新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
学校が終わり、帰宅していた。今日は文化祭の出し物を決める日だったが、気が付いたら靴を履いて外に出ていた。あら不思議。まぁ、わざとじゃないし、仕方ないね。
切らしてた歯磨き粉だけ購入して帰宅して部屋に入った。さて、今のうちに洗濯物でも回収するか。
「遅いぞ、遊歩!」
「……何でお前いんの?」
中にいたのははるちんだった。
「俺玄関の鍵閉めたよな?」
「窓が開いてたぞ」
「ここ二階なんですけど」
「もーだから言ったにゃ。窓から入ると怒られるって」
前川さんまでいるんだけど。本当にどういうことなの?
「だからなんでいんだよ猫(笑)」
「だから窓が開いてたにゃ。遊歩チャン、少し不用心過ぎるよ?」
「そこじゃねぇよ。侵入経路じゃなくて侵入動機を聞いてんの」
「代わりに洗濯物回収して畳んでおいてあげたにゃ」
「ありがとう。所で次、前川さんがうちで晩飯食ってく時は鮭のホイル焼きにでもするか」
「晴チャンが行くって聞かなかったから保護者の代わりだから勘弁してください……」
「ふーん」
まぁ、もういつものことだし良いか。とりあえず、洗濯物しまっといてくれたのはありがたい。
「はるちん、来る時はちゃんと連絡してくれって言ってるだろ?」
「げっ」
「へっ?晴チャン、連絡したって言ってにゃかった?窓が開いてるからそこから入って良いって遊歩チャンに言われたって」
「……」
「……晴チャン?」
前川さんが猫から面倒見の良い厳しい姉モードへと移行した。
「晴チャン、ちゃんと人の家に行くときは事前に許可を得なきゃダメって言ったでしょ⁉︎」
「だ、だって面倒臭かったんだよ……」
「そんな事ならもうこの家に来ちゃダメにゃ!」
「いっ、そ、それは勘弁してくれ!」
「まったく……!」
そんな説教を聞き流しながら、俺は畳んでおいてもらった洗濯物をタンスにしまった。前川さんほんとねーちゃんみたいだな。明日から窓の鍵閉めよう。
「で、はるちん。何の用?」
「サッカーやろうぜ」
「却下」
「なんでだよ!」
「今日は体育あって疲れたんだよ。アパートの表で軽くパスパスくらいなら付き合ってやるけど、公園までは行かねーぞ」
「それで良いから行こうぜ」
……仕方ない。少し相手にしてやるか。
「前川さんも来る?」
「様子だけ見てるにゃ。……何か問題起こされても困るし」
「あそう」
表に出た。はるちんが手に持っていたサッカーボールを足元に放ってパスして来たので、それをトラップして返す。
そんなのを繰り返し、階段で腰を下ろしてる前川さんはボンヤリとその様子を見ていた。
「よく飽きないね、みくならすぐ飽きそうだにゃ」
「野球のキャッチボールと同じだからな。基礎の基礎、アイドルでいう発声練習と一緒だろ」
「その前に踊りがあるぞ」
「ふーん……。スポーツかぁ」
「じゃれたくなったらいつでも言えよ」
「じゃれないよ!遊歩チャンはみくのことをなんだと思ってるにゃ⁉︎」
まぁ、猫じゃらし押し付けたらキレたからな。
そんな事を話しながらパスパスしてると、突然間に誰かが入り込んできた。
「貴様の砲弾を我が魔力を込め魔弾にして返して見せ……!」
転がって来るボールを蹴り返そうとしたら空振りし、後ろにひっくり返った可愛いバカは言うまでもなく蘭子だった。
「おいおい、何してんだよ……。大丈夫か?」
「ふぇ……お尻痛い……」
「痛くない痛くない。前川さん、悪いけど蘭子頼む。救急箱の場所分かる?」
「分かるにゃ。ほら、蘭子チャンおいで」
言われて、部屋の中に移動する蘭子と前川さん。その背中を見ながら、はるちんはボソッと呟くように聞いてきた。
「……なんだったんだ?」
「気にするな。それより、続きやらないのか?」
「やる!」
続いて相手を再開した。ていうか、蘭子も来るなら連絡して欲しかっ……あ、スマホに連絡来てたわ。サッカーやってて気付かなかった。他に連絡は……あ、新田さん来るのか。
「あ、おい遊歩!」
スマホを見てると、ボールが転がってきてるのに気付かなかった。俺の右横を素通りし、道路に転がってしまった。
「何やってんだよ」
「悪い、スマホ見てた」
それだけ詫びてボールを取りに行こうとすると、どっかで見た影がこっちに走ってくるのが見えた。
ちょうど良いや、ボールを取ってもらおう。右手を上げて声をかけようとした時だ。
「すみませ……」
「北山ああああ‼︎」
「ブフォッ⁉︎」
多田さんがボールを全力でキックし、俺の顔面にぶちまけた。
「おお、ナイスシュート」
余計なことを言うはるちんを無視して、後ろに倒れた俺の胸ぐらを多田さんは掴んで揺すってきた。
「何途中で帰ってんの⁉︎そりゃ誰も気付いてなかったけど……!そういうのダメでしょ⁉︎」
「なんで人の顔面に的確にシュート出来んの?サッカーやったことあんの?」
「話を逸らさないで!」
「ボールは逸らして欲しかった」
痛い。鼻血出てきちゃったよ……。てか、顔が赤く腫れちゃってるし……。
「まったく、美波さんから北山の学校での態度の面倒を見るように言われてるんだから、しっかりしてよねっ」
「なんで監視つけられてんの俺」
「勉強出来ないから授業態度をしっかりと見とくように言われてるの。特に数学の時間に寝てたら即刻報告」
「……今日の分は?」
「まだしてないよ」
「夕飯何が良い?」
「釣られないからね」
まさか、今日新田さんがうちに来るのって……。
「……は、はるちん。今日のサッカーはここまでにしようか」
「ええーなんでだよ」
「か、買い物しなきゃいけないのを思い出した」
「何?」
「し、シャンバリーレ」
「なんだよそれ!」
「ダメだよ、北山。私が逃がさないから」
多田さんが俺の前に立ちはだかった。クッ……!この女……!
