新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
翌日、ようやく放課後、今日の文化祭準備が終わり、真の放課後になった。
帰宅して今は部屋にいる。とりあえず面倒なことはさっさと終わらせなきゃいけないため、今日の晩飯を作り始めた。
今夜は唐揚げ。完成して机の上に置いて、箸と白米を準備し終えてからようやくいつもの癖で二人分用意してしまってることに気付いた。
「……あっ」
まぁ良いか、二人分食べよう。
食事を開始し、唐揚げを口に入れた。噛むと肉汁が溢れ出し、口の中に旨味が広がる。本当に俺も料理が上手くなったもんだ。
……でも、その、なんだろう。美味いけど美味くねぇ。なんだこの感じ。こんなの一人暮らしを始めて以来だ。
「……」
……もしかして、一人で食べる飯マズイとか思っちゃってんのか?俺が?そんなの去年たくさん味わっただろうが。なんで今更そんな……あ、まさか、結構二学期に入ってから複数人と飯食う事が増えたから……?
「……」
マジかオイ……。情けないにもほどがあんだろ。でも、精神面の内の無意識の部分が反応しちまってるからな……。
とにかく、さっさと食い終わっちまおう。で、今日は早めに寝よう。どうせ文化祭が終わるまでの辛抱だ。なるべくなら起きてる時間を減らして少しでも早く時間が過ぎてるような感覚を手にしよう。
×××
数日後、俺は教室で伏せていた。最近、食欲がない。食欲どころか睡眠欲も性欲もない。
……誰も部屋にいない……。なんだか、入学当初の寂しさが戻って来た気分だ。クラスメートと話す事は増えたものの、なんと言うか、友達というより仕事の同僚みたいか感じがしてなんか違う。
……はぁ、美波と料理を作りたい、アーニャ様の匂いをバレないように嗅ぎたい、はるちんをからかって愛でたい……。
ボンヤリと伏せて窓の外を見てると、多田さんが肩を叩いて来た。
「あの、大丈夫?疲れてる?」
「……はぁ」
「何、悩んでるの?」
「……いや、別に」
「悩んでるんでしょ?私が聞いてあげるよ。監督が調子悪いと周りの人達にも影響するし」
……多田さんって実は良い人なのか?でも、ついこの前彼女に思われそうになって焦ってたのに良いんですか?
「……最近さぁ、俺の部屋に誰も来ないんだよね」
「美波さんとかアーニャちゃんは?」
「二人とも忙しいみたいでさぁ……。それで、その……何?最近、うちってアレじゃん。結構人来てたじゃん?」
「そうだね、アイドル限定で」
「……最近、一人で飯を食うことも無かったわけで」
「……さみしいの?」
聞かれて、思わず力なく頷いてしまった。すると多田さんは呆れたように小さくため息をついた。
「それなら美波さんに会いに行けば良いじゃん」
「嫌だよ」
「なんで」
「……忙しいって言ってたんだし、足は引っ張れないでしょ」
「……ふーん、優しいんだ」
いや、当たり前の事だ。
「でも、それで北山が弱ってたら意味なくない?」
「……いや、文化祭までの辛抱だ……。それまでには落ち着くらしいし……」
「……ふーん」
「……あー、美波に会いたい……。また後ろから脇腹つついてアイアンクローされたい……」
「え、そんなことしてたの?」
「……いや、やったことねえな」
「それただの願望じゃん……。マゾなの?」
「いや、今にして思えば割と美波にボコられるのも悪くなかった気がしてなぁ……」
「……」
意外なものを見る目で俺を見たあと、多田さんはキョトンとした様子で言った。
「……あのさ、それって北山、美波さんのこと好きなんじゃないの?」
「ブフーッ!」
いきなりアホな事抜かされて思わず吹き出してしまった。
「な、何をいきなり言い出すんだよ⁉︎」
「だって、美波さんに構って欲しいんでしょ?それ好きってことじゃん」
……いや、いやいやいや。ねぇよ。俺の外見的好みはアーニャ様だぞ。ドストライク百点満点。あんな可愛い人他にいない。や、流石に恋愛感情があるわけでもないが。
や、そんなんは今はどうでも良くて。いや良くないけど、今はその話じゃなくて。どうしよう。
「い、いやいやいや!違う、100%違う」
「じゃあなんで美波さんに構って欲しいの?他にもたくさんアイドルと知り合いじゃん」
「そ、そりゃそうだが……!」
「晴ちゃんは?」
「歳下に構ってなんて言えるか!」
「蘭子ちゃんと飛鳥ちゃんも同じだよね……。でも、みくちゃんなら歳下って感じしないんじゃない?」
「あいつ怒ると引っ掻くだろ。傷残るレベルで」
「アーニャちゃん」
「あ、アーニャ様に失礼なこと出来るか!」
「友紀さん」
「あの人はほら、俺の中では10歳だから」
「ほら、要は美波さんが良いんでしょ?」
「……まぁ、そうだな。でも、他にまともな人がいたら……」
「私は?」
「……や、多田さんはほら……まだ関わって一ヶ月経たないくらいだし……あまり迷惑かけるのは申し訳ないというか……。ていうかそもそもあまりまともでは」
「……なんか言った?」
「いえ、何も」
「ほら、とにかく美波さんが良いんじゃん」
……や、まぁそう言われりゃそうなんだが……。
「北山の中では美波さんってアイドルじゃないんでしょ?」
「は?だってアイドルじゃないじゃん」
「アイドルだよ。この前、ドラマの撮影した人はそっくりさんじゃなくて本物」
「……」
ちょっと脳の処理が追いつかない。
「ほら、今アイドルだって知ったってことは、北山はアイドルだらけの中で唯一アイドルじゃないと思ってた女性を選んだって事なんだよ。普通、多少性格がアレでもアイドルを選ぶからね?」
「……」
……マジか。や、確かにそう言われりゃそうなんだが……。え、でもマジ?俺、美波さんの事好きだったのか……?
