バトルスピリッツ アナクロニズム   作:にしはる

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09 決戦! マ・グーVSビャク・ガロウ

 戦えば必ず一方が勝ち、他方は負ける。その積み重ねの中で一度も負けなかった2人が決まった。

 神田俊道と崎間深月。2人はバトルフィールドの転送台に立ち、今にバトルが始まるのを待っていた。開始を待つのは2人だけではない。これまでの戦いに参加してきたバトラー、観戦してきた者。

 誰もが今か今かと待ち望む中で、店長が声を上げた。

「ついに最終戦、どちらが優勝するのか! 神田俊道VS崎間深月の戦いです! ゲートオープン……」

 ショップの全てが一体となり、声を張り上げた。

『界放!!』

 

 

 * * *

 

 

 どちらも会話をすることもなく、準備をする。自らの手で組み上げたデッキのスピリット、ブレイヴ、ネクサス、マジックを信ずるのみである。

 

 

第1ターン<神田俊道>

リザーブ:4 手札:5 ライフ:5

 

 神田は猪人ボアボアLv1を召喚しターンエンド。

 

 

第2ターン<崎間深月>

リザーブ:5 手札:5 ライフ:5

 

 深月はカグツチドラグーンをLv1で召喚。アタックステップでアタックし、手札を増やす。神田はライフで受け、ライフを4とした。

 

 

第3ターン<神田俊道>

リザーブ:5 手札:5 ライフ:4

猪人ボアボアLv1(c1)

 

 メインステップで神田はミツジャラシを召喚。召喚時でコアを増やし、ミツジャラシをLv2に上げる。

 アタックステップに入ると猪人ボアホアでアタックし連鎖でコアを増やし、深月のライフ1つを破壊した。

 

 

第4ターン<崎間深月>

リザーブ:6 手札:6 ライフ:4

カグツチドラグーン(a)Lv1(c1)

 

「さて、まずはバーストセットから。更にオードランと2体目のカグツチドラグーンをそれぞれLv1、Lv2で召喚」

 

召喚

オードランLv1(c1)

カグツチドラグーン(b)Lv2(c3)

 

「ではアタックステップ。Lv2のカグツチドラグーン(b)でアタック」

 後から召喚されたカグツチドラグーンが羽ばたき滑空する。

 深月は効果で手札を増やし、激突によりミツジャラシがブロックに向かう。

 火炎を纏い突進するカグツチドラグーンをミツジャラシはなんとか回避する。しかし飛行速度で勝るカグツチドラグーンに捕らえられてしまう。噛みつかれて地面に叩きつけられる瞬間に、神田がフラッシュタイミングを宣言した。

「マジック、ソーンプリズン。コストはボアボアとミツジャラシから確保だ」

 

使用:ソーンプリズン

効果:相手は、相手のスピリット2体を疲労させる

対象:オードラン カグツチドラグーン(a)

 

「2体を疲労させてコスト確保でミツジャラシは消滅する」

 

 カグツチドラグーンは不意に消えたミツジャラシに動揺するような仕草を見せつつも、自陣に戻っていく。

「おっとっと……これじゃ攻め手も守り手も絶たれたってことか。やってくれるじゃない」

 深月が少し驚いた顔を見せた。彼女は神田がミツジャラシを残すプレイングを見せたために、BPアップのコンバットトリックを狙っていると推測し、バーストに双光気弾をセットしていた。しかし実際にはバーストも発動できず結果として3体のスピリット全てを無力化されてしまったのだ。ここで隙を見せるのはバトルの展開としては得策ではないのだ。

「ミツジャラシのLv2BP5000はなかなか高いからそういうのを誘うには充分だからな」

「してやられたかな……もうなにもできないからターンエンド」

 深月は仕方ないとでも言うように首を振ってターンを明け渡した。

 

 

第5ターン<神田俊道>

リザーブ:8 手札:4 ライフ:4

猪人ボアボアLv1(c1)

 

「猪人ボアホアにコア1つを追加、魔王蟲の根城をLv1で配置、更にメイパロットを召喚」

 

猪人ボアボアLv1(c1)→Lv1(c2)

配置:魔王蟲の根城Lv1(c0)

召喚:メイパロットLv1(c1)→Lv2(c2)

 

