新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
秋、それは行事ごとの季節。とりあえず○○の秋、と付けときゃ成立する季節でもあるため、文化祭だの体育祭だの修学旅行だのと行事が集まっていやがる。
まぁ、元々行事ごとは嫌いではないし、出番が無いなら無いで構わないし、授業は潰れるしで俺としては勝ちルートしか残っていない。
なので、とりあえず一番近い文化祭の準備期間も、俺はさっさと直帰することにしていた。
今日から、その煩わしい準備期間なのだが、早速役割などを割り振られる前に存在を忘れられた。北山?雑用やらせとけば良いべ、みたいなもんだろう。
なので、雑用すらやらされる前に帰ることにした。やってられねーよ、さっさと帰って新田さんとアーニャさんと戯れたいぜ。
そんなことを考えながら校門の前に向かうと、新田さんが帽子に伊達眼鏡をつけて待っていた。
「どうも。いつもいつもすみません」
「気にしないで。もう良いの?」
「はい。帰りましょう」
それよりアーニャさんはいないの?いや、まぁ見た感じで判断すればいないんだろうけど。
新田さんは俺の後ろの学校を眺めながら心配そうに聞いてきた。
「でも……なんか、いつもより下校する生徒少なくない?」
「まぁ、そうですね。文化祭の準備があるんで」
「えっ?遊歩くんは良いの?」
「やる事とか何も割り振られなかったんですよね。だからもう俺に用無いって事ですよね」
「……文化祭、アーニャちゃんと一緒に行こうと思ってたんだけど……」
「来なくて良いです。むしろ俺がそっちに行きます」
「そ、そっか……」
引き気味に相槌を返す新田さん。真面目な話、他の文化祭には興味ある。もしかしたら彼女出来るかもしれないし。
「遊歩くんは学校嫌いなの?」
「んー……好きでも嫌いでも無いですよ」
そういう感情持ったことないわ。まぁ、好きか嫌いかで言うと嫌いかな。やっぱ無理して上京しないで地元の高校行けばよかった気がする。
いや、でも上京したから新田さんとアーニャさんに面倒見てもらえてるんだよな。そこは感謝。
「新田さんの大学はいつ文化祭ですか?」
「えっと……私の大学は遅いよ。11月くらいかな?」
「あ、被ってないんですね全然。じゃあアーニャさんと行きます」
「あ、うん。私達のサークルはクレープ屋を……」
と、そこで言葉を切る新田さん。なんだ?何かあったのか?
「……それ、アーニャちゃんとデートしたいって事かな?」
「へっ?い、いやそんな気は……」
「私の目が黒いうちはアーニャちゃんと二人きりになんてさせないからね」
そんな気は無いんだが……。そんな気は無い時に食いついてくるとは、相当この人アーニャさんのこと大好きなんだな。
「分かりました。アーニャさんとは行きません」
「えっ?あ、諦めるの?」
「新田さんの邪魔はできませんから」
「っ⁉︎ど、どういう意味⁉︎」
「いえ、俺の口からは何も」
「は、はぁ⁉︎なっ、ま、まさか…気付いて……!」
顔を赤らめて狼狽える新田さん。その新田さんに、俺は笑みを浮かべて頷いた。気付いてるよ、あなたがアーニャさんのことが好きなことは。
「そりゃ気付きますよ。新田さん分かりやすいし」
「……そ、そっか……。分かりやすい、かな……」
「はい。優しくし過ぎだし、他の人が仲良くしてるとすぐに邪魔するし」
「やっ、やめてよ……。恥ずかしいから……。……でも、遊歩くんはあまり驚かないんだね」
「いえ、そういう人が本当は世の中にいる事に驚いてますが。ま、人には人の好みがありますから」
「そ、そんな風に言わないでよ。私の趣味が悪いみたいでしょ?」
「良くはないと思いますよ。否定はしませんけど……」
「だからそんな風に自己嫌悪しないで!」
「そりゃ男目線の話で……えっ?」
「私は遊……えっ?お、男目線?」
「えっ?」
「えっ?」
……あれ、なんか噛み合ってなくね?