「……周りから見たらどう見えてたの?」
「他の人は知らないけど、少なくとも私から見たらむしろ付き合ってないとか言い逃れ出来ないレベル」
「そんなにかよ!」
「どう見てもイチャイチャしてたじゃん。美波さんの制裁だってカップルが戯れてるようにしか見えなかったよ」
「……」
……マジかよ。いや、でもカップルというよりは姉弟に見えるだろ……。もしかして、そう思ってるの俺だけ……?離れて暮らしてる弟と投影されてると思っていたのは俺だけか?
てか、そんなのどうでも良くてさ。俺……えっ?俺、美波の事を……?
「でも俺、別に美波のこと見てもドキドキなんてしないし、むしろ隠してある17点の小テストをどうしようかドキドキしてるレベルなんだが」
「……ああ、そういうとこは姉弟っぽいや」
だよね、やっぱ姉弟だよね。
「でも普段の二人は同棲してるカップルみたいだよ」
「同棲って……てか、同棲してるカップルに見えんならうちに来るなや」
「来ても良いって言ったの北山じゃん」
「だって付き合ってないもん」
「だからカップルに見えるだけだってば」
まぁ、カップルではないからな。でも、俺が美波が好きなのはピンと来ないんだよなぁ……。
少し、想像してみようかしら。もし、美波が別の男と付き合ってたら……あ、ダメだ。そいつの脳天に椅子をダンクシュートしちゃうかもしれない。
「……なんてこった。俺、美波のこと好きだったのか……」
「ね?」
「……でも、今そんなこと自覚した所で会えないわけだし……」
「会って告白すれば良いじゃん」
「無理無理無理。今、告白したって『そういうのは中間試験でせめて平均点取れるようになってからにしなさい』って怒られるわ」
「……ほんと姉弟みたいなんだね」
いや、そもそも美波は別に俺のこと好きでも何でもないだろうしなぁ。
「じゃあ、いつ告白すんの?」
「あー……いや、まだ先だろ。今は迷惑だし」
それにアイドルだし。というか、アイドルと俺って付き合って良いのかな。や、何人か付き合ってる人もいるって聞いた事あるし良いんだろうけど……。
「早い方が良いと思うけどね、私は」
「? なんで?」
「最近、クラスでの北山の株、結構上がってるよ」
「……は?なんで?」
「『割と面倒見が良い』『どちらかと言えばイケメン』『勉強出来なさそうなのに賢い』……みたいになってるよ」
それ褒められてんのか?微妙に貶されてる気がするんだけど。
いや、基本的には褒められてるし、友達いない奴が褒められてるんだからここは素直に受け取るべきだろう。
「マジ?これモテ期来た?」
「好きな人いるのになんで喜んでんの」
「……すまん」
や、でも男のロマンだろそれは。それに、正直まだ美波のことが好きなのかハッキリしてないし、もう少し様子を見たい。
「まぁ、とりあえず今は仕事に集中するわ」
「……そんな結婚間際のカップルみたいに言われても……」
多田さんのツッコミを無視して作業を続けた。
……しかし、俺は美波の事が好きなのか?確かに、最近は調子が悪い。それも美波と会わなくなってからだ。他の男に取られたら蹴散らしたくなるし、あんな人が彼女だったら……と思う事もある。もう少し甘やかしてくれれば最高だ。
けど、これは恋愛感情なのかがイマイチ分からない。ハッキリしない状態で告白し、仮に成功したとしてお付き合いするのは相手に失礼だろう。
「……」
まぁ、しばらく美波と会わなければこの問題は解決するだろう。別に好きじゃない女性……姫川さんとか前川さんとしばらく会わなくても特に何も感じない。強いて何か感じるなら部屋が静かになった感じがするだけだ。
それと違う感覚に覆われたら、恐らく俺は美波が好きだということになるんだろう。
そう決めて、とりあえずしばらくボンヤリすることにした。