新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
やらなきゃいけないことは忘れないうちに。
一週間が経過した。その間、新田さんはほぼ毎日のように俺の世話をしてくれて、平日は朝は当然来れなかったものの、夕方は晩御飯だけ作りに来てくれていた。
で、今は病院。ギプスを外してリハビリの説明を受けて、少しリハビリもして病院を出た。なんか「回復が異常に早いですね、少し気持ち悪いです」とか言われたんだけど、褒められてるのか貶されてるのか迷う所だ。
まぁ、そんな話より俺はこれから新田さんにお礼のプレゼントを買いに行かなければならない。松葉杖は片方だけになり、少し便利になった。この後も何回か通う必要はあるが、生活範囲は広くなるはずだ。
ロビーに出て辺りを見回してると、声が聞こえて来た。
「……あっ、遊歩くん!」
振り返ると、新田さんが飲み物を持って走って来た。そういえば、何故か新田さんは俺を下の名前で呼ぶようになった。なんでだか知らないが、距離が縮まったみたいで嬉しいです。
「お疲れ様。はいっ」
「すみません、待たせちゃって。退屈だったでしょ?」
「まぁ、少しね。それよりも、まだ松葉杖あるの?」
「あ……はい。しばらくリハビリしないといけないんで」
「そっかー。じゃあ、もう少し私いた方が良いかな?」
「いや、流石に申し訳ないですよ。片方の手は使えますし大丈夫です」
「うーん……でも、不便じゃない?」
「何とかなりますから。それより、この後は暇ですか?」
さっさと話題を変えた。新田さんにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないし、俺的にはこっちの方が重要だ。
俺の問いに対し、新田さんは少し俺を真顔で見た後に答えた。
「暇だよ。正確に言うなら、遊歩くんのお世話で忙しいけど」
は?……ああ、今日まではお世話してくれるってことか。
「なら、ちょっと出かけませんか?」
「良いけど……脚は大丈夫なの?」
「はい。ていうか、買わなきゃいけないものがあるんですけど、買い物一人じゃキツいんですよ」
「分かった。じゃあ、行こっか」
との事で、二人で病院を出て出掛け始めた。さて、とりあえずどうすっか。飯は2人で病院で食べたから、そのまま出掛けちまうか。
「よし、とりあえずデパートでも行きますか?」
「あら、エスコートしてくれるの?」
「まぁ、はい」
「なら、お願いね」
言いながら手を差し出して来る新田さん。ああ、手を繋げってことか。片手空いたから支えてくれるって意味だろう。ありがたくその手を取って歩き始めた。
「で、何を買いに行くの?」
「あー……アレだ。最近は自分の好きなもの買いに行けてなかったから」
「ふーん……。遊歩くんの好きなものって?」
「雑食ですね、俺は。ゲームも漫画もアニメも映画も音楽も飯も運動もお洒落も全部広く浅くって感じですから」
「ふーん……にわかって奴だね」
「……まぁ、そうですね」
にわかで良いんだよ。どんな世界も深く入り過ぎるとハマっちまうからなぁ。
「勉強はしないの?」
「べ、勉強……?」
「そう。しないの?」
「……し、しないことはないですけど………」
「……あ、もしかして成績悪いんでしょ」
「……都会の勉強が難しいんです」
「いや、基本的な教える内容はどこの高校も同じだと思うけど」
……うるせ、勉強が苦手ったら苦手なの。ていうか、勉強が出来るやつって逆に病気だろ。どんな頭したら勉強出来るようになるの?
