を頭の上で回し始めた。

 徐々に加速し残像のように見える鉄球が卓郎に向かって放たれた。

「ライフで受ける!」

 彼は舞台のサイドバーを強く掴み、目をぎゅっとつぶった。そこに衝撃。吹き飛ばされるほどではないにしても、大きな衝撃が彼を襲った。

 

<卓郎>

ライフ:4→3

 

「くう……やってくれんじゃん」

 にやりと口角を上げる卓郎。

「エンド」

 彼とは対照的に神田は特別、感情は見せずエンド。

 

第6ターン

<卓郎>

リザーブ:5 手札:4+2 ライフ:3

プロフェット・ドラゴン(Lv1)

ソウエン・ドラグーン(Lv2)

 

「ソウエン・ドラグーンをレベル1にダウン。見てろ、オレの切り札を見せてやる」

 卓郎が手元のカードを手にする。

「全てを滅せよ、終焉の名を司る龍、滅龍帝ジエンド・ドラゴニス、召喚!!」

 彼の背後に浮遊する天空寺院から、一つの影が飛び立つ。大きな翼を羽撃(はばた)かせ、対となる金色(こんじき)の角を持つ黒い龍がフィールドに降臨した。

「召喚するときに、彷徨う天空寺院の効果を使用したので払うコストは3。そしてジエンド・ドラゴニスのレベルは2だ」

「コスト9がたったのコスト3だと?」

 神田も困惑の表情になる。

 

 

 * * *

 

 

「バトルの途中だけど大事な話なのでワタシ、崎間深月が懇切丁寧に解説するわ。フィールドの状況はこうね」

 

ソウエン・ドラグーン(Lv1)

プロフェット・ドラゴン(Lv1)

彷徨う天空寺院(Lv1)

 

「卓郎のフィールドには以上のカードが存在していたわ。それぞれのシンボルの数は上から1、1、2ね。まだコスト9のジエンド・ドラゴニスを召喚するにはコアを5つ払う必要がある。維持コストも考えれば6つになるね」

 

「次はそれぞれの効果を見てみる。プロフェット・ドラゴンは召喚時のみだから割愛」

 

「まずはソウエン・ドラグーン。このカードは……」

 

『自分のメインステップ』

自分の手札にある系統:「滅龍」を持つコスト9以上のスピリットカードを召喚するとき、このスピリットを疲労させることで、そのコストを-2する。

 

「……という効果。今回の場合、ジエンド・ドラゴニスは手札からの召喚ではないから効果はソウエン・ドラグーンの効果は受けられないけど、説明したいことがあるからここでは便宜的にジエンド・ドラゴニスは手札から召喚したものとして扱う。次は彷徨う天空寺院ね。こっちは……」

 

自分がコスト8以上のスピリットカードを召喚するとき、

このネクサスを疲労させることで、自分のリザーブから2コストまでを支払ったものとして扱う。

この効果はターンに1回しか使えない。

 

「……という効果。いずれも大型スピリットの召喚サポートができるカードね」

 

「卓郎は彷徨う天空寺院の効果のみを使用してジエンド・ドラゴニスを召喚したけど、これから説明するのはソウエン・ドラグーンのコストを下げる効果と彷徨う天空寺院のコストを参照する効果が共存できるかについて説明するわ」

 

「たとえば、ソウエン・ドラグーンの効果でジエンド・ドラゴニスのコストを下げると、彷徨う天空寺院の効果を受けられなくなるように思えるけど、そんなことはないの」

 

「なんらかのカードの効果でコストに変更があったとしても、コストを参照する効果全てはカードそのものにかかれたコストを確認するわけ。ワケわかんないって顔してるけど、その反応も当然かもね。今回の」

 

「ジエンド・ドラゴニスの本来のコストは9。そこにソウエン・ドラグーンの効果が影響してコストが7となる」

 

ジエンドのコスト(9)-ソウエンの効果(2)=ジエンドのコスト(7)

 

「ここに天空寺院の効果が影響する。さっき説明したように、コストを参照する効果はカードに書かれているコストを確認するので、コスト7となったジエンド・ドラゴニスでも、確認されるのはカードに書かれたコストの9」

