新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
翌日、私はドラマの撮影場所に車で向かっていた。しかし、昨日は本当に恥ずかしかった……。みんな、私と遊歩くんの仲を聞きたがるんだもん……。別に大した仲じゃないのに……。
何より、中学生と高校生に大学生が問い詰められるっていう構図がもう恥ずかしかった。私に年上としての威厳はないのかな……。
いや、仕事の同僚という見方をすれば上下関係は無いんだし、そこまで気にする事でもないし、変に緊張されるのも嫌だけど。
まぁ、でもその辺は私を慕ってくれてる遊歩くんで我慢するとしよう。たまにいじってくるのが腹立たしいけど、まぁ可愛いもんだ。
しかし。今回は可愛いじゃ済まないかもしれない。何故なら、私の今回のドラマの撮影場所は何処かの高校。つまり、学生服を着なければならない。それもセーラー服。
……これが恥ずかしいんです。まだ卒業して二年ほどしか経過してないのに、学生服を着るのがこんなにも恥ずかしくなるなんて……。
でも、お仕事なんだし着ることに抵抗は無い。何が恥ずかしいって、これを遊歩くんに見られると思う事だ。
……あの子、絶対笑う。いや、あの子の部屋にテレビはないし、見られる可能性は低い。アイドルだって気付かれてすらないし。
けど、万に一つでもバレたら……。
『コスプレっスか新田さんwww』
このセリフが飛んでくるに決まってる。最近、厳しく勉強教えてたから、仕返しという意味でもいじって来そうという事は誰の目から見ても明らかだった。しかも、よりにもよって私の役は「地獄の女番長」だ。
……まぁ、遊歩くんがテレビを見ないように全力でカバーするしかないかな。
幸い、私をアイドルだと気付かない程に世間の事に興味のない子だから安心していられる。……アーニャちゃんはともかく、蘭子ちゃんや飛鳥ちゃんがアイドルだと知ってて私がアイドルだって知らないのは少し納得いかないけど。
そんな事を考えてるうちに、撮影現場の高校に到着した。……あれ?この高校って……いや、まさかね。そんなわけない、うん。きっと外観が似てるだけ……。
「美波、どうした?」
「えっ?」
プロデューサーさんに声を掛けられた。
「行くぞ」
「は、はい……!」
そうだ、集中しないと。これからの撮影では、私は番長なんだし……。
まずは学校側の方と挨拶をし、続いて着替えを持って更衣室へ。生徒会の方に案内していただいた。
衣装箱を開け、いよいよ中からセーラー服を出した。ついにこれを着る時が来た……。いや、これくらいで怯んでいてはダメだ。やるぞ、私。
手早く着替えを済ませて更衣室を出た。しかし、自分の母校でもないのに、こういう高校ならではの雰囲気は随分と久し振りな気がする。やっぱり、二年ぶりだからかな?生徒会の子が一緒とはいえ、他の子達とは若干違うセーラー服を着てるのは若干、気恥ずかしい気もするけど。
そういえば、この高校の子達から何人かエキストラを借りるんだっけ……。私の制服のデザインを変えたのは、番長が自分の制服を改造したから、だそうだ。私の高校にはそこまで突っ張った子はいなかったけどな……。
少し物思いにふけながら校内を見回して歩き、監督達の元に戻った。
「お待たせしました」
「おおー、やっぱ似合うね」
「あ、ありがとうございます……」
良かった、まだ制服を着てもセーフな年齢なんだ……。
その事に少しホッとしつつ、とりあえず頭の中で昨日までで覚えたセリフをループさせた。
×××
お昼になり、私はお昼に用意していただいたお弁当を食べていた。好きな所で食べても良い、との事だったので、プロデューサーさんと一緒に学食で食べていた。男の人と一緒にいれば、基本的に誰も声を掛けて来ないだろう、との事だ。
まぁ、周りの視線はとても感じるんだけどね……。でも、何となく学食の雰囲気を味わいたくて、ここに来てしまった。
「美波さん!」
早速、声を掛けられた。無視するわけにもいかないので振り向くと、驚いた事に李衣菜ちゃんが手を振っていた。
「李衣菜ちゃんっ?」
「やっぱりドラマ撮影って美波さんだったんですね!」
