新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。   作:バナハロ

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コンビニのトイレは無駄に綺麗。

 3人でのお祭り巡りは続き、俺と新田さん、アーニャさんはそれから金魚掬いだの輪投げだの型抜きだのとエンジョイした。

 まぁ、俺も何でも出来るわけではないので、残念ながら二人にプレゼント出来たのは射的の時に取った二つの景品だけ。まぁ、2人とも楽しんでくれてるので何より。ただ、テンション上がり過ぎてアーニャさんに「様」や「マドモアゼル」をつけるたびに新田さんの制止が冷たく怖くなってきてるので、そこは注意しなければならないが。でも反射運動だからなぁ、決してわざとなわけではない。

 そんな事を考えながらふと時計を見ると、時刻は8時を回ろうとしていた。

 

「………あ、ヤバい。花火の時間が」

「えっ?花火?」

 

 りんご飴を食べながら新田さんが聞いてきた。この人も順応性が高くて、知らない間に俺にタメ口使うようになってた。別に良いんだけどね。

 

「あと5分で始まりますけど……どうします?見ますか?」

「見たいけど……でも、あと5分じゃみんな場所取りを終えてしまってるんじゃ………」

「そうなんですよね」

 

 前は俺と連れの花火の見れる秘密の絶景スポットがあるが、あいつ最近彼女出来たから、多分そこ使ってんだよなぁ………。正直、全力で邪魔しに行きたいが、今日は新田さんとアーニャさんがいるし、やめておこう。

 

「まぁ、こうやって食べ歩きしてれば見れないわけでもないし、これで良いですか?」

「うん。今年は仕方ないよね。アーニャちゃんもそれで良い?」

「はい。それより、私はあのたこ焼きが食べたいです!」

 

 花より団子とはこの事か。さっきから一番楽しんじゃってるからなぁ。ホント可愛い。

 

「もう、アーニャちゃん。まだ食べるの?」

「はい!お祭りの食べ物美味しいです!」

 

 確かに、まだ食うの?って感じはある。だって食ったもんはわたあめ、りんご飴、焼きそば、チョコバナナ、フランクフルト、かき氷と食べるに食べてるからな。チョコバナナとフランクフルトを食べてる時、少し興奮したとは言えないが。

 

「でも、良いの?」

「? 何がですか?」

「余り食べすぎると、お腹周りとか」

 

 新田さんがニコニコしながらそう言うと、サァーッとアーニャさんの顔色が青くなる。そうか、アーニャさんアイドルだもんな。全身が商売道具だから油断して食べ過ぎるわけにはいかないのか。

 

「………やめておきます」

「ま、まぁまぁ、俺が1パック買ってくるんで、2人とも1個ずつ食べたら良いんじゃないですか?1個なら何とかなるでしょ」

 

 そう言うと、パァッと顔を明るくしてアーニャさんはこっちを見た。

 

「き、キタヤマ………!」

「はいはい……。じゃあ、ちょっと待ってて下さい」

「ごめんね、北山くん」

「いえ、俺もたこ焼き食べたかったですし」

 

 そう言って、たこ焼きの列に並んだ。さて、爪楊枝は一本だけもらおう。そうすれば、俺はアーニャさんが口つけた爪楊枝を使える(ゲス顔)。或いはその逆もまた然りか。

 まぁ、別にうちの地元だと間接キスくらいは効率的に考えるため、するのはもはや当たり前だから然程興奮はしないけど。

 たこ焼きを購入して、2人の元に戻ると、ちょうど花火が上がった。ドオォォンと大砲のような音を立てて、空一面に大きな花が広がる。

 

「買ってきましたよ」

「ありがとうございます………」

 

 お礼を言いながらも、アーニャさんはこっちを見向きもしなかった。多分、花火に見惚れているのだろう。

 花火の光によって照らし出されるアーニャさんの横顔は、それはもう綺麗なものだった。やっぱり、外国人にも日本の文化は似合うもんだな。

 

「あの、良かったらたこ焼き私が持つよ?」

「へっ?あ、す、すみません」

 

 隣から新田さんが声をかけてきて、たこ焼きの皿を手に取った。そう言う新田さんの、花火に照らされた顔も、それは綺麗だった。少し、胸が高鳴る程に。

 ………あれ?この人、アイドル並みにっつーか……アイドルよりも可愛いんじゃ………?何というか、アーニャさんとはまた別の可愛さを持ってるというか………。

 