 

ジエンドのコスト(7)-天空寺院の効果(2)=ジエンドのコスト(5)

 

「こうしてジエンド・ドラゴニスのコストは5まで下がった。ここで軽減シンボルが適応される」

 

ジエンドのコスト(5)-フィールドのシンボル(4)=ジエンドのコスト(1)

 

「と、なるわけね。……まだ分からないって顔ね。でもこれが公式のちゃんとした裁定だから覚えてくことをおすすめするわ」

 

公式サイトより

 

Q59.「BS17-062彷徨う天空寺院」や「BS22-072アトライア海帝国」など「スピリットカードを召喚するとき」にそのカードのコストを条件としている効果は、すでにコスト変更の効果がかかっていた場合、そのときのコストを確認するの?

A59.いいえ、違います。カードに書かれているコストを確認します。

 

ここまで

 

「というわけね。これで納得かしら。ほかにも、偽りの地下帝国(Lv2)で虚皇帝ネザード・バァラルのコストを6に出来なかったり、アトライア海帝国(Lv2)があるとき、バーストをセットしていない状態で虚皇帝ネザード・バァラルを召喚しようとすると召喚に必要なコストが膨大になったり、いろいろ知っておくと便利なことがあるわ」

 

ネザバ、バーストなしコスト(11)+アトライア効果(3)=ネザバ、バーストなしコスト(14)

 

「説明はこれでおしまい。実際のバトルとは少し内容がずれた説明だけど、覚えておいて損はないわ。では、バトルの続きをどうぞ」

 

 

 * * *

 

 

「サンキューナレーター」

 ぼそりと神田は口にする。

「なんか言ったか?」

「いや、なんでも」

 卓郎が聞き返すが、彼は気にすんなと首を振る。

「じゃあ、改めていくぜ。ジエンド・ドラゴニスでアタック」

 巨躯がそれに見合うサイズの翼によって浮かび上がる。決して飛行速度は速くない。しかしその大きさゆえの圧迫感に神田もスピリット達も圧倒された。

「ここはライフで受ける」

 フィールド固めの途中である彼はまだスピリットを失いたくはなかったため、自らのライフを減らすことを選んだ。

 巨大な(かいな)が二度振り下ろされ、神田の身体がぐらついた。大型スピリットであったせいか、ライフダメージも大きいようだ。

 

<神田>

ライフ:4→2

 

「ライフで受けたか。きいただろジエンドの一撃は」

 卓郎の挑発じみた発言に「バカ言え」と、吐くように言って、神田はスタートステップを迎えた。

 

第7ターン

<神田>

リザーブ:6 手札:5 ライフ:2

猪人ボアボア(Lv2)

マッハジー(Lv1)

コノハガニン(Lv1)

 

「まずはストロングドローを使う。3枚ドローしてその後2枚破棄する」

 神田が元々の手札と、加えた3枚のカードをまとめ、何度も内容を見返す。

「じゃあ……クロタネホークと軍師鳥ショカツリョーを破棄する。続けて、ボアボアをレベルダウン」

 レベルが1から2に下がったボアボアはうなだれるように頭を下げる。

「そして、行くぞ。剣王獣ビャク・ガロウ召喚。レベルは1」

 忽如(こつじょ)、神田を取り巻くように風が渦を巻く。段々と風力が増しついには神田の姿が見えなくなるまでに渦巻いた。それは竜巻と言った方がしっくりくるほどである。

「う、なんだ?」

 卓郎と、彼のスピリット達も風に驚いているようだ。しかし、神田のフィールドのスピリット達はさも当たり前のように強風の中に佇んでいた。まるで来ることが分かっていたかのような落ち着きようであった。

