新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
駅前の待ち合わせ場所で待機してると「北山さん!」と声が聞こえた。そっちに顔を向けると、新田さんとアナスタシアさんが駆け寄ってきた。うほおおお、私服も可愛いンゴオオオオオオ!
「お待たせしました」
「待たせてしまいましたか?」
「いえ、待ってませんよ」
ああ、決して待ってない。バイト終わってダッシュで帰ってシャワー浴びて着替えてきたから、大体1時間半くらいしか待ってない。
「では、参りましょうか」
新田さんに言われて、3人で祭りまで出掛けた。会場は神社から公園までの間の1本道。駅からはちょうど二つの中心点から入る事になる。
結構ここから行くのは人が多いんだよなぁ。
「あの、お二人とも少し良いですか?」
「? なんですか?」
新田さんが振り返った。
「少し遠回りになるんですけど、公園側から行きませんか?このまままっすぐお祭りに合流すると、人混みすごくて混むんですよね。抜け道通ればすぐに着きますけど」
「あら、それは良いですね。アーニャちゃんもそれで良い?」
「はい。私もその方が良いです!」
「じゃあ、付いてきて下さい」
よっしゃ。そんなわけで、周りの人とは別のルートで歩き始めた。
先頭を歩いてると、後ろから新田さんが隣に来て、世間話をするように声をかけて来た。
「北山くんは何歳なんですか?」
「16です」
「てことは、高校生?」
「はい。高校2年です。学校は東京で一人暮らししてるんですよ」
友達は1人もいないけどな………。いいもん、地元には友達いるし。
「あら、高校生で一人暮らしは大変ではないですか?」
「まぁ、そうですね。去年とかホント死ぬかと思いましたよ。洗濯の仕方も分からなくて」
「えっ………」
「キタヤマは生活力が無いのですか?」
「はい。アーニャ様がそうおっしゃるのなら、私に生活力などありません」
「………?」
「北山さん、普通に会話して下さい………」
新田さんから的確なツッコミが来たので、普通に答えることにした。
「一年前は無かったですね。洗濯も料理も出来なくて………。綺麗好きだから掃除だけは出来ましたけど、基本的に生活力皆無でしたね。今は一応、それなりに出来るようになりましたが」
本当にそれなりなんですけどね………。揚げ物とか今だに苦手だし。出来れば、高校三年間でもう少し美味いもん作れるようになりたいもんだ。
「新田さんやアーニャ様は作れるんですか?」
「私もそれなりに、ですかね………。アーニャちゃんは?」
「私はボルシチが得意です」
「へぇ、ボルシチですか!マドモアゼル・ビューティフル・アナスタシア様のボルシチはそれはもう絶品なんでしょうね!」
「びゅ、ビューティフル………」
「ですから、北山さん普通にお願いします……。それ名前にすらなってませんから………」
どうでも良いけど、名前が三段階に分かれてる人ってどれが名前なんだろうな。
「真面目な話、本場のボルシチなら食べてみたいです」
「では、今度作ってみますね」
「マジですか⁉︎俺もう死んでも良いや!」
「しっ………⁉︎」
「………いい加減にしてください」
「はい」
あれ、段々と新田さんの声が冷たくなってるような………。でもわざとじゃないんだよな。知らない間に口から漏れたというか。
「アーニャちゃんはロシア人でそういう冗談は通じにくいんですから、その手の冗談は控えて下さい」
「あ、そ、そっか………。すみません、アーニャさん」
「い、いえっ、色んな日本語の表現を学べるので、キタヤマとお話しするの楽しいですよ?」
「おぅふ………」
「アーニャちゃん、間違った日本語だから覚えちゃダメだよ……。北山くんも一々、興奮しないの」
クッ、素直な子はこれだから困るぜ………。
