新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。   作:バナハロ

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これってツンデレなんですかね?

 さて、続いて次のターゲット。前川さんだ。姫川さんはトイレの中で鍵を閉めて扉を叩くポルターガイストの役をしてもらう事にしている。

 風呂場で最近話題のFGOなるゲームをやってると、多田さんからL○NEが来た。

 

 だりーな『みくちゃん来ました!飛鳥ちゃんと蘭子ちゃんも一緒です!』

 

 ほう、結局蘭子も来たのか。ちょうど良いな。人数いても怖いということを教えてやるぜ。

 L○NEから間もなく、玄関の扉が開く音がした。

 

「お邪魔しますにゃー!」

「サーヴァント・アヴェンジャー、召喚に応じ参上仕った」

「むっ……?なんだか肌寒くないか?」

 

 蘭子はFateでも見たのかな?

 早速、普段と違う感じに飛鳥が身震いした。蘭子も同じように慌てて飛鳥の背中に隠れ、飛鳥は前川さんの背中に隠れた。もちろん、俺の場所から見えないからそんな気がするという想像である。

 その二人に呆れたように前川さんは言った。

 

「……あの、なんで縦並び?なんでみくを盾にするの?」

 

 ほらやっぱり。

 

「……みくは年長者だろう」

「こ、怖いのはダメ……」

「ブリュンヒルデはどこに行ったにゃ⁉︎」

 

 ……中学生には酷だったかな、なんて少し罪悪感が芽生えた。これ、むしろはるちんは早く来てくれて良かったかもしれない。

 一番冷静な前川さんが電気をつけようとした時だ。ドロっと手に赤い液体が付着する。

 

「にゃあっ⁉︎」

 

 悲鳴まで猫なのか……。あいつ、もしかしてあれが素なの?

 突然の悲鳴というのは連鎖するもので、特に縦に並んでる場合は尚更だ。

 

「ひゃうっ⁉︎」

「ひう!」

 

 後ろ二人も悲鳴をあげた。

 

「なっ、なんだみく⁉︎脅かさないでくれ!」

「にゃっ、なんか今手に……」

 

 すると、新しい脅かし要素、姫川さんの出番だ。トイレのドアをドンドンドンッと叩く番。

 それに驚いた飛鳥と蘭子はその場で腰を抜かしたのか座り込んでしまったような音がしてた。

 

「なっ、なんだ⁉︎なんの音だ⁉︎」

「ふえぇぇ!もう嫌ぁ!」

「にゃー!ゆ、遊歩チャン!いい加減にするにゃ!」

 

 精一杯威嚇する前川さんだが、自分もビビってるようで声が若干上ずってる。

 すると、蘭子が飛鳥に声を掛けた。多分、玄関を指差したのだろう。

 

「あ、飛鳥ちゃん……おしっこ……」

「と、トイレか?みく、一旦出よう。蘭子がピンチだ」

 

 ……え?そ、それはまずい。お漏らしされたら一番困るのは俺だ。掃除が大変とかではなく、いやそれもあるけどアイドルにお漏らしされたとあっては本当に人間として終わってる気がする。

 慌てて姫川さんに電話した。

 

「姫川さん!トイレ、蘭子がピンチだからトイレ開けてあげて!」

『へっ?あ、あー了解!中止ね?』

 

 三人はとりあえず家から出ようとした。まあ、間に合うなら外のトイレでも良いけど。

 その直後だ。ガチャっと玄関の鍵が閉まった。あ、多田さんにも中止の命令出さないと!

 

「ぴぃっ⁉︎」

「か、勝手に閉まったにゃ⁉︎」

「あ、飛鳥ちゃん……!」

「み、みく!ヤバイ、蘭子が……!」

「トイレトイレ!」

 

 さらにその後、ようやく姫川さんがトイレのドアを開けた。しかし、玄関の鍵が勝手に閉まった後に物音がしたトイレのドアから誰かが出て来たら、それはそれで怖いものだ。

 

「ら、蘭子ちゃん!トイレ入って良……!」

「きゃあああああああ‼︎」

「うにゃあ⁉︎だ、誰にゃー!猫パンチー!」

「ら、蘭子に手出しはさせないからなー!」

「ええっ⁉︎ちょっ、二人とも待っ……!」

 

