バトルスピリッツ アナクロニズム   作:にしはる

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04 神撃

 昼も目前といった時刻。正確には十一時半に神田(かんだ)俊道(としみち)は起床した。休日は正午を過ぎても寝ていることの多い彼にしてはそこそこの早起きであった。

 今日、神田が早く起きたのはショップバトルが開催されるからだ。元々、参加する予定はなかったが誘われたので参加する運びとなった。

 朝食とも昼食ともとれない食事をし、準備を簡単に済ませた神田がショップに着く頃にはショップバトル開催直前の時間になっていた。大会直前のためか多くのプレイヤーが見られた。店内には崎間(さきま)深月(みつき)一縷(いちる)、この前バトルをした少年、灰島(はいじま)卓郎(たくろう)らの姿もあった。

「店長、ショップバトル参加します」

「いらっしゃいませ。じゃあこれに記入を」

 神田は彼から受け取ったエントリーシートに名前を記載し提出すると、彼はショップバトルの開始を待った。

「ちゃんと来たね」

 金色の髪がやって来る。Tシャツにショートパンツのラフな出で立ちの崎間が神田に声をかけた。

「まあな。せっかくデッキも組み直したことだし、試すにはもってこいだしな」

「へえ。どんなデッキ? 見せて」

「バトルすりゃ分かるよ」

 それからしばらくして、店長からショップバトル開催の説明が始まった。

「えー、これよりショップバトルを開催します。参加者は15人。人数が半端になったのでわたくし店長も参加し16人とします。大会形式はA、Bブロックに分かれてのトーナメント戦で、それぞれのブロックを勝ち上がった二人が決勝戦を行います。一回戦目はA.Bそれぞれ一組だけバトルフィールドでバトルを行います」

 その後、対戦相手や、どの組がバトルフィールドを使用するかが決定し、ショップバトルが始まった。

 バトルフィールドで行われるのはAブロック一回戦二組目と、Bブロック一回戦四組目のそれぞれに決まり、前者に割り振られていた一縷と利発そうな少年は準備に取りかかった。

「へえ、あの()のバトルがフィールドで行われるんだ」

 深月と神田も自らのバトルのためテーブルにつき、バトルフィールドでのバトルの行方を見守る。

「一縷が勝ったらお前と対戦か」

 テーブルを挟んで斜向(はすむ)かいに座る深月に、神田は声をかけた。

「ま、誰が来ても負けないけど」

 彼女の強気な発言に神田が苦笑する。それと同時に店長のバトル開始の合図。

「これよりAブロック一回戦三組目のバトル、猪狩(いかり)一縷さんVS青磁統くんのバトルをバトルフィールドで行います! 同じく、他の組もバトルを開始してください」

 そこで神田が一言。

「一縷の名字って猪狩っていうのか」

「ホントだ、ワタシも初めて知った」

 そして、それぞれのバトルが始まった。

 

 

 * * *

 

 

 バトルフィールドの舞台に立つのは漆黒の髪と白い肌が人目を寄せる少女、一縷と、卓郎より少し年上の賢そうな少年。短めの爽やかな髪型をしている。

「初めまして、ぼくは青磁(せいじ)(とおる)と言います。よろしくお願いします」

「いちる、です。よろしく」

 二人は至極簡潔な自己紹介を行って、会話をするでもなくバトルへと突入した。

 バトルは一縷から始まり、彼女はシキツルを召喚、バーストをセットしてターンエンド。

 統はネクサス、未完成の古代戦艦:羅針盤を配置。一縷と同様、バーストを伏せてターンを終えた。

 そして迎える第3ターン。

 

第3ターン

<一縷>

リザーブ:4 手札:5 ライフ:5

シキツル(Lv1)

 

「メインステップ。ソウルホースをレベル2で召喚。続けてネクサス、骸の斜塔を配置」

 鎧を装備した四肢が(つるぎ)の馬と、全てが骸骨で形作られた傾いた塔が現れる。斜塔ではあるがピサの斜塔のような美しさは微塵もなく、おぞましい見た目をしている。

「続いてアタックステップ。シキツルお願い」

 一縷の声でシキツルが骨張った翼を広げ飛翔する。

「ぼくはライフで受けます」

 統は丁寧な言葉でライフを選択。直後、シキツルのクチバシが彼のライフを奪った。

 

