バトルスピリッツ アナクロニズム   作:にしはる

7 / 9
07 鎬

 結論から言えば、一縷(いちる)は敗北した。対戦した水原遠音(すいばらとおね)が使用した赤青コントロールのデッキにひたすらスピリットを潰され、まともにフィールドに展開することもできなかった。彼女の使う紫デッキもコントロールに長けており、先んじて動けていれば盤面を掌握できていたかもしれない。一縷のデッキに最も悪影響を及ぼしたのは、水原が初手で張ったネクサス、永遠なる水道橋。紫の優位性である強力な召喚時効果を根底から否定されてしまってはどうしようもなかったのだ。

 一縷は対戦者であった水原にお辞儀をして、落胆した様子でバトルフィールドを離れた。まともなバトルもできずに負けてしまったのだ、無理もない。

 神田俊道(かんだとしみち)崎間深月(さきまみつき)もその様子を見送ったが声をかけることはしなかった。

「あれは、無理だね。相性はあるから」

 深月はそういうこともある、仕方ないという態度だ。加えて一縷に勝利した水原遠音という人物が、次の対戦相手であるという彼女の立場を考えれば、他者の心配をしている暇などないだろう。もっとも彼女の態度はそういうものとはなにか一線を画するものにも思えるが。

 神田も特別な反応は示さず店内すみの自販機コーナーのベンチに腰掛ける一縷を遠巻きに見遣るだけだった。

「ねえちゃんもにいちゃんも冷たいってか厳しいんだな」

 そう言ったのは灰島卓郎(はいじまたくろう)であった。明らかに落ち込んでいる一縷を見て彼ら二人を振り仰いだ。

「ソッコーで負けたキミもいろいろ考えないとねー。ま、あれがバネになって伸びればあの子のためになるでしょ」

「ねえちゃん厳しいぜ……」

 卓郎はそれを言われるとキツイとうなだれた。

 そんな会話を神田は聞きながらも、彼の関心は次のバトルに移っていた。宮守(みやもり)貴夏(きなつ)VS湯川(ゆかわ)綾織(あやおり)のバトル。このバトルの勝者が神田とBブロック代表を争うのだ、彼が興味を示すのは当然であった。

「神田さん、あの湯川綾織ってのが俺にバトスピをやるよう勧めたんすよ」

 彼の肩を叩いたのは神田とのバトルで接戦の末に敗北した坂下遊離(さかしたゆうり)だ。

「なるほど、あの子が(くだん)の彼女さんか。坂下くんとは生きている次元が違いそうなタイプに見えるんだが?」

 神田が抱いた感想は至極当然のもので、チャラい気配を周囲に撒き散らしている坂下とは違い、彼の彼女である湯川綾織という少女は深窓の令嬢のような清楚なオーラをまとっいたのだ。お付きの者がいても違和感がないくらいにお嬢様系の空気感を持っている。神田のテキトーな想像で説明すれば、午後のティータイムに三段トレイに乗ったスコーンでも食べていそうな感じだ。庶民な俺とはかけ離れた世界にお住まいなのだろうと、彼は半ば思考停止状態であった。

 そんな神田に坂下は口に手を当てて、

「実はあれ、強化外骨格なんすよ」

 そんなことを言った。神田は眉根にシワを寄せて首を捻る。

「えーと、きみの彼女はサイボーグかなんかなの?」

「いやいや、そうじゃなくて……まあ分かりやすく言えばソトヅラですよ。借りてきた猫とかそういう表現があるじゃないすか、大体そんな感じなんすよ」

 坂下の説明によれば、彼女は一般人であるが、所謂(いわゆる)お嬢様学校に進学した結果、あんな感じになったらしい。親しい仲には仮面をしていない素の彼女を見せるとのことであった。

「ああツンデレってことね」

「ニュアンス違いますけどだいたいあってますっすね」

 そんな会話を彼らが交わしているうちにバトルの勝敗は決していた。

 勝者は話題の中心であった湯川綾織。一般的に白重(しろじゅう)と呼ばれるタイプのデッキで勝利を収めたようだった。坂下の使用した白メイン黄タッチのデッキを構築したのが彼女であるならば、本人が白使いであってもなんらおかしくない話であった。

「神田さんの相手は綾織になったってわけっすね」

「誰が相手でも負けるつもりはないけど」

「神田さんも強いっすけど、綾織も相当強いんで気をつけることをオススメするっすよ」

 そう忠告に似た言葉を残し、坂下はカノジョこと湯川綾織のところへ。

「……不思議な二人組だ」

 遠目に坂下と湯川綾織を見ると、前者が後者をナンパしているようにしか見えないと神田は思った。

 

