新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。   作:バナハロ

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北山家の夜中(2)

 金曜日の夜。私とアーニャちゃんは今日、日が昇ってる間は仕事で遊歩くんの家に行くことは出来なかった。まぁ、二人ともアイドルだし仕方ないよね。

 今は仕事が終わり、遊歩くんの家に向かっている。もう夜遅いのでアーニャちゃんは家に帰しました。

 明日は遊歩くんは病院に行く。多分、ギプスが外れるらしい。ギプスが外れるということは、私はもう遊歩くんの家に行く必要はなくなるわけだ。

 その事実が少し寂しいなんて思ってる自分がいるのはなんでだろう。いや、なんでかなんて考えるまでもない。多分、私は遊歩くんのことが好きなんだろう。

 でも、その、何?あまり釈然としない。だって全然一緒にいてもドキドキとかしないし、すぐに調子に乗ってボロを出すし、アーニャちゃんに対しては何故か絶対服従してるし。

 しかし真面目な話、自分でも遊歩くんが好きなのか分からない。微妙にズレてる感じがする。

 

「はぁ……」

 

 まぁ、悩んでいても仕方ない。今は気にしないようにしよう。

 そういえば、遊歩くんの家のシャンプー、もうすぐ切らしそうだったな。途中でスーパーに寄って詰め替え用のシャンプーと、ついでに遊歩くんの好きなエビの煎餅を買った。お金は食材とかは私が買い物に行く事の方が多いので、予め遊歩くんから貰ってるものを使った。

 遊歩くんのアパートに到着し、呼び鈴を鳴らした。2秒くらい経過し、玄関が開いた。

 

「はい……あ、新田さん」

「遊歩くん?ご飯作りに来たよ」

「すみません、毎日」

「ううん」

 

 部屋に上げてもらって、まずは手洗いうがい。それから、シャンプーを手渡した。

 

「はい、これ。シャンプー切れてたでしょ?」

「あ、すみません」

「それと海老せんべいも」

「おお、良かった!ちょうどそれ最近食べてなくて手足の震えが出てたとこなんですよ」

「それ食べない方が良いんじゃないのかな……。あ、今からご飯作るから、まだ食べちゃダメだよ」

「ふっ」

 

 え、なんで今鼻で笑われたの?喧嘩売られたのかな?

 と、思ったら遊歩くんは何故か得意げな顔をしていた。何かと思って辺りを見回すと、食卓には既にご飯が並べられていた。

 

「えっ…これ」

「はい!俺が作りました」

 

 並んでるのはチーズチキンパエリアだった。それとお味噌汁とサラダ。なんというか……まとまりはないけど、栄養はありそうなメニューだった。

 

「俺、明日病院に行きますけど、多分ギプス外れますから。だから新田さんが俺のお世話してくれるの最後になりそうなので、今日くらいは俺が作ろうと思ったんです」

「っ、そ、そっか」

 

 その気持ちは嬉しかったけど、何故か寂しくもあった。今日で、遊歩くんの家に来るのも最後か……。ご飯を作ってあげる事も、ついウトウトして一泊してしまう事も、遊歩くんがボソッと漏らす失礼なセリフにツッコミを入れる事も無くなってしまう。

 

「新田さん?どうかしました?」

「ううん。なんでも無いよ。じゃ、食べよっか、ご飯」

「はい」

 

 そんなわけで、晩御飯を食べ始めた。いただきます、と手を合わせて、パエリアを一口食べてみた。

 ……あ、美味しい。ちょっと味濃いけど、チーズが良い感じに絡み合ってる。

 美味しい、と感想を言おうとした私の口が止まった。遊歩くんが腹立つほどニヤニヤしながら私を見ていたからだ。と、言うのも、多分味見していたんだろう。美味しく出来た事を分かった上で、私が「美味しい」と言うのを待ってる。

 憎たらしい。ほんと憎たらしいので、厳しめの意見を言ってみた。

 

「美味しいけど少し味濃いよ」

「え、そ、そう?」

「うん。調味料かけ過ぎ」

「そ、そっか……美味しくなかったか……」

「………」

 

 今度はショボンとし始めた。うっ、な、なんか罪悪感が……。まさか、そこまで凹まれるとは……。

 