<統>

ライフ:5→4

 

「ではここでバーストをいただきます。ライフ減少によりロック・アラディンをバースト召喚します。召喚時効果でオリンスピア競技場をノーコストで配置します。レベルは2」

 ローク・アラディンが颯爽と空中から現れる。彼が腕を天に突き上げると、バトルフィールドの様相ががらりと変わった。

 陸上のトラックやハードル、投擲用の槍などがフィールド内に出現する。それは陸上競技場と呼ぶほかない。

「エンド」

 リザーブにコアのない一縷はネクサスのレベル2効果に阻まれアタックを阻止された形になり、彼女はターンを終了した。

 

第4ターン

<統>

リザーブ:5 手札:3 ライフ:4

ロック・アラディン(Lv1)

未完成の古代戦艦:羅針盤(Lv1)

オリンスピア競技場(Lv2)

 

「メインステップ。ロック・アラディンをレベル2にします。そして……え?」

 統がバーストをセットしようとした時、彼は自分のフィールドの異変に気づいた。レベルを上げたロック・アラディンが唐突に膝をついたのだ。それはロック・アラディンが疲労状態になったことを示していた。

「骸の斜塔のレベル1効果。メインステップ時に効果以外でコアを置くとスピリットは疲労する」

 状況が飲み込めない統に一縷が効果を告げる。統は自分のプレイングに集中するあまり、一縷のフィールドに気を配るのを怠ってしまったようだ。

「そうですか、分かりました。でもバーストはセットさせてもらいます。そしてアタックステップに入りますがなにもできないので、ぼくはターンエンドです」

 少し悔しげに、しかし冷静な態度でターンを明け渡した。たいした落ち着きようである。バトスピの経験はそれなりに長いのだろう。だから意図せぬ事態にも着実に順応できる。

 

「スタートステップ」

 一縷の宣言で台の枠が光を放つ。

 そこで統が手を挙げて「ロック・アラディンの効果を発揮します」と言った。

「ネクサスを疲労させ相手のバーストをオープンします。疲労させるのはオリンスピア競技場です」

 ロック・アラディンが二振(ふたふ)りの刀をクロスさせ振り下ろす。そこから生まれた衝撃波が一縷に真っ直ぐ向かい、彼女の伏せたバーストカードを斬撃の波動によって吹き飛ばした。

 セットされていたのはアロンダイザー。ライフ減少により召喚でき、合体(ブレイヴ)時効果も強力なブレイヴカード。

「……はい、ありがとうございました」

 カードを確認し、統が軽く頭を下げる。その後オープンされたカードは元通り裏返しになり、改めて一縷のターンになる。

 

第5ターン

<一縷>

リザーブ:3 手札:4 ライフ:5

シキツル(Lv1)

ソウルホース(Lv2)

骸の斜塔(Lv1)

 

「ソウルホースをレベル1にダウン。骸の斜塔はレベル2にアップ。アタックステップ、シキツルでアタック」

 一縷は新たにスピリットを展開することなく、アタックする。その瞬間、オリンスピア競技場のレベル2効果が発揮され、一縷のリザーブのコア一つがトラッシュへと移動する。一縷のリザーブにはコアが二つあった。そしてアタックできるスピリットは2体。遅延を強いるネクサスを配置したということは、序盤は弱いということに繋がる。そう考えた一縷は素早くライフを狙いにいくことにしたようだ。

 彼女のデッキにはコストの軽いスピリットが多いので、速攻をかけるには申し分ない。

「ぼくはライフで受けます!」

 高く飛んだシキツルは、最高点から急速降下。落下により加速したシキツルの、鋭いクチバシが統のライフを撃った。

「くう……」

 衝撃に統の顔が険しくなる。

 

<統>

ライフ:4→3

 