そうこうしてるうちに、お祭り会場に到着した。俺の案内したルートからはすんなりと入れたが、やはり人混みはすごい。まぁ、駅からの直進ルートで行けば会場にすら入れないから、まだマシと言えるだろう。
「何か食べますか?」
「そうだね。アーニャちゃんは何食べたい?」
「そうですね………。どんなものがあるのですか?」
「じゃあ、とりあえずわたあめとかどうですか?」
「ワタ、アメ………?」
きょとんと首をかしげるアナスタシアさん。
「見れば分かりますよ。口の周りギトギトになるのを除けば普通に美味いですから」
「ギトギト……?あ、とんこつラーメンですね!」
「………はい?」
「アーニャちゃん、それはこってりよ」
あまりちゃんと日本語伝わってないみたいだな………。まぁ、そういうところも可愛いんだけどな。
まぁ、とにかく買ってくるか。こういう所はやはり男を見せるべき場所だろう。
「買ってきますから、二人は待っててください」
「へっ?で、でも……!」
「大丈夫です、店長が時給上げてくれましたし」
それだけ言うと、小さく手を振ってわたあめの出店に並んだ。まぁ、やっぱこういうのは男の見せ場だよな。どうせ、今日以外で会うことはないにしても、憧れのアイドルに物を奢れるなんて一生の思い出になる。
「アレが、ワタアメ………」
「ふわふわしてるでしょ?」
「………えっ?」
後ろから声が聞こえて、振り返ると普通にアナスタシアさんと新田さんが付いてきて、俺の後ろに並んでいた。
中々、格好付けさせてくれないなぁ、この人達。
「あの、なんで………?」
「なんでって………私達もわたあめ食べるからですよ?」
「いや、さっきの言い方だと俺が二人の分の買ってくるって意味だったんですけど………」
「いえ、流石に2人分も奢ってもらうのは申し訳ないですから、お気持ちだけいただいておきますね」
まぁ、そこまで言われたらなぁ………。仕方ない、3人で並ぶか。
「美味しそうですね!ワタアメ!」
目を少年のように輝かせてるアーニャ様ホント可愛い。日本のものとか全部新鮮なんだろうなぁ。
「雲みたいです」
「確かに雲っぽいかもしれないですね。俺も小学生の時は『雲が食べれる!』ってはしゃいでましたから」
まぁ、噛めるから微妙に雲って感じしないんだけどな。
俺達の順番になり、わたあめを3人分購入した。本当は座って落ち着いて食べたいだろうけど、この人混みでは無理だろう。仕方なく、歩きながら食べ始めた。
「んーっ、甘くて美味しいです」
気持ち良く、アーニャさんは一口豪快にいった。やはりというか何というか、口の周りがテカテカしている。
「アーニャさん、口の周り………」
「へっ?」
ポケットからハンカチを取り出して、手渡した。流石に拭いてあげる度胸はない。
渡されたハンカチで口元を拭うと「スパスィーバ」と言ってハンカチを返して来た。
「さっきも思ったんですけど、それどういう意味なんですか?」
「日本語でありがとう、という意味ですよ」
「何語?」
「ロシア語です」
なるほど、ロシア語で「ありがとう」は「スパシーバ」か。
「新田さんも使いますか?」
「あ、はい。すみません………」
ハンカチを取って口の周りを拭く新田さん。このハンカチ洗濯するのやめよう。
髪を耳にかけながら綿あめを食べる新田さんを見てると、何となくその食べ方に色っぽさを感じた。そういえば、新田さんっていくつなんだろ。あとアーニャさんも。いや、アーニャさんは何となく15〜17歳っぽいけど、新田さんは分からない。高校生にも大学生にも社会人にも見える。
それくらいの気品を何となく感じた。でも、女性に年齢を聞くのは失礼になるんだよなぁ。上手く遠回しに聞いてみるか。
「そういえば、新田さんとアナスタシアさんはプライベートでここの海まで来たんですか?」
「はい。海に行こうねって2人で前々から約束してたんです」
「まぁ、夏休みですからね。二人はいつまで夏休みですか?」
「私は8月31日までです」
「私は、9月の下旬までですね」