「あの、北山くん?顔が赤くなってるよ?」

「ーっ、は、花火の所為でしょう」

 

 キョトンとした顔で言われ、慌てて目を上に背けた。花火に集中しよう。今はどっちの女の子を見ても危険だ。

 くっ、人とは望んでいたものを手にすると、割と無力になるもんだ。しばらく空を見上げてると、新田さんから声が掛かった。

 

「北山くん、たこ焼き。私達、いただきましたよ」

「っ、は、はい」

 

 うおお、来た来た。俺はこれから、アイドルと間接キスが出来る。そう思うだけでもう心臓がバクバクしてきて………うっほぉぉう!

 

「…………」

 

 あれ、いざ目の前にすると緊張するな。これ加えたら突然、SPが割り込んできて俺を捕獲してきたりなんて考えると……。

 

「わぁー、綺麗ですね」

「すごい、ミナミ!ハート型です!」

「ふふ、そうね」

 

 ………楊枝の反対側使おう。なんか自分が自分で情けないわ……。

 たこ焼きを食べ終えて、ゴミを持ったまま空を見上げながらお祭り会場を3人で歩いた。

 

「ミナミ、すみません……。お手洗いに行きたいのですが………」

「あらー、この辺にあるのかしら?」

「コンビニで良ければありますよ。今はみんな花火見に行って空いてますから、今のうちに移動した方が良いかもしれないですね」

「じゃあ、悪いけど案内してくれる?」

「分かりました」

 

 てなわけで、移動し始めた。近くのコンビニは今日は祭りで売れてないだろうし、多分トイレも空いてるはずだ。

 早くコンビニに到着し、アーニャさんはトイレに向かった。その間、雑誌コーナーで俺と新田さんは待機。既に読んだジャンプを暇潰しに読んでると、新田さんが「北山さん」と声をかけてきた。

 

「今日はありがとうございます」

「? 何がですか?」

「いえ、随分と助けてもらいましたから。アーニャちゃんを見つけてくれて、お祭りまで混まない道を選んでくれて、射的でも景品取ってくれましたし」

「いやいや、大したことしてないですから」

 

 大体、アーニャさんの件だってファミマと分かった時点でスマホ使えば良かったし、混まない道は進まなくてもお祭りには到着できた。射的だってやり方さえ教えてやれば本人に取らせることが出来た。

 

「でも、北山くんがいたからとても楽しかったよ」

「そうですか、それは良かったです」

 

 まぁ、こんな美人さんに感謝されたと思えば悪い気はしない。それに、感謝するのはこっちの方だ。

 

「それなら、こちらこそありがとうございます。好きなアイドルとお祭りに行けるなんてそうそうありませんよ」

「ふふ、どういたしまして」

 

 くっ、やはりこの人も綺麗だ。もしかして、モデルとかやってんのかな。

 

「でも、どうして私の分まで取ってくれたの?」

 

 キョトンとした表情で新田さんが声をかけてきた。

 

「はい?」

「ほら、射的でもたこ焼きでも、アーニャちゃんの分だけじゃなくて私の分までくれたでしょ?アーニャちゃんが好きなのに、私にもそういう風にしてくれたのは何でかなって思って」

「いや、俺がアーニャさんを好きなのとそれは別でしょ。新田さんだって欲しいからスマホケース狙ったんだろうし、新田さんだって食べたいと思ったから、たこ焼きも差し上げただけですよ」

「………そっか。優しいんだ」

「いえ、好きだから差別するとか、そういうのが好きじゃないだけです」

 

 真面目な話、好きだからその人にだけ優しくして彼女にする、という方法が好きじゃないだけだ。いや、別にアーニャさんに恋してるわけじゃないけど。

 結局、それって好きな人の前だけで優しい自分を演じているだけだ。そんなものは詐欺と同じでしょ。

 

「そっか。割と真面目なんだね」

「そんな事ないですよ」

 

 勉強嫌いだし。

 

「ね、もし北山くんさえ良かったら、私と連絡先交換しない?」

「はい?」

 

 え、マジ?逆ナン?