「あ、ここ李衣菜ちゃんの高校だったんだ……」
そっか。道理で見たことあると思った。うん、きっとそうだ。
「プロデューサーもいるんだ」
「俺がいちゃ悪いのかよ。俺は基本的に何処にでもいるぞ。Pレーダーを使って7つ揃えれば願い事が一つ叶うレベルで」
「……クローネがオタク化してから、プロデューサーも隠さなくなりましたよね」
「あ、あはは……」
前からみんなにバレてたとは言えない。
「美波さん、かっこよかったよ。一瞬だけど、撮影の所見えたんだ」
「ありがとう……。でも、なんだかまだ難しくて……。私、番長どころか校則もキチンと守る生徒だったから」
「でも、しっくり来てたよな。特にアイアンクローのところとか」
「あ、あはは……」
乾いた笑いを浮かべて目を逸らした。言えない、どこかの男の子を制裁の度に何かしらの技で絞めてるとは口が裂けても言えない。
しかし、そこまで暴力がしっくり来てるのは少しショックだ。それもこれも全部遊歩くんの所為なんだから。
「美波、そろそろ」
「あ、はい」
お弁当を食べ終えて、私とプロデューサーは席を立った。その私に、李衣菜ちゃんがルーズリーフを差し出して来た。
「? 何これ?」
「サインだって。クラスの子の分、31枚」
「……李衣菜」
プロデューサーさんに困った様子の笑みを浮かべられ、涙目で李衣菜ちゃんは叫んだ。
「だって土下座までして頼まれちゃったんだもん!」
「分かった、分かったから。何とか書いておいてあげる」
「ありがとうございます!やっぱ女神様ですね!」
「……最近、悪魔だとかデヴィルとか言ってくる子もいたけどね」
「誰ですか、そんなこと言うロックじゃない奴!そんな奴、私がタコ殴りのタコにしてあけますよ!」
「うん、ちょっとよくわからないけど、お気持ちだけいただいておくね……」
ルーズリーフを受け取って、撮影現場に戻った。
次の撮影現場は体育館だった。監督やスタッフさん、他の役者の方、プロデューサー達と一緒に打ち合わせをした後、十数人の生徒が体育館に入って来た。
「ああ、来た。あの子達が今回のエキストラだよ」
ちょうど、体育の予定だった子達らしい。……ていうか、李衣菜ちゃんもいるし。エキストラでアイドルを使うのはある意味すごい気がする。
しかし、良くも悪くも李衣菜ちゃんがいるからか、特徴的なクラスだなぁ。悪い子はいなさそうだけど、みんな仲良さそうなクラスだ。こんなクラスに遊歩くんがいれば、友達も出来たんだろうなぁ。
なんて考えてると体育館の男子トイレのドアが開いた。
「……あ、もう始まんのか」
出て来てそう呟き、カラスの群れに参加する男の子は遊歩くんだった。
……そっか、見たことあるのは遊歩くんの学校だったからなんだ……。いや、最初から分かっていた癖に頭の中ですっとぼけていたのは私だけど……。
すると、遊歩くんと目が合った。当然、「んっ?」と遊歩くんは私を見て目を細めた。……まずい、バレる。
「皆さん、今日はよろしくお願いします」
なるべくお淑やかに、その上で歳上オーラをキラキラ出しまくってみなさんに挨拶した。
直後、生徒達から歓声が上がった。チラッと遊歩くんを見ると「なんだ、別人か……」とか呟いてた。それはそれでムカつくけど。すると、私のポケットに入ってるスマホがヴヴッと震えた。
遊歩『スッゲェ!新田さんそっくりの人がいるんですけど!』
遊歩『双子の妹とかいたんですか⁉︎』
私だよ!と、口から出そうになったのを必死で堪えた。
×××
夕方になり、今日の撮影は終わった。
結局、最後まで遊歩くんが私は私だと気付くことはなかった。別に良いんだけど、何だか釈然としない。
そもそも、別に隠したいわけではない。初めて会った時に隠してたのは、あまり言わない方が良いと思ったからだし、東京で再会してから言わなかったのは、怪我してて大変そうだし、アイドルだと知れば気を使わせてしまうかもしれないと思ったから。
ただ、最近になってそんな風に気を使う事はないと思うようになって来た。だってアーニャちゃん、蘭子ちゃん、飛鳥ちゃんと普通に話してるんだもん。これもう私が気を使う必要なんてない気もして来たし……。
