新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。   作:バナハロ

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非常事態に男女間は関係ない。

 新田さんの部屋に到着した。鍵を開け、洗面所に向かって手を洗う新田さんの背中にぴったりとくっ付いて歩く。手を洗い終えた新田さんの肩を掴んだ。

 

「待って」

「? 何?」

「俺が手を洗い終えるまで待って」

「……怖がり過ぎじゃない?や、分かるけど」

「いいから待ってて」

「う、うん……」

 

 何とか懇願すると、待っててくれた。手を洗い終えて、背中にピッタリくっ付いたまま二人でお風呂を沸かし、二人で流しの洗い物を済ませ、二人でベランダに干してある洗濯物をしまい、二人でお茶を淹れて、二人で並んでソファーに座ってテレビをつけた。

 

「……遊歩くん、とても鬱陶しい」

「だ、だって!油断してバッサリ行かれたらどうすんだよ!」

「幽霊なのにバッサリって……」

「フランス人形に日本刀持たせて追いかけさせるのは基本でしょ⁉︎」

「やめて!私だって怖い話ダメなんだから!」

「えっ……そ、そうなの?」

 

 それは意外。お化け?なにそれ美味しいの?って感じだと思ってた。

 

「そうよ……。だから本当は今日は遊歩くんの家に行くのやめようと思ってたけど……」

 

 俺と多田さんのために勇気を振り絞ってくれたって事か……⁉︎

 

「……アーニャちゃんが行きたいって聞かないものだから……」

 

 全然違った。相変わらず上げて落とす天才だな、この人は。

 

「あそうですか……」

 

 お陰で気のない返事をしてしまった。しかし、つまり新田さんも怖いには怖いわけだ。

 

「……じゃあ、怖いのにさっき気を利かせてくれたって事ですか?」

「……まぁね」

 

 ……この人、本当に女神なのか?どうしよう、好きになっちゃいそう。まぁ、告白しても振られるだろうししないけど。

 

「……新田さんって、ほんとに彼氏いた事ないんですか?」

「? ないけど?」

 

 世の男達は何をしてるのか。こんな良い人を放ったらかして……。

 すると、新田さんが思い出したように声をかけて来た。

 

「そういえば、今日は文化祭の会議で意見出したんでしょ?」

「あー……まぁ、はい」

「偉いじゃない。ちゃんと参加したって事でしょ?」

「そうですね。まぁ、正確には多田さんに代弁してもらった感じですが」

「それでも良いんだよ。それで意見が通ったらもっと楽しいと思わない?」

「……まぁ、確かに」

 

 正直、こういうイベント自体は嫌いじゃない。ただ、クラスの中心人物のみがはしゃぐのが嫌いなだけだ。

 

「でも、なんで参加する気になったの?」

 

 そりゃまぁ、新田さんに言われたからですけど、でもなんかそういうのは照れ臭くて言えない。

 

「何となくですよ」

 

 その答えも嘘ではないし、そう言ってみた。しかし、新田さんは微笑んだまま「そっか」と相槌を返した。

 ……なんだか、全部見透かされてるような気がするんだよなぁ。この人、面倒見良いし、人の考えてる事さ大体分かってそうなものだ。

 だが、いつもの新田さんなら平気でそれをネタにからかって来そうなものだが、今日は非常に大人しい。幽霊の後だから?それとも他に理由があるのか?

 

「……さ、お風呂入って寝ようか」

 

 そそくさと立ち上がって洗面所に向かう新田さん。……もしかして、本気で俺のこと心配してくれていたのか?