「この痛みが新たな力になる……ライフ減少によりバースト発動! 妖華吸血爪(ようかきゅうけつそう)!」

 バーストゾーンから跳ね上がったカードを掴み、統はそれを見せた。

「紫のカード……」

 一縷が苦い顔をする。紫の使い手である彼女がそのカードの効果を知らないはずがなかった。

「バースト効果でぼくはカードを2枚ドローします。更にフラッシュ効果で手札のを1枚破棄してソウルホースのコアをトラッシュへ。不足コストはロック・アラディンより確保します」

 長く鋭利な爪がカードから出現し、ソウルホースをなぎ払った。コアがトラッシュに移動しソウルホースは消滅する。

「……エンド」

 唇の端を噛んで一縷は思案する。

 青という色はドローについてはからっきしだ。そのためドローを他の色に頼るのはよくあることで、特にライフの減少だけで2枚ドローできる妖華吸血爪が採用されるのは珍しいことじゃない。

 一縷は、勝手知ったる紫のカードにカウンターされたことが悔しかった。

 ライフでは優勢だが、フィールドの展開を考えると押されていると思った方がいいだろう。

 彼女は気を引き締めて次の自分のターンを待った。

 

第6ターン

<統>

リザーブ:6 手札:4 ライフ:3

ロック・アラディン(Lv1)

未完成の古代戦艦:羅針盤(Lv1)

オリンスピア競技場(Lv2)

 

「ロック・アラディンの余剰コアをリザーブに移動。そして、波濤(はとう)剣使(けんつか)いアカシをレベル2で召喚します」

 雄々しい(つい)の角を持つ鹿の頭をしたスピリット。黄金の鎧を纏い、マントをたなびかせて登場した。

「召喚時効果、コスト4以下の相手のスピリット1体を破壊します。対象はシキツルです」

 アカシが儀礼用の剣にも見えるそれを大地に突き立てた。にわかに揺れ出す地面。

 シキツルは突如として足下から間欠泉のように吹き出した多量の水に吹き飛ばされ破壊された。

「続けてぼくはマジック、スピニングソードを使用します」

 スピニングソードの効果は相手のバーストをオープンし、公開されたカードのコストと同じ枚数相手のデッキを破棄、系統:剣使がいる時さらにデッキを5枚破棄する、というもの。

 オープンされたのは先ほどと同じくアロンダイザー。一縷が張り替えを行っていなかったため当然である。

「アロンダイザーのコストは5なので5枚、そしてアカシが系統:剣使を持っているので追加で5枚、合計してデッキを10枚破棄します」

 アカシの剣の斬撃に一縷のデッキが破壊されていく。

「っ……」

 吹き飛ぶデッキを見て一縷は目を細めた。破棄された中には死神剣聖ダークネス・メアやシュテン・ドーガといった、デッキの中核となるリアニメイト効果を持つカードが含まれていた。それらのスピリットは他のスピリットを甦らせることができるものの、自身を復活させることはできないため、トラッシュにいってしまうと回収手段が限られてしまう。スケープゴートも落ちてしまったのは一縷にとって痛手であった。ただ、他のカードと共にトラッシュに落ちた、咎人の骨剣エグゼキューショナーズは今後使える可能性があった。

「それではアタックステップに行きます。ロック・アラディンでアタック!」

 統のかけ声に呼応して、ロック・アラディンは2本の剣の刀身を打ち鳴らし、前傾姿勢で駆けだした。

 統は一縷のバーストがアロンダイザーであることを知っている。その上でコアが一つしか乗っていないロック・アラディンでアタックしたということは、なにかバーストを防ぐ手段、あるいは他の目的があるに違いない。

 そこまで考えが至っていても、今の一縷には対抗の手立てがないことは、彼女が最も理解していることだった。ひとまず、一縷は骸の斜塔の効果を処理した。

「お互いのアタックステップで、相手のスピリットが疲労した時、カードを1枚ドローする」

 一縷はデッキの一番上のカードを手札に加える。表情に変化はなかったが、状況を好転させるものでもなかったようだった。

「フラッシュがないようなので、ぼくのフラッシュタイミングになります。マジック、トライアングルバンを使います」

 レーザーのような青い線で形作られた三角形が回転しながら一縷に迫る。

「指定するコストは5。このターンの間、指定されたコストのバーストの効果は発揮されなくなります」

 バーストゾーンのカードが三角形にとらわれる。

「ライフで受ける」

 ブロッカーのいない一縷はライフで受けるほかない。しかし一度目のライフダメージなので、彼女としてはようやく使えるコアが増えるという状況のため、不利になるわけではない。