 そこからはお化け屋敷ではない。今日もドッタンバッタン大騒ぎで乱闘開始。

 何とかして止めなければならない。それを察したのか、玄関と窓から多田さんとはるちんが現れて電気をつけた。

 

「ちょー!待った待った!」

「お、落ち着け!オレ達だ!」

「へっ?晴チャンに李衣菜チャン……?」

「く、喰らえ!『約束された勝利の剣』!」

「飛鳥ちゃん!待ってってば!私、私だから痛たたたたた!」

 

 と、まぁ大乱闘。俺も止めに入ろうと思った時だった。

 

「って、そんな場合じゃないにゃ!蘭子チャン、トイ……蘭子チャン?」

 

 そんな前川さんの声と共に急に静かになった。

 何かと思って耳を澄ませると、声が聞こえて来た。

 

「ら、蘭子チャン……」

「……うぐっ、ひぐっ……」

「だ、大丈夫にゃ!まだ少しにゃ!トイレはすぐそこにゃ!」

「ら、蘭子ちゃん早く脱いで入って!」

「? どうかしたのか?」

「は、晴は見ちゃダメだ」

 

 そんな声が聞こえた。なんかあったのかな。もしかして喧嘩に巻き込まれて大怪我でもしたのか?

 とりあえず何かあったのか確認しようと多田さんに電話をかけた。

 

「もしもし?なんかあったか?」

『……』

「多田さん?事故か何か?」

『……大事故だよ』

「え、大丈夫なの?救急車呼ぶか?」

『いらない。とりあえず、後の二人には予め伝えておいた方が良いかもしれない』

「? お、おう……?」

 

 何があったのか分からないが、蘭子はトイレの後にシャワーを浴びに行った。

 

 ×××

 

 俺と多田さんと姫川さんとはるちんは揃って前川さんに正座させられていた。

 何とか事情を説明したが、許してもらえなかった。

 

「まったく!そういう事なら事前に言わなきゃダメにゃ!下手したら怪我でもしてたかもしれないんだからね!」

「「「「す、すみません……」」」」

「みくに謝らなくて良いにゃ!蘭子チャンに謝るにゃー!」

 

 四人で頭を下げると、前川さんは尚更うがーっと怒った。その蘭子は顔を赤らめて俯きながら、飛鳥に慰められている。

 

「……うう、スースーする」

「り、寮に帰るまでの辛抱だ蘭子」

 

 何かあったのか知らないが、とりあえずそれを確認しなきゃ。

 

「ら、蘭子。大丈夫かほんとに?怪我とかしてないのか?」

「……大丈夫」

「なら良いけど……。もし何かあったのならちゃんと隠さずに言えよ?」

「ふんっ!」

「あふん⁉︎」

 

 何故か胸に蹴りを入れられ、俺は後ろにひっくり返った。な、なんで心配してたのに蹴られるんだ……?

 

「ら、蘭子……。その格好で蹴りはやめた方が……」

「ーっ、う、うん……」

 

 そんな会話を聞きながら、隣の多田さんに聞いた。

 

「……あの、ほんとに何があったの?」

「ごめん、言えない……」

 

 あそう……。まぁ、そこまで言うなら了承するしかない。

 

「北山、悪いんだけど……今回の三人の映像は消すしか……」

「あー……確かにアイドル同士の殴り合いは見せられないよな……」

「あーうん。それで良いや」

 

 今回の実験は後でクラスのメンツにどれだけの効果があるか見せるように監視カメラが設置してあるが、三人のデータは使えないようだ。

 いや、ていうかもう中止だな。トイレとか行きたいってなったときのことを考えてなかったし、何よりこれから来るのは魔王だ。最低でも殺される。

 

「じゃ、片付けでもするか」

「待った!」

 

 蘭子が声を張り上げた。

 

「もうやめちゃうの?」

 

 完全に素で聞いて来てんな……。怒ってるのか怖がってるのか分からないけど、とりあえず普通にしてる分には可愛いぞこいつ。

 

「ああ。事故があった後だし、俺も命は惜しいし」

「ダメー!やるの!私だけ恥ずかしい思いするのは不公平だよ!」

 