 そして、不意に風はやむ。

「いつからそんな派手好きになったんだよ」

 視界がひらけて、神田の姿が卓郎やバトルフィールドの外の観衆にも見えるようになった。

 竜巻の前と変わらず、彼は舞台に立っている。一つ違うのは舞台のすぐ脇、バトルフィールドの外縁の岩にビャク・ガロウがいることだ。

 神田の少し呆れたような声に、ビャク・ガロウが応えるように吠えてバトルフィールドの乾いた大地に降りた。

 変わらない水色の装束。口には刀、幾本もの尻尾がそれぞれに短刀を持っている。雄々しき姿に神田のスピリット達もなんとなく士気を高めたかのように思えた。

「アタックステップ。まずはボアボアでアタックだ。レベルを一つ上として扱い、さらに連鎖でコアを増加させる」

 地面を踏みしめ、鎧の獣人が卓郎に迫る。

「ブロックはしない!」

「なら一つライフをもらうぜ」

 ボアボアの振りかざした鉄球が、卓郎を保護するバリアに直撃し、彼の舞台が揺れた。

 

<卓郎>

ライフ:3→2

 

「まだ行くぞ、マッハジーでアタック」

 けたたましい羽音を鳴らし、その名に恥じぬスピードで飛ぶマッハジー。

「プロフェット・ドラゴンでブロック!」

 卓郎が叫ぶと、プロフェット・ドラゴンが杖を真横にして突き出して、なにか呪文のようなものを唱え始めた。

 すると彼の杖の水晶がゆっくりと赤みを増していき、最終的に紅蓮のマグマのような太陽にも似た輝きを放ち出した。それをプロフェット・ドラゴンが振るうと、水晶から炎の弾丸がいくとも生まれ、飛来するマッハジーに一直線に向かっていった。弾丸は片手では数え切れない数撃ち出され、マッハジーは回避を余儀なくされた。

 巧みな飛行で迫る炎の弾丸を避け、鋭利な頭の角がプロフェット・ドラゴンを貫くその寸前、プロフェット・ドラゴンの全身がらせん状の火にまかれ、焼失した。

「フラッシュタイミング、ファイアーウォールを使う。プロフェット・ドラゴンを破壊してアタックステップを終了させる」

「終わりだ」

 攻めきるにはほど遠いところでの、アタックステップ強制終了。神田は一瞬だけ目を細めて、エンドをコールした。

 

第8ターン

<卓郎>

リザーブ:6 手札:4+1 ライフ:2

ソウエン・ドラグーン(Lv2)

滅龍帝ジエンド・ドラゴニス(Lv3)

彷徨う天空寺院(Lv1)

 

「まずはバーストをセット。そしてブレイドラをレベル2で召喚」

 バーストゾーンにカードが伏せられ、その後、(つるぎ)の翼を持つ可愛らしいドラゴンが現れる。小さい身体を精一杯大きくして威嚇をしている。

「世界を滅ぼす災厄の星がここに顕現する! 幻羅星龍ガイ・アスラッ!!」

 天空寺院からどこか人に似た影がフィールドに着地する。

 その姿を形容するのは難しい。上半身はそれとなく人に見えるものの、下半身は龍の尻尾や鱗などが窺える。

 ただ一つ言えることがある。それは平凡なスピリットとは次元が違うということ。大きさはジエンド・ドラゴニスと比べるまでもなく小さいというのに、そちらよりも言いしれぬ狂気をはらんでいた。

