新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
学校が終わり帰宅していると、公園で美波の撮影現場を見かけた。そういや、今日で撮影終わりとか言ってたな。
相変わらず、役があるから学生服を着たままキリッとした表情を作っている。……俺の前ではあられもない姿を見せているが。ま、これがギャップ萌えって奴なんだが。
しかし、こうしてみると美波ってやっぱカッコ良いよな。裏番役もしっかりと合ってる。
「カォーット! オッケ。お疲れ様、美波ちゃん」
……ほんとに「カァーット!」っていう監督いるんだ……。
撮影が終わり、ふぅと美波は一息つくと、俺に気付いたのかこっちに顔を向けた。
すると、微笑みながらこっちに手を振ってきた。それに小さく会釈して答えた。
「……」
……俺、あれと付き合ってんだよなぁ……。なんだか、今更になって俺にはもったいない彼女に思えて来た。
まぁ、実際勿体無いんだろうけど。俺の取り柄なんて運動神経くらいだし。
もう少し良い男になろうかな。少し、筋トレでもした方が良いかも……や、それ結局運動神経だしなぁ……。
でも勉強は嫌だし……というか、美波は俺のどこに惚れたんだ? 俺の女に惚れる要素って……。
「……」
あれ、なんか自信なくなってきた。と、とりあえず美波の部屋に帰るとしよう。そしてちょっと考えよう。
×××
美波が帰って来るのは10時過ぎらしい。多分、撮影の後に打ち上げとかあるんだろうな。
しかし、俺が美波に好かれた要素、か……。今にして思えば、出会いは最高だったと思う。逸れた友達を見つけ出した上に、宿までおんぶで送ってあげたわけだから。
だが、逆にその後が最悪過ぎた。連絡も取れずに骨折して俺の身の回りのお世話まで全部してもらって……しかも色んな失礼なからかい方してアイアンクローされてたし……。
ふむ……まずいな。考えれば考えるほど分からないぞ。と、とにかく今日からでも良い。美波に優しくしよう。
とりあえず、今から美波の部屋を片付けよう。外に干してある洗濯物をしまい、畳んで必要なものはアイロンをかけて片し、続いてお風呂を洗って湯炊きし、食器を洗った。
まぁ、美波は部屋を散らかすタイプではないので、床に落ちてるものなどはない。これで部屋の片付けは終わりだ。
……なんか、違うよな。これただの家政婦だよな……。もっとこう、行動とかじゃなくて……普通に美波に優しく行動したいというか……。
……ダメだ。考えても分からん。友達がいれば分かりそうなものだが、まぁ1日でわかるような事じゃないしな……。
とりあえず明日から頑張ろう。何なら、美波に直接聞いてみるか。
そう決めると、美波から連絡がきた。
みなみ『今、打ち上げ終わりました』
ん、マジか。迎えに行かなきゃ。
遊歩『了解。迎え行くから』
みなみ『はーい。いつもありがとね』
遊歩『いやいや。じゃあいつものコンビニで待ち合わせで』
そう言って、美波の部屋を出た。一階に降りて美波の自転車を借りて漕ぐ事5分、コンビニに到着すると美波が俺に気づいて駆け寄ってきた。
「お待たせ」
「ううん。毎回ありがとね」
「いやいや。当たり前だから。後ろ乗れよ」
「あ、それはダメ。二人乗りは今ダメなんじゃなかった?」
「じゃ、乗って良いよ。俺が引いてくから」
「ほんと? なんかごめんね」
美波を乗せて、俺が歩いて自転車を押して歩き始めた。
「さっき公園にいたでしょ?」
「あー、うん。たまたま。美波、カッコよかったよ」
「あら、そう?」
「あられもない姿とは随分ギャップが」
「外でそう言うこと言うのはこの口?」
「……すみませんでした」
頬を掴まれ、タコみたいな口にされたので慌てて謝った。ほんと、怒ると怖いんだよなこの人……。
「でも、美波のセーラー服姿はもう見れないのか……」
「うう……それは忘れてよ……。恥ずかしいんだから……」
「いや無理でしょ。これから全国放送されるんだし。むしろ、恥ずかしがる事なんてなくね?」
「……でも、遊歩くんに面と向かって言われるのは恥ずかしいの」
「いつももっと恥ずかしい姿を見られ」
「何?」
「何でもない」
危ない危ない、ついうっかり殺されるとこだった。
「ね、遊歩くん」
「何?」
「何かあった?」
「へっ?」
な、なんだ? 急に……。
「なんか、悩んでるみたいだったから」
「え、なんで?」
「なんでって言われても……顔色?」
「顔色で人が悩んでるか当てるなよ……」
「人が、じゃないよ」
「?」
「遊歩くんだから分かったの」
言われて、一発で俺の顔は熱くなった。おまっ、急に不意打ちでそう言う事言うのは卑怯だろ……!