アーニャさん、新田さんと答えた。えっ、9月の下旬ってことはさ。
「新田さんって大学生ですか?」
「そうですよ?やっぱり、もう少し大人っぽく見えますか?」
「いえいえ、むしろ予想通りです。まぁ、高校生か大学生か社会人かって予想してたわけですが」
「ほとんど全部じゃないですか」
「でも、何となく学生っぽいとは思ってたんですよ。雰囲気的に」
「ふふ、大抵の人には大人っぽいと言われるので、そう言ってくださるのは嬉しいですよ」
ああ、大人っぽいってのはその対応の事だと思うな。普通の学生はそんな風に対応はしないから。「えーマジー⁉︎うそー⁉︎キャー!」が普通の女学生の反応だ。
すると、くいっくいっと右の袖を引っ張られた。アーニャさんが何かを期待してる可愛らしい表情で俺を見ていた。
「私は何歳に見えますか?」
「え?あー………」
アーニャさんの年齢だ。正確に当てなくては。日本人は童顔が多いと聞く。これは逆説的に言えば、外国人は日本人より大人っぽく見えるということだ。
つまり、アーニャさんの年齢をぱっと見から1〜2歳ほど引けば良い。俺の中でアーニャさんの年齢は中学〜高校生。13〜18歳というわけだ。
女性は若く見えるのが嬉しいと聞くからな。中間である15〜16……16だな。16歳から2つ引こう。
「………14歳、ですか?」
「あー、惜しいです。15歳です」
「…………申し訳ありません。切腹します」
「セップク?」
「北山くん?」
新田さんに冷たく微笑まれたので、慌てて表情を引き締めた。
クッ……若く見過ぎたか………!一生の不覚だ。
にしても、アーニャさん15歳か。本当に外国人ってのは大人っぽく見えるもんなんだな。心なしか、中三の時にクラスにいた女子達より胸とか大きく見えるし。っと、アーニャさんにセクハラはダメだ。胸とか見るな。
すると、アーニャさんが「あっ」と声を漏らした。目線の先にあるのは、射的の出店の中の天体望遠鏡だ。
「すごいです!望遠鏡売ってます!」
「ああ、あれは景品ですよ」
ていうか、今時あの手の出店の景品で望遠鏡って渋いな。普通はゲーム機とかだろ。
「景品、ですか?」
「射的って言って、コルクで出来た弾を銃に装填して撃って落とすんです。まぁ、ああいうのはテキ屋ですから、何千円か掛けないと落ちないんですけどね。周りのぬいぐるみとかなら何とか落とせますが」
一昨年だったかなぁ。5千円すっ飛ばしてプレ3狙ったっけ。一切、落ちなかったけど。
「面白そうですね、やりたいです」
「やるのは良いですけど、狙うなら小物にしといた方が良いですよ」
「はい!ミナミも一緒にやりましょう!」
「へっ?い、良いわよ。やりましょうか」
2人揃って射的の店に並んだ。お金を払い、ライフルを受け取った。何を思ったのか、2人揃って弾も詰めずに構え始めた。
「ちょーっ!待て待て!空撃ちしたらライフル壊れる(らしい)!」
慌てて止めると、2人してキョトンとした顔になる。
「へ?だって弾は………」
「1発ずつ詰めるんですよ!オートリロードなんてありませんから!ていうか、新田さんやったことないんですか?」
「わ、私もお祭りの射的とかは初めてで……クレー射撃などはやった事あるのですが………」
マジかよ、意外。もしかしてこの人、超お嬢様なのか?
とにかく、それなら俺が教えるしかないな。
「まずは銃口に弾を詰めて下さい。それからこのレバーをガチャンと音がするまで引いて、それから銃口の先端の出っ張りとここのくぼみで照準を合わせるんです」
なるほど、と2人して呟いて、狙いを定め始めた。アーニャさんはぬいぐるみ、新田さんはスマホケースと落ちやすいものに狙いを定める。
流石、クレー射撃をやったことあるだけあって新田さんは見事に当たったが、アーニャさんの方はそうはいかない。弾はぬいぐるみの横を通った。ていうか、人参のぬいぐるみなんか欲しいのかこの人?