「アタックステップ、行けええジエンド・ドラゴニス!」

 卓郎の叫びに近い声と共に、黒い龍が青白い炎を牙の端から覗かせる。

「コノハガニン、頼む」

 スピリット状態のブレイヴが巨大なジエンド・ドラゴニスに敵うはずもなく、爆炎に呑まれコノハガニンは破壊されてしまう。

「続けてガイ・アスラでアタック!」

 色の違う(つが)いの翼を広げ、ガイ・アスラが飛翔する。天使と悪魔の翼のような白と黒の翼がうなりを上げている。

「剣王獣ビャク・ガロウでブロック!」

 尻尾の刀を互いに打ち鳴らし、ビャク・ガロウがガイ・アスラを迎え撃つ。

「ジエンド・ドラゴニスの効果。ジエンド・ドラゴニス以外のスピリットがブロックされたことによりこのスピリットは回復する」

 刀と拳が交錯するその後ろで、ゆっくりとジエンド・ドラゴニスが起き上がる。

「さらにフラッシュタイミング、ガイ・アスラの超覚醒を使う! ブレイドラよりコア一つを移動し回復する!」

 卓郎の声でブレイドラのコアがガイ・アスラへと移る。力を得たガイ・アスラはビャク・ガロウの刀を素手で掴み、一方の拳でビャク・ガロウの顔面を真横から殴りつけた。

「ガイ・アスラのアタックは何度だって続くんだ!」

 卓郎の台詞に神田は動じず、不敵に笑う。

「ビャク・ガロウを破壊できれば、だろ? フラッシュタイミング、マジック、ブリーズライドを使用。ビャク・ガロウのBPを+3000だ」

 ガイ・アスラのBPは8000。対するビャク・ガロウのBPはマジックの効果で10000にまで上昇する。

 ぎらついた眼光がガイ・アスラを射貫く。ビャク・ガロウが咆吼すると小ぶりの竜巻が三つ四つと生まれ、ガイ・アスラを取り囲む。ガイ・アスラは太陽と月を模した、赤と青のエネルギーの球体を手のひらに作り出し、それを放ち竜巻を打ち消していく。

「ガイ・アスラ! もう一度超覚醒! ジエンド・ドラゴニスとブレイドラからコアを集めガイ・アスラはレベル3にアップだッ!」

 合計5つのコアがスピリットから移動し、ガイ・アスラはレベルが上がった。コアを奪われたブレイドラは消滅し、ジエンド・ドラゴニスはレベルが2に下がる。ガイ・アスラはレベルが3になったことでBPが13000にまで急上昇した。

「アタックステップでいくらでもレベルアップができるのか……。基本的な性質は覚醒と変わらない、か」

「超覚醒を持つスピリットはデメリットも併せ持つんだ。ガイ・アスラのコアは誰も取り除けない」

 卓郎の簡易的な解説に、神田は眉根をたわませた。

「なるほどね。使うには相応のリスクが伴うわけだ」

 押され気味のビャク・ガロウを見遣って、神田はフラッシュの使用を宣言した。

「マジック、サンダーウォール。すまない、ビャク・ガロウ」

 ビャク・ガロウの頭を鷲掴みにしたガイ・アスラが、右手で発生させた赤いエネルギー弾でビャク・ガロウの腹部を撃った。それは身体を貫通し、ビャク・ガロウ破壊され爆炎の中でガイ・アスラは雄叫びを上げた。

「バトル終了時、ライフが2個以下なのでアタックステップは終了だ」

 悲痛な顔で神田は静かにそう告げる。

「エンド」

 卓郎もそれだけ言って、ターンが神田に移った。

 

第9ターン

<神田>

リザーブ:12 手札:3 ライフ:2

猪人ボアボア(Lv1)

マッハジー(Lv1)

 

 終始、卓郎優勢でバトルは進んでいた。

 神田はキースピリットであるビャク・ガロウを破壊されてしまい、フィールドにいるスピリットはいずれも卓郎のスピリットのBPを超えることは難しい。

「猪人ボアボアをレベル3にアップ。アタックステップに移行する。マッハジー飛べ!」

 メインステップはレベルを上げるだけにとどまり、神田はアタックステップに入るとまずはマッハジーでのアタックを宣言した。

 緑の小さな虫が羽を鳴らして、敵陣に特攻する。

「フラッシュタイミング、ジュラシックフレイム。BP3000以下のスピリット1体を破壊し、連鎖でスピリット1体を疲労させる」

 神田の見せたカードからきりもみ状に炎が生まれ、マッハジーと共に飛来する。

 炎に飲まれ、ソウエン・ドラグーンは破壊され、爆風がガイ・アスラを疲労させる。

「ジエンド・ドラゴニスの効果。破壊されたスピリットのコア全てはジエンド・ドラゴニスに移る」

 コアは増えたものの、ジエンド・ドラゴニスのレベルに変化はない。

「オレはライフで受ける」

 ライフ減少時の衝撃に備え、卓郎が身構える。

 卓郎を守るバリアが展開され、彼の眼前にマッハジーの角が突き刺さった。

 バチバチと、火花のような閃光が散って、卓郎のライフが輝き砕けた。

「ぐッ……」

 