 

 そして、このショップバトルもそれぞれのブロックの代表者を決めるバトルと決勝戦を残すのみとなった。

 まずはAブロック代表を決める崎間深月VS水原遠音。

続けてBブロック代表を決める神田俊道VS湯川綾織。

最後にそれぞれのブロックの勝者による決勝戦。

 

 

 深月はデッキを持ってバトルフィールドの装置の前に立っていた。このバトルに勝てば優勝は目前。しかし、彼女の相手である水原遠音という青年は一縷をほぼ封殺して勝利した。デッキ同士の相性は言わずもがなであるが、それ以上にプレイングに隙がなかった。深月も一縷を弱いと評するつもりはない。一縷を上回る実力を水原遠音は持っていると深月は感じていた。

 だが、深月に負けという未来予想は存在していない。ただ、勝利だけを見据えていた。

 無言で水原遠音もバトルフィールドに移動する準備をし、深月から少し離れた場所に立つ。

 両者の中間に店長がやって来て、声を張った。

「Aブロック決勝、崎間深月さんVS水原遠音さんのバトルを始めます! ゲートオープン……」

「界放!」

 

 

 * * *

 

 

 先攻は深月から。彼女はワン・ケンゴー召喚からのバーストセット。盤石な立ち上がりだ。

 返しの水原のターン。海魔巣食う海域を配置してターンエンド。こちらも定石通りであった。

 続けて第3ターンになり、深月はカグツチドラグーンを呼び出しアタック。効果で手札を増やした。

 

第4ターン

<水原遠音>

リザーブ:7 手札:5 ライフ:4

海魔巣食う海域(Lv2)

 

「じゃ、メインステップ。ライト・ブレイドラ召喚。続けて、来い……凶龍爆神ガンディノス」

 前髪が目にかかり気味で表情が窺えない水原の静かな声のあと、フィールド全体を大きく揺らし、大地を突き破り現れたガンディノス。頭部の剣の角がギラリと光を反射し、強靭な(かいな)が地面を削り取るように掴む。小さなライト・ブレイドラは振動に驚いているようだ。

「海魔巣食う海域をレベル2にアップ。そしてアタックステップ、やれガンディノス」

 ライト・ブレイドラの強化(チャージ)を受けてガンディノスのアタック時効果の破壊範囲が拡大される。その結果、バーストセット時であればレベル3となりBP5000以下の破壊というガンディノスの効果のラインを超えていたワン・ケンゴーが効果の範疇に収まることになった。

ガンディノスを擁する強襲デッキが大会を席巻したのは記憶に新しい。ブレイヴ登場以前に突如として現れたこのカードが、バトルスピリッツに大きな影響を及ぼしたことは明白だろう。それは今の環境下でも遜色なく、それどころかフィールドの状況を一変させる力を持っていることからも分かることである。

 そんなガンディノスを強く後押ししたのは皇牙獣キンタローグ・ベアーの登場と、赤の強化の登場だろう。前者も後者も相性抜群であるが、後者は前者と比較して速度が圧倒的に早い。水原がやったように、軽減としても活躍するライト・ブレイドラはガンディノスの強力な相棒であることは疑いようがないだろう。

「ガンディノスの効果、ワン・ケンゴーを破壊し1枚ドロー。強襲で回復する」

 ガンディノスはワン・ケンゴーを踏み潰し深月に直進する。まるでワン・ケンゴーなどいなかったかのように突き進む。

「海魔巣食う海域の効果がやっかいなんだよなあ」

 深月はバーストゾーンにセットしたカードを見てため息をこぼす。特定の色のバーストを封じる効果を持つネクサスである海魔巣食う海域。赤と青のシンボルのネクサスで、ガンディノスのためにあつらえられたカードだ。大概の場合、レベル1・2の効果は無視されているように深月は思った。

「しゃーない、ライフあげる」

 振り押される豪腕に一切臆する様子を見せず、深月はライフを減らした。

 

<崎間深月>

ライフ:5→4

 

「もう一度だ」

 ガンディノスの二度目のアタック。アタック時効果で深月のカグツチドラグーンは破壊され、ライフも砕かれる。

 

<崎間深月>

ライフ:4→3

 

「あーキツイ」

 全くきつくなさそうに深月がそんな言葉を吐く。一種の挑発じみた発言であったが、水原は別段反応もなくターンの終了を宣言した。

 

第5ターン

<崎間深月>

リザーブ:8 手札:5 ライフ:3

バースト有り

 

