新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
「……にゃるほど、ここがアイドルたらしの家」
「おい、アホネコ。人聞き悪い事言ってんじゃねえよ」
スーパーに寄ってから帰宅した。結局、うちに来たメンバーが二人増えた。俺の部屋に入るなり、人聞きの悪い前川みくさんがそんなことを抜かした。
その俺と前川さんの隣をはるちんと蘭子が走って、人生ゲームを開いた。
「よっしゃ!人生ゲームやろうぜ!」
「うむ、我が世界征服への順路を辿らせてもらおうか!」
「コラ!二人とも、人の部屋に入ったら『お邪魔します』、それと帰って来たら手洗いうがいをするニャ!」
「お、おう……すまん……」
「お邪魔します……」
大人しく従う子供二人。なんだこの子、おかんか?
おかん猫が「まったく……」と呟いて洗面所に向かうと、新田さんがそれに言った。
「助かるよ、みくちゃん。毎回、注意するの大変で」
「仮にもうちの事務所のアイドルにゃ。親元を離れてる以上、ちゃんとみく達が面倒を見てあげないと」
「ふふ、しっかり者がいてくれて助かるな。私と遊歩くんだけじゃ言う事聞かなくて……」
「? 友紀チャンは……?」
そう聞いて来た直後、姫川さんは冷蔵庫の中に缶ビールをしまい始めていた。
「……友紀チャンー!」
「げっ、い、良いじゃん!結構、ここに来るんだから!」
「男子高校生の部屋の冷蔵庫にアルコールなんてしまっちゃダメニャー!遊歩チャンの部屋だから良いものの……!」
「おい、どう言う意味だ。ダンボールに入れて『拾って下さい』って書いて捨ててやろうか」
「上等ニャ!表に出るニャ!」
腕まくりをしながら面に出ようとしたが、その俺の前川さんの前にアーニャ様が立った。
「ユウホ、ミク。喧嘩はダメです」
「申し訳ありません、アーニャ様……」
「……二人はどういう関係なの……?」
隣の前川さんが引き気味に呟いた時、俺達の隣をはるちんと蘭子に加えて飛鳥が通り過ぎた。
「みく、手は洗ったぞ!」
「これで我が暗黒の世界への序章を始めて構わないなっ?」
「ボクも参加させてもらおう。ボクの求めるセカイを構築するために……」
「はいはい、なるべく静かにする事。良いニャ?」
三人は「はーい」と返事をしながら勝手に棚から人生ゲームを引っ張り出し、床に置いた。
その三人に姫川さんとアーニャ様が加わった。
「あたしも参加する!」
「私もやりたいです!ミクやミナミもやりませんかっ?」
「私は晩御飯の準備があるから。みくちゃんは参加したら?」
「いや、みくも手伝うニャ。遊歩チャンの何処をみんなが気に入ったのか分からにゃいけど、それを突き止めるニャ」
「好きにしろよ……」
……なんでこんなに敵視されてるんですかね……。
ま、良いや。これから晩飯だ。今日のメニューはハンバーグ。子供が増えたからな……。
「おーっし、じゃあ俺が味噌汁とかサラダとか米とかやるんで、新田さんと前川さんはハンバーグの方を任せても良いですか?」
「みくに指図するニャー!」
「ま、まぁまぁ、みくちゃん……」
「ちょっと待ったー!」
突然、大声が割り込んで来た。何事かとみんなで声の方を振り返ると、多田さんが照れたように頬を赤く染めて、今だに玄関に立っていた。
「何してんの?あ、まだサッカーやりたい?ごめんもうみんなお腹空かせてるよ」
「違うわ!なんでみんな男の子の部屋で馴染んでるの⁉︎異性の部屋だよ⁉︎もっと意識しようよ!」
そう言われて、全員顔を見合わせた。
「みくはみんながいたからだし……」
「あたしは晴ちゃんの面倒見なきゃだし……」
「……友達の家に行くのに異性とか関係あるのか?」
「ボクは美波さんとアーニャがいたからだし……」
「私も……」
「私とミナミは夏からユウホとお友達ですし」
「わ、私は……ま、まぁアーニャちゃんと一緒かな」
「だってよ」
「おかしいよ!みんな寛ぎすぎだよ!」
そりゃ寛いで良いって言ったしな……。
「……あ、もしかして照れてんの?」
「て、照れてるよ!この際、正直になるよ!絶対みんなおかしいよ!」
「いやー、普通の女の子みたいなリアクションで逆に新鮮だわー。多田さんって割と普通の子だったんだな」
「アイドルに向かってよく言えるね⁉︎」
周りのメンツに比べたらって意味なんだけど……。でも、みんな入ってるんだから部屋に入るくらいすりゃ良いのに。
