新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
結果的に、かなり違う感覚に覆われた。一言で言えば、発狂しそうである。
俺は知らない間にかなり美波に依存していたようで、なんかもう死にそう。美波に会いたい、美波の手料理が食べたい、美波のアイアンクローを喰らいたい。
……でも、忙しいらしいし今会えば美波の迷惑になる。俺は一体どうしたら……。
「……」
と、いう悩みが止まらず、今は体育館の壁を無言で殴り続けている。体育の授業中で、それなりに会話出来る知り合いが出来たというだけで友達が出来たわけではない俺は一人で無断で体育館に出て、体育館の壁を殴っていた。
ガスッガスッガスッとひたすら壁にアッパーをかましてる時だった。後ろから声が聞こえた。
「ちょっ……な、何やってんの⁉︎」
「……あ、多田さん。初めまして」
「名前呼んでるのに初めまして⁉︎ていうか何やってんの⁉︎」
そういえば、女子は表で長距離走の後に卓球だったっけか。
「手ぇ血だらけじゃん!え、ほんと何やってんの⁉︎」
「……美波と俺を阻む壁は全てぶち壊す」
「手が先に壊れてるから!ほ、保健室!」
との事で、早速保健室まで連れて行ってもらった。幸い、肌を少し擦り剥いただけだったので、絆創膏で済んだ。
保健室の先生はいなかったから多田さんが貼ってくれたわけで、普段なら可愛い子に絆創膏を貼ってもらうと言う最高すぎるシチュエーションも全然頭に入ってこなかった。
「で、どうかしたの?」
「……美波に会いたい」
「じ、重症だなぁ……」
……誰が病気だよ。とツッコミを入れたかったが、実際病気じみてるので仕方ない。
しかし、ほんとなんかもう美波が恋しいです。あの人の存在ってほんと中毒性があるわ。
「そんなに会いたいなら会いに行けば良いじゃん」
「美波は今忙しいんだよ。そんな中に俺が会いに行ったら迷惑だろ」
「でも、北山がそんな調子だとうちのクラスの出し物が困るんだけど」
「え、俺いるの?」
……大体のお化け屋敷の設計図は渡してあるし、費用もちゃんと計算しておいた。俺なんかいらないだろ。
「いるよ。リーダーなんだから」
「そう言われてもな……」
「それに、もうすぐ文化祭当日なんだし、脅かし役の人に脅かし方とかレクチャーしてもらわないと困るんだよ」
「ググれば良くね?」
「もー!なんでここに来てそんなローテンションなの⁉︎」
そりゃ、美波に会えないからだろ……。それを察してか、多田さんは俺を見て大きくため息をついた。
「もー……仕方ないなぁ」
「なんだよ、美波召喚してくれんの?それは良いけど、向こうに迷惑かけるなよ?」
「私、マスターじゃないから」
「え、Fate知ってんの?」
俺の質問を無視して、多田さんはスマホをいじると小声で「ごめん」と言うと俺に画面を見せた。
金髪の女の子に「良いではないか〜♪」と楽しそうに言われながら着物の帯を引っ張られてる美波の動画が流れた。
「一週間は頑張れる」
「ほんと、バカで良かった……」
失礼な安心なされ方をした気がしたが、とりあえず今日からの俺は一味違うから見とけよ。
×××
そんなこんなで、数日後。いよいよ文化祭前日となった。ひん剥かれてる美波パワーでスタミナを回復した俺は万全を期して明日の準備に掛かっていた。
まずは細かい仕掛け、ポルターガイスト、発光塗料、血の水溜まり、ドライアイスは明日にするとして、あとUSB式小型扇風機によるささやかな風とか他にも色々設置した。微量の風が首筋に当たるとぞわぞわして怖いんですよこれが。
続いて脅かし役や大きな音などの打ち合わせと仕掛けを済ませ、とりあえずクラスメートだけでプレオープンした。
ちなみに、落とし穴的なものも作ってある。というのも、床をダンボールで高くして一箇所だけ低くすれば段差が出来上がる。ほんの少しでも床が沈み込めば十分ビクッとするだろうし。
まぁ、そんなわけでプレオープンしてるのをぼんやり眺めてると、多田さんが声を掛けてきた。
「どう?もう入った?」
「入ってねえよ。というか、そんな気分じゃないわ」
「あー……美波さんパワー切れてきた?」
「切れてきた。もう一本吸わせて」
「何故タバコ扱い……」
だから中毒性があるんだって。よくあの動画だけで一週間保ったな俺。
「でも、頑張ったんだし、美波さんも褒めてくれるんじゃない?」
「マジ?アイアンクローしてもらえる?」
「……本当にマゾなの?」
「違うから。まぁ、気長に美波からの連絡を待つよ」
文化祭までには、と言っていたが、まぁ予定は遅れるものだし仕方ない。ほんとは美波をお化け屋敷に招待して全力で泣かせたかったんだが……。ま、来れないなら仕方ない。
「……そういや、前川さんとかは来るのか?」
「うん、みくちゃん達もみんな来るってよ」
「ふーん……なんか、それだけでクラスの連中仕事しなさそうなんだけど……」
「あー……ま、まぁアイドルだしそこは仕方ないよ」
「……」
そういえば、美波も連れて来るって事はやっぱりチヤホヤされるってことだよなぁ……。
……女子達はともかく、男子が美波に群がるとみんな撲殺しちゃいそうだな……。
「……北山?顔怖いよ?」
「や、大丈夫。虐殺は頭の中だけにしとく」
「頭の中で虐殺してんの⁉︎」
仕方ないじゃん。気がついたらしてたんだから。
そんな話をしてる時だ。スマホがヴヴッと震えた。何かと思って見ると、美波からだった。
