新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。   作:バナハロ

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美波の悩み(4)

 お昼に寝て、というか無理矢理寝かされてからまた目が覚めると、私のベッドの隣で遊歩くんが本を読んでるのが見えた。

 

「……ゆうほ、くん……?」

「あ、起きました?」

 

 起きるなり、私に顔を近づけて額をくっ付けた。顔から火が出そうになるほど恥ずかしかったが、遊歩くんは気にした様子はない。

 

「……あんま下がってないですね」

「そ、そう……?」

「ちゃんと食うもん食ってトイレとか行きました?」

「へ?あ、えーっと……」

 

 直後、私のお腹から「ぐぅーっ」と情けない音が鳴った。

 

「……食べてないんですね」

「ううっ……は、はい……」

 

 は、恥ずかしいなんてもんじゃない……。好きな人の前でお腹を鳴らすなんて……。

 考えてみれば、朝から寝てお昼に目を覚ましたものの、喧嘩を止めて奏さんとお話しして寝かされた気がする。口にしたものといえばポカリくらいだ。

 

「何なら食べれそうですか?」

「うーん……うどん、とか?」

「了解です」

 

 すると、遊歩くんは立ち上がって寝室を出て行った。……そういえば、奏さんは……帰ったのかな?

 とりあえず、遊歩くんがご飯の用意を終えるまで待機する事にした。ベッドの横に折り畳み式の机が置いてあり、その横にはポカリの入ったコップがあった。

 遊歩くんか奏さんが用意したものだろうけど、どちらにしてもありがたく使わせてもらい、口に含んだ。

 待ってるだけでは暇なので、風邪の原因を考える事にした。……にしても、思い当たる節は二つしかない。一つは、普段は夜中まで起きてる事はないのに起きてて、挙げ句の果てにトイレで裸になって寝るときは何も掛けずにソファーで寝たから。

 そしてもう一つは、それに追加して昨日の遊歩くんと一緒に寝たことがとても恥ずかしかったということ。となると、これは照れ熱というものかもしれない。……いや、無いな。何より照れ熱って。……ないよね?

 そんな事をぼんやり考えてると、寝室の扉が開いた。遊歩くんがうどんを持って入って来た。

 

「あ、出来ましたようどん」

「ありがと……」

「どうします?ベッドで食べます?」

「あー……いや、机で食べるよ」

 

 流石にお行儀悪いし零したら大惨事だし。

 すると、遊歩くんはうどんを机の上に置くと、わざわざ戻って来て私に手を差し出してくれた。

 

「立てますか?」

「へっ? あ、う、うん」

「おんぶした方が良いですか?」

「だ、大丈夫だよ」

「そ、そうですか……」

 

 しゅんっと肩を落とす遊歩くん。なんだろう……ほんとになんでそんなに献身的なの?心配してくれてるんだろうけど、何だか私の知ってる遊歩くんじゃない。

 

「……あの、遊歩くん?何かあったの?」

「はい?」

「なんか、こう……熱でもあるのかなーって……」

「それはそっちでしょ」

「あ、そ、そっか……」

 

 いや、そういうんじゃなくて。

 釈然としないながらも後に続いて席に座った。遊歩くんの分のうどんは無く、一人分しかなかった。

 

「……遊歩くんのは?」

「俺はお腹空いてないんで」

「そっか……。じゃあ、いただきます……」

 

 挨拶してうどんを啜った。ネギとわかめしか乗ってないシンプルなうどんだが、今の私にはちょうど良い。

 スルスルと口の中に入り、噛み締めてうどんが喉を伝って行く。

 

「んっ、美味しい」

「……そうですか」

 

 あ、今ちょっと照れた?普段、遊歩くんの部屋で料理作る時はみんなに美味しいって言ってもらってるのに。

 からかってみたかったけど、これだけ良くしてくれてる遊歩くんをからかうのは気が引けた。

 

「そういえば、学校はどうだったの?」

「お化け屋敷ですか?普通に採用になりましたよ」

「あら、良かったじゃない」

「まぁ、そうですね。お陰でなんか現場監督みたいになっちゃって」

 

 そう愚痴る遊歩くんだったけど、表情はとても楽しそうだ。どうやら、ようやくクラスに友達ができたみたい。

 

「でも、嫌じゃないんでしょ?」

「……まぁ、そうですが」

「むしろ楽しかったんでしょ」

「や、それは無いです。今日は映像だけ見せた後、役割だけ決めて先に帰って来ましたから」

「? なんで?」

「え、新田さんのためですけど」

「……」

 

 わざわざありがたいけど、それはクラスは大丈夫なの?現場監督さんが教室を離れるのは……。

 

「大丈夫ですよ、多田さんが上手くやってくれてますし、クラスメートも俺より多田さんに指示された方が気分的に良いでしょうから」

 