「……これは、中間試験の前も面倒見てあげないとダメそうだね」
「いや、いいです」
申し訳ないってのもあるが、それ以上に新田さんの勉強ってスパルタっぽいんだもん。命がいくつあっても足りなさそう。
「ちなみに、何の科目が苦手なの?」
「……英語以外全部」
「……これは教え甲斐がありそうだね」
「そ、それより早く行きましょう!夜まであんま時間ないんですから!」
そ、そうだよ。夜まで時間ないんだし、早く行かないと。
目的地に到着し、店の中に入った。さて、これから新田さんへのお礼の品を買わないと。新田さんに勘付かれないように。やっぱこういうのはサプライズのがカッコ良いでしょ。
「何を買うの?」
「うーん……プレゼント?ですね」
「……そうなんだ。誰に?」
「お世話になってる人にです」
「あ、私に?」
「………」
「図星だ」
「……なんでわかるんだよ……。ていうか、わかっても口に出さないで下さいよ……」
「自分で言うのもあれだけど、お世話してるなーって思うから。まぁ、私が好きでやってるんだけどね」
相変わらず、中々俺に格好つけさせてくれない人だ。俺が隠すのが下手すぎるのかな。
何にしても、バレちまったもんは仕方ない。ストレートに聞こう。
「……まぁ、そういうわけなんで、なんか欲しいものあります?」
「うーん……とりあえず、お店を見て回ろっか」
「分かりました」
新田さんと手を繋いだまま移動を始めた。こういう足が不自由な時には、ほんとエレベーターやエスカレーターって便利だと思うわ。
まず入ったのは、帽子とか手袋とかの店。マフラーも売ってんな。小物?いやアクセサリーか。寒さに弱い俺にこの手のアイテムは必須だが、今日は俺の買い物ではなく新田さんへのプレゼントだ。
「遊歩くん、こっちこっち!」
先に中に入った新田さんが手招きしてるので、松葉杖をつきながら歩いた。
「なんか良いのあったんですか?」
「はいっ」
「は?」
突然、頭に何かを乗せられた。で、鏡を見せられて見てみると、頭に次元○介みたいな帽子が乗せられていた。
「……なにこれ」
「ふふっ、全然似合ってない」
「いや、新田さんが頭につけたんですよね⁉︎」
なんて人だ。いや、自分でもこういうダンディーなものは似合わないと思うが。
「うーん、まじめな話、あなたにはこっちの方が良いかもね」
言いながら渡されたマリオの帽子みたいな形の帽子を被ってみた。
「……似合ってない」
「おい、俺で遊ぶのやめてくれませんか」
「ごめんね、今のは本当に似合うと思って渡したの。……似合わなかったけど」
悪かったな。昔から帽子は似合わないんだよ。小学校の時に田植え体験で渡された麦わら帽子が面白いほど似合わなくてからかわれた事もあったんだからやめろ。
「俺の帽子はいいんですよ。新田さんは何かありませんか?」
「うーん……どうだろ。私もあんま帽子とか被らないし……」
じゃあなんでこの店に来たの……。いや、帽子以外にも色々売ってるんだけどさ。
「あ、こんなのどうかな?」
新田さんは楽しそうに耳当てを手にとって耳に付けた。
「……ああ、良いんじゃないですか?とても良くそれなりに似合ってると思います」
「それどっちなの……?」
「けど、俺ならこっちを推しますね」
薄い緑の耳当てを渡した。
「……緑?」
「はい」
「あまり言われた事ないけどなぁ。大体、みんな私には青とかピンクとか白とか勧めてくるけど……」
「まぁ、とにかく付けてみて下さいよ」
渋々、といった感じで耳当てを装備する新田さん。さっき見せられた手鏡を持って顔を写した。
「ど、どうかな……?」
「はい、似合ってませんよ?」
笑顔でそう言うと、一瞬だけ顔を赤くして耳当てを取ると、逆に可愛らしい笑顔を浮かべて、その辺からマフラーを持って来た。
「そっか。なら、遊歩くんにはこの赤いマフラーが似合いそうね」
「えっ、俺あんまり赤は……」
「例えば、そうねぇ……。間違えて首締め上げちゃって、吐血した時なんか上手くごまかせるんじゃない?」
「えっ、待って。マフラーをピンと張りながらこっちに来ないで……大体、それ売り物……」
「すみませーん、こちらのマフラーいただいてもよろしいですか?」
「買ってまで制裁したいの⁉︎」
この後、血は吐かなかったけど締め上げられた。
×××
買ったマフラーで締め上げられ、咳き込みながら店を出た。ああ……お花畑が見えた……。最近、新田さんの制裁が激しくなって来てる気がする……。今のは効いたぞ畜生……!