 ロック・アラディンの二度の剣撃が、一縷を守るバリアを切り裂いた。

 

<一縷>

ライフ:5→4

 

「効果は使えない。けれど発動自体はできるからアロンダイザーをオープンする」

 一縷はバーストを破棄するだけの形だ。基本的にバーストは効果で破棄される以外、新たなバーストをセットすることでしか破棄できない。一縷がわざわざバーストの破棄だけを行ったのは、またバーストを利用される可能性を危惧したためであろう。

 

 

 * * *

 

 

「なかなかくせ者ね、あの男の子」

 深月は誰に言うでもなく呟く。

 バーストを確認し、それを利用した挙げ句、効果も使わせない。なんかこう……他者を簡単にコントロールしてしまいそうな子だなあと深月は思った。自分では天性のそれに気づいていなさそうだが、歳を経てそれを自覚した時、なにか物凄い人物になりそうだ。

 そこに神田がやってきて、深月に勝敗を問うた。

「もち、勝利。楽勝。アンタは?」

「勝ったよ。ギアゼルからアスモディオスが出てきた時には負けたかと思ったけど」

「なにそれこわい」

 簡単に感想戦を行いながら、徐々に二人は一縷と統のバトルに集中していった。

「一縷、押されてるな。デッキアウトを狙うデッキにライフの多さなんて関係ないからな」

「そうね。トラッシュを肥やすって点ではあの男の子の破棄は一役買ってるのかもしれないけど……」

「落ちて欲しくないカードも落ちてるな」

 状況は統の優勢。二人の意見は同じだった。

「ま、俺個人としては、こっから巻き返して欲しいとは思うが」

「デッキアウトは嫌いだからあの子が勝ち上がってくれた方がいいかな」

「さすが、考えることが違えな」

 神田は適当に返事をし、またバトルに見入っていった。

 

 

 * * *

 

 

第7ターン

<一縷>

リザーブ:5 手札:6 ライフ:4

シキツル(Lv1)

骸の斜塔(Lv2)

 

「メインステップ、骸の斜塔をレベルダウン。新たにソウルホースを召喚。そして闇騎士モルドレッド召喚。レベルは1と2」

 鎧の馬が再度現れ、闇を切り裂くように全身鎧姿のモルドレッドが出現した。

 ライオンのたてがみのような頭髪、獣の腕と爪。騎士と呼ぶにはいくらか野蛮に思えるスピリットだ。

「さらにマジック、双光気弾でオリンスピア競技場を破壊」

 オリンスピア競技場が破壊されたことで、バトルフィールドの様子も通常の荒野へと戻る。

「アタックステップ、切り裂けモルドレッド! アタック時効果。お互い、転召(てんしょう)を持たないスピリット1体を破壊する。シキツルを指定」

 シキツルが地獄の業火に焼かれ破壊される。

「ぼくはロック・アラディンを指定します」

 ロック・アラディンも同様に破壊され、互いにスピリットの頭数を減らすことになった。

 統はモルドレッドのアタックを通しライフを一つ減らした。

 

<統>

ライフ:3→2

 

 一縷も迂闊(うかつ)に攻めることなくエンド。いくらデッキがなくなりそうだからといって、中途半端に攻撃して、返しのターンで敗北しては意味がない。賢明な判断といえる。

 

第8ターン

<統>

リザーブ:8 手札:2 ライフ:2

波濤の剣使いアカシ(Lv2)

未完成の古代戦艦:羅針盤(Lv1)

 