「えーと、バースト破棄して新たなカードをセットしまーす」

 深月はバーストゾーンのカードをトラッシュに置いた。破棄されたのは双光気弾。そして新たなカードを配置する。

「赤デッキ同士のバトルったら破壊のしあいになるよねえ。新たにワン・ケンゴー召喚。でもって……騎士王蛇ペンドラゴンを直接合体(ダイレクトブレイヴ)で召喚」

 頭部に刀を備える犬型のスピリットが現れ、その頭上にペンドラゴンが出現する。ペンドラゴンは柄にアメジストの宝石が埋め込まれたブロードソードに姿を変え、それをワン・ケンゴーがくわえる形で合体する。

 ペンドラゴンの召喚時効果でガンディノスはコアを失い消滅。深月は手札を増やす。

「んでアタックステップ……んー、まあここは待ちかな。てわけでアタックはせずエンド」

 残りライフや返しのターンの守りを考えると、深月は動きたくても動けなかった。ライフが残り3つも『ある』とするか、3つしか『ない』とするか。いずれにしても待つのが最善であろう。

 

第6ターン

<水原遠音>

リザーブ:6 手札:6 ライフ:4

ライト・ブレイドラ(Lv1)

海魔巣食う海域(Lv2)

 

「ライト・ブレイドラをレベル2にアップ。続けて双翼乱舞を使用する」

 6枚と既に多い手札を水原は増強する。視線が手札を忙しなく見て、1枚のカードをバーストとしてセットした。

「アタックステップはなにもしない。エンド」

 枚数のある手札であるが、質はあまり良くないようだ。ガンディノスの早々の退場も水原にとっては苦しいものであったが、フィールドの状況が芳しくないのは深月も同じであった。

 

第7ターン

<崎間深月>

リザーブ:8 手札:4 ライフ:3

ワン・ケンゴー&騎士王蛇ペンドラゴン(Lv3)

 

「さて、反撃といきましょうか。焔竜魔皇マ・グー、召喚!」

 深月の緩い声とは裏腹に派手に業火を纏い現るマ・グー。火災旋風の渦を咆哮で吹き飛ばし鎌を突き立てた。

「アタックステップ開始時、トラッシュのコア全てをマ・グーに置く。まずは合体でスピリットでアタック」

 6つものコアがマ・グーに与えられ、レベル3になり、自らの効果でダブルシンボルかつBP13000に強化される。

 ブロードソードに姿を変えたペンドラゴンをくわえ、ライト・ブレイドラに特攻するワン・ケンゴー。バーストセット時効果でレベル3。激突によりライト・ブレイドラは強制的にバトルを強いられた。

「一応合体アタック時効果でコア飛ばすけど、あんまり関係ないかな」

 ライト・ブレイドラはペンドラゴンの変化した剣の斬撃にコアを1つリザーブに送られる。レベルは1に下がるが、元々ライト・ブレイドラはBP比較で合体スピリットに敵わないので、深月の言うとおり結果に変化はないだろう。

「ライト・ブレイドラでブロック」

 水原もフラッシュを使うことなくライト・ブレイドラをバトルさせた。

 小さな身体で懸命に突進するが合体スピリットの頭突きに吹き飛ばされ、ライト・ブレイドラは破壊された。

「破壊でバースト発動」

 ライト・ブレイドラの破壊により水原の仕掛けたバーストが起動する。烈風が巻き起こり、その強風にマ・グーが膝をついてしまった。

「あー、もしかして読まれてたってことかな」

 深月はため息混じりに嘆息する。少し迂闊なアタックであったかもしれないと、彼女自身も合体スピリットのアタックを宣言した直後に思っていたが時既に遅し、であった。

「風の覇王ドルクス・ウシワカをレベル3でバースト召喚」

 輝く緑の翼を羽ばたかせ、ドルクス・ウシワカが水原のフィールドに降り立つ。スピリット2体を疲労させる強力なバースト効果と、コアの数を参照した緩い召喚条件。コアブーストを得意とする緑に限らず、召喚の条件であるコア8個以上はしばらくターンを重ねればどんなデッキでも用意に満たすことができる。

「不本意だけどエンドしかないわね」

 召喚したにも関わらず何もできなかったマ・グーを眺め、深月はいつもの気楽さを半減んさせた声音でターンを明け渡した。

 

 

 * * *

 

 