顔が赤くなってるのを自覚し、慌てて顔を背けたが、美波は尚一層楽しそうな笑みを浮かべた。
「何、照れてるの?」
「るせーよ……」
「照れてるんだ? 最近、遊歩くん可愛いよね」
「勘弁してもらっても良いですかね……」
「あ、でもたんま。アーニャちゃんでも顔色で分かるかも」
「上げて落とすなよ……」
割とSなんだよなぁ、この人。
「で、何に悩んでたの?」
「……や、大した事じゃないから」
「言ってくれないの?」
「ほんと下らない事だからな」
「でも悩んでるんでしょ?」
「……」
「珍しく」
「おい、悩ませるような事を付け加えるなや」
心配してるのかしてないのか悩む所だ。
まぁ、そうまで言われたら美波はアイアンクローしてでも俺から聞き出すだろうし、この際だから言ってみるか。
「美波ってさ、なんで俺の事好きになったの?」
「……へっ?」
「や、自分で言うのもアレだけど、俺って客観視したら割とモテる要素皆無だと思うんだよ」
「現状見てよ」
「は?」
現状って言われても……一緒に帰ってるだけじゃね?
キョトンと首を捻って美波を見上げると「なんで分からないの?」みたいな顔をしてため息をついた美波が説明してくれた。
「まず、迎えに来てくれる所かな」
「は?」
「それから、疲れてる私を座らせて、自分は自転車を押してくれるとこ。……まぁ、まとめると優しい所」
「や、それくらい当然で……」
「自分より彼女を楽させることを当然と思ってる所もかな」
「……」
あれ、この流れはマズイのでは……?
「それから、カマって欲しい時はつい憎まれ口叩いちゃう所も可愛いよね」
「えっ、ば、バレてるの?」
「あ、バレてないと思ってたんだ? 割と思慮が浅い所もかわいいよ」
「……」
ほら見ろ、恥ずかしくなってきた。
「それと、人が来る時は家庭的になる所。……まぁ、私しか来ない時は散らかしてるみたいだけど」
「その件についてはほんとすみません……」
「あとは、イベントの時は真面目に活動してる事かな。変な予備知識をフル活用して」
「あの、もういいから……」
「あとは年下の子に対しては面倒見が良いところ。もちろん、アーニャちゃんへの対応は除くけど」
「アーニャ様を年下の子なんて言えるか! あの人はもはや……」
「照れ隠しにアーニャちゃん使わなくて良いから」
……もう勘弁してくれませんか……。顔を真っ赤にした俺は、その場で黙ることしか出来なかった。
「……勘弁して下さい……」
「だから、自信持ってよ。どうせ、公園で撮影中の美波を見て『あんなのと恋人で良いのかな俺……』みたいに思ったんでしょ?」
「なんでそこまでバレてんの⁉︎」
「付き合ってから分かったけど、分かりやす過ぎるよ、遊歩くんは」
……マジかぁ。なんだか恥ずかしくなってきたな……。
そうこうしてるうちに、美波のマンションに到着した。でも、そっか。普段の無意識の部分を好かれてたのか……。
「……あれ? じゃあなんで俺今まで女の子にモテなかったんだ?」
「中学の時に彼女いた人が何言ってんの?」
「や、そう言われりゃそうだが……」
「それに、これからはあんまり周りの人に優しくしちゃダメだよ」
「なんで」
「他の子にモテちゃったら私が困るから」
……なるほど。前はあまりそう言うの考えた事ないが、彼女が出来るとその辺も気をつけないといけないのか。
そんな話をしてるうちに美波の部屋に到着し、鍵を開けた。中に入るなり、美波は感心したように「わっ……」と声を漏らした。
「少し、綺麗になってる?」
「あ、あー……」
「掃除してくれたの?」
「ま、まぁ……美波に相応しい男になるにはどうしたら良いか色々考えてたからな。途中でなんか違う気がしてやめたけど」
「……そんな事するくらいなら、自分の部屋を片付けようね」
「返す言葉もないです……」
「