みなみ『今暇?』
みなみ『暇なら、今から会えない?』
……まさかの向こうからお誘いがきた。「了解」と短く返すと、スマホをポケットにしまった。
「……多田さん」
「? 何?」
「あとは任せる」
「何言ってんの?北山がいないと本当にうまくいってるか分からないじゃん」
「美波からお呼びだ」
「……あー」
「判定は多田さんがやって。この前のうちより怖けりゃ大丈夫だから」
「分かった」
それだけ言うと、一人で学校を出て行った。
×××
集合場所は俺の部屋。とりあえず考え事をしながらも先に帰宅して部屋を少し整えた。しばらく待ってると、呼び鈴の音が部屋内に響き渡った。
玄関を開けると、荷物を持った美波が小さく手を振って立っていた。
「……どうも」
「こんばんは。大丈夫だったの?学校は」
「はい。ちょうど終わった所」
「なら良かった。今、ご飯作るからね」
「や、俺やるよ」
「……じ、じゃ……二人で、やろっか……」
……なんで今更照れてんだこの人?と思ったが、なんだか俺も照れくさかった。この人が好きだと自覚したからか、今までの自分の行動がすごい恥ずかしい奴に思えて来た。
いつものように手早く調理を済ませた。今日のメニューは簡単にカレーにした。
「……よし、完成っと」
「美波、何飲む?」
「お茶で」
「了解」
美波がカレーをよそってる間に、飲み物とスプーンを運んだ。
ちゃぶ台に移動すると、二人で手を合わせて挨拶して食事にした。
「どうだった?仕事」
「えっ……?」
「多田さんから聞いたから。アイドルだったんでしょ」
「あ、あー……うん、まぁね。ごめんね、隠してて」
「別に」
あんま気にしてなかったし、アイドルだろうとそうじゃなかろうと関係ない。
どうせ美波の事だし「アイドルだって言ったら遠慮されちゃうかもしれないと思ってたけど、なんかバカみたいにアイドルと知り合うに連れてこの人に隠す必要なかったなって思ったが、なんか今更バラしにくくなってそのまま黙っててしまった」みたいな感じだろう。ていうか、誰でもそうなると思うし。
「で、忙しかったんでしょ?」
「まぁね。それなりに」
「もう落ち着いたんですか?」
「うん。明日からまたここに来れるよ」
そいつは良かった。明日から異常行動を起こさずに済む。
「遊歩くんこそどうだったの?」
「明日、文化祭ですよ。一応、お化け屋敷は完成しました」
「そっか。怖い?」
「そりゃな。来場者全員泣かす勢いだから」
「そ、そっか……」
「美波も来るでしょ?」
「えぇ〜……い、嫌だよ……」
「怖いんだ?」
「……い、良いでしょう別に」
「好きにすれば良いよ」
実際、怖いのダメな人には来ない方が良いかも。どうしても来るなら替えのパンツを持ってくることをオススメする。
「まぁ、でも学生生活楽しんでるようで良かったよ」
「どうなんだかなー。どうせ今回の文化祭終わったら元のボッチに戻るだろ。話しかけてくれるのは多田さんくらいか」
「そんな事ないんじゃない?もうすぐ修学旅行なんだし、この間に友達作れば良いのに」
「んー……」
いや、友達作るとこの部屋でまたアイドル達と会うことはなくなりそうだしなぁ……。特に美波とアーニャ様と会えなくなるのは困る。
……いや、会えなくなるかは分からんか。その辺は俺が調整すれば良いだけで。
ただ、やはり会う回数は減るだろうなぁ……。回数が減ると、やはり徐々に会う事がなくなるのは良くある事だ。それに、これからの季節、アイドルである美波はもっと忙しくなるだろうし……。
……うーん、正直失敗したら最悪なんだけど……。でも、いずれ踏み込まなきゃいけないラインなんだし、言ってみようかな。
「美波」
「ご馳走さま……。ん?何?」
「好きなんだけど。付き合ってくれない?」
「良いよ。……今なんて?」
よし、今「良い」って言ったな。
「じゃ、今から俺と美波カップルな」
「ち、ちょちょちょっ……ちょっと待って!今なんて⁉︎」
「だから付き合ってって」
「付き合っ……⁉︎」
ボフンと顔を真っ赤にする美波にとりあえず言い続けた。
「や、前々から考えてたんだよね。なんか美波に会えない間、予想以上に俺壊れててさ。多田さんに剥がれてる美波の動画見せてもらえなかったら死んでた」
「待って。その動画について詳しく」
「まぁ、お陰で俺は美波の事好きな事を自覚したわけで。で、とりあえず美波の仕事が落ち着いたら告白しようかなーって思ってたんだよ」
「っ……も、もう待って!一旦やめて!」
「もしかしたらフラれるかもって思ったけど。俺はほら、中学の時はしつこさで彼女手に入れたわけだし、その後もガンガンアタックする予定だったから……」
「ま、待ってってば!」
「それにしてもまさか二つ返事でOKもらえるとは。勇気振り絞って良かっ」
「待ってって言ってるよね⁉︎」
「ほぐっ⁉︎」
ちゃぶ台の下から足が伸びて来て、俺の鳩尾を的確に捉えた。こ、この野郎……なんで止めるのに蹴りが飛んで来るんだよ……。
「て、テメェ……彼氏の腹を蹴るか普通……!」
「か、彼氏じゃないから!」
「……え、ダメなの?」
「い、いやっ……い、良い、けど……」
あ、少し恥ずかしがってる。かわいい。
赤らめた頬をぽりぽりと掻きながら目線を逸らし、ペコっと頭を下げた。
「……その、よろしく…お願い、します……」
「どうも」
そんなこんなで、お付き合いを始めた。