同じ空気を読み取ったのか、新田さんは確かめるように言った。
「……待って、遊歩くん。何の話してたの?」
「え?新田さんのアーニャさんに対する同性愛心じゃないんですか?」
「………」
徐々に、徐々に顔を真っ赤にしていく新田さん。血が頭に登って、今にもおデコからブシッと吹き出しそうだ。あ、やばいな……。これは殺されるパターン……。
と、思った頃には俺の頭に新田さんの腕が回された。胸と腕に頭を挟まれて、グギギギッと締め上げられていく。
「だ、れ、が!同性愛者よこの馬鹿ァアアアア‼︎」
「あだだだだ!目ぇ飛び出る、目ぇ飛び出るって!」
ていうか顔面に柔らかいのが直で当たって……!あ、ダメだ。痛過ぎて胸の感触に集中出来ない。
「ごっ、ごめんなさい!悪かったからほんとごめんなさい!」
「絶対許さない!」
「ぜ、絶対⁉︎」
そのまま5分ほど締め上げられ、周りの人の視線を集めた。
×××
スーパーに到着し、俺は今だにズキズキする頭を抑えながら入店した。今日からの晩飯を買いに来た。
「い、痛い……。怪我より痛い……」
「自業自得よ」
そうなのか……?話の食い違いくらいでそんな怒らんでも……。
ぷんすかと怒ってる新田さんにビクビクしながらカートとカゴを準備すると、横から無言で新田さんは変わってくれた。そういう、怒ってる相手にも優しくする辺り、やっぱ良い人だよなぁこの人。
「今日の晩ご飯は何にするの?」
「え?お任せします」
「毎回そればかりだなぁ……まぁ良いけど。じゃ、エビフライにしてあげる」
「マジすか、ありがとうございます!」
よし来た。新田さんのエビフライ美味いからなぁ。それだけで楽しみだ。鼻歌を歌いながら歩いてると、隣の新田さんがクスッと微笑んだ。
「……遊歩くん、子供みたいね。好きな食べ物がご飯ってだけでご機嫌になっちゃって」
「えっ、そ、そう?うちの地元のメンバーはみんなそうだけど……」
「普通、高校生にもなったらそうはならないと思うけど……」
マジか……。都会だとそういうもんか……。
「実際自分の好きなものが晩飯って嬉しいでしょ」
「確かにねー」
「ちなみに、俺は唐揚げ、エビフライ、餃子だと遊歩的にポイント高いです」
「面倒なのばかりじゃない。別に、遊歩くんのポイントなんていらないし。ていうか、何のポイントよそれ」
「うーん……肩揉みとか?」
「わざとにしろわざとじゃないにしろ胸揉まれそうだし嫌」
「酷い……。あ、でもアーニャさんもたまに俺の面倒見に来てくれるみたいだし、アーニャさんにお願いして……」
言いながらスマホを取り出した直後、その手を新田さんが掴んだ。
「……私が今日エビフライ作ってあげるんだから良いでしょ」
「や、まぁ確かにそうですけど……」
なんで止めるんですかね……。やっぱ同性愛……いや、また怒られるからやめておこう。
野菜コーナーから周り、とりあえずキャベツからカゴに入れて行く。2玉持ち上げて、重さを確認した後に俺に聞いてきた。
「どっちが重いと思う?」
「んー……」
待ってみて確認する。左、かな?
「左」
「うー、ん……そうね。左ね」
「新田さんはどっちですか?」
「私としても左かな」
「ちなみに新田さんのはどちらが……」
「セクハラ?」
「……冗談です」
実際、胸の重さって均等なのかな。二つ付いてる、それも脂肪の塊となればそう単純に均等にはならない気が……。
「今すぐその思考を打ち切らないと、今日の晩ご飯は革靴にするからね」
「なんで頭の中まで読んでんだよ……」
「まったくえっちなんだから……」
この人怖い。ニュータイプか何かなの?
続いて人参、玉ねぎ、ジャガイモと購入していった。しかし、俺も買い物では負けないと思っていたが、新田さんもなかなか買い物が上手い。少しでも質量の多いものを選んでいる。
……そういえば、この人よく俺の家に来てるけど、どの辺に住んでんだろ。
「そういえば、新田さんも一人暮らしなんですよね?」
「そうだよ?」
「どの辺りに住んでるんですか?」
「へっ?ど、どうして?」
「いや、遠いんだったら電車代とか出した方が良いかなって」
「そ、そんなの気を使わなくてくれて良いよ。私が好きでやってることだし、住んでる場所も近くのマンションだから」
「あ、そうなんですか」
しかし、好きでやってくれているのか……。なんか、こう……そこまでお世話されると申し訳なくなって来るな……。治ったら、また改めてお礼しよう。
続いて肝心のエビを購入し、ついでに明日の晩飯に魚も買った。
「明日は秋刀魚ですね」
「うん。ちょうど季節だからね」
「俺、どちらかというと秋刀魚は刺身の方が好きなんですよね」
「あら、じゃあそうする?」
「いやいや、焼いたのも大好きですから」
焼いた秋刀魚に醤油をかけて……あ、やばい。想像しただけでヨダレが……。
「でも、明日は無理かな。少し予定があって……」
「あ、そうなんですか?」
「うん。だから、秋刀魚は明後日の夜ね。明後日もお迎えには行けないから、夜の……大体、9時過ぎにお邪魔するから」
「あの……そんな時間だったら大丈夫ですよ?無理して来なくても。なんの用事あるか分かりませんけど、大変でしょ?」
「大丈夫だって。大体、遊歩くんの場合は馬鹿すぎて行かない方が不安だもん」
「俺は手のかかる小学生か」
「間違ってないよね」
「………」
否定出来ないのが悲しい。昔から精神年齢2歳とか言われてたなぁ。2歳って言葉発せるかどうかも危ういからね。
「でも、こう見えて俺、しっかりしてるんですからね。学校ではペナルティの提出物はちゃんと出してるし」
「しっかりしてたらペナルティ出されないんだけどね」
「授業中は基本的に起きてるし」
「基本的にじゃなくても起きてないといけないんだけどね」
「友達いなくても寂しくないし」
「……そ、それは私とかアーニャちゃんがいるでしょ」
「………」
メンタル袋叩きコースかと思ったら、最後の一言で涙が落ちそうになった。そうか、俺の東京に出て初めての友達はあなた方だったのか……。
「新田さん、良い人だ……」
「い、いいから早く買い物済ませるよっ」
二人で買い物を進めた。そうか……俺と新田さん、友達だったのか。あとアーニャさんも。美人とアイドルが友達になるなんて、多分世の中俺だけじゃねぇの?
そんな事考えながら歩いてると、新田さんが小松菜をカゴの中に入れた。
「えっ、あの新田さん。俺、小松菜嫌いなんですけど」
「好き嫌いしてたら成長しないよ」
「………」
やっぱ全然良い人じゃなかった。なんつーか、母ちゃんかよこの人は。