 神田は自軍を着実に整えていく。しかしカグツチドラグーンの激突により盤面の維持が難しいため早めの決着を想定していた。

「アタックステップ。猪人ボアボア、アタックだ」

 Lvアップとコアブーストにより猪人ボアホアはLv3に上がる。

 鉄球を回転させ、遠心力を利用しての投擲が深月のライフを狙う。

「んー……2点受けるのは割としんどいから……フラッシュタイミングで救世神撃覇」

 

使用:救世神撃覇

効果:1枚ドロー。手札のバースト効果を持つカード1枚をセットする

 

「コストはLv2のカグツチドラグーンから。ドローからバーストセット。セットしていたバーストは破棄だね」

 双光気弾を捨てて新たなバーストを置く。深月は猪人ボアホアのアタックはライフで受けた。

 飛んで来た鉄球が展開されたバリアと衝突し、火花を散らして深月のライフを砕いた。

 

崎間深月:ライフ4→3

 

 魔王蟲の根城Lv1効果により、神田のリザーブにコアが増え、深月のバーストが発動した。

「想像ついてたかもだけど絶甲氷盾。ライフを回復してコストも払っちゃう」

 

崎間深月:ライフ3→4

 

発動:絶甲氷盾

効果:アタックステップ終了

 

 コスト確保によりオードランとカグツチドラグーン(b)が消滅し、神田のアタックステップ吹雪の壁に阻まれて強制終了となった。

 

 

第6ターン<崎間深月>

リザーブ:8 手札:4 ライフ:4

カグツチドラグーン(a)Lv1(c1)

 

「ここまで凌げれば充分。行くよ、焔竜魔皇マ・グーを召喚!」

 

召喚:焔竜魔皇マ・グーLv1(c2)

 

 大地を引き裂き噴き上がるマグマの中から、黒い身体のスピリットが現れる。何層も重なる羽根を広げ火の粉を散らしながら降り立つ。巨大な斧にも鎌にも見える武器を携えている。

 神田と彼のスピリット達を熱波が襲う。頬がひり付くような感覚と本能的な恐怖が湧き上がるのを感じた。

「もう来たか、マ・グー」

「先にフィールドを制圧するのも闘い方の一つだからね」

 深月はふっと笑って、アタックステップへと移行する。

 ここでマ・グーの効果により深月のトラッシュのコア全てがマ・グーの上に移動する。

 

焔竜魔皇マ・グーLv1(c2)→Lv3(c8)

 

 コアの力を得てマ・グーが咆哮する。

「召喚したターンにLv最大、BP13000、ダブルシンボルはインチキすぎるよなぁ?」

 神田のため息まじりの発言に深月も頷いた。

「これほど頼もしいスピリットも少ないね。当然、相手するとなると厄介だけど」

 コスト7、軽減シンボル3という重いスピリットでありながら、焔竜魔皇マ・グーは自身の効果でコアを回収しLvも上げられるため、他の大型スピリットよりも1ターン早く動けるのだ。更に返しのターンでもコア不足に悩まされることがない。単体で完成されたスピリットである。

「まずはマ・グーからアタック」

 深月の命を受けて、マ・グーは鎌を頭上に掲げ振り下ろす。鎌の先端が地面に刺さり、その一直線上が割れてマグマが暴れるように溢れ出した。地割れは真っ直ぐに神田に迫る。

「メイパロットでブロックだ」

 白い小さな鳥のスピリットは勇敢にも噴煙を立ち上げ進行する地割れの進行方向に立ちふさがった。そして神田への被害が及ぶのをその身で防ぎ破壊された。

「カグツチドラグーンのアタックはどうする?」

 マ・グーの力を受けて、系統:古竜のカグツチドラグーンはダブルシンボルとなっている。

 燃える翼で大気を燃やし飛来するカグツチドラグーンに、神田はなにもせずにライフで受ける選択をした。

 鋭い牙の隙間からチリチリと炎が覗き、振り仰いだカグツチドラグーンが火炎を吐き出し、神田の立つ舞台全体を炎上させた。

「ぐっ……」

 ダブルシンボルにより神田のライフが砕かれる。

 

神田俊道:ライフ4→2

 

 深月はカグツチドラグーンのドローで手札を4枚にした上でターンを渡した。

 

 

第7ターン<神田俊道>

リザーブ:12 手札:3 ライフ:2

猪人ボアボアLv2(c3)

魔王蟲の根城Lv1(c0)

 