「なんか、ねえちゃん押されてんな」

 卓郎が神田に話しかけるように呟いた。一緒にモニターを見ていた神田も特段の反応は示さなかったものの、卓郎の言葉に一理あるように感じていた。

「崎間のフィールドは疲労させられたせいでがら空きだ。返しでまた強襲持つようなスピリットが出てきたら、さすがに防御札の1枚や2枚は使わされることになるんだろうな」

 深月がいつぞやの神田とのバトルで使った防御札はデルタバリアと絶甲氷盾。それぞれ複数枚数積まれていると推測されるから手札に握っている可能性は高いが、彼女の手札の枚数は僅か3枚。なんのバーストをセットしたかは未知数であるが、赤、緑、白のバーストは水原の配置した海魔巣食う海域の効果で発動することができない。

「紫、黄、青……防御札のバーストなんてあったっけか……」

「水原ってやつが海魔のレベル下げるかもしんないぜ? それを見越して絶甲氷盾仕掛けてるとか」

「そりゃないだろう。水原ってのが次になにを召喚するかは知んないが、コアが不足するようならウシワカ溶かしてでも海魔のレベルを維持するだろ」

 卓郎のミスを期待する可能性を神田は排除する。水原遠音というバトラーが不確定要素を限りなく潰していく戦いをしているように神田には思えた。まだ数ターンの攻防だが、『勝つためのバトル』をしているのは水原遠音であろう。

 神田は崎間深月というバトラーが強いことを身をもって知っている。水原遠音も強いバトラーであろうが、強さの方向性が違う。

「崎間は圧倒的に引きが強い。重要なタイミングごとに必要なカードをいつも握っているからな」

「あー……分かる……」

 思い当たるフシがあるらしく、卓郎は盛大に頷いた。

「ねえちゃんって、制限カードスゲー引くんだよな。実際に、今のバトルでも気弾とペンドラ引いてるし。まあ双光気弾は不発に終わったけど、もしかしたらもうストアタも手札にあるかも」

「ライフは3か……」

 戦況を打開するカードはもうバーストとしてセットされているだろう――そんな奇妙な確信を神田は抱いていた。

 

 

 * * *

 

 

第8ターン

<水原遠音>

リザーブ:3 手札:7 ライフ:4

風の覇王ドルクス・ウシワカ(Lv3)

海魔巣食う海域(Lv2)

 

「ウシワカをレベル1にダウン。戦竜エルギニアスを召喚、そして再び凶龍爆神ガンディノスを召喚する」

 小さな竜と強大なる龍が水原のフィールドに並び立つ。

「続けて、牙皇ケルベロードをガンディノスに合体」

 鉄すらも切り裂いてしまいそうな爪と鋭い牙の獣が、ガンディノスの強靭な肉体を殊更に強くする。ケルベロードの鎧を纏ったガンディノスは打ち震えるように咆哮を轟かせ、呼気を吐いた。

「バーストをセットしアタックステップ。喰らい尽くせガンディノス」

 強襲で回復しながらの攻撃。そのアタックのあとにはケルベロードの回復がありガンディノスとケルベロードの合体スピリットは3回ものアタックを行える。

「さすがに全部食らうわけにはいかないんだよね。フラッシュタイミング、ストームアタック! 合体スピリットを疲労させてこっちはマ・グーを回復させる。でも、ブロックはしない」

 立ち上がり雄叫びを発するマ・グーであったが、深月は自らのライフを合体スピリットに差し出すと宣言する。マ・グーが主である深月を一瞬見遣ったように見えた。

「……ヤケになったとかじゃない。あんたにはまだやってもらうことがある」

 だからこんなところで破壊させるわけにはいかない、と深月は独り言のように漏らした。それがマ・グーに聞こえていたかは定かではないが、マ・グーは爆進する合体スピリットを見送った。

「そのダブルシンボル、受けたげる」

 不敵に口角を上げて、深月が仁王立つ。

 深月のいる舞台を押し潰すほどの威圧感で合体スピリットであるガンディノスが、巨大な爪で展開されたバリアを引き裂いた。

 

<崎間深月>

ライフ:3→1

 

 ライフの砕ける甲高い音。深月はたたらを踏んで項垂れる。前髪が目元を隠すが、その目に諦めの色は微塵もなかった。

「……ライフ減少時バーストで魅惑の覇王クレオパトラスを召喚! レベルは2」

 仮面のような表情のない顔。金色(こんじき)の衣と翼、竪琴を鳴らし降臨するクレオパトラス。背後に大きな魔法陣が浮かび上がり、クレオパトラスが手を翳すと、深月のトラッシュから1枚のカードが浮き上がり彼女の手に収まった。

「トラッシュからストームアタックを回収」

「……エンド」

 水原はあっさりとエンドステップを迎えて、深月にターンが移る。

 

第9ターン

<崎間深月>

リザーブ:6 手札:4 ライフ:1

ワン・ケンゴー&騎士王蛇ペンドラゴン(Lv1)