 事故にあった張本人が何言ってんだ?その考えは当然、他のメンバーも同じのようだ。前川さんがやんわりと声をかけた。

 

「ら、蘭子チャン。今、事故があったばかりだし……」

「事故が起こらないように、事前に伝えておけば良いんでしょ?ならやるの!」

「……」

 

 アイドルも結局、そういうとこ普通の人なんだなぁとしみじみ思った。

 これは、止まらないだろうな……。俺と多田さんと前川さんは顔を見合わせた。

 

「どうするよ」

「私はやめた方が良いと思うけど……」

「事前に言っておくなら問題ないんじゃない?トイレも事前に済ませておいてもらえば。それと、脅かすプランを少し考えれば」

 

 まぁ、確かにそうかもしんないけど……。蘭子は完全に目が爛々としちゃってるし、飛鳥も好戦的に微笑んでる。姫川さんとはるちんはどっちでも良さそうな感じだ。

 

「じゃあ、あくまで安全にな」

 

 そんなわけで、まずは新田さんに連絡。それと少しプランを変える必要があるので来る時間も指定しておいた。何故かトイレをすませておくようにと全員に念を押されたのはなんでだろうな。そんな漏らすほど怖くするつもりないんだけど……。

 改造、といっても雰囲気作りはそれなりに完了してるし、そもそも直接脅かしに行くようなのはしない。最後のオチで「ドッキリ大成功」ではなく普通に脅かしに掛かる。ガタガタ震える窓に引きつけて後ろからワッと脅かせば良い。てか、今の準備だとそれくらいしか出来ない。

 準備を終えて全員定位置につき、ようやく多田さんから連絡がきた。さて、新田さんを泣かすくらいには脅かしてやる。流石に事前に教えておけば怒られる事もないだろうし。

 なんか少しワクワクしてると、多田さんから連絡がきた。

 

 だりーな『美波さん来たよ!アーニャちゃんと一緒に』

 

「中止だ」

「「「何故⁉︎」」」

 

 同じ場所に隠れていた蘭子と飛鳥とみくが反応したが、当然の判断だ。

 

「アーニャ様が来てるらしい。アーニャ様を驚かせるなど、神に弓を引くに等しい行為だ!」

「なんでアーニャをそんなに敬ってるんだ君は⁉︎」

「貴様、我を裏切る気か⁉︎」

「ていうか、もう始まりそうだしダメだにゃ!」

「片付け開始だ!」

「ぐっ、蘭子!押さえるぞ!いくら歳上でも三人がかりならば……!」

「任されよ!我が封印術によって縛り上げてくれようぞ!」

「にゃー!」

 

 くっ……!流石に三人がかりは……!ていうか誰のおっぱいですかこれ柔らかい!ある意味最高です!

 そんな事を考えてると、ガチャっと扉の開く音が聞こえた。

 

「わー、割と雰囲気ありますねミナミ」

「う、うん……」

「? 怖いのですか?」

「……わ、私……こういうの苦手で……」

「大丈夫です、私が付いていますから!」

 

 グッ……!入って来やがった……!ていうか羨ましい!

 そして、勝手に鍵が閉まり、続いて姫川さんの出番。こ、このままではアーニャ様はビビって震え上がる……!そ、そんな事……!

 

「させるかあああああああああああ‼︎」

 

 全開パワーで身体を動かした。三人は俺の身体にくっ付いて離さないが、俺の身体は風呂場を出て洗面所に来ていた。

 

「なっ、なんだこの力は……⁉︎」

「わ、我の封印術が……!き、効かない⁉︎」

「てか、どんだけアーニャチャンの事好きなの⁉︎」

 

 全身の力で洗面所のドアを開けた。トイレでの脅かしが終わり、目の前ではちょうど通りかかろうとしてる新田さんとアーニャさんがいる。そして、その二人の背後には誰が仕掛けたか知らないがフランス人形が浮かんでいた。俺でも少しビビるほどの怖さだ。あんなもんに気付いたら、アーニャ様は間違いなく腰を抜かす。

 

「アーニャ様ああああああああ‼︎」

「「きゃあああああああああああ⁉︎」」

 