「メインステップ。アトライアソルジャーをレベル2で召喚。続けてマジック、フォースドローを使います」

 統がドローステップで引いたのはアトライアソルジャー。今までフォースドローはずっと手札にあったのだが、最大限ドローするため、彼はそれを温存していたのだ。

「手札が4枚になるようにドローします。ぼくは手札がないので4枚ドローします」

 そして統は引いたカードを見て、瞬間笑みを浮かべた。求めていたカードが来たようだ。

「そしてバーストをセット。アタックステップはなにもしませんので、ターンエンドです」

 

第9ターン

<一縷>

リザーブ:6 手札:4 ライフ:4

ソウルホース(Lv1)

闇騎士モルドレッド(Lv2)

骸の斜塔(Lv1)

 

「メインステップ、ボーン・トプスを召喚。召喚時効果で1枚ドロー。さらに連鎖(ラッシュ)、ソウルホースは色とシンボルを赤としても扱えるのでネクサス一つを破壊」

 一縷が召喚した骨格のみのトリケラトプスの効果で古代戦艦:羅針盤が破壊される。シンボル確保として有用なネクサスが破壊されたのは痛手であったのか、統はやや苦い顔をする。

 一縷はこのターンでとどめはさせずとも形勢逆転は狙えると考えていた。モルドレッドのアタック時効果でボーン・トプスを破壊すれば、トラッシュにある咎人の骨剣エグゼキューショナーズの不死が発揮される。それをモルドレッドに直接(ダイレクト)合体(ブレイヴ)させればモルドレッドのシンボルは二つになり、一撃で統のライフを奪える可能性がある。

 しかし――

「ボーン・トプスの召喚時発揮によりバーストを発動します」

 一縷の淡い期待は統のその宣言によって打ち砕かれた。

「バーストは爆烈十紋刃(ばくれつじゅうもんじん)! バースト効果でソウルホースと骸の斜塔を破壊します」

 アカシの剣に炎が宿り、十の文字を描くように剣を縦横に振るうと、それはわずかに回転しながら進行し、ソウルホースと骸の斜塔を焼き払っていった。

「くう……」

 爆炎にまかれたたらを踏んだ一縷。彼女の計画はこの瞬間、灰に変わってしまった。

「ボーン・トプスのレベルを2にアップ。アタックはしない」

 一縷はターンを統に譲った。

 

第10ターン

<統>

リザーブ:6 手札:4 ライフ:2

アトライアソルジャー(Lv2)

波濤の剣使いアカシ(Lv2)

 

「まずはバーストをセットします」

 統が1枚のカードを伏せる。彼がそれをセットしたのは発動が目的ではなかった。ついでに使用できればいいだろうという感覚で置かれたそれは、まさに布石と呼ぶに相応しい。統は手を伸ばした先にあるのが勝利だと確信したかのような表情で、次の一手を行った。

「そしてディープフィッシャーを召喚します」

 素潜りの漁で使われるモリを持つのは背びれを持つ人型のスピリット。潰れた薄い顔、裂けた口には鋭い牙が並ぶ。半魚人がイメージとして最も近い。

「召喚時効果はバーストがセットされている時、トラッシュから任意のネクサス一つをコストを支払わずに配置できる、というものです。ぼくは未完成の古代戦艦:羅針盤を配置します」