 

「ほら、夏休み抜けたら東京に戻るんでしょ?それなら、私も一緒だからさ。もしかしたら会うことがあるかもしれないし」

「知ってます?地図で見たら小さいけど、東京だってそれなりに広いんですよ?」

「わ、分かってるよ!会おうと思えば会えるってこと!」

 

 ああ、なるほど。そういう事か。

 

「良いですよ。逆にこっちが良いんですか?って感じですし」

「なんで?」

「………いや、何となくです」

 

 新田さん、可愛いし大学生だしで俺なんかとアドレス交換して良いのか?って思っただけ。

 

「L○NEで良い?」

「はい。QR出しますね」

「はいはい」

 

 連絡先を交換した。俺のスマホの連絡先に「美波」という連絡先が増えた。ヴヴッとスマホが震え、トーク画面を開くと「よろしく!」というスタンプが送られてきたので、こっちはポプ子の「自己顕示欲〜」というスタンプを送った。

 

「ぷふっ、何これ」

「スタンプです」

 

 そんな話をしてると、トイレからアーニャさんが出てきた。

 

「ふぅ、お待たせしました」

「じゃあ、出ましょうか。あ、その前にちょっと飲み物買ってきますね」

「あ、私も飲みます」

 

 まぁ、別に喉乾いてるわけじゃないが、ただトイレのためだけにコンビニに来るのは何となく心苦しいからな。

 飲み物を買ってからコンビニを出た。未だに花火がやっていたため、コンビニの駐車場の手すりに腰を掛けて花火を見上げた。

 相変わらず、花火の明かりによる横顔は2人揃って兵器のレベルなので、なるべく花火に集中した。

 それから20分ほど花火は上がり続け、ようやく終わった。

 

「ふぅ〜、すっごく綺麗でしたね!」

「うん。東京と違って障害物が少ないからか、いつもより綺麗に感じた」

「え、東京ってそういうもんなんですか?」

 

 へぇー。俺は地元以外の花火を見たことがないから分からんわ。

 

「どうします?この後」

「そうですね。もう時間も時間ですし、私達は宿に帰ります」

「分かりました。じゃあ、駅まで送りますね」

「すみません、ありがとうございます」

「ありがとう、キタヤマ!」

 

 いや、まぁこれで送らずに帰ったら母ちゃんにブッ殺されるからな。

 三人で駅前に歩いた。いやー、楽しかった。久々に心から楽しめた気がした。

 

「ふぅ、楽しかったです。日本のお祭り!」

 

 アーニャさんがニコニコしながら言った。相変わらずこの人の笑顔は可愛い。

 

「それは良かったです。2人は明日で東京に帰るんですか?」

「はい。仕事がありますから」

 

 そうか。アーニャさんはアイドルだもんなぁ。今日だって、多分少ない休日を利用して遊びに来てるんだろう。

 

「北山くんはいつ東京に戻るんですか?」

「俺は学校始まる1日前ですね」

 

 早く戻ってもする事ないし、その分バイトで金稼げるし、電気代やガス代が掛からなくなるからな。少しでも節約したい。

 

「そんなギリギリなんですか?」

「はい。だってあんま東京にいる意味無いですし」

 

 東京なぁ。もう一ヶ月は帰ってないや。

 

「ここが好きなんだ?」

「いや、東京が嫌いなだけです………」

 

 だって友達いないんだもん。あいつら……自分さえ良ければそれで良い連中だから、一人ぼっちでいる奴がいても平気な顔して無視しやがる……。自分さえボッチじゃなけりゃそれで良いみたいな連中だ。

 

「? なんで東京嫌いですか?」

 

 純粋な顔で質問して来るアーニャさん。

 

「いや、東京が嫌いっていうか、東京の学生が嫌いなんですよね。あいつら電車の中では騒がしいし、平気で電車の中で飲み食いするし、人が少ないとつり革で懸垂しやがるし………死滅しろハゲ」

「何で全部電車関係………」

 

 引き気味に新田さんが呟いた時だ。キュッと右腕の裾を摘まれた。ふとそっちを見ると、アーニャさんが涙目+上目遣いの即死コンボで俺を見上げていた。

 

「じゃあ………キタヤマは私の事、嫌いですか………?」

 

 女神の微笑! 即死

 

「グホッ」

 

 鼻血を噴出して後ろに倒れた。

 