 相変わらず自分を下に見るなぁ。学校だけでだと思うけど、もう少し自信を持って欲しい。

 

「でも、まぁ今日は別にクラスにいてもいづらくはなかったんで……その、何?新田さんのお陰なんで……」

「?」

「その……どうも」

 

 目を逸らして頬をかきながらよく分からない事を言う遊歩くん。5秒くらい経過して、ようやく何を言いたいのか分かった。

 

「……もしかして、お礼言ってる?」

「まぁ、その、一応」

 

 ……素直じゃないなぁ。まぁ、あれだけ「都会人死ね」「学校なんてクソだ」とか言ってたんだから気持ちは分かるけど。

 でもね、そう言う態度を取られるとこっちとしてはからかいたくなっちゃうんだ。

 

「ふふ、遊歩くんってあれだね。ホントかわいいね」

 

 気分が上がってそんなことを言うと、遊歩くんは顔を青くして私を見た。

 

「あの……熱上がったんならさっさと寝たらどうですか?」

「……」

 

 台無しだよ。風邪引いてなかったら両手アイアンクローだったかもしれない。

 うどんを食べ終え、両手を合わせた。

 

「ご馳走様」

「ちゃんと歯磨きして寝て下さいね」

「む、分かってるよ」

 

 うどんの器と箸を流しに持って行ってくれた。洗い物をしてくれてる間に、私は引き出しから風邪薬を出した。洗面所のお水で薬を飲むと、トイレに入った。

 用を足してから歯磨きをしてベッドに戻り、布団の中に入った。しかし、風邪を引くのなんていつぶりだろう。もうしばらく引いてなかったから、この独特の節々の痛みや頭痛は本当に久しぶりだ。

 しかし、この心臓の鼓動の高鳴りと体の火照りは初めてだ。というか、なんで身体が熱いだろう。風邪引いてる時はむしろ寒気を感じるはずなのに。

 窓の外は既に日が沈んでいてほとんど夜だ。具合は最悪なのに、テンションは変に高い。風邪の所為で変な気分になってるのか、或いは……。

 

「ふー……あ、まだ起きてたんですか?」

 

 遊歩くんが部屋に入って来て私の思考は途切れた。

 

「さっさと寝ないと良くならないですよ」

「……うん。ごめんね」

「……あ、もしかして身体拭きますか?なら俺出て行きますけど」

「……」

 

 この時、私は何を考えていたのか分からない。いや、多分何も考えてなかったんだろう。反射的に私の欲望がぽろっと口から出た。

 

「……よかったら、遊歩くんが拭いてくれない?」

「……は?」

 

 なので、言ってから顔が真っ赤になった。当然、ここは弁解すべきところなので、大慌てで両手を振った。

 

「っ、ち、違うの!今のはホント違くて!なんか口からポロッと出ちゃってね!全然、そんな気なくて……!ていうかなんでこんなこと言っちゃったのかなー?美波ってばホント不思議な事たまに口走るから……!」

「は、はぁ……。冗談なら良いですけど……」

 

 ……危なかった……。ついうっかりビッチになるとこだった……。でも、今のでハッキリした。

 私は遊歩くんに甘えたいたいんだ。そして、風邪というのはそれを叶える絶好の機会だ。だから、あんな事を口走ったり、さっきから妙にソワソワした変なテンションになっている。風邪の時は心を弱らせるのは本当のようだ。とにかく、遊歩くんに何かして欲しい。

 逆に、寝てしまったらそれは出来ない。遊歩くんなら何かしらしてくれるんだろうけど、私が自覚できなければ意味はない。

 

「……新田さん?」

「……あの、遊歩くん」

「なんですか?」

「……今日は、さ……。その、私の言うこと聞いてくれる……?」

「なんですかいきなり」

「え?えーっと……ほ、ほら…その、風邪引いてるから……」

「いやその窓から飛び降りてとか言われたら無理ですよ」

「そ、そんなこと言わないよ!私の事なんだと思ってるの⁉︎」

「まぁ、新田さん風邪引いてますし、前にお世話になってますし、俺に出来ることなら良いですよ」

 

 ……やっぱり遊歩くんは優しい。なら、今日はめいいっぱい甘えちゃおう。

 

「ならさ、まずは美波って呼んでくれる?」

「あー、昨日そんな話ししてましたね」

「っ⁉︎ お、覚えてるの⁉︎」

「? そりゃまぁ……」

「け、今朝記憶がないって言ってたのは……?」

「や、なんか夜中口になんか入った気がして起きた気がするんですよね。でも、起きてた時の記憶がないっていうホラーみたいな……はっ、まさかフランス人形の呪い……?」

「や、違うから落ち着いて。でも、覚えてるならお願い。下の名前で呼んで」

「分かりましたよ」

「なんなら呼び捨てでタメ口でも良いよ?」

「……マジすか?」

「考えてみたら、年上ってだけで先輩でもなんでもないからね」

「いやー良かった。俺、敬語苦手なんだよね。たまに姫川さんにもツッコミ入れる時タメ語になっちゃうし」

 