 統の背後、バトルフィールドの外に羅針盤が現れる。巨大な羅針盤――コンパスと、祈りを捧げる女神像。

「それでは、ぼくのキースピリットを召喚します。大海を統べる神の一撃、海皇巨神デュランザム!! レベル2で召喚ッ!」

 召喚コストをまかなう効果でアトライアソルジャーは疲労し、レベル2になるためコアをアトライアソルジャーとアカシから使用してデュランザムは召喚された。

 黄金に輝く頭髪、屈強な肉体の巨人。このバトルフィールドに存在するどのスピリットよりも圧倒的な存在感を放つ。

「レベル2のデュランザムのBPは15000ですが、系統:闘神を持つ自分のスピリット全てのBPを+5000する自身の効果でBPは20000になります」

 その効果で疲労状態のアトライアソルジャーもBP+5000され、BPは6000になる。

「アタックステップ、砕け! デュランザム!!」

 今までの丁寧な言葉遣いとは打って変わって口調が激しくなる。統は無意識のうちに興奮状態になっているようだ。それが語気にも現れていた。

 巨人は静かに歩み出す。その一歩は他のスピリットの一歩より桁違いに大きく、すぐに一縷側のフィールドにたどり着いた。

「大粉砕の効果、レベル1につき5枚デッキを破棄。デュランザムはレベル2なので10枚破棄します!」

 デュランザムが大地に拳を叩きつけると地響きが起き、一縷のデッキが吹き飛んだ。彼女の残りデッキ枚数はわずかに8枚となっていた。

「破棄された中にバースト効果を持つマーク・オブ・ゾロがあったので闇騎士モルドレッドを破壊します」

 近づく虫を追い払うような仕草。それだけの動きも巨体のデュランザムがすれば絶大な破壊力を伴う。モルドレッドはそんな挙動をした左手に吹き飛ばされ、フィールドの壁に叩きつけられて破壊された。

「まだ……、まだ終わらない! フラッシュタイミング、スケープゴートを使用。積み上がりし(むくろ)の山を乗り越えて回生せよ、黒き骸王バルトアンデルス! コスト確保のためにボーン・トプスから全てのコアを外す」

 苦しい表情で一縷はバルトアンデルスをトラッシュから呼び出した。消滅するボーン・トプスと入れ替わるように異形の獣は現れた。そして慟哭する。

「ブロックはせずライフで受ける」

 彼女は召喚したバルトアンデルスを盾にしなかった。バルトアンデルスの破壊時効果は相手の手札を破棄し、そのカードがスピリットカードの時、フィールドにとどまるものだ。当然だが彼女はそれを知った上でブロックしなかった。

 ブロックし破壊されればバルトアンデルスの効果が発揮される。それで統の手札を破棄することができる。彼の持っている1枚の手札がスピリットカードであれば、バルトアンデルスはフィールドに生き残るが、このバトルが終わったあとにバルトアンデルスはスケープゴートの効果でもう一度破壊されてしまう。また破壊時効果は発揮されるものの、統の手札がなければ結局バルトアンデルスはトラッシュ行きになってしまう。

 一縷はバトルによる破壊をさけ、スケープゴートの効果による破壊の時に破壊時効果を発揮させ、バルトアンデルスをフィールドに残そうと考えた。可能性は、ある。

 人差し指から小指まで、順繰りに握りしめられ、最後に親指が加わる。デュランザムは腕を振り上げ、上段から拳を振り下ろした。

 今までのバトルでは聞いたこともない轟音。一縷の周囲に展開されたシールドが悲鳴を上げる。

「うあ、……ッ!?」

 胸を貫く衝撃。車に衝突されたのでは、と思うほどの激痛に一縷は息を詰まらせた。

 

<一縷>

ライフ:4→3

 

「ッは、……ッ!」

 膝をついた一縷は、吐き出す息の勢いで無理矢理空気を吸うような、そんな呼吸をしていた。

 それでも、彼女はすぐに顔を上げ、台にしがみついて身体を起こした。

「バトルが終了して、バルトアンデルス……は、」

 呼吸を整え、一縷は言葉を紡ぐ。

「スケープゴートの効果により破壊され、破壊時効果を発揮する。手札を1枚、もらう……」

 フィールドを一足跳びに駆けたバルトアンデルスが統の手札を食らった。その姿は怒り狂う獅子のようだ。統はおびえたのか、台の手すりを強く握っていた。

 破棄されたのは剣聖将軍フィランダー。バルトアンデルスは一度黒い沼に呑まれ姿を消すが、すぐに一縷のフィールドに復活する。

「おかえり」

 小さく呟き、一縷が台に片手をついて手を伸ばした。するとバルトアンデルスは甘えるように首を伸ばし、頭を彼女の手の平こすりつけた。

「……ぼくはこれでエンドです」

 統はその光景を目撃し目を丸くしたが、直後には目を伏せてターン終了の宣言をした。

 

「スタートステップ」

 一縷の声が響く。

 

第11ターン

<一縷>

リザーブ:7 手札:4 ライフ:3

黒き骸王バルトアンデルス(Lv2)

 