「で、でもそれだけで味は本当に美味しいから!チーズのトロトロ具合とかちょうど良いし、本当に!」

「うん知ってる」

「そ、それにチキンの焼き加減も……はっ?し、知ってる?」

「うん。ケチャップかけ過ぎちゃったから。新田さん優しいから、自分で厳しく言っておきながら絶対に優しくしてくれると思ってた」

「ーっ!」

 

 ぜ、全部読まれてた……!それが悔しくて、思わず私は遊歩くんをキッと睨みつけ、両手を伸ばしてこめかみをグリグリと拳で挟み、圧迫した。

 

「きぃたぁやぁまぁ!」

「あっはっはっはっ!新田さん意外と力あるんだからやめて痛い痛い痛い泣きそう」

「絶対やめない!」

「それ逆にそっちが辛いのでは⁉︎」

 

 関係ない。謝るまでやめないからね!

 

「ていうかごめんなさい!」

 

 あっさり謝られたので、手を離した。ほんとにヘタレだなぁ。すぐに謝るんだもん。

 

「まったく…せっかくたまには褒めようと思ったのに」

「……最初はダメ出ししたくせに……」

「何か言った?」

「イエ、ナニモ」

 

 無視して、食べ続けた。実際は美味しいし、味が濃いからスプーンを止められない。スイスイと口に入って行く。

 続いてお味噌汁、サラダを食べ、あっという間に完食してしまった。

 

「ふぅ、ご馳走様」

「お粗末!」

「何の真似?」

「ソーマ」

「そう。食器、片付けるね」

「軽くスルーですか、そうですか……」

 

 だって元ネタ分からないもの。流しに食器を運び、ついでに洗っておいた。ていうか、私今日は完全にご飯食べに来ただけじゃん……。まぁ、たまにはこんな日があっても良いか。

 

「遊歩くん、明日は病院何時に行くの?」

「午前中から行きますよ」

「じゃあ、私もつき添おうかな」

「え?いやいいですよ、そんな」

「ダーメ。最後だからこそ気を抜いちゃダメなんだから」

「は、はぁ。なんかすみませんね、ほんとに」

「ううん。じゃ、お風呂に入っておいで」

「はい」

 

 それだけ話して、遊歩くんは洗面所に向かった。その背中を目で追いながら、とりあえず椅子に座った。なんだか、今日で最後と思うと帰るの名残惜しい気がするな……。

 今日は泊まって行こうかな。最後の一日くらい良いよね。

 

「……お布団敷かなきゃ」

 

 押入れから布団を出して敷き始めた。枕と薄い毛布を取り出し、2人分の布団を用意した。

 続いて歯磨きを始めると、遊歩くんがシャワーを終えたので、歯磨きが終わってから私がシャワーを浴びに行った。

 寝る前の準備を一通り終えてから布団に戻ると、遊歩くんが布団の上でゴロゴロしていた。

 

「新田さん、今日泊まっていくんですか?」

「あ、うん。最終日だと思うと、なんか名残惜しくて」

「そうですか。あ、じゃあせっかくだしなんかしませんか?」

「え、な、なんかって……?」

 

 布団の上で男女がする何かって……一つしか思いつかないのは私が汚れてるからかな……。い、いやいや!私、ムッツリじゃないからねっ。大体、そういう行為はアイドルはダメなんだから……!

 

「トランプとか。なんか修学旅行っぽくて良くないですか?」

「………」

 

 神様、私はムッツリで良いです。ですから、ムカつくあの子に何でも良いから制裁を下して下さい。天然でやってるところが腹立たしいです。

 

「え、なんか怒ってます……?」

「怒ってない」

 

 もうなんでも良い。トランプでもなんでもやってやるわよ。

 

「で、何するの?」

「まあ、二人ですからね。とりあえず、ポーカーとか?」

「じゃあ、一回ごとに負けた方が言うこと聞くのは?」

「いいですね」

 

 とのことで、ポーカーを始めた。遊歩くんに配られたトランプを見た。……ふーむ、2ペア揃ってるんだけど。

 

「よし、勝負」

「えっ、も、もうですか?」

 

 トランプを三枚捨てる遊歩くん。だが、表情は微妙な感じだった。多分、お目当のものが来なかったんだろう。

 

「はい、2ペア」

「……1ペア」

「はい、私の勝ちね」

 

 ……うーん、どうしようかな。言うこと聞いてもらえるならー……。

 

「あ、じゃあ、明日病院終わってギプス外れたら、スタバで何か奢ってね」

「えっ、も、物ですか……?」

「うん」

「まぁ良いですけど。よーし、じゃあ二回戦ね」

 