「いいから入って来いよ。人生ゲームやってて良いから」
「そうだよ、李衣菜チャン。一人で照れてても浮くだけニャ」
「どうせなら、リイナも人生ゲームやりませんかっ?」
「うー……納得いかない……」
俺、前川さん、アーニャさんと誘うと、何故か悔しそうな顔で多田さんは入ってきた。
「多田さんも晩飯食って行くでしょ?」
「……みんなが食べるなら」
これでハンバーグ九個か……。なんでこんな狭い部屋に野球できる人数集まってんだよ……。
味噌汁の味付けをしながら、人生ゲームをやってるメンバーを見つつ小さくため息をつくしかなかった。
×××
食事が終わり、そろそろみんな帰宅する時間。なんか事務所の寮に泊まってる人とかいるのでみんな団体で帰れるそうだ。
しかし、多田さんは実家で新田さんは一人暮らしなので、その二人は俺が送らねばならない。
そんなわけで、三人で帰宅していた。
「はぁ……今日は色々と驚いちゃったな……」
かなり疲れた様子の多田さんが盛大にため息をつくように呟いた。
「そうだよね。普通なら驚くよね。私も、最近は毎日のようにアイドルを部屋に連れてくる遊歩くんにうんざりしてるの」
「なんで俺がうんざりされるんですかね……。大体、蘭子と飛鳥を連れて来たのはアーニャ様だからな」
「……あの、前々から気になってたけど、なんで北山はアーニャちゃんの事、様で呼んでるの?」
「女神様だからだよ」
「李衣菜ちゃん、その子ちょっとヤバい子だからほっといてあげて」
「あ、ファンなんだ?」
まぁ、ファンっつーかもはや友達だが。俺の友達は新田さん以外全員アイドルだからな。
「しかし、知らなかったなー。北山って結構喋るんだ?」
「どういう意味だよ」
「クラスだといつも一人でポツンとしてるじゃん。正直、一番クラスでロックじゃないのは北山だと思ってたから」
「ロックって何?ロックマン?」
「それが、クラスの外ではアイドル搔き集める能力者なんだから」
「ワンピースかっつの」
大体、能力者ってお前な……。
「でも、人望あるって事だよね」
「ねぇよ、歳下から歳上まで舐められ放題だ」
特に前川さんな。あいつ俺に言いたい放題でビビったわ。
「まぁ、それだけ絡みやすいって事だよ」
「そうなんかね……」
言われてもピンと来ないけど。
すると「そういえば」と多田さんが話を変えた。
「中でも美波さんと一番仲良いように見えるよね」
「え、そ、そう……?」
照れた様子の新田さんが返事をした。
「まぁ、確かに私が一番付き合いは古いよね」
「古いって……たかだか一ヶ月くらいでしょ。アーニャ様とはほんの数十分だし」
「それでも古いんだから良いじゃない」
「そうなんだ。どう知り合ったんですか?」
どうって言われてもなぁ……。少し脚色してみるか。
「あれは、夏休みの海での出来事だった……。浜辺で」
「アーニャちゃんが迷子になったのを一緒に探してもらったの」
「ちょっ、なんで俺が説明しようとしてるのに答えちゃうんですか」
「どうせ変に脚色しよとしたでしょ。ヤンキーに絡まれてるのを助け出した、みたいな」
「……よくお分かりで」
「ほんと仲良いね……。でも、そうなんだ。アーニャちゃん、迷子になったんだ」
思えば、あの日が俺の女神記念日か……。
「まぁ、それから色々ありましたよね。新田さんのおかげで随分助かりました」
「何かあったの?」
「ああ。新田さんとアーニャさんを宿まで送ったんだけど、そのあとすっ転んで骨折してさ、しばらく東京で面倒見てもらったり」
「へぇ〜」
「病院まで連れて行ってもらったり」
「ふーん……んっ?」
「それとあれだ。勉強の面倒も見てもらった。お陰で再テスト1回で済んだんだよね」
「えっ、そ、それって……」
少し引き気味に多田さんは新田さんを見た。新田さんは頬を赤く染めていた。何を今更恥ずかしがってんだ。
「ち、違うの!そういうんじゃなくて、アホで危なっかしい子だから放っておけなくて!」
「そっかー……美波さんもかー……」
「違うんだってば!本当に……!」
「そういうんじゃないよ。新田さんは弟いるらしいから、そういう性分なだけだよ」
「………」
「………」
あれ、なんか二人とも黙り込んじゃったな……。と、思ったら少し睨まれてるし……。
「……こういうところ、腹立つんだよね。別にそういうんじゃないけど」
「……大変だね、美波さん」
なんかすごい呆れられたぞオイ……。
そうこうしてるうちに、多田さんの家に到着した。