「まったく……すぐにそういう風にからかって来るんだから……」
「……先にからかって来たのはそっちじゃ……」
「何か言った?」
「いえ、何も」
怖っ。ゾーンに入ってる天才バスケット高校生並みの圧力。
しかも、その鞄に入ってるマフラー俺の金で買わされたからな。自分が被害者になる殺人未遂の凶器を俺が買うのはおかしいと思います。
で、今は帰宅中。まぁ、もう夕方だから仕方ないとは思うが、にしても一つだけ気がかりなことがある。
「あの、プレゼントそのマフラーで良かったんですか?」
「良いの。大体、お金無いのに二つも三つも買ってもらえないよ」
……だったら首絞めるためにマフラーなんて買わないで欲しいんですけど……。いや、言ったらどうせ怒られるしやめておこう。
「それに、これからも面倒見ないといけないし、せっかく買ってもらうならその時にするよ」
「……はい?」
今なんて?
「や、だからこれからも面倒見ないとって」
「な、なんでですか⁉︎」
「だって、まだ松葉杖なんでしょ?なら不便じゃない」
「でも、さっきいいって言ったじゃないですか」
「言ってないよ。勝手に遊歩くんが話を切り上げたんじゃない」
うぐっ……ま、まぁそうだが。まさか、その後に言ってた「正確に言うなら遊歩くんのお世話で忙しいけど」って、今日だけでなくこれからも俺の世話をするって意味だったのか?
「い、いやいや、でも申し訳ないですから……!」
「気にしなくて良いの。……それに、半分は自分のためなんだ」
「へっ?」
「何でもない。さ、それより帰ろ?今日の晩御飯はカレーだよ」
「は、はぁ」
楽しそうに俺の隣を歩く新田さん。鼻歌まで歌ってるけど、何がそんなに楽しいんだろう……。
もしかすると、新田さんも一人暮らしで、一人より二人で生活してた方が楽しいとかそういう事なのかな。
でも、まぁ実際俺も少し新田さんがいなくなると思うと寂しかったからな。何となく良かったかもしれない。
そんな事を考えながら帰宅してると、うちの部屋の前に誰かが立ってるのが見えた。インターホンを押そうと指を伸ばす度に指を引っ込める銀髪の少女。
………えっ、アレもしかして……。
「あれ?アーニャちゃん?」
新田さんが反射的に漏れたように名前を呼ぶと、アーニャさんは振り返った。俺と新田さんが2人で立ってるのを見て、驚いた表情を見せた。
「キタヤマ……ミナミ……?」
「どうしたの?こんなところで……」
……あっ、そういえば、まだアーニャさんに連絡してない。色々あって連絡するの忘れてた……。
俺と新田さんの姿を見るなり、ぷくーっと頬を膨らませたアーニャさんは、階段から降りて俺達の前に走って来た。
「キタヤマ!どういう事なんですか⁉︎全然、連絡も寄越さないのにミナミと一緒にいるのは!」
「あ、いやそれは……」
「えっ、北山くんまだ連絡してなかったの?」
「あ、あーいやそれは……!」
てか、なんか呼び方戻ったぞ。
そんなこと気にしてると、アーニャさんが引き続き怒った様子で問い詰めて来た。
「大体、なんですかその怪我は⁉︎何があったらそんなことに……!」
「い、いやその……!」
「とにかく、話を聞かせてください!」
ど、どうしよう。怒り心頭だよ!何とか落ち着いてお話ししたいんだけど……うちで良いのかなぁ。でもそこしかないか……。
「ま、まぁ、とりあえずうちでお茶でも……」
うちで話すことになった。卓袱台に座り、俺とアーニャさんは向かい合って座っていた。……とってもジト目で見られてる。
「はい、2人とも。お茶が入りましたよー」
「……キタヤマが説明したわけでもないのに、お茶の場所がわかるんですね、ミナミ」
「……あの、アーニャちゃん?私にも怒ってる……?」
「……ミナミはキタヤマの隣に座りなさい」
そんなわけで、2人揃って隣に座った。アーニャさんの怒りのオーラはとんでもない。が、それは俺だけに向けられたものではない。新田さんにも向けられている。
なんだかわけのわからないまま、アーニャさんは尋問を始めた。