 いや、元々心配はしていてくれていた。怪我した時も勉強してた時も、本気で心配してくれていたんだろう。俺どんだけ心配かけてんだよ。

 しかし、なんでそんなに心配してくれるんだ?考えてみりゃ、夏休みからの付き合いで、夏休みだって一日以来会ってないから実質、2ヶ月程度だ。

 ……もしかして、もしかしてこの人……。

 

「……ホームシックか……?」

 

 実家に弟いたんだったよな……。あの性格の新田さんなら多分、仲良くやってたろうし弟が恋しいんだろう。その弟と同い年の俺を見てあれやこれやと近所のお姉さんよろしく世話を焼いてしまうんだろう。

 なら、俺は新田さんを少しでも癒せるように弟っぽく振る舞うまでだ。

 しばらく待ってると、新田さんがお風呂から出て来た。

 

「ふー、次入っても良いよー」

「分かったよ、お姉ちゃん!」

「……誰がお姉ちゃん?」

 

 真顔だったので、考えを改めました。

 

 ×××

 

 俺もお風呂から出て、新田さんと再びソファーでのんびりした。寝るって言ってたけど、風呂から上がったら新田さんがテレビ見てたから一緒になって見える感じ。

 やってるのはテレビドラマ。そういえば、うちにテレビないからドラマなんて久しぶりだな。今はどんなドラマやってんのか全然分からんけど、今やってるのは学園恋愛モノだった。

 

「新田さん、こういうの好きなんですか?」

「静かに」

 

 どうやら毎週見てるようだ。黙らされました。そんなに面白いのか?

 まぁ、何事も見てから判断しないとね。今はヒーローとヒロインと思われるカップルが遊園地でデート中のようだ。

 しかし、こいつらイチャイチャしてんなー。これでまだ醍醐味の告白はしないで最終回まで取っておくんだろ?早く付き合えよ。

 二人でジェットコースターで楽しんだ後、フリーフォール、メリーゴーランドと回っていた。特にメリーゴーランドの時なんて二人で一つの馬に乗ってたからね。ほんと爆死しろ。

 

「……いいなぁ」

 

 しかし、隣の新田さんはそうは思わなかったようで、そんな呟きが聞こえて来た。

 

「え、新田さんああいうの好きなんですか?」

「私っていうか……女の子はみんなああいうの好きだよ。素敵な恋愛したいなーみたいな……」

「すれば良いじゃないですか」

「……ほんと。そういう恋愛なら良いんだけどね……」

 

 ……え?今のって……。

 

「新田さん、恋愛してるんですか?」

「……へっ?」

「いや、なんか今の言い方だと恋愛してるように聞こえたので……」

「……」

 

 ……え、何その反応。まさか、本当にしてるのん……?

 そう聞こうとした時だ。テレビのカップルがお化け屋敷に入った。中を二人して手を繋いで歩いてると、お化け屋敷の隅にフランス人形が置いてあった。

 二人して抱き合って悲鳴を上げたが、俺は別の意味で悲鳴を上げた。忘れかけていたフランス人形ショックが完全に脳裏に浮かび、嫌な汗が浮かんで来た。

 

「……に、新田さん……」

「……う、うん……」

 

 同じくこういうの苦手な新田さんはテレビを消して冷や汗を浮かべていた。

 

「もう、寝よっか……」

「は、はい……」

 

 新田さんは寝室に行き、俺はソファーの上で寝転がった。

 電気を消して目を閉じ、さっさと眠ろうと頭の中で羊を数え始めた。

 羊が一匹……羊が二匹……羊が三匹、と、数えてる男は今日も同じように自分の羊を数える。羊飼いの彼はこの仕事に飽き飽きしていた。もっと楽して稼げる方法はないか。

 そして、この羊達をすべて売り飛ばし、その金をギャンブルに突っ込めば儲かるのでは?と。

 早速、そのプランを決行し、羊を裏のルートから売り飛ばした男はカジノで毎日のように遊び歩き、毎日のように稼いで歩いていた。

 今日もその稼ぎを鞄いっぱいに詰めて帰宅し、寝室に入ると見覚えのないフランス人形が部屋に浮いてるのが見えた。こんなもの買った覚えはないが、出来の良い人形だった。これを売れば更に金が入る、そう思ってその人形に手を伸ばした直後だ。