「⁉︎ き、キタヤマ⁉︎」

「ああもうっ!良い人だけど面倒臭いなぁ!」

 

 鼻にティッシュを詰めてもらい、何とか復帰した。畜生、慣れてきた頃に不意打ちは反則だろ………。

 

「アーニャちゃん、あまりこの人の……こう、ウィークポイントを刺激しないであげてくれる?」

「ウィーク………?」

「大丈夫です、新田さん………。まだ、生きています………!」

「そりゃそんなことで死なれてたまりますか………」

 

 何とか立ち上がる俺に、アーニャさんは再び涙目で質問してきた。

 

「それで、その……私の事は………」

「嫌いなわけがないでしょう。アーニャさんを嫌いになるくらいなら、俺は自殺しますから」

「っ!スパスィーバ、キタヤマ!」

「かっ、カハッ………!」

「だから一々、興奮しないで下さい!」

 

 この後、4回くらい同じようなことを繰り返した。

 なんか駅まで歩くだけなのに随分と時間がかかってしまったが、とりあえず何とか駅に到着した。

 

「なんか、とても時間がかかった気がする………」

「私はとても疲れた気がするよ………」

 

 俺と新田さんの疲れた声とは裏腹に、唯一楽しそうだったアーニャさんが、少し寂しそうな顔で言った。

 

「お別れですね、キタヤマ」

「そうですね」

 

 うう………名残惜しいぜ。まぁ、ぶっちゃけ今日で一生お別れだろうからな。連絡先交換した新田さんはともかく、アーニャさんは忙しいだろうし。

 まぁ、また会えると言っておけば、向こうは悲しまないだろう。

 

「まぁ、東京で生活してればいつか会えるでしょうし、そう気を落とさないでください」

「! そ、そうですよね!また会えますよね!」

「っ、は、はい」

 

 グッ……!そんな嬉しそうな顔をされると、なんか騙してるみたいで良心が………!大体、会ったばかりでなんでそんな寂しそうにできるの。かくいう俺もメチャクチャ悲しんでるけど。

 ………今なら、頼んでも良いかな。新田さんはバスの時間確認しに行ってるし。

 

「あの、アーニャさん」

「? なんですか?」

「一緒に、写真撮ってもらえませんか………?」

「はい!」

 

 即答だった。いつか聞こう聞こうと思ってたけど、これならそんな悩む必要無かったな。

 二人で並んで、スマホを構えた。肩と肩がくっつき、思わずドキッと心臓が高鳴った。クッ……純情かよだから。中学の時には一回だけ彼女出来たこともあったろうが。

 

「もう少し、くっ付かないと………」

 

 アーニャさんがそう言って、さらに距離が近くなった。心臓が口から飛び出しそうだったが、何とか抑えた。

 

「………とっ、撮りますよ」

「はい♪」

 

 楽しそうだな、この人は。

 親指を動かして写真を撮った。ふぅ、死ぬかと思ったぜ。

 

「ありがとうございます、アーニャさん」

「あの、その写真送ってもらえませんか?」

「あ、そうですね」

 

 ん?待てよ?それって………。

 

「L○NEでも良いですか?」

 

 憧れのアイドルと連絡先を交換出来ると⁉︎マジで⁉︎

 

「えっ、良いんですか⁉︎連絡先を⁉︎アーニャさんの⁉︎」

「はい。これで、お別れになってもお話し出来ますね♪」

 

 ハグァッ……!し、正気を保て、俺!新田さんは……新田さんはまだ帰って来ないのか⁉︎

 

「キタヤマ………?」

「あ、は、はい。すみません」

 

 神様、本当にありがとう。全力で感謝しながら連絡先を交換して、写真を送った。

 

「ふふっ、思い出ですね!」

 

 とても嬉しそうな顔をされ、もはや顔を直視できなくなった時だ。新田さんが戻ってきた。何故か気まずそうな顔をしている。

 

「あの、アーニャちゃん………」

「あ、ミナミ。お帰りなさい!」

「うん。その………バスの時間、もう終わっちゃってる………」

「へっ?」

「あ、歩いて、宿に向かわないと………」

「………へっ?」

「あ、じゃあ………」

 

 そんなわけで、俺が宿まで案内する事になった。どうやら、まだまだお別れとは程遠いようだ。

 

 

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