 慌ててアーニャ様を庇おうと、三人を体にくっつけたまま飛び掛った。どんがらガッシャーンと間抜けな音がして、全部が台無しになるレベルで、暗闇の中で転んだ。

 パッと電気がつき、多田さんと姫川さんとはるちんが様子を見に来る。

 

「ちょっ、何の騒……」

「だ、大丈夫⁉︎すごい音し……」

「また事故でも起こっ……」

 

 三人の声が何故か遮られた。ていうかなんか頭の下柔らかいな……。

 

「……ゆ、ユウホ……」

 

 あ、アーニャ様の声が聞こえた。

 

「ご、ご無事ですかアーニャ様⁉︎」

 

 慌てて顔を上げると、なんかすごい事になっていた。まず、アーニャ様を押し倒す俺。そして、俺の上に転がっている蘭子と飛鳥と前川さん。

 ……ていうか、俺が頭を置いてた柔らかいものって……あ、アーニャさんのおっぱいなんじゃ……。

 アーニャさんは珍しく照れた様子で俺を見上げていた。

 

「ゆ、ユウホ……その、私エッチなのは……」

 

 ……俺は、俺はなんて事を……。後悔してる俺の頭上から、冷たい空気が流れた。こんなオーラを出せるのは、俺の知ってる限り一人しかいない。魔王が俺を見下ろしながら聞いて来た。

 

「……遊歩くん?何してるのかな?」

「ぁっ……ぃ、ぃゃ……」

「暗闇に乗じてエッチなことするつもりだったんだ?」

「ち、違っ……」

「これは看過出来ないなぁ。……覚悟してね?」

 

 指を開くだけでゴギッという音を鳴らしながら、新田さんの手が俺に伸びて来た。この後、メチャクチャ

 

 ×××

 

 最後にみんなで片付けと食事をして、ようやくお開きの時間になった。なんだかんだ、もう時刻は21時半を回っている。随分と長く遊んでたもんだ。

 全員を玄関で見送りつつ、ふと思い出した事があったので聞いてみた。

 

「そういえば、アーニャさんに飛びかかる直前、なんかフランス人形が浮いてたんだけど、アレ誰やったの?」

 

 その質問に、アーニャさんと新田さん以外のメンバーは顔を見合わせてキョトンと首を捻った。

 

「我は知らぬが……」

「ボクもいじっていない」

「私も知らないよ?」

「オレは窓の方専門だったし」

「というか、道具の準備をしたのは李衣菜チャン達でしょ?」

「フランス人形なんて買ってないよ」

 

 えっ?……えっ?じ、じゃあ、あれ誰が準備……。

 俺含めた九人、全員が顔を真っ青にした。

 

「あ、明日ボク学校だから……」

「わ、我も召喚の儀が……」

「私も朝から仕事だから……」

「ダー……私も学校です」

「お、オレも朝練しなきゃだから!」

「み、みくも日課の猫を崇める儀式を……」

「わ、私もギターの練習があるから!」

「私も明日、一限だから!」

 

 こいつら!こんな時だけ息ピッタリ!

 

「待って!ひとりにしないで!」

『じゃ、また今度』

「は、薄情者どもが〜‼︎」

 

 全員、俺を見捨てるかの如く走って帰宅して行った。

 ……え、俺今からこの部屋で一晩過ごすの?嘘だよね?ね?神様?考えれば考えるほど、身体は身震いが止まらなかった。

 涙目になってると、横から肩を突かれ、ビクビクッと身体が跳ね上がって慌てて横を見た。

 

「……大丈夫?」

「……に、新田さん……?」

 

 か、帰ったんじゃないの……?

 

「私、泣きそうになってる子を捨て置けるほど鬼じゃないの」

 

 そう優しく言うと、若干頬を赤く染めながらチラッと俺を見て聞いて来た。

 

「可哀想だから、私の部屋で良ければ泊めてあげても良いけど?」

「に、新田さぁ〜ん……」

「もう、泣かないの。ほら、明日学校なんだから制服とかの準備しておいで?」

「……は、はい……」

 

 誰だよ、魔王とか言った奴。女神だろこの人。

 

 


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