<卓郎>

ライフ:2→1

 

「バースト発動! ライフ減少で覇王爆炎撃を使う。BP4000以下のスピリット3体を破壊」

 バーストゾーンから跳ね上がったカードをキャッチし、卓郎が神田に見せつけるように表示した。

「効果でマッハジーを破壊」

 カードから飛び出した炎の玉の直撃を受け、マッハジーは四散する。

「まだだ、ボアボアでアタック」

 神田はスピリット破壊にも臆せず、アタックを続けた。

 鉄球を持つ獣人は、立ちふさがる強大なスピリットに向かい走る。

「フラッシュタイミング、ガイ・アスラ超覚醒!」

 ジエンド・ドラゴニスからコアを奪い、ガイ・アスラが起き上がる。しかし神田はそれを見越していたのか、ともすれば卓郎がそうすることを分かっていたかのように笑った。

「ならこっちもフラッシュタイミングだ。マジック、グラスバインド。BP8000以下のスピリット2体を疲労させる」

 神田の台詞に卓郎がきょとんとする。そして馬鹿にするような笑みで言う。

「こっちにBP8000以下のスピリットなんていないぞ? プレイングミスか?」

「いや、これでいい。そっちにフラッシュがないなら俺はもう1枚マジックを使う」

「まだフラッシュがあるのか!? でもこっちにはブロッカーもいる」 

「そうだな。ジエンド・ドラゴニスからブロックし、その後ガイ・アスラの超覚醒を使えばあと五回はブロックができるからな。だが、それは回復ができれば、の話だ。フラッシュタイミング、ソーンプリズンを使用。コアは全てボアボアより確保」

 地中からイバラが這い出て、それは(おり)を形成するとジエンド・ドラゴニスとガイ・アスラを閉じ込めてしまう。

「いまさら疲労マジックか? そんなの意味ねえよ! ガイ・アスラが超覚醒で何度でも回復するのは神田だって知ってることだろ!?」

 バトル台に両手を叩きつけて噛みつくように卓郎が叫ぶ。それに対し、神田は酷く冷静な口調で告げる。

「なら、やってみればいい。この場面をしのげればお前勝ちだ」

「……ガイ・アスラ超覚醒だ!」

 卓郎がそう言うと、ジエンド・ドラゴニスのコアがガイ・アスラに移動する。しかし移動しただけで、イバラの牢獄に捕らわれたガイ・アスラに回復する様子はない。

「なん、で……。くそ、もう一度だ!」

 またコアが移るが、回復はしない。

「何回やったって無駄だ。よく見ろ、お前のスピリットを捕らえているのはソーンプリズンだけじゃない」

「どういう……」

 卓郎は牢獄の中のスピリットを見て、あることに気がついた。ジエンド・ドラゴニスとガイ・アスラ足下になぜか草地が広がっていたのだ。

 その草は2体のスピリットに絡みつき、動くことを妨害しているようだった。

「グラスバインドの効果はBP8000以下のスピリット2体を疲労させる効果。それに加えてこのターンの間、相手のスピリット全てを回復できなくさせる」

「だから、あの時に使ったのか……」

 呆然とする卓郎に神田は深く息を吐いて応える。

「プレイングミスしたのは俺じゃなくお前だよ。マッハジーのアタックをブロックしていれば、もう俺に勝ち目はなかった。お前はガイ・アスラの超覚醒を過信しすぎたんだ」

 マッハジーのアタックを卓郎がブロックしていた場合、神田に残り二つのライフを削る術は残されていなかった。しかし、卓郎は残りのアタックはジエンド・ドラゴニスとガイ・アスラで全てシャットダウンできると考え、返しのターンでアタックできる回数を増やすべく、ライフで受けた。

 その判断は神田の思惑通りのものであり、その後はこの通りだった。

「慢心が招いた結果だ。最後のライフはもらうぞ」

 卓郎は悔しげな表情で、唇を噛みながらも神田をしっかりと見据える。

「ライフだ……ライフで受ける!」

 重そうな装備とは裏腹に、軽々と跳躍する猪人ボアボア。

 飛び上がったボアボアは鉄球ではなく、右手の握り拳で卓郎のライフを破壊した。

 