焔竜魔皇マ・グー(Lv2)

魅惑の覇王クレオパトラス(Lv2)

 

「まーずーはー、サジッタフレイムでウシワカには退場願いまーす」

 紅蓮の矢が豪雨のように降り注ぎ、ドルクス・ウシワカは破壊される。

「バーストはなしか。次はペンドラゴンをマ・グーに合体させて、クレオパトラスをレベル3にアップ」

 ワン・ケンゴーがくわえていた剣を空高く放り、自由落下するそれをマ・グーが掴む。それを演武のようにくるくる回し、水原に突きつけるようにして構えた。

「じゃ、アタックステップに入ってトラッシュのコア3つをマ・グーに乗せてレベル3にアップだよ」

 合体と自身の効果により、マ・グーの現在のBPは17000。この高さのBPを超えるのは難しいだろう。

「マ・グー、よろしく」

 合体時効果でエルギニアスのコアがリザーブに移動する。これによりエルギニアスは消滅し、水原のフィールドにブロックを行えるスピリットはいなくなった。

「ライフだ」

 4つの腕から繰り出される強烈な攻撃。バリバリと音を立て水原を守るバリアが明滅し、彼の胸元のライフの輝きが二つ消失した。

 

<水原遠音>

ライフ:4→2

 

「ライフ減少によりバースト発動、龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード来い。効果でクレオパトラスを破壊する」

 渦巻く火炎がフィールドを縁っていく。炎に包まれた円形闘技場に龍の頂点にふさわしい覇王が降臨する。

 黒い翼で爆炎が揺らぐ。ジーク・ヤマト・フリードは大地に降り立つと剣を一度掲げ、それを地面に突き立てた。すると、クレオパトラスが浮遊する足元からマグマの間欠泉が吹き上がり、クレオパトラスはなにもできず破壊される。

「レベルは3で召喚する」

 水原はリザーブとネクサスのコアを集めジーク・ヤマト・フリードを壁として立たせた。

「ヤマトはキツイなあ……」

 深月は「んー」と唸り首をかしげた。

 彼女の手札にはクレオパトラスの召喚時効果で回収したストームアタックがある。ワン・ケンゴーのアタックのフラッシュタイミングに合わせて使えば、先ほど現れたばかりのジーク・ヤマト・フリードをこのターン無力化できる。しかし攻め切れるかは五分五分だろう。できればクレオパトラスのアタック時にストームアタックを使用したかったが破壊されては仕方がなかった。

「……さすがに防御札は握ってるよねえ」

 深月は小声で口にする。ここで終えるのも一つの手だ。しかしワン・ケンゴーはレベル1。バーストもなく次のターンになれば破壊されるのは確実だった。

「……アタックを継続。ワン・ケンゴーでアタック」

 走り出すワン・ケンゴー。深月がストームアタックを持っていることを知っているはずの水原であるが、一度目のフラッシュタイミングはないと宣言した。

「そ、ワタシに使わせようって魂胆ね。いいよ、乗った。フラッシュタイミングでストームアタックを使用!」

 向かい風がジーク・ヤマト・フリードを疲労させ、マ・グーは追い風に弾かれたように回復する。

「こっちもフラッシュタイミング、絶甲氷盾を使う。コアは全てジーク・ヤマト・フリードから確保する。ワン・ケンゴーはライフで受ける」

 ワン・ケンゴーの刀が水原のバリアを一閃。ライフが真っ二つに切り裂かれた。

 

<水原遠音>

ライフ:2→1

 

 水原と深月、両者のライフが1になり、どちらもアタックが通れば敗北する状況となっった。両者とも背水の陣。

 しかし深月のターンは視程をゼロにするほどのブリザードに阻まれ終わりになった。

 

第10ターン

<水原遠音>

リザーブ:11 手札:3 ライフ:1

凶龍爆神ガンディノス&牙皇ケルベロード(Lv1)

龍の覇王ジーク・ヤマト・フリード(Lv1)

海魔巣食う海域(Lv1)

 

「永遠なる水道橋を配置。更にガンディノスとジーク・ヤマト・フリードをレベル3に。そして海魔巣食う海域をレベル2にアップ」

 それぞれのスピリットのBPは17000と13000。現状のマ・グーのBPは14000。後者のBPには勝っているものの、強襲とケルベロードの効果で脅威の4回アタックをしてくるガンディノスには劣っている。そしてなにかしらのフラッシュを使うことを考えればマ・グーからコアを確保する必要がありジーク・ヤマト・フリードにもBPで負けるだろう。