「それで、これは一体どういうことなんですか?」
問い詰められ、どっちが答える?みたいなやり取りを俺と新田さんの間で視線で交わした後、俺から答えた。
「……その、夏休みに最後に会った時にですね……」
「はい」
「帰り道に足を滑らせて坂道からスキーで転んだ人の如く10メートル転がってしまいまして……それで骨折してしまって……。その時にスマホが壊れまして……」
「それで?」
「結局、夏休み終わるまで連絡できなくて……。で、学校が始まって街歩いてると、偶々新田さんと再会しまして……。それ以来、怪我してる俺のお世話をしてくれることになりまして……」
「それで、ミナミと一緒にいたと?」
「はい……」
黙り込むアーニャさん。何かを考え込んだ後、引き続きジト目で続けた。
「……連絡できなかったことは分かりました。ミナミがここにいる理由も。でも、夏休み終わってからはミナミから連絡先貰えば、連絡出来ましたよね」
「そ、そうだよ、北山くん。なんで連絡しなかったの?私、連絡先あげたよね?」
「ミナミもミナミです!なんで私にキタヤマと連絡取れたことを教えてくれなかったんですか⁉︎」
「そ、それは……北山くん本人から連絡きた方が喜ぶと思って……」
「私はキタヤマと連絡を取れた時点で喜びます!」
「え、何それ嬉しい」
「怒ってるのに喜ぶなんて、バカにしてるんですか⁉︎」
あ、ヤバい。ついうっかり怒らせちまった……。目の前でぷんすかと腹を立ててるアーニャさんを見てると、新田さんが隣から肘で突いて来た。
「もうっ、北山くんの所為だからね」
「や、それはそうですが……。でも、新田さんが怒られてるのは俺じゃなくて自分が俺と会ったこと隠してたからでしょ」
「で、でも、ちゃんと北山くんが話してくれてたら私も貴方も怒られてないんだからね」
「いやまぁそうですけど……」
「随分と仲良くなったんですね、2人は」
アーニャさんにジロリと見られ、俺も新田さんも押し黙った。
「……本当に、心配してたんですから。キタヤマ……」
泣きそうな顔でそう言われてしまい、流石に少しグサっと心臓に何かが刺さった気がした。
「す、すみません……」
「まったく……まぁ良いです。こうして会うことが出来ましたから」
「そうよ、アーニャちゃん。なんで北山くんの家を知ってるの?」
「実は……昨日、遊んでくれないミナミが気になって後をつけたのですが……その時に、この家に入って行くのが見えて……」
なるほど、つけてたのか。そういうの、新田さんは嫌いだぞ?俺が新田さんにそういう事したらキャメルクラッチ喰らってるわ。
だが、新田さんは仕方ない子を見る目でアーニャさんの頭を撫でると、微笑みながら言った。
「まったく……仕方ないんだから」
「すみません……でも、気になって。ミナミが私と仲良くなくなってしまったんじゃないかって……」
「そんな事ないわよ。ただ、北山くんが困ってそうだったからほっとけなかったの。ごめんね?」
「なんかアーニャさんに甘くね⁉︎」
何その菩薩的な反応!俺にも優しくしてよ!
「当たり前じゃない。やる事もやらずにアーニャさんを悲しませた人に優しくなんてしません」
「うぐっ……!」
「ううー……ミナミー」
「よしよし、アーニャちゃん」
クッ……!人の家で百合百合しやがって……!羨ましい……!
「はぁ……すみませんでした……」
とりあえず、今の俺には謝ることしかできないので頭を下げた。すると、何かを思い付いたのか新田さんはアーニャさんの耳元で何か囁いた。
それをアーニャさんは微笑みながら答えた。
「今度、ミナミと行くテニスに私も連れて行ってくれたら、許してあげます」
「はっ?そ、そんなんで良いんですか?」
「あと、コートのお金とか全部奢りね」
新田さんが付け加えるように言った。そ、それで良いならむしろ奢らせてくれって感じなんだが……。
まぁ、2人がそれで良いというなら良いか。
「……わ、分かりました」
「よし、じゃあ今日は3人で晩御飯にしよっか」
新田さんは立ち上がり、台所で調理を始めた。