 第二回戦。また遊歩くんがトランプを配り、カードを見た。スリーカードが揃っていた。

 

「……あの、遊歩くん?」

「うげ……なんですか?」

「勝たそうとしてない?」

「い、いやいや!勝たせるって、既にスタバ奢ることになってんのに嫌ですよ!」

「そ、そっか……」

 

 わざとやらないでこれって逆にすごいな……。まぁ、まだ2回だし偶然かもしんないよね。

 

「勝負」

「また一発ですか⁉︎」

「うん」

 

 釈然としない様子ながらも、遊歩くんは自分のトランプを全て捨てて5枚引いた。

 

「……ブタ」

「スリーカード」

「何でですか⁉︎イカサマでしょ!」

「いや配ってるの遊歩くんでしょ」

 

 イカサマしようが無いんだけど。で、次の命令だけどー……。

 

「じゃあ、次は何にしようかなー」

「……あの、出来ればこの場で済む罰ゲームのが」

「よし。明日、病院終わったらお昼奢ってね」

「話聞けよ……」

 

 小さくため息をつくも、ルールはルールなので従ってくれた。よし、これで明日のお昼ご飯までは一緒にいれる。

 

「じゃ、三回戦目!」

「あの、すみません。配ってもらって良いですか?」

「私が?」

「なんか俺配るとダメみたいなんで……」

 

 多分、偶然だと思うけど、とりあえず言われるがまま手伝うことにした。

 それから5回ほどゲームを繰り返したが、全部完封した。おかげで、明日どころか明後日までボウリングに行く約束までしてしまった。

 

「……なんで勝てないの」

「そりゃ勝てないよ。遊歩くん、フラッシュとかストレートとか高得点狙ってるでしょ」

「え、だってそれやらないと……」

「何か賭けてるんだから、何か組み合わせが揃ったらそれで勝負しないと」

「……な、なるほど」

 

 そりゃ勝てないって。揃えるの難しいのは当然、揃うまで時間かかるんだから。

 

「次は1ペアでも良いから揃ったら勝負してみ?」

「分かりました」

 

 何か賭けてるのにアドバイスするのも変な気もするけどね……。

 で、8回戦目。配ったカードを見ると、4が二枚でワンペア出来ていた。アドバイスしておきながらこれで勝つのは申し訳ないので、とりあえず別の組み合わせができるまで引こう。

 まず遊歩くんからカードを4枚捨てて4枚引いた。続いて、私もカードを3枚捨てて3枚引……あっ、ふ、フルハウスだ……。

 どうしよう、また勝っちゃう……。少し申し訳なくなってると、珍しく遊歩くんの方が声を発した。

 

「勝負」

「良いよ」

 

 まずは私から。フルハウスだ。すると、遊歩くんがカードを出した。ロイヤルストレートフラッシュだった。

 

「………」

「……なんで?」

「俺に聞かれても……」

 

 結局、アドバイスは活かされなかった。だが、まぁ負けは負けだ。何か言うことを一つ聞かなければならない。

 

「じゃ、私の負けだから。何でも言ってね」

「おっぱいを揉ま」

 

 脳天にチョップすると、頭を床に打ち付けた。

 

「……冗談です」

「次はないからね」

 

 本当にエッチなんだからこの子は……。

 コホンと咳払いをすると、遊歩くんは「どうしよう……」と顎に手を当てた。

 

「別にお願いなんて言ってもな……」

「何でも良いよ?セクハラ以外なら。私の罰ゲームを一つ減らして欲しいとかでも良いし」

「いや、だとしても6回言うこと聞かなきゃいけませんからね……。うーん……」

 

 少し考え込んだ後、「あ、そうだ」と遊歩くんは手を打った。

 

「簡単なんですけど、良いですか?」

「うん。私に出来ることなら」

「明日、ギプスが外れても、またアーニャさんとうちに遊びに来てくれませんか?」

「………」

 

 そう言われ、思わずちょっと感動してしまった。それと共に、自分の心の方が汚れてることを知ってしまった。すぐにものを強請った私って……。

 

「? どうしました?」

「……なんでもない。連絡くれればいつでも遊びに行くからね」

「は、はぁ……」

「もう寝ましょうか」

「了解です……?」

 

 額に手を当てながら、布団の中に入った。

 

 

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