「多田さん、第一問!産業革命の起こった国は⁉︎」
「イギリス!第二問!4^x=32は⁉︎」
「くっ……!降参だ!」
「晴ちゃん、捕まえて!」
「へ?お、おう!」
「ええい、ままよ!」
逃げることにした。慌ててアパートの前から走るが、二人は追いかけて来る。
まぁ、俺より足の速い女子学生がいるはずないのは分かりきったことだ。公園に侵入すると、ジャンプしてうんていの棒に掴まり、逆上がりで上に乗ると棒の上を走ってジャンプ、シーソーの上に着地し、さらに大きくジャンプして距離を稼いだ。
「……あ、あいつ、化け物か……?」
「まだだよ、晴ちゃんシュート!」
「お、おう!」
え?シュート?ハッとなってると、着地の直前を狙ってサッカーボールが飛んできていた。
「危ねっ⁉︎」
慌てて避けた直後だった。バシッと前から鈍い音が聞こえた。やばっ、知らない人に当たったか?
恐る恐る前を見ると、見覚えのある服装の人がサッカーボールを顔の前で片手で受け止めていた。
「……」
それと共に溢れ出る女王感、それも生半可な嫌われウザ女王ではなく、悪役なのに好感を持たれる程の圧倒的なラスボスオーラ。
顔前からボールをどかしてその辺に放ったその女性は新田さんだった。
「……三人とも?ずっと見てたけど、何を危ない真似してるのかな?」
「……」
「……」
「……」
「帰ったらお説教です」
……死期が見えた。
×××
三人揃って正座させられ、サッカーは一週間禁止となった。
で、今はとりあえずオヤツの準備をしている。しかし、叱られた内容が「公園で危ないことするな」に加えて「うんていの上で走ったりシーソーの上に着地したりしちゃダメ、また骨折するよ?」って怒られた辺り、やはり俺の身のことも心配してくれてるんだろう。
……しかし、何と言えば良いのか、やはり新田さんは良い人だ。彼女にしたいくらいだけど、多分新田さんは俺に恋愛感情は無いだろうしなぁ。あったら叱ってる最中にアイアンクローなんてしてこないだろうし。どうも技巧派なんだよな。
「はい、みんなコーヒー入ったよ」
新田さんがコーヒーを入れて俺達の前に置いた。
「えーっと、みくちゃんと蘭子ちゃんと晴ちゃんのお砂糖入りコーヒー」
「ありがとうにゃ」
「感謝する」
「サンキュー」
「それと、仲良しおバカ高校生二人にはエスプレッソね」
俺と多田さんの前には真っ黒のコーヒーが置かれた。はるちんは小学生だから解放されたが、俺と多田さんは未だに正座させられている。
「……北山の所為だからね」
「お前がサッカーボール蹴らせなきゃ良かったんだろうが」
「そもそも逃げるからじゃん」
「そもそもの話ししてねえよ」
「そもそもちゃんと勉強しないからじゃん」
「……」
「……」
「二人とも?」
新田さんに睨まれ、慌てて黙ってコーヒーを飲んだ。……苦ぇ。甘いもんが飲みたい……。
同じ事を考えてたのか再び多田さんと睨み合いをしてると、新田さんにキッと睨まれたので目を逸らした。
「………」
……なんか、新田さんからの視線がどうにもただ単に怒ってるだけに見えないんだよな……。何か別の理由があんのか?しかし、他に怒る理由が見当たらないんだけど……。
「さ、そろそろみくはお暇するにゃ」
「え、もう帰んの?」
「最近、忙しくて明日も朝早いから。蘭子チャンと晴チャンも帰るよ」
「えー、も、もうか?」
「わ、我はまだ何一つ行動を起こしていない!」
「二人のお世話もみくの仕事にゃ。分かったら帰りの支度するにゃ」
言われて、二人は渋々従った。特に、はるちんなんか怒られたばかりだから逆らいにくかったんだろう。
残ったのは新田さんと多田さんだけ。三人でのんびりとコーヒーを飲んだ。
「それで、結局李衣菜ちゃんのクラスは何やるの?」
「えっと……確か、お化け屋敷だったかな」
けっ、なんだよ。結局、そんな子供騙しか。なら、俺に用はなさそうだな。