「メインステップ」

 このターンでとどめをさせなければ負けるだろうと、一縷は思った。今の手札にデュランザムの一撃をとめる手段はない。それよりも前に召喚時効果でデッキを全て削られることもあるだろう。どちらにせよ、次の自分のターンが(めぐ)ってくることはない。

 なら、現状の最善手を打つだけだ。一縷の目はまだ死んでいなかった。

「闇騎士ラモラックを召喚。召喚時効果、手札より骸の斜塔と魔剣デスサイズを破棄して、波濤の剣使いアカシとディープフィッシャーのコア一つずつをトラッシュへ」

 トナカイの頭を持つ騎士がロングソードを振るう。たちまちアカシとディープフィッシャーはコアを奪われ消滅した。

「バルトアンデルスをレベル3にアップ。アタックステップに移行してラモラックでアタック!」

 ラモラックがは後方に剣を引き、すくい上げるようにして切り上げる。発生する剣撃の波。

「ライフで受けます!」

 統はサイドに備え付けの手すりをしっかりと握り込んで耐える姿勢。

 

<統>

ライフ:2→1

 

「そして、バルトアンデルスでアタック!」

 一縷が叫ぶ。

 バルトアンデルスのアタック時効果でアトライアソルジャーが破壊され、統のフィールドには疲労したデュランザムのみ。手札もない。

 これは一縷の勝利かと、誰もが思ったその刹那――

「スピリット破壊でバースト発動!」

 統の鬼気迫る声が轟いた。

爆砕轟神掌(ばくさいごうじんしょう)ッ!!」

 そのバーストの発動は、このバトルの勝者が一縷ではなく統であるということを強く観客に印象づけた。

 バースト効果は破壊されたスピリットのコストだけ相手のデッキを破棄。この場合は破壊されたのがコスト1のアトライアソルジャーであるため1枚だけの破棄。

 もちろん、それが決め手になるわけではない。重要なのはそのフラッシュ効果。

『自分のスピリット1体を回復させ、このターンの間、そのスピリットのLvを1つ上のものとして扱う』

 コストを払えるだけのコアを持つ統が効果を使わないはずはなく、コアを減らしながらもレベル2を維持したままのデュランザムは統の命によりバルトアンデルスの前に立ちふさがった。