「行くぞ相棒、剣王獣ビャク・ガロウ召喚!」

 突如と吹く強風にフィールドのスピリット全てが身を屈める。風の音の中に獣の王の雄叫びがまじり、円形のフィールドの外部から前触れもなくビャク・ガロウは姿を現した。研ぎ澄まされた四肢の爪が大地に傷を刻み雄々しく吼えた。

 

召喚:剣王獣ビャク・ガロウLv2(c4)

 

 神田はビャク・ガロウ召喚以外の行動をせず、アタックステップに入った。

「ビャク・ガロウでアタックだ」

 ビャク・ガロウの強靭な脚に力がこもり、直後には一足飛びに深月の舞台まで跳躍する。

「このアタックを防ぐ術はない、か……ライフで受ける!」

 彼女の手札にカウンターできるカードはないようで、その宣言を行った。表情が曇ったのは、深月がビャク・ガロウのLv2の効果を知っているからであった。

 口に咥えた太刀が深月のライフを真っ二つに切り裂く。

 

崎間深月:ライフ4→3

 

「ライフを減らしたのでビャク・ガロウの効果が発揮される」

 神田がリザーブのコア1つをトラッシュに送ると、ビャク・ガロウはマ・グーとカグツチドラグーンを咆哮一つで退けた。つまりは深月の手札に戻したのだ。

「マ・グーならリカバリーしやすいけど、ビャク・ガロウも大概容赦ない効果してるからね?」

 深月は吹き飛ばされたカード2枚を空中で掴み手札に加えた。

「そうかもな。ターンエンドだ」

 神田は深月の言葉に同意を示しつつ、ボアホアをブロッカーに残してターンを終えた。

 

 

第8ターン<崎間深月>

リザーブ:11 手札:7 ライフ:3

 

 深月はオードランを召喚し、マ・グーとカグツチドラグーンを再召喚する。

 

召喚

オードランLv1(c1)

焔竜魔皇マ・グーLv1(c1)

カグツチドラグーンLv1(c1)

 

 3体のスピリットが一度に並び、ビャク・ガロウのバウンス効果を受けた後とは思えぬほどのリカバリー力であった。

「あんま影響なかった感じか? マ・グーは厄介極まりないスピリットだ」

 神田が少しげんなりした表情をする。それに対し深月は「いやいや影響大アリだよ」とヘラヘラと笑う。

「マ・グー維持できてたらドローにも破壊にもコア使い放題だったのに、再召喚させられたからね。1ターン封じられたようなもんだよ」

 とはいえアタックステップに入ってしまえば深月はまたいくらでもコアが使えるようになる。一度は優勢になった神田だったが、すぐにそれを覆されてしまった。

 崎間深月というカードバトラーの底知れなさを表しているかのような、そんな印象を神田は受けた。

「さあ、アタックステップに入るよ。覚悟はいい?」

 笑顔で、深月はそんなことを言った。それはこのターンで終わらせると宣言するような言葉だった。

 コアの嵐を受けてマ・グーはLv最大の万全の状態。召喚コストで払ったコア全てがマ・グーの上に移動している。

「かかってこい」

 神田の返答と同時にマ・グーが鎌を肩に担いだ。

「マ・グー、アタックよろしく」

 静かなアタックの宣言から、マ・グーがゆっくりと歩き出す。足跡のように炎の尾を残しながら尚も緩やかな歩速で進んでいく。

「フラッシュはある?」

 深月の問いかけに神田は首を振って応じた。

「そか、了解。じゃあワタシは使うね。フラッシュタイミング、インビジブルクロークを使用。対象はマ・グー」

 

使用:インビジブルクローク

効果:スピリット1体を指定する。このターンの間、指定されたスピリットはブロックされない

対象:焔竜魔皇マ・グー

 

 深月の声が聞こえた後、マ・グーの姿が消えた。煙が空気中に霧散するよりもなんの前触れもなく、消えた。そこにはなにもいなかったかのように、マ・グーは見えなくなった。

「知ってると思うけど、スピリットをブロックされなくするマジックね」

「ああ」

 傍目から見て、深月の勝利はよっぽどのことがない限り決定事項に思えた。

 しかし神田はまだ勝ち目はあると、インビジブルクロークを使われた瞬間に確信したのだ。

 ボアボアが姿をくらましたマ・グーを探すが影一つ見つからない。

「ストームアタックでやられることとか、メガバイソンを合体した上でアタックされることを想定していたカードがまさかね」

 少し前の深月の対戦で、実際使わなかったものの彼女はデッキにインビジブルクロークが入っていることを明言していた。そのことを無意識に覚えて、神田はこのカードに目をつけていたのかもしれなかった。

