新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。   作:バナハロ

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勝てない戦いに挑むにしても怪我をしない程度にしましょう。

 足のギプスは外れたものの、もう少し足を安静にする期間に入った。骨折は徐々に良くなってきている。いやもう本当に良かった。これで体を思う存分動かせる。やっぱ、人間運動が大事だよね。

 学校の体育にはまだ参加出来ないが、新田さんやアーニャさんと表に遊びに行ったりも出来るし、夜に散歩という一人暮らし学生らしいことも出来る。

 これから俺は、自分の好きに身体を動かせるのだ。走ったり潜ったり飛んだり出来るようだ。いや、潜ったり飛んだりはできないけど。

 とにかく、フリーダムガンダムよりフリーダムなフリーダムユウホなのだが、現在、俺は自室で机に向かっている。

 

「……つらい、やめたい、めんどくさい……」

「はい、泣き言言わない」

 

 新田さんという、怪我が治った直後に悪魔の化身となった女帝によってしごかれていた。

 事の発端は、今日の俺の学校帰りだった。なんだかんだ、俺の怪我が無くても、暇な日は俺の部屋に集まるのが当たり前になってきた新田さんとアーニャさんだったが、俺の鞄から落ちた数学の小テストを見た新田さんの一言だった。

 

『ちゃんと、お勉強しましょうね?(真顔)』

 

 10点満点中、−2点と言う幻の点数を入手した俺のテストを見て、面倒見の良い姉の如く静かにキレた新田さんのセリフによって、勉強会が始まった。

 勉強会、と言っても勉強してるのは俺一人で、新田さんは教える係、アーニャさんに至っては……。

 

「ユウホ!頑張って下さい!」

「元気百倍!ユウパンマン!」

 

 新田さんに唆されて、俺を励ます係をしていた。これで的確に元気出ちゃうんだから、ホントにずるい。

 

「はい、じゃあ今のボヤキを休憩と見なすから、休憩は一時間延長ね」

 

 しかも、何故か元気を出すたびに新田さんの指導は厳しくなるし。俺の疲れも蓄積されるので、見事に負の連鎖が成立してる。いや、その分ハイペースでアーニャさんの応援をもらえるし、一方的に負の連鎖とは言い難い。

 ……そうだ、俺はアーニャさんに応援してもらっているんだ。たかだか辛いってだけで心が折れてどうする。それでも男か!

 

「燃えろオオオオ!俺の何かあああああ‼︎」

「うるさい。いいから練習問題解きなさい」

「はい」

 

 新田さんに冷たく怒られ、机に向かった。えっと……△ABCにおいて、b=3、c=5、A=120°の時のaを求めよ。

 

「……えっと、なんだっけ。正弦定理?」

「はずれ」

「じゃあ加法定理?」

「だからはずれ。なんで毎回最後まで当たりを引かないの」

「えっ、まさかヨーテリーじゃないでしょ?」

「余弦定理よ。なんでポケモンが候補に上がってるの。教科書のここ、この公式を使うの」

 

 なんだ、まだテリーいたのか。テリーっつーか定理だが。

 

「それで……どの公式使うんですか?」

「自分で考えなさい」

「つまり、運試しだな」

「なんでそうなるの……」

 

 だって、答えは三分の一でしょ?

 a^2=b^2+c^2-2bccosA

 b^2=a^2+c^2-2accosB

 c^2=a^2+b^2-2abcosC

 のどれか。これを運と呼ばずに何と呼ぶ?

 

「考えたらわかるでしょう?てか見ればわかるでしょ。この問題の求めてる記号はどれよ?」

「えっ?えーっと……」

「あっ、分かりました!」

 

 隣のアーニャさんが手を挙げた。

 

「この、a^2の奴ですね!aを求めようとしていて、公式にAがありますから!」

「アーニャちゃんすごい!正解」

「えへへ、やりました」

「………」

 

 アーニャさんの頭を撫でる新田さんと、嬉しそうな表情で撫でられるアーニャさんの絵はとても可愛らしかったが、俺としては複雑だった。

 年下の外国人でも出来た問題が出来ない俺は何なんだろうか……。自分探しの旅に出ようかな……。

 凹んでるのが目に見えて分かった新田さんは、実に愉快そうな顔をしながら言った。

 

「普段から勉強しないから、歳下に出し抜かれちゃうんだよ。良い教訓になったね?」

「……このクソドS」

「何か言った?」

「事実確認しながらアイアンクローやめいたたたたたごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

 ていうか、なんでそんな握力強ぇんだよ!本当にこの怪力お化けが……!」

「声に出てるよ?」

「あががががごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 

 あ、頭が変形すりゅううううう!

 とにかく必死に謝り倒し、なんとか手を離してもらった。頭がズキズキするのに御構い無しに、新田さんは言った。

 

「さ、早く解きなさい」

「……人の頭を圧迫しておいて……」

「ユウホ、頑張って下さい!」

「よーし、パパ本気出しちゃうぞー」

 

 スゲェや、このサイクル。

 まぁ、いい加減真面目にやらないと付き合ってもらってるのに申し訳ないので、本気を出すことにした。

 使う公式はアーニャさんが見つけてくれたので、あとは当てはめるだけだ。

 

「えっと……つまり3^2+5^2-2×3×5×120か」

「なんで120をそのままかけちゃうの。cos120°はいくつ?」

「えっ、だから120でしょ?何言ってんの?」

「いや、cos120°にもちゃんと数値があるの。-1/2よ」

 

 なんでそうなんだよ……。いや、数学に理由を求めたって尚更、訳が分からなくなるだけだ。そう言うものだと割り切ろう。

 