……でも、だからだろうか。自分からバラすのはなんか負けた気がする。
そんなことを思いながら、今日は自分のマンションに向かっていた。なんか遊歩くんに顔合わせづらくて……。
遊歩くんの学校からは、公園を通るのが近道だ。
「友紀、パス!」
「ま、待って!パスとか言われても……!」
「ふはははは!貴様ら如きがこの私からサッカーボールを守ろうなど百億光年早いわ!」
通ろうとした公園で、どこかで見たことある小学生と大学生の二人の女の子を相手にサッカーやってる遊歩くんがいた。……本当にアイドルと簡単に仲良くなるんだから……。それと、光年は距離の単位だよ、遊歩くん。
「はいカットォ!」
「あっ、ぅそ〜……」
「友紀、何やってんだよー!」
友紀さんからボールをカットした遊歩くんは、ボールをキープしたまま晴ちゃんを見て挑戦的に微笑んだ。
意図を察した晴ちゃんは、そのボールを奪おうと突撃した。
「このっ……!」
「遅いなぁ!貴様の動きは直線的過ぎるのだよ!」
「コネコネとっ……!ねちっこいぞ!」
「それがサッカーのテクニックというものだ!」
「そーだそーだ!男らしくないぞー!」
「ちょっ、勝手に休憩してる人に言われたくないんですけど⁉︎」
「友紀!手伝えよ!こんな奴、オレ一人じゃ手に負えないって!」
「えー、晴ちゃん一人で頑張ってよ。あたしもう疲れちゃったよ」
「そうだぞ、はるちん。そんな簡単に諦めて良いのか、はるちん」
「っ、お前がはるちんって呼ぶなッ!」
「脛が痛い⁉︎」
いつの間にかベンチに座ってる友紀さんと脛を蹴ってボールを奪う晴ちゃんと脛を抑えて蹲る遊歩くんを見て、少し羨ましく思えた。
……なんていうか、楽しそうだなー。遊歩くん。どういう経緯であの二人と知り合ったのか知らないけど、前に怪我治ったら運動しようと約束した私を捨て置いて、他の女の子とサッカーしてるなんて……。
最近はホイホイ家に女の子連れてくるし、しかもみんなアイドルだし、別に私って遊歩くんの中で特別ってわけでも無かったのかな。
「………」
……いや、そんなことない。私が一番付き合い長いはずなんだし。勉強を教えてあげてたのだって、怪我をしてる間、面倒を見てあげてたのだって全部私だ。いや、それはアーニャちゃんもだけど、遊歩くんの中でアーニャちゃんは人じゃなくて天使だしノーカン。
とにかく、あまりネガティブになっちゃダメだ。気持ちに余裕を生ませないと……。
「……すぅー、はぁ……」
よし、落ち着いた。さて……。
とりあえず、腹立つからちょっかいを出そう。
いつのまにか、ボールを奪い返し、再び二人相手に無双し始めた遊歩くんの背後から強襲し、私がボールを奪った。
「うおっ⁉︎」
「はい、どうも」
「み、美波ちゃん⁉︎」
「美波さん!」
「……えっ、新田さん?」
三人が私を見た。なんでここに?って顔をする晴ちゃんと友紀さん。まぁ、そうなるのは分かるけど、その前に遊歩くんを……!
「新田さん新田さん!今日、すごかったんですようちの学校!」
「えっ?」
「なんか新田さんに超そっくりな人がうちの高校に来て、なんかドラマの撮影してたんですよ!」
「あ、そ、そうなの?」
「はい!いやもうほんとに瓜二つで!双子かってレベルで!」
「う、うん……」
「ドッペルゲンガーかと思いましたね。まぁ、新田さんと違ってお淑やかな人でしたけど、ガハハ」
「それ、どういう意味?」
「……あの、冗談なので指をコキコキと鳴らすのやめてもらえませんか……」
「あのね、何度も言うけど女の子にそういう失礼なこと言っちゃダメだからね。私だから肉体言語で済んでるけど、他の子だったらいじめが始まるレベルだから」
「……逆に新田さんだから暴力を振るわれてる気がする」
そんな事をしてると、ふと友紀さんと晴ちゃんが静かになってるのに気付いた。
「……え、知り合いなの二人とも?」
「……ていうか、随分と仲良いみたいだな二人とも」
気がつけば、二人ともニヤリと邪悪な笑みを浮かべていた。私の額には冷たい汗が浮かんでいた。……これは、昨日と同じパターンでは……?
この後、詳しい説明は省くけど、一言で言えば遊歩くんの家に集まるメンバーが二人増えた。