 結果論でしかないな、と彼はその考えを放棄した。しかし偶然にしろなにかの作用にしろ、今使うべきカードが手元にあるのだ。使わない選択はあり得なかった。

「フラッシュタイミング、コールオブディープ」

 

使用:コールオブディープ

効果:「ブロックされない」効果を持つ相手のスピリット1体を破壊する。連鎖:条件 緑シンボル 相手のスピリット1体を疲労させる。または、コスト4以下の相手のスピリット2体を疲労させる。

対象:

破壊効果→焔竜魔皇マ・グー

疲労効果→オードラン カグツチドラグーン

 

 神田の手にしたカードから弾丸のように放たれた水の塊が見えなくなっていたマ・グーを貫通する。正確には水の弾丸に射抜かれてマ・グーが視認できるようになった。マ・グーの姿を消していた見えない外套が粒子になって空気に消えてマ・グーも破壊される。

 オードランとカグツチドラグーンは足元に現れた水の溜まりにそれぞれ足を捕らわれ、疲労状態となった。

 トドメの一撃と思われたマ・グーのアタック、さらに他のスピリットも全て無力化された。しかしそんな状態になっても深月は笑った。

「まさかそんな返しされるとは思わなかったね。そりゃそうね、こんなに早く終わったんじゃツマンナイ」

 キースピリットの破壊により神田が優勢にも思える状況ではあるが、彼も深月がこの程度では終わらないことは分かっていた。

 

 

第9ターン<神田俊道>

リザーブ:10 手札:2 ライフ:2

猪人ボアボアLv2(c3)

剣王獣ビャク・ガロウLv1(c3)

魔王蟲の根城Lv1(c0)

 

「まずはストロングドローから」

 

使用:ストロングドロー

効果:自分はデッキから3枚ドローする。その後、手札2枚を破棄する

破棄→ブリーズライド ミツジャラシ

 

 神田は手札を整えてからフィールドのLvも調整する。

 

猪人ボアボアLv2(c3)→Lv3(c7)

剣王獣ビャク・ガロウLv1(c3)→Lv2(c4)

魔王蟲の根城Lv1(c0)→Lv2(c2)

 

「メインは終了、アタックステップ」

 神田はビャク・ガロウを疲労させアタックする。

 口の刀の切っ先で地面に線を走らせながらビャク・ガロウが駆ける。疲労する2体のスピリットを飛び越えて深月に襲いかかる。

「神速がそっちだけのモノだと思わないで欲しいわね」

 そう深月は言って1枚の手札を盤面に叩きつけるように置いた。

「メガ・ネウラーを神速召喚!」

 召喚時効果でカグツチドラグーンにコアを増加させる。

「んなもんまで仕込んでたのかよ!」

 神田が驚きを前面に出す。それの反応に深月はニヤリと唇を歪めた。

「ワタシのデッキはなんでもありよ」

 楽しげに言い切って、彼女はビャク・ガロウのアタックをメガ・ネウラーでブロックする。

 かつて存在した巨大なトンボを模したスピリットが、空中のビャク・ガロウの脇腹に追突する。宙では身動きの取れないビャク・ガロウはなすがままに叩き落とされ、かろうじて受け身を取りながら着地する。

 中空を旋回し再度襲い来るメガ・ネウラーに、ビャク・ガロウは逃げ場がないほど広範に無数の刀剣を投げ飛ばした。メガ・ネウラーは回避を試みるも、不規則な回転でかつ、多量の武器を避けきれずに羽根をもがれ破壊される。

「ざっとこんなもん。そこのイノシシくんはアタックするのかしら?」

 深月の雑な挑発に「バカ言え」と、神田はトラッシュからブリーズライドを回収しつつターンエンドを宣言した。

 

 

第10ターン<崎間深月>

リザーブ:10 手札:3 ライフ:3

オードランLv1(c1)

カグツチドラグーンLv1(c2)

 