「アタックステップ。合体スピリットでアタックだ」

 ガンディノスの振り下ろした腕にワン・ケンゴーが押しつぶされ、水原はカードを1枚ドローする。さらに強襲で海魔巣食う海域を疲労させてアタックを継続する。

 ガンディノスが深月の眼前に迫り、一咬みで深月を噛み殺せるであろう牙が手が届くほどの距離にまでに近づいた。

「まあ、やっぱりこれは強いカードだよね。フラッシュタイミング……アルターミラージュ。そしてアタックはマ・グーでブロックする」

 深月は引き抜いたカードを見せつける。そしてマ・グーでガンディノスのアタックをブロックした。

 マ・グーのコアはアルターミラージュの不足コストを補うために確保され、それによりレベルが2にダウン。BPも12000に下がってしまう。しかしアルターミラージュの効果を考えれば相手のスピリットよりBPが低い方が都合がよかった。

 ガンディノスの豪腕をペンドラゴンの剣でいなし、鎌を振るうマ・グー。それはガンディノスの硬い鱗に弾かれてまい、体勢を崩したところに後方から振るわれた尻尾にマ・グーは吹き飛ばされ破壊されてしまう。

「アルターミラージュの効果。BPの比較で破壊された自分のコスト3以上のスピリットは回復状態でフィールドに残る!」

 炎を纏い再度現れるマ・グー。深月にはどんな攻撃も通さないと言わんばかりに咆哮した。

「エンド」

 これ以上のアタックはスピリットを疲労させるだけで意味が無いと判断し、水原はターンを深月に明け渡した。

 

 

 * * *

 

 

「……さすがだな」

 神田は思わず感嘆していた。あの圧倒的不利な状況を、深月はキースピリットであるマ・グーを残しながら凌いでみせたのだ。ケルベロードと合体したガンディノス、ヤマトと並んだ状況で損失なしに抑えられるのは彼女くらいだろう。

「アルターミラージュとは、また少し変わった防御札を採用してるんすねえ。でも素晴らしいプレイングっすね」

 神田と同様に坂下も感動したと言わんばかりにため息をつく。

 いまいち状況が理解できないのか、卓郎が神田に質問を投げつけた。

「にいちゃん、ねえちゃんのさっきの一手ってそんなにすげえのか?」

「ああ、相当すごい。俺にはあんな芸当は無理だろうな」

「いや、にいちゃんも大概だぜ?」

「そりゃどうも。で、なにがすごいか、だったな」

 神田はしばし思案して、メジャーな防御マジックを二つ挙げた。

「よく採用される防御札ったら、絶甲氷盾やデルタバリアなんかが多いだろう。深月の場合その辺も積んでるみたいだが、今回のケースじゃ損失なしに自分のターンを迎えられるのはアルターミラージュくらいだろう」

 先ほどの深月はライフ1、ブロックできるのは合体したマ・グーのみ。

「深月が持っているカードが絶甲氷盾だったと仮定するとどうなる?」

 神田は卓郎に問う。

「えーとそうだな……ガンディノスのアタックに合わせて絶甲撃つ。で、マ・グーでブロックだ。でもそうすっとマ・グーは破壊されて残るのはペンドラだけか」

「アタックステップを終了させるにはマ・グーを壁にする必要があるからな」

「でもデルタバリアならマ・グーもライフも残せるんじゃないの?」

 卓郎の再びの質問に回答するのは坂下。

「ヤマトは指定アタックができるっすよね。多分っすけど、あの水原って人ならマ・グーに指定アタックして潰してくると思うんすよ。マ・グーは生き残らせておくと面倒っすから」

「……そっか。ライフにダメージ通らないならマ・グー破壊しにくるか……。だからあの状況はアルターミラージュじゃないと防げなかったってことか!」

 納得したのか卓郎の語気が強まる。

「問題は次のターンだろうな。このターンで勝てないならもう崎間に勝機はない」

 神田は卓郎とは打って変わった冷静な声音で返答する。

「まあ、ここで勝ちを奪いに来るのがあいつだろうけど」

 自然と会話は途絶え、三人の視線はモニターに向いていた。

 

 

 * * *

 

 

第12ターン

<崎間深月>

リザーブ:10 手札:2 ライフ:1

焔竜魔皇マ・グー&騎士王蛇ペンドラゴン(Lv2)

 