<卓郎>

ライフ:1→0

 

 

 * * *

 

 

「で、勝った俺は崎間になんでも命令……」

「できないから」

「知ってた。つか、別にそんなこたどうでもいいんだよ」

 神田は後ろを仰いで、店の隅の暗がりで膝を抱えて小さくなっている卓郎を見た。

「落ち込んでんな」

「誰のせいかしら? 大人げないお兄さん?」

「バトルに遠慮は必要ねえだろ」

「それは、まあそうなんだけど」

 深月は興味が尽きたのか、神田の(かたわ)らから離れ卓郎の元に行く。

 そして彼の目の前でしゃがんで、卓郎の顔を覗き込んだ。

「お疲れ、いいバトルだったよ」

「でも、オレ勝てなかったし」

 腕で顔を隠し、小さな声で返答する。随分なへこみようねえ、と深月は思案する。

「またデッキ強化して、今度こそあのタチの悪い男をぶっ倒せばいいじゃない。へこんでるだけ時間の無駄よ」

「でも、次も負けたら……」

「……じゃあ、次勝ったら……」

 深月は卓郎に耳打ちする。いわゆるひそひそ話だ。

 そして、深月が顔を卓郎から離し、彼と向き直る。そこには、つい一瞬まで潰れていた彼の姿などどこにもなかった。

 今そこにいるのはやる気に満ちた少年の姿。

 卓郎は立ち上がり、神田の目の前にまでやって来る。

「次はぜってー負けねえ! 首洗って待ってろ!!」

 それだけ言って、ショップのストレージコーナーに陣取ると、端からカードの束を漁りだした。

 なんだったんだ? と首を(かし)ぐ神田のそばに、深月が戻ってきた。

「なにした?」

「んー。勝ったらちゅーしてあげるって言った」

「お前なに小学生(たぶら)かしてんの」

「誰もたぶらかしてませーん。ちょっとやる気スイッチ押してあげただけでーす」

 舌を出しておどける深月。卓郎を見つめる視線は優しげな色を帯びていた。

「あ、そういえば土曜日、昼からショップバトルあるけど神田はどうするの?」

 それから唐突に深月はそんなことを神田に問う。

 神田は「んー」とつま先で床をとんとんと叩き、少し考えている様子。

「少なくともワタシは出る予定。多分だけど卓郎も出るんじゃないかしら」

「そう……だな、別に用事はないし。夜からバイトだがまあ問題ないな」

「そ。今度も潰してあげるわ」

 すでにやる気満々の深月と、微妙に面倒そうな顔の神田。

「勘弁。俺は新たなスピリットを迎えることにしよう」

「なに入れるの? カニ? カマキリ?」

 深月が緑デッキにおいて不動のエースであるスピリットの愛称二つを挙げる。しかし神田はどちらでもないと首を振った。

「書いてあることは強いんだけど、使いこなすにはそれなりにサポートしてやらないといけないやつだ」

 神田は少し前に買ったパックで当たったカードをケースから出して見つめる。

「崎間の言い方に準ずる呼び方をするなら、クワガタ、だな」

 彼の頭の中ではすでにデッキ構築の案がいくつも浮かんでいた。




冗長で蛇足気味な説明があったりして。
わたしも勘違い、というか詳しく知らなかったルールなので忘れないように深月さんに説明してもらいました。
深月さんの口調が安定しないのがここのところの悩みです。

そして少年こと卓郎のデッキ。
通称ラスボスデッキ。イザーズさんは台詞で登場。彼はラスボスではない、かな?
個人的に好きなキャラなのです。

今回の神田くんのキースピリットは猪人ボアボアでした。
そろそろ、神田くんがフラッシュマスターとか呼ばれ始めるのではないかと思いつつ。わたしもあのぐらいのフラッシュ使いになってみたいものです。

2013/10/10本文加筆修正
ジエンド・ドラゴニス召還の際のプレイングミスの修正、あわせて深月のナレーターステップの説明にも変更を加えました。
あ、4話目書いてます(震え声)
12/08文章の表示がおかしくなっていたので修正しました。
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