「なるほどなるほど……」

 手札を見、深月は下唇に人差し指を添えて首を傾ぐ。

「どうもうちのトップが再戦希望みたいなので……」

 深月はのんびりとした口調でそこまで言ってから、鋭い声音でその名を呼んだ。

「地獄の炎をその身に纏い全てを灰燼に帰せ! 焔竜魔皇マ・グー召喚ッ!」

 

召喚:焔竜魔皇マ・グーLv1(c1)

 

 深月の舞台の後ろから、炎が立ち上りフィールドの縁に火が回る。左右から伸びるそれは神田の背後で合流し、円形のフィールドを炎で縁取った。そして禍々しい翼でもって空からマ・グーが舞い降りた。羽ばたきで炎がちらちらと揺らめく。

 強大な力の降臨により深月のフィールドのスピリットは呼応するように吼える。

「まだ、この程度じゃないよ」

 更に深月はカードを召喚する。

「熱帯びる刃が敵を断つ! 暗黒の魔剣ダーク・ブレード!」

 

召喚:暗黒の魔剣ダーク・ブレード(スピリット状態)Lv1(c1)

 

 風を切り天空から波打つ奇妙な刃の剣が大地に突き刺さる。穿った大地から炎が湧き上がる。

「召喚時効果で魔王蟲の根城を破壊してドローするわ」

 神田の背後にそびえていた大樹が燃え落ちる。

「くっ……」

 効果と軽減シンボルが非常に優秀な魔王蟲の根城が破壊される。神田のデッキでは土台とも言える重要なカードを破壊されて、彼はややたじろいだ。

 深月はマ・グーにダーク・ブレードを合体させ、合体スピリットのコアを使いカグツチドラグーンのLvを上げる。

 

合体:焔竜魔皇マ・グー + 暗黒の魔剣ダーク・ブレード

カグツチドラグーンLv1(c2)→Lv2(c3)

 

 突き立てられたダーク・ブレードを手にするマ・グーと、Lvアップで声を上げるカグツチドラグーンを見て頷き、深月は宣言する。

「アタックステップに入るよ」

 深月のトラッシュのコア8個が合体したマ・グーに移動しLvアップと効果によるBPアップを誘発させる。

「まずはカグツチドラグーンでアタック」

 マ・グーの効果を受けて系統:古竜のカグツチドラグーンはBP9000、ダブルシンボルのスピリットとなっている。

「猪人ボアボアでブロックだ!」

 火の粉を舞い上げ低空で飛行するカグツチドラグーンを真正面からボアボアが受け止める。力が拮抗し押しつ押されつの組み合いが続く。

 ボアボアがカグツチドラグーンを蹴り飛ばし距離を取り、よろけたカグツチに向けて鉄球を投げつけた。鎖がジャラジャラと鳴り、トゲのついた鉄球がカグツチドラグーンの鹿のそれにも似たツノの片方をへし折った。しかし直撃ではない。

 カグツチドラグーンが駆け出しボアボアも迎え撃つ。頭突きとタックルが交錯し両者ともにふらつくが、カグツチドラグーンの方が立ち直りが早かった。カグツチドラグーンの口からちろちろと炎が垣間見え、逃げる間もなくボアボアは全身に火炎放射を浴びた。

「クソっ!」

 ボアボアが破壊されて神田の場はがら空きになる。

「続けて合体したマ・グーで……」

 深月はマ・グーのカードを疲労させてから、ふっと顔を上げて神田の手札の枚数を確認した。今、彼の手札は3枚。1枚は割れている。エンドステップで戻したブリーズライドだ。しかしそれは大した問題にはならない。

「そうだね、神速召喚されてもやだし、ここはビャク・ガロウに指定アタック。やっとキースピリット同士の戦いになったね」

 マ・グーは宣戦布告をするようにダーク・ブレードの切っ先をビャク・ガロウに向けた。疲労し身体を丸めていたビャク・ガロウがそれに反応し、むくりと起き上がる。

 互いの視線がぶつかり、マ・グーの操るダーク・ブレードとビャク・ガロウの刀がぶつかり合った。ダーク・ブレードと鎌を自在に使いこなすマ・グーと幾つもの尻尾で斬撃を受け流すビャク・ガロウ。しかし一撃ごとの重みではマ・グーが勝っておりビャク・ガロウは防戦に追いやられてしまう。

「合体したマ・グーはBP18000。どうする?」

「フラッシュで返すだけだ」

 深月の問いに神田は短く答え、ブリーズライドを使用した。

 