「えーと、とりあえず今引いた双翼乱舞で手札を増やそうかな」

 深月の手札が2枚から3枚に増える。カードが1枚増えるだけでできる行動は増えるものだ。

「次にカグツチドラグーンを召喚して、マ・グーのペンドラゴンをカグツチドラグーンにつけかえてっと」

 レベル2のカグツチドラグーンのBP6000にペンドラゴンの合体時BP+4000により、BPは10000に。

「アタックステップに入っちゃうよ。てわけでトラッシュのコア4つをマ・グーに乗せてレベル3にアップ。更に効果で系統:古竜を持つマ・グーとカグツチはBP+3000」

 深月はまず合体したカグツチドラグーンでアタック。効果で手札を増やし、激突により強制ブロックを迫る。更にペンドラゴンの合体アタック時効果でジーク・ヤマト・フリードのコアが一つリザーブへ。これでヤマトのレベルが2に下がった。

「フラッシュタイミング、秘剣燕返。ペンドラゴンを破壊する」

 フラッシュを使用した水原に対し深月もフラッシュの使用を宣言する。

「じゃあこっちは覇王爆炎撃を使うよ。吹っ飛べガンディノス!」

 合体スピリットであれば問答無用で破壊するマジック。コストの重さが目立つものの、マ・グーによりコアが潤沢な深月にはする必要のない心配だろう。

 深月の見せたカードより生み出された爆炎が合体したガンディノスを焼き尽くす。

「ケルベロードは残す」

 爆風の中から分離したケルベロードがフィールドに降り立つ。

「そしてケルベロードでブロッ――」

 ブロックを宣言しようとした水原の声を遮り、深月が声を上げる。

「実はまだフラッシュがあるんだ。サジッタフレイムで牙皇ケルベロードを破壊」

 炎の矢が降り注ぐ。回避を試みるも逃げる隙もなく降る矢にケルベロードは串刺しにされて破壊される。

「くっ……ならヤマトでブロックだ」

 サジッタフレイムの不足コストでレベルが下がったカグツチドラグーンがヤマトに激突する。

 突進をするカグツチドラグーンの頭部をヤマトはわし掴みにして大地に叩きつけた。

「カグツチドラグーンは破壊されたけど、これでブロッカーはなし。相手のライフを切り裂けマ・グー!」

 巨大な鎌を肩に乗せ、マ・グーはゆっくりと水原に近づいていく。

「まだだ、フラッシュタイミング。リブートコードを使用しヤマトを回復させる」

 水原は負けるつもりはないとフラッシュで応戦する。本当は攻めで使いたかったカードなのだろうが、回復を行うカードは守りにも使えるの点で優秀だ。

「そしてブロック」

 ヤマトの灼熱の剣とマ・グーの漆黒の鎌が刃を交錯させる。一度の接触でフィールドを揺らす衝撃が走り、深月も水原も舞台でバランスを崩した。

 刀身がぶつかり合う。まさに鎬を削る打ち合いが続く。

 BPで勝っているのはマ・グー。マ・グーのBPは13000であるのに対しヤマトのBPは10000。

 しかし水原としてはこのターンをしのげればいいのであり、このバトル自体の勝敗には意味が無いと考えていた。マ・グーの攻撃を凌げばあとは深月のがら空きのライフを撃つだけ。ヒヤヒヤとした展開になったが、さすがにもうフラッシュはないだろうと、水原が深月の顔を見た瞬間、彼は目を見開いた。水原と目が合った深月が、にぃと唇を歪めて笑った。それは酷く楽しげな表情で、しかし負けるつもりなど一切ないとその眼光が語っていた。

「まだ、あるのか……?」

 水原の吐き出すような呟きに、深月は2枚の手札の1枚を水原に見えるように人差し指と中指で反転させた。

「これをさ、好んで使う奴がいんのよ。気まぐれで入れたんだけどね」

 深月が見せたのはタフネスリカバリー。水原の顔から血の気が引いていった。

「で、フラッシュで使うよ。コスト確保でマ・グーはレベルダウンするけど、回復の条件であるBP10000以上だから問題なーし」

 マ・グーのレベル2のBP8000。自身の効果でそこにBP+3000されBP11000。更にタフネスリカバリーの効果で+2000されて、最終的なBP13000となった。

 ヤマトの剣を跳ね飛ばしたマ・グーは真っ黒な鎌でヤマトを両断する。当然、ヤマトは破壊され、水原の場のスピリットは全て破壊されたことになる。

「あとは、そのライフを砕いておしまい、だね」

 回復していたマ・グーが炎の尾を引き、周囲の空気をその熱で揺らめかせながら、水原の元へと到達する。

「く……ライフで受ける……!」

 悔しさをにじませた顔で水原が言う。

 三本指を順に曲げて握りこぶしを作ったマ・グーは腕を振り上げ、そのこぶしで水原を守るバリアを突き破り彼の最後のライフを粉々に砕いた。

 