 あー……確かにそういう所見たことあるかも。って、そんなことどうでも良い。とにかく下の名前で呼んでほしい。

 

「じゃあ、試しに呼んでみて?」

「試しにってなんですか」

「試しに、だよ。ほら、早く」

「美波」

 

 ……なんか違う。なんでそう、スパッと呼んじゃうのかな……。まぁ良いや。遊歩くんはそういう人だし。

 

「じゃあ、その……二つ目なんだけどさ……」

「何?」

「……今日も、泊まって行ってくれる?」

「……今日も?」

「迷惑なら、良いんだけど……」

 

 ……でも、風邪引いてるときに一人になるのはなんだか心細い。大学生にもなってみっともないかもしれないけど、私だって一人の女の子だし、寂しい時は寂しい。

 

「良いですよ。……俺も今は帰りたくないですし」

「? なん……あー、フランス人形ね……」

 

 どうしよう……こんなに怯えてるなら教えてあげた方が良い気が……。でも、教えちゃったら帰っちゃうかもしれないし……。

 

「あ、じゃあ大きめのスエット出さないとね」

「いや、俺勝手に漁るんで良いですよ」

「も、もうっ、女の子の部屋なんだから漁っちゃダメ」

「でも、体調悪いんですよね?」

「それくらい平気よ」

「……せめて俺もついて行って良いですか?」

 

 ……心配性なんだから。

 二人揃って寝室を出て洗面所に来た。スエットを取ってあげると、遊歩くんはそのままお風呂に入った。お湯は張ってないけど、シャワーで十分っていうから。

 その間、私はベッドの中で目を閉じていた。……にしても、何だか熱が下がった気がしない。まぁ、寝て起きたら下がってると思うんだけど……。一応、病院行った方が良いかな。

 そういえば、事務所のみんなにも迷惑かけちゃってるよね……。一応、奏さんが来る前に連絡はしておいたけど、多分お仕事も溜まってる気がする。

 ドラマの撮影だって、たまたま今日は休みだったから良かったけど、明日はまた仕事だし、頑張らなくちゃいけない。今日で体調回復させないとなぁ……。

 それと休んだ講義の資料ももらわないといけないし、風邪が治ったらやる事は沢山ある。

 ……なんか、一人になるとロクなこと考えられないな。早く遊歩くん戻って来ないかなぁ。

 

「……待って」

 

 遊歩くん、今全裸で私の部屋にいるって事だよね。……なんだろ、なんか変な気分に……って、変態なの私は?ダメよ、そういう事考えるのは。

 ただ、その……妙に緊張して来た。冷静に考えれば、風邪引いてる時に男の子を部屋にあげるのって、襲ってくれって言ってるようなもので……。

 いや、遊歩くんとそういう事するのは悪くな……って、何を考えてんのだから私は⁉︎だめだ、ホント一旦冷静にならないと変に興奮して来ちゃう。そういう想像はせめて一人の時にしないと……。

 あーもうっ、なんかもうほんともうっ!なんで美波ばっかりこんな色々悩まされなきゃいけないのよ!

 

「なんでそんな百面相してんの?」

「っ⁉︎」

 

 声を掛けられてハッと顔を上げると、遊歩くんが引き気味に私のベッドの隣に座っていた。

 

「も、もう上がったの?」

「まぁ湯船に浸かってないんで」

「あ、そ、そっか……」

「もう寝る?」

「あ、う、うん。一緒に寝る?」

「いや、風邪移るから嫌だ」

 

 ……ハッキリ断り過ぎだよ……。

 

「まぁ、俺も晩飯食わなきゃいけないし」

「あ、そ、そっか……」

 

 遊歩くん、まだ晩御飯食べてないんだもんね……。なんだか私が遊歩くんの生活リズム崩してる気がして申し訳ないな……。

 

「じゃ、ちょっと外出てくるわ」

「えっ?そ、外で食べるの?」

「そりゃまぁ。料理の音で起こしちゃまずいし」

「……」

 

 そう言って立ち上がる遊歩くんの袖を私は掴んでいた。

 

「……あの」

「? 何?」

「……私が寝るまでは、一緒にいてくれない、かな……」

 

 途切れ途切れにそう言うと、遊歩くんは小さくため息をつくと、元の位置に腰を下ろした。

 

「甘えん坊な大学生だな」

「……風邪引いてる時だけだもん」

「あそう……」

 

 それだけ挨拶すると、私は目を閉じた。……目を閉じただけで、しばらくは眠れそうにないけどね。

 

 

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