使用:ブリーズライド

効果:このターン、スピリット1体をBP+3000する

対象:剣王獣ビャク・ガロウ

 

 吹き上げる風にマ・グーが姿勢を崩したところで、ビャク・ガロウの刀が鎌を叩き落とす。マ・グーは片膝をつくも、痛くも痒くもないとでも言うように砂を払い立ち上がり、すぐさま切り返した。

 幾度かの攻防が続き、刀とダーク・ブレードが刀身深く交差する。両者の力の比べ合いはマ・グーの方が押しているようだ。逃れるべく離れようとするビャク・ガロウだが、ダーク・ブレードの湾曲した奇妙な形状の刀身にがっちりと刀を固定され動けずにいた。

 マ・グーは嘲笑うようにダーク・ブレードを捻ると、ビャク・ガロウのくわえる刀から嫌な音がした。ミシミシと軋む音だ。

「離れろビャク・ガロウ!」

 思わず神田が叫ぶが、ビャク・ガロウは刀の柄を噛む力を緩めようとはしなかった。

「おっと、このままだと……」

 深月が両者の戦いを静かに見守りながらそう呟いた瞬間、乾いた音が響いた。刀が折れたのだ。

 かかっていた力が一気に解放されビャク・ガロウが前のめりになったところで、マ・グーの膝がビャク・ガロウの顎を捉えた。

 頭を揺らされて、ふらふらと後退するビャク・ガロウ。根元でへし折られた刀を口からこぼし、脚もおぼつかない。

 そこにゆらりとマ・グーが迫る。大上段の構えからビャク・ガロウにトドメをさすつもりなのだろう。

「……まだだ」

 神田は更にフラッシュを宣言する。

「タフネスリカバリーを使う」

 

使用:タフネスリカバリー

効果:このターンの間、スピリット1体をBP+2000する。その後、そのスピリットがBP10000以上のとき、そのスピリットを回復させる

 

 ビャク・ガロウの周りに緑のシンボルが踊り、ビャク・ガロウの身体に入り込んだ。一度は膝を折ったビャク・ガロウだが、その眼は死んではいなかった。

 俊敏な挙動でマ・グーを翻弄し四方八方からの攻撃が続きマ・グーはその場から動けない。しかし致命的なダメージは負わないよう攻撃をいなし、躱している。

「ビャク・ガロウはBP9000、ブリーズライドとタフネスリカバリーの効果を加算してもBP14000だけど、どうするの?」

 攻防が続く最中、深月が尋ねる。

「この手札が、逆転の一手だ。返されたらさすがにどうしようもない」

 神田は1枚の手札を揺らす。

「どうするのか、見ものだね」

 深月は薄く笑って、マ・グーとビャク・ガロウの両雄の戦いに視線を戻した。

 フィールドにはビャク・ガロウの武器が散乱していた。ビャク・ガロウはフィールドを広く活用し、落ちている武器を拾っては攻め入り、反撃される前に退避する。マ・グーは苛立つようにダーク・ブレードを振り回すが、大振りすぎるためビャク・ガロウにヒットしない。

 ついにはしびれを切らしたのか、マ・グーは地面をダーク・ブレードで叩き割りダーク・ブレードを突き立てる。

 するとどうだろうか、ただの大地から眩しすぎるほどに真っ赤なマグマが溢れ出してきたのだ。ドロリと地面を這い、フィールドをどんどんと侵食していった。

 深月のオードランとカグツチドラグーンは飛行し被害を免れるが、空を飛べないビャク・ガロウはジリジリと脚の踏場を失っていった。

 しかしビャク・ガロウも対抗し、旋風を巻き起こし、マグマの侵略をギリギリで食い止める。

 ダーク・ブレードを肩に担ぎ、ゆっくりとマグマを踏み締めてマ・グーが近づく。焼けるような音が聞こえるがマ・グーは気にも留めない。

 ついに眼前にまでやって来て、マ・グーがダーク・ブレードを振り翳した。その瞬間にビャク・ガロウは羽織りの肩口を噛み、引き裂くと、マ・グーの顔めがけて投げつけた。羽織りはマ・グーの顔に巻きつき、ビャク・ガロウが起こした風で張り付きなかなか外れない。視界が塞がれたマ・グーは闇雲にダーク・ブレードを振り回し、空いた手で羽織りを破り捨てた。