「アーニャさん、撃つ時に銃口がブレていますから、引き金を引く時はなるべく銃口をブレさせないように、そうです」
「こ、こうですか?」
「よし、撃てッ」
「は、はい!」
引き金を引くと、当たったが人参は落ちなかった。よく見たら、新田さんの方も獲物に当てても落としているわけではない。
………なるほど、そういう屋台か。ライフルと景品の距離もやけに遠いしな。
結果、2人とも獲物を落とすことはできなかった。
「アウゥ……落ちなかったです」
「あ、あはは、難しいね」
残念そうな顔のアーニャさんと、何となく察してたのか笑顔の新田さんはお店の人にライフルを返した。
「すみません、俺も一回」
「へ?北山くんもやるんですか?」
「はい。まぁ、こういうのにはやり方があるんですよ」
そう言いながら銃口に弾を詰めてリロードした。
「すみません、アーニャさん。俺の足抑えててもらえますか?」
「へっ?は、はい?」
アーニャさんにそうお願いすると、台の上に膝をついて、大きく前のめりになった。
「って、お、オイ⁉︎何やってんだ兄ちゃん⁉︎」
「ん?射的」
別にルール違反は犯していない。ただ、ぬいぐるみはともかくスマホケースが落ちないのは明らかにおかしい。あれほど倒れやすいものはないからな。なら、こちらもそれ相応のプレイスタイルでいかせてもらう。
俺が落ちないようにアーニャさんは俺の足を抑えてくれている。まずは人参のわずか1ミリ前に銃口を構えた。
「当たれ‼︎」
「いや絶対当たるだろそれ!」
そう言いながら撃つと、人参のぬいぐるみは大きく後ろに後退した。弾は全部で5発。その内の3発を使い切って落とした。
直後、アーニャさんの興奮した声が聞こえたと共に俺の体は前に大きく倒れそうになった。
「おお!落ちました!ミナミ、落ちましたよ!」
「おぉうっ⁉︎」
「あ、アーニャちゃん!手を離しちゃダメ!北山くんも落ちちゃう!」
慌てた様子で、代わりに新田さんが抑えてくれた。続いて、次の狙いは新田さんのスマホケース。こいつは2発で落とした。
おっさんが景品を拾ってくれて、出店から離れてからそれを2人に手渡した。
「はい、どうぞ」
「スパスィーバ、キタヤマ!」
「ごめんね、私の分まで……」
お礼を言ってから、少し申し訳なさそうな顔でアーニャさんは俺に言った。
「でも、あんなズルして良いのですか?」
「ズルじゃないですよ。だって、それ景品の後ろに重しついてたんですよ?」
「えっ?」
「だから、アーニャさんが何発当てても落ちなかったんです。遠くから撃ったら弾の勢いも弱まりますから。だから、至近距離で当てに行ったんです」
「な、なるほど………。そういうのもお祭りであるんだ」
新田さんも少し感心したように呟いた。
「ほら、少し前にくじで当たりが入ってない店が摘発されたニュースやってたでしょ?それと同じ感じです」
「なるほどねぇ………」
「おお……すごいです、キタヤマ!」
「あっはっはっ、お褒めに預かり光栄ですアーニャ様!」
いやぁ、初めて毎年お祭り行ってて良かったと思ったわ!まさか、好きなアイドルに褒められるどころか尊敬の目線が送られる時が来るなんて!
と、思ったら、新田さんからは逆にジト目で見られていた。
「でも、そういう事なら私達に取らせてくれれば良かったのに」
「うっ………」
そ、それはまぁその通りなんですけどね………。俺が2人の足を抑えれば、俺ではなく2人が景品をとることができたわけだ。
「ま、まぁほら……女性の足を触るのはアレじゃないですか?」
「ふーん?まぁ、取ってくれたのは嬉しかったから、文句は言いませんけど」
ジト目から、急に感謝するような笑顔に変わり、そのギャップに少しドキッとしてしまった。やっぱり、アーニャさんも可愛いけど、新田さんも可愛らしい。改めて、こんな2人と祭りに来られて超ラッキーだと思い知った。
すると、いつの間にか目の前からいなくなっていたアーニャさんの声が遠くから聞こえて来た。
「ミナミ、キタヤマ!あそこから美味しそうな匂いが!」
その声を聞いて、俺と新田さんはお互いに顔を合わせると、小さくため息をついてアーニャさんの後を追った。