「はばめ! デュランザム!」

 バルトアンデルスは攻撃を繰り返すも、デュランザムは何一つ効いていないような風で周りを駆けるバルトアンデルスを目で追った。

 そして、今まで見せていた緩慢な動作からは予想もできない素早い動きでバルトアンデルスを上から押さえつけ捕まえる。

「デュランザムのBPは20000。そちらのバルトアンデルスはBP12000なのでそちらの破壊ですね。自慢の破壊時効果もぼくには手札がないので意味をなしません!」

 統の言葉を聞いても一縷は動じなかった。

 デュランザムは暴れるバルトアンデルスを気にもせず、大地に押しつけたままもう一方の握り拳で殴りつける。二度、三度と殴打されバルトアンデルスは破壊された。

 バルトアンデルスの三つ首の一つの角が爆風で飛び、一縷の立つ舞台の真横に突き刺さる。なぜかそれは破壊されても消えずそこに刺さっている。

「これでもうアタックできるスピリットはいませんから、アタックステップを続けても意味は……え?」

 勝利を確信した統だが、不意に暗くなった空に言葉をとめた。

「――を破壊してしまったことが、あなたの敗因」

 うつむきがちに一縷が呟く。小さな声でなにかスピリットの名前を口にしたが、それは誰の耳も捉えることができなかった。

「なにを、破壊? バルトアンデルスは破壊時効果を使えずにトラッシュに行きました。今のあなたに一体なにができるんですか!」

 怒るように反論する統。それも当然の反応だった。

 しかし一縷はただ静かに、淡々と言葉を紡いでいく。その声音(こわね)は眠れない子供に物語を読み聞かせる母のような、慈悲に満ちあふれていた。

「紫のスピリット達は、どの色のスピリットよりも粘り強くて、諦めることをしない」

 一縷がそう言ったあと、トラッシュのカードが黒く光り始めた。

「闇騎士モルドレッドの不死、発動。コスト7のバルトアンデルスが破壊されたことにより、トラッシュより甦る」

 1枚のカードがトラッシュから一人でに一縷の台のフィールドに移動する。

「骸王の(しかばね)を踏み越えて、今ここに甦れ、闇騎士モルドレッド!」

 バルトアンデルスの角が黒い沼に飲み込まれ、そこにモルドレッドが出現する。手には折れた角が握られていた。

「不死……大粉砕の時に破壊したモルドレッド……!」

 統が息を飲む。心なしか声が震えていた。

「これで、おしまい」

 一縷がそう告げて、モルドレッドがアタックした。

 モルドレッドの効果が発揮され、一縷は闇騎士ラモラックを選択し破壊する。

 統はデュランザムしか選ぶことができず、眉にシワを寄せて悔しい顔で指定した。

 片膝立ちのデュランザムに向かいモルドレッドが走る。大きく跳躍しデュランザムの額にバルトアンデルスの角を突き立てた。

 頭を押さえ、デュランザムは破壊される。その爆風の中からゆっくりと現れるモルドレッド。

「ら、ライフで受けます!」

 ぎゅっと目を瞑り統は強く宣言した。

 そして、獣の右手でバリアを切り裂き、統の最後のライフを奪った。

 

<統>

ライフ:1→0

 

 

 * * *

 

 

 バトルが終わり、一縷と統はバトルフィールドから帰還した。二人を迎えたのは割れんばかりの拍手。他の組のバトルではここまで盛り上がりはしなかっただろう。そのくらい、激しいバトルだった。

 一縷はそわそわしながら、神田を探すべく店内を見回すのだが、それはすぐに遮られてしまった。統が彼女の袖を引いていたからだ。

「ありがとうございました、良いバトルでした!」

 彼は一縷の手を取ると90度のお辞儀をした。

「あ……りがとうございました」

 一縷も同じように挨拶を返した。しかし内心はかなり驚いていた。バトルのあとでこんなに相手から丁寧に挨拶をされたことはなかったからだ。

 彼女が戸惑っていると、統はそれを察したのか手を離し一歩後ろに引き下がった。

「バトルの途中で一縷さんがバルトアンデルスと触れ合っているのがとても衝撃的でした。ぼくもスピリット達を道具としてみているつもりはないのですが、あんなに仲が良いなんて羨ましいです!」

 目をキラキラとさせる統に、一縷はやっぱり動揺した。

 視線を彷徨わせていると、神田がやって来て彼女の頭に手をぽんと置いた。

「お疲れ。見ててすげえ白熱したバトルだったよ」

 一縷は含羞(がんしゅう)して、されるがまま彼に撫でられる。

「はいはいいつまでいちゃついてんの」

 更に現れた深月に神田が追い払われるまで一縷は至福の時間を味わった。

「では、またいつかバトルしましょう。次は絶対負けませんから!」

 統が改めて差し出した手の平。一縷はそれをしばし眺めてから、自分の右手を繋ぐ。

「次も、負けません」

 一縷はそう言ってはにかんだ。




一ヶ月ぶりとなってしまいました。こんばんは、にしはるです。

今回からは、ショップバトル編とでも言いますか、しばらくSBが続きます。
そういえば4話目にして初の、神田くんがバトルをしないお話でした。
このバトル、正直かなり気に入っています。現状の4話の中ではダントツです。
蛇足ですが裏話をすると統くんが勝つ予定でした。この一連の話が終わったあとに、負けてへこむ一縷と神田くんの話とか書きたいなーと思っていた関係で彼女を負けにしようと思っていました。

色々あって一縷ちゃんの勝ちになりました(粉みかん)
(デュランザムとバルトアンデルスが闘い、バルトアンデルスが破壊されて、一縷のターンが終わり、統のターンで一縷のデッキがなくなるという予定で書いていたのですが、モルドレッドの不死を思い出して急遽変更した、という裏話がががg)

ではこのへんで。


10/26加筆修正
トーナメントであることのもう少し詳しい説明などを追記しました。
あと、一縷の苗字も。
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