 だがマ・グーの目の前にビャク・ガロウの姿はなく、ビャク・ガロウが維持していた足場もマグマに飲み込まれていた。

 周囲を探すマ・グーに深月が叫ぶ。

「マ・グー上よ!」

 すぐにマ・グーが空を見上げるが、そこには燦々と輝く太陽があるだけだった。あまりの眩しさにマ・グーは腕で目元に陰をつくる。

 そこでマ・グーも太陽の真ん中に小さな点があることに気づいた。しかもそれは高速で近づいていた。なにかが真っ直ぐにマ・グー目掛けて落下しているようだ。

 マ・グーはダーク・ブレードを突きの構えに持ち直す。射程圏内に入ったビャク・ガロウを刺突で始末するつもりなのだろう。

 小さな点が徐々に大きくなっていく。逆光でその姿はいまだによく見えない。ただ、なにかがおかしかった。その小さな点の更に奥に、もう一つ点が見えたのだ。

「なに、あれ」

 深月も目を凝らし空を見るが強い陽光はそれらの点の輪郭をぼかし続ける。

「あれが、逆転の一手だ。フラッシュ使わせてもらったぜ」

 神田が深月に言う。いつの間にか彼の手札はなくなっていた。

「やっぱり神速召喚だったわけね」

「ああ、けどただの神速スピリットじゃない」

 深月が怪訝そうに眉を寄せると、神田は「見てれば分かる」と答えるだけで、それ以降は言葉を発しなかった。

 そして、手前の点の容貌が見えつつある距離にまで到達する。その影は明らかにビャク・ガロウよりも小さいものだった。

『彼女』は、赤い舌でクナイを濡らし、それの柄に口から紡ぎ出した糸をくくりマ・グーにいくつも投げた。放たれたクナイがマ・グーに絡みつき、マ・グーの手足が縛り上げられてしまう。

 更に『彼女』は糸を繰り、手首をくいくいと手前に曲げた。ただそれだけの動作でダーク・ブレードを持つマ・グーの右腕から力が抜け、ダーク・ブレードが手のひらから滑り落ちた。しかしダーク・ブレードは地面に突き刺さることはなく『彼女』の操作する糸で引っ張り上げられる。マ・グーに着地した『彼女』が小さな身体でダーク・ブレードを抱えて跳躍する。

 真っ直ぐにマ・グーに落下するビャク・ガロウとすれ違いざまに、くノ一ジョロウはダーク・ブレードをビャク・ガロウに受け渡し、ビャク・ガロウの背中に飛び移った。

 ビャク・ガロウは受け取ったダーク・ブレードをくわえ、自身の後方に追い風を生み出し加速する。

 くノ一ジョロウの吐き出した粘着性の糸に捕らわれ一切の身動きが取れないマ・グーの目が見開かれ、直後ビャク・ガロウが真横をすり抜けた。マグマを引き裂き地面に長い爪の跡を刻んで、ようやくビャク・ガロウは勢いを殺し停止する。

 背後ではマ・グーが手をつくこともなく前方に倒れた。

 そして爆風が巻き起こり、マグマとともにマ・グーはフィールドから姿を消した。

「……まさかBP差9000を返されるとは思わなかったよね……」

 深月はただ感心するように呟く。そして手札を伏せて置いて、やれやれと肩をすくめて首を振った。

「ワタシはターンエンド」

 

 

第11ターン<神田俊道>

リザーブ:10 手札:1 ライフ:2

くノ一ジョロウLv2(c3)

剣王獣ビャク・ガロウLv2(c4)

 

「メインはなにもしない、アタックステップに入る」

 神田はくノ一ジョロウでアタックをする。深月はブロック宣言はせずにライフを選択した。

 オードランを踏み台に跳び上がり、クナイの一閃が深月のライフを削る。

 

崎間深月:ライフ3→2

 

 続けざまに神田はビャク・ガロウでアタックし、ブロック前のフラッシュでスタークレイドルを使用した。

 

使用:スタークレイドル

効果:相手のスピリット1体を疲労させる。神速を持つ自分のスピリット1体を手札に戻す。

対象:疲労→オードラン 手札に戻す→くノ一ジョロウ

 

「手札に戻ったくノ一ジョロウを再度神速召喚だ」

 一度は姿を消したくノ一ジョロウだがまた現れると走るビャク・ガロウに飛び乗り深月に迫る。

「ビャク・ガロウのアタックはライフで受ける!」

 両腕から繰り出される爪で深月を守るバリアがバッテンに切り裂かれ深月のライフが1つ破壊される。

 