 人形の首が180°回転し、その顔には売り飛ばした羊の顔が……。

 

「ーッ‼︎」

 

 なんで俺は寝ようとしてんのに怪談を思い浮かべてんだよ!てか、ダメだ。やっぱ眠れない……!クッソ、ホントに何なんだよあの人形は……‼︎

 なんだか疑心暗鬼になって来て、部屋の中を見回した。フランス人形の姿は無いが、フッと壁をすり抜けて来てもおかしくない空気だ。

 

「……」

 

 どうしよう……。せっかく泊めてくれてるのに眠れねーよこのままじゃ……。ていうか、明日の授業寝ちゃうよこれ。

 ドッドッドッとキングエンジンの如く鳴り響く心臓の鼓動を胸に手を当てて聞いてると新田さんの部屋から「あの」と声が聞こえた。

 

「ーっ⁉︎ ……あ、に、新田さんか……」

「……眠れてる?」

「……全然」

「……私も」

「……」

「……」

「……一緒に寝ても良いですか?」

「……う、うん……」

 

 新田さんの寝室に入って同じベッドに入った。本来、こんなシチュエーションはアニメ的で男の誰もが羨むものなのだが、俺も新田さんも恐怖のあまりそれどころではない。

 お互いに背中を向けて目を閉じた。……正直、これでも怖いっちゃあ怖いんだが、さっきよりは全然マシだ。女神が後ろにいると安心できる。

 

「……ね、遊歩くん」

「……なんですか?」

「……起きてる?」

「は、はい……」

 

 なんだよ、寝ようとしてんのに。もしかして寝れないのか?

 

「……その、さ」

「? なんですか」

「なんか、お泊まり会でテンション上がってるのか、それとも怖くておかしくなってるのか分からないんだけどさ……」

 

 なんた?回りくどいな。こういう新田さんは珍しい。

 

「……その、手を繋いでも良い、かな……」

「……へっ?」

「……せ、せっかく一緒に寝てるのに、背中合わせじゃ意味ないでしょ?だからよ」

「別に良いですけど」

「っ、あ、ありがと……」

 

 ……まぁ、怖さを何とか解消するためだ。少し照れくさいけど。

 後ろを向いていた身体を仰向けにし、顔だけ新田さんに向けて布団の中で手を差し出した。

 

「……どうぞ」

「……あ、ありがと……」

 

 布団の中で手を繋いだ。……女の子のて柔らかいなぁ。ふにふにしてる。

 

「……あまりにぎにぎしないの」

「あ、すんません。でも、柔らかいですね。女性の手って」

「そ、そう……かな……」

「はい。新田さんみたいなゴ……いえ、パワータイ……いや力強……や、運動神経が高い方でも柔らかいんですね」

「思考回路が丸分かりだよ?」

「いだだだだ!指折れる、指折れるって!ごめんなさい!」

 

 その万力みたいな握力がパラメータゴリラの証拠なんだよ!

 

「ごめんなさいってば!」

「まったくもう……子供なんだから」

「……すぐに怒る新田さんの方が子供のような気が」

「何?もう一回?」

「なんでもないです」

 

 この人怒ると怖いなほんとに……。余計なこと口走る前にさっさと寝ようと思って目を閉じた。

 

「……ね、遊歩くん」

「? なんですか?」

 

 またか。もしかして、会話してないと寝れないってパターンか?

 

「……その、そろそろさ」

「なんすか?」

「……新田さん、っていう他人行儀な呼び方やめて欲しいなって思って……」

「え、でも歳上の方ですし……」

「うちの事務所だとあまりそういうの気にしない子もいるからさ。だから、美波って呼んでくれると……」

「分かりました」

 

 まぁ、別に下の名前で呼ぶくらい良いさ。うちの中学では男女関係なく下の名前で呼んでたし。

 

「……じゃ、寝よっか。遊歩くん」

「……おやすみなさい」

 

 その場で目を閉じた。

 

 

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