「それ、結局クラスの中心人物だけが参加して、残りは蚊帳の外の奴だろ?」
「あー……まぁね。どちらかと言うと、準備をみんなでやるって奴」
「なら、俺に用はないやん。俺はその『みんな』にも含まれてないし」
「いやいや、それは流石に無いよ。私と同じで衣装作製にしておいたから」
「えっ、なんで?」
「……知り合いが一人で寂しくしてるの見るの、結構嫌な気分になるんだよ」
なるほど。それは少しありがたい。知り合いが同じ班にいるなら、仮に分からない所があるときにその人に助けを求めれば良い。
「ごめんね、李衣菜ちゃん。何だか気を利かせてもらっちゃったみたいで」
「ううん、大丈夫ですよ美波さん」
姉のようなことを抜かす新田さんだが、その通りなので何も言えない。
「あ、そうだ。美波さん良かったらうちの文化祭に来ませんか?」
「私?」
「はい。うちのクラスはお化け屋敷ですけど、他のクラスは色々面白いものありますから、楽しめると思いますよ」
遠回しにうちのクラスはつまらんって言ってない?いや、気持ちは分かるよ。どうせ多田さんの事だし、本当はエアギターとかやりたかったんだろうから。
「うーん……」
しばらく真剣な目で考えた後、俺のジロリと睨み、今度は手帳を取り出して予定を確認し始めた。
「新田さん、別に無理して来ることないですよ。うちの文化祭なんて他所のとこよりクオリティ低いし」
「……遊歩くんは来て欲しくないの?」
「いや決めるのは俺じゃないんで。というか、俺が文化祭に行く予定ないし」
「……はっ?」
あ、やべっ。口が滑った。
「……遊歩くん?どういう事かな?」
「……いえ、なんでも」
「それは無理だよ、はっきり聞こえたもん」
「……」
観念しよう。全てを告白しよう。小さくため息をついて、洗いざらい話す事にした。
「……ソロで文化祭とか何か周りの視線が嫌じゃないですか。校内は隅々まで生徒で溢れかえって居場所無いし、屋台で買い物すれば絶対パシリだと思われるし、別のクラスの出し物に行ったって知り合いいなくて楽しくないし……。去年はかなりいづらかったので、今年は私服持ち込んでトイレで着替えて駅前の古本屋で立ち読みでもしてようと思って……」
すると、他の二人は気まずそうに目をそらした。俺は小さくため息をつくと、エスプレッソを口に含んだ。……苦ぇ。青春の味がするぜ……。
遠い目をしてボンヤリしてると、多田さんが「あ、なら!」と声を上げた。
「そこは私に任せてよ!」
「どうせ『私の制服貸しますから!』とかそんなんだろ」
「な、何でわかったの⁉︎」
「バカのバカな考えなんかバカでも分かるんだよ」
「今、自分のこともバカって言ったの気付いてる?」
うるせぇ、知るか。
「あの、李衣菜ちゃん。お気持ちはありがたいんだけど、そこまでしなくても良いから」
「そうですかー」
新田さんもやんわりと断った。まぁ、サイズも全然違うからな。身長も胸も。ま、とりあえず当日は行かなくて良さそうだ。
そう思ってホッとしたのだが、新田さんが少し頬を赤らめながらも、少しニヤニヤしながら上から目線で言った。
「でも、遊歩くんが一人で寂しいって言うなら行ってあげても良いよ?」
「いや、全然いいです。最近、あ○ち充の野球漫画にハマったんで、当日はバッティングセンター行く事にしたんで。知ってます?駅前のバッティングセンター、あそこ投球練習も出来るんですよ」
直後、新田さんの視線が鋭くなり、責めるような目つきになった。
「……絶対に行くから。遊歩くんの財布が空になるまで連れ回すから」
「え、な、なんで?」
「決定事項です」
……今のうちに断食しておかないと。そう決意してると、多田さんがとても面白いものを見る目で新田さんを見ているのに気付いた。
不機嫌そうな顔と面白そうな顔と財布が空になる予定の顔の三人が同じ部屋にいるってカオス過ぎんな……。