崎間深月:ライフ2→1

 

「これがラストアタックだ、行け! くノ一ジョロウ!」

 ビャク・ガロウから跳躍し、中空から身体をひねり回転し深月めがけてくノ一ジョロウが飛来する。

「これじゃ、防げないし……ね」

 どこか満足げに嘆息して、深月はフラッシュタイミングでデルタバリアを展開する。しかしデルタバリアが攻撃を阻むのはコスト4以上のスピリットのみであり、コスト3のくノ一ジョロウには関係がなかった。

 デルタバリアをかいくぐり、くノ一ジョロウの螺旋の突進が決まり、深月の最後のライフがひときわ輝くと、その直後に砕け散った。

 

崎間深月:ライフ1→0

 

 

 * * *

 

 

 表彰やプロモーションカードの授与などが終わり、参加者も観戦者もおのおののバトルやデッキ構築に戻っていた。

 自販機コーナーのベンチで、神田は優勝プロモのカードをひらひらと掲げながら使い道を考えていたが、そもそもの使用する色と合わないので一縷にでもあげてしまおうか、とまで考えていた。

「かんだーおつかれ」

 深月が冷えた缶コーラを神田に投げる。彼は難なく掴むとプルタブを押し込んだ。

「さんきゅ」

「ワタシからの優勝祝いよ」

「120円か」

「値上げの波で130円よ」

「そうだったか」

 彼女も自分のコーラの缶を開けて、どちらともなくそれぞれの缶をぶつけた。

「しっかし、あれだな。疲労感と疲弊感と徒労感と、でもイヤじゃない疲れって感じだ」

「バトルフィールドは疲れるからね」

 深月はコーラを飲み、はーっと息をついた。

「あー悔しー。次はボッコボコよ」

「俺もデッキ構築考えないとまたやられちまうな」

「てか、思うんだけど神田のデッキはフラッシュ多すぎでしょ。だからスピリットが引けなくて……」

「お前だってとりあえず制限カード入れてから作ったりしてんだろ、そういう構築ばっかしてると……」

 バトルが終わって間もないのに、2人の話題は互いのデッキ構築、そして次なるバトルに移っていた。

 




早い!!(自賛)
今晩は、にしはるでございます。
えーいかがでしたでしょうか、神田と深月のバトルでした。2人のバトルは01以来ですね。あのバトルを書いてから2年も経っているわけですね、時の流れは早い……。
そしてそれぞれのキースピリットであるビャク・ガロウとマ・グーが戦うのは意外にも初めてでした。既に戦っているもんだと思っておりましたが、01で戦ってなかったんですねえ、すっかり忘れておりました。
初のバトルなら気合を入れて書くしかない! ということで、今まで投稿した文章の中でも一番長いバトルの描写になりました。やっていることといえばただのパワー比べです。ですが、アニメでの熱いスピリット同士のぶつかり合いに惹かれる私としては、その描写に一歩でも近づけたらな、という思いですごくがんばりました(小並感)
くノ一ジョロウのアネゴが見せ場を掻っ攫った感もありますが、満足です。

さて、本編の話はこの辺で終わりにしまして、今後の話です。
これでアナクロニズムは一旦終わりです。が、卓郎や一縷をメインにした番外編?のようなものも書きたいと思っております。今後はいきなり烈火伝環境下で書く予定ですので、登場キャラの最新デッキを思う存分書けます。こういうモチベーションは大事だと思いますまる。
アナクロニズム番外編のほか、以前から思案しているものもカタチにできればなあと。ダメかもしれない、ダメじゃないかもしれない(名曲の無駄遣い)

最近のバトスピ事情。Vジャンプ情報。
一騎打、無限刃、ソウルドライブと新キーワード効果が3つもでるそうですねえ。1つしかないソウルコアを投げ捨てるソウルドライブはとてもロケンローだとおもいます。
そして、ヤマトくんが釈放されるそうですねー。今の環境で3枚積むのか、と考えるとどうなるかは分かりませんが、複数出てきたら出てきたで「やっぱりヤマトやベーよ!」とか思うのでしょうかね。
初の制限解除に踏み切ることになった今回の情報は、どんな影響を及ぼすのでしょうか。

ではまた近いうちに。

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