「つまり、3^2+5^2-2×3×5×-1/2か」

「さ、やってみて」

 

 言われて、ノートに途中式を書き始めた。

 えっと……9+5^2-2×3×5×-1/2で、14^2-2×3×5×-1/2で、196-2×3×5×-1/2で、194×3×5×-1/2で、582×5×-1/2で、2910×-1/2で……。

 

「-1455か!」

「あなたほんとのバカなの⁉︎たし算とかけ算はかけ算を優先するなんて小学生でも知ってることよ⁉︎」

「なんでだよ!順番に掛けてやらないと並んでる意味ねえだろうが!こんな理不尽な式を解いても無駄だ!帰らせてもらう!」

「何逆ギレして帰ろうとしてんの?てか、ここがあなたの帰る先だからね?」

 

 ダメか……。もうわけがわからないよ……。なんで数学だけこんなルール厳しいんだよ!

 

「もう嫌だー!勉強嫌だー!」

「ああもう、喚かないの!アーニャちゃん!」

「ユウホ、頑張っ」

「いーやー!アーニャさん、俺を甘やかしてー!」

「ゆ、遊歩くん……」

「ゆ、ユウホ……」

 

 寝転がってパワフルに駄々を捏ねると、新田さんはともかくアーニャさんまで情けない人を見る目で見て来た。

 流石に自分でも情けないと思うので手足の動きを止めた。やがて、新田さんが仕方ない子を見る目で俺を見てため息をついた。

 

「はぁ……仕方ないわね。この問題解けたら休憩にしましょう」

「マジですか⁉︎やったぜ!」

「……まったく、子供なんだから」

 

 子供で結構。さて、頑張りますか!

 

「えっと……まずはかけ算から、だったよな」

「そう。あと、バカやる前に言っておくけど、二乗も先にやるんだよ。コツとしては、まずは二乗を済ませてかけ算を済ませて、最後にたし算をするの」

「バカやる前にって……」

「だってバカじゃない」

「はい、そうですね」

 

 実際、否定できないし。

 さて、計算しよう。えっと……二乗してかけて足して……。

 

「7?」

「はい、正解。やれば出来るじゃない」

「はい休憩ー!」

「まったく、現金な子なんだから……」

 

 新田さんの小言を無視して、その場で寝転がった。さて、寝ようかな。

 そう思って目を閉じた直後だ。机の上にコトっと何かが置かれた音がした。ふと目を開けると、アーニャさんが水を入れてくれていた。

 

「お疲れ様です、ユウホ」

「……これからはもっと頑張ります……」

「ほんとちょろい男……」

 

 俺は何を駄々こねていたんだろうか……。やはり純粋さは人の汚さをすべて洗い流してしまうようだ。

 ちょろいとか新田さんバカにしてるけどね、この純粋さの洗浄力は凄まじいからね?洗剤なんか相手にならないから。

 

「で、再テストはいつなの?」

 

 今やってる勉強は、小テストで5点以上いかなかった生徒のみが受ける再テストのためのものだ。

 再テストは小テストと全く同じ問題が出るため、途中式とか全部書いたカンペを持って行く予定だったが、まぁその辺は仕方ない。

 

「来週の放課後です」

「まだ時間はあるんだから、みっちりやるよ」

「これが一週間続くのか……」

「情けない泣き言は聞きたくありません」

「はぁ……」

 

 まぁ、これも学生の宿命か……。絶対ぇ、大学には行かねぇ。

 

「そういえば、アーニャさんはテストとかないんですか?」

「……えっ、わ、私?」

 

 何となく振った話に、思いの他、アーニャさんは狼狽えた。お陰で、新田さんの矛先はアーニャさんの方に向いた。

 

「……アーニャちゃんもあるの?」

「い、いえ、ないよですか?」

「何その言い間違い可愛い!」

「遊歩くん黙って。どうなの?アーニャちゃん」

「……あ、あります……」

「何の教科?」

「……日本史です」

 

 ……前に苦手と言ってた科目だ。俺より頭の良い新田さんがそれを忘れているはずがなかった。

 ニッコリと微笑みながらペンを取り出して言った。

 

「一緒にお勉強しよっか?」

「……ダー。ユウホの所為です」

「えっ、お、俺……?」

「ユウホ、嫌いです」

 

 アーニャさんが頬を膨らませてぷいっと俺から視線を外した直後、俺の中に稲妻が走る。

 そして、アーニャさんの学校鞄に手を伸ばす新田さんの前に立ち、構えを取った。

 

「それ以上先には進ませません!」

「……ユウホ?」

「遊歩くん?どう言うつもり?」

「アーニャさんに勉強をさせるなど、神に石を投げるに等しい行為だ。そんな真似、新田さんにはして欲しくない!」

「退きなさい、遊歩くん。これもアーニャちゃんのためなのよ?」

「誰かのため、なんて詐欺師に一番よく使われるセールストークだ!」

 

 直後、小さくため息をついた新田さんも構えをとった。

 

「……ふぅ、分かったわ。どうやら、説得は無意味のようだね」

「もとより」

「後悔しない事ね……!」

「以前までの俺とは思わない事だな、新田美波よ。骨折という足枷を取った俺は、もはや森羅万象ありとあらゆる敵をも敵ではなく……あれ、何言ってるかわかんなくなって来た」

 

 コオォォと息を吸い込む新田さん。だが、後ろにはアーニャさんのカバンがある。俺は、アーニャさんを泣かせる事だけはさせない!

 お互い、隙を伺うように睨み、こう着状態に入った。そして……。

 

「いだだだだ!ギヴギヴ!すみませんでした!」

 

 決着は一瞬でついた。

 

 

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