「ふぅ、ありがとね。わざわざ」
「いいよ別に」
これから新田さんも送らなきゃいけないし。
「あ、そうだ。北山」
「? 何?」
「修学旅行さ、どうせ同じ班のメンバーとか困ってるでしょ?」
「どうせとか言うな」
「一緒の班にならない?」
「……えっ、俺と?」
あなたクラスにもっと友達いるでしょ。俺と組む必要なんかないはずだ。
「良いじゃん。じゃ、また明日学校でね」
それだけ行って、多田さんは家の中に入っていった。
残りは俺と新田さんの二人だけ。新田さんの事もマンションまで送らなければならない。
「じゃ、行きましょうか」
新田さんのマンションに向かい始めた。
「そういえば、新田さんのマンションに行くのなんて初めてですね」
「そうだっけ?」
「はい。あ、いや行くっつっても送るだけなんで部屋には入らないですけど」
「せっかくだから寄って行ったら?送ってくれたお礼にお茶くらい出すよ」
「マジすか?いただきます!」
やったぜ。新田さんの淹れるお茶は異様に美味いからなぁ。
マンションに到着した。メチャクチャ高い高層マンションだった。
「……え、ここ?」
「そうだよ?」
「………」
……え、ここ?1LDKを超えてるだろこれ……。妹が?アイドルとはいえこれは……確実に親が大富豪としか思えないんだが……。
「……あの、新田さんの家って一体……」
「? 普通のマンションだよ?」
……絶ッッッ対普通じゃねぇ。あまり聞いちゃいけないかもしれない。
半ば緊張気味にマンションの中に入り、部屋番号によってロックされている自動ドアを新田さんが開けた。
「……自動ドア、マンション、ロックナンバー……?ここが、異世界……?」
「同じ世界の同じ国の同じ都内だよ」
うちと何もかも違う……。いや、うちのアパートは元々、安い方を選んだからうちよりは高いと思っていたが、まさかここまでとは……。
「はい、ここが私の部屋」
9階の一室に入った。中は広くて、居間、キッチン、トイレ、バスルーム以外にも部屋が二つあるし。なんでこんな無駄に広い場所にしたんだよ……。
「……すごい広いですね……」
「はい……。パパが、心配性でわざわざ大きな部屋を取ってくれて……」
……え、パパって言った?この人、しっかりしてるように見えて親の事、パパって呼ぶんだ……。ギャップが可愛いな。
割と甘えん坊な所があるようだが、だからこそ親の方も大きな部屋を借りたのかもしれない。
「……良い両親ですね」
「そ、そうなのかな……。過保護な気もするけど……」
まぁ、親バカではあるかもしれないけどね。
部屋の中に入り、手洗いうがいを済ませるとソファーの上にボフッと座り込んだ。
「ふわあ……柔らかい……」
ソファーがある事自体が羨ましいのに、柔らかくてすぐ寝ちゃいそうだ。
「はい。お茶」
「……ありがとうございます」
お茶を淹れてもらった。一口いただくと、隣に新田さんが座ってテレビをつけた。
「ふぅ、お疲れ様」
「あ、はい」
お茶で乾杯した。
「……ふぅ、今思ったけど、ソファーって初めて座ったかも……」
「えっ、そ、そうなの?」
「や、マジ。うちの実家、和室ばかりでソファーとかないんですよ」
「へぇー……どう?気持ち良いでしょ」
「はい。一生座ってても良いです」
「それはダメだと思うけど……」
ホッと一息ついた。しかし、今日はマジで疲れたな……。午前中に野球、昼飯は七人分、午後にサッカーのち追いかけっこで晩飯は九人分だからなぁ……。
「はぁ……ここで暮らしたい……」
「ボフッ⁉︎」
そんな事を呟くと、突然新田さんは吹き出してしまった。
「ど、どうしたんですかっ?」
「な、何を言い出すのいきなり⁉︎」
「え、こんな部屋で暮らしてみたいって……」
「あ、そういう……。……まったく紛らわしい事言わないで……」
「え、何と間違えたんですか?」
「何でもない」
ご立腹の新田さんはお茶を飲み干すと立ち上がった。
「? どこ行くんですか?トイレ?」
「正解!」
「痛ッ⁉︎」
正解なのに頭に手刀をもらってトイレに向かった。あ、女の子にトイレとか聞いちゃダメなんだっけ……。
少し反省しながらソファーの上で横になった。あー……ふかふかしとるがな……。このままじゃ寝ちゃいそうなんだけど……。
……そういえば、前に新田さんも寝ちゃってうちに泊まって行ったことあったっけ……。
……良いや、寝ちゃおう。そのまま目を閉じた。