<水原遠音>

ライフ:1→0

 

 

* * *

 

「悔しいけど、負けました」

「いやいやー、お疲れ様さまー」

 バトルも終わり、水原と深月が握手を交わす。

 簡単な会話もそこそこに水原は離れていった。その姿を見送るように視線をやった深月。その先には神田が立っていた。卓郎と坂下も一緒だ。

「さすが、としか言えないな」

 神田の素直な感想に深月は「まあねー」と愉悦感を露わに笑う。

「あ、ちなみに最後の手札はタフネスリカバリーとインビジブルクロークでしたてへぺろ」

「…………は?」

 深月のあっさりとした暴露に神田も卓郎も坂下も口を開けて呆けた。

「実はカグツチでクローク引いてねえ。でもタフネスリカバリーで勝った方が盛り上がると思ってね。ほら因縁っぽい感じとかね」

 自らの頭をこぶしでコツンとして、ムカつく笑顔を浮かべる深月。人を苛立たせるためだけの言動だった。

 それに神田はため息混じりに、こいつは色々と次元が違うのだなと思いながらも、今度こそ必ず勝つという決意を新たにする。

「ねえちゃん……引きが神すぎる……」

 卓郎は絶望したようにそんなうわ言をもらした。確かに常人のそれを遥かに超越した引きを見せる深月をずっと見ていては心が病んでもおかしくなかった。

「で、次はアンタじゃないの? 神田」

 自分のことはもういいとでも言わんばかりにさくっと話題を移す深月。それに神田も頷いた。

「ここで、負けるわけにはいかないからな」

 神田がそう自分のデッキを見て呟くと、隣に立っていた坂下がわざとらしく咳払いをする。

「あーあ、んん。次は神田さんの出番っすね。それで相手は綾織。俺はどっちを応援すればいいんすかね」

「普通に彼女を応援しとけよ。悪いけど、負けるつもりはない」

「それはこちらも同じこと、ですね」

 背後からの声。神田、卓郎、坂下に向き合っていた深月以外が振り返り、声のあるじを視認した。

 フリルのついた白いブラウス。可愛らしさを演出しつつも清楚な印象。ボトムスは黒の長めのプリーツスカート。裾から除くペチコートの透かし編みの装飾が涼やかで、ハーフアップにした青みのある黒髪が人目を引く。目鼻立ちは日本人よりもハーフと言われた方が納得する。

「あなたが神田俊道さんですね」

「あんたが対戦相手の湯川綾織さんってことか。話は坂下から聞いてるよ」

 綾織の目が一瞬だけ坂下に移り、すぐ神田に向けられる。

「遊離さんはいい加減な人ですから、彼の言うことは真に受けないであげてくださいね」

「ちょ、待て待て! さすがに猫被りすぎだろ綾織。しかもさり気なく俺を貶めてるし」

「あら、事実を言ってはいけませんでしたか?」

「事実とか言うんなら自分の強化外骨格についてはどう弁明するんだよ」

「なんのことかしら?」

 素知らぬ顔をする綾織。そしてそれに突っ込む坂下。神田は初め二人を見た時、坂下には悪いが釣り合ってないと思っていたが、どうやらそれは誤りだったようだ。会話をする二人は楽しげでベストカップルと形容できそうだ。もっとも非常に楽しんでいるのは湯川綾織だけのようだが。

「彼の戯言は無視しましょう。さて、次は私と神田さんとの戦いですね」

 坂下に突っ込ませるだけ突っ込ませて、最後は放置する綾織嬢。その二人の姿に神田は苦笑しつつ答える。

「そうだな、さっきも言ったけど……」

「負けるつもりはない、ですね」

「ああ」

「正々堂々と、自分の全てをぶつけ合って戦いましょう」

 綾織の差し出した手のひらに神田も手のひらを重ね、バトルが待ちきれないと二人してどこか黒さの混じった笑みを浮かべた。

 




遅すぎオワタ。
えー、更新してないかなーと覗いてくださっている方がいましたら大変お待たせしました。
ええ、サボってました(真顔)
いえちょっと新生活的なあれでして、はい。
言い訳しても面白くないのでこの辺でこの話はおしまい。

内容。
つよいかーどがいっぱいでてきたよ
こんな感じでした。
久しぶりに書いたこともありキャラの性格忘れる、相変わらず深月の口調が定まらない、むしろ定まらないことが定まってるみたいな、そんなことがありました。

次はさすがにこんなには遅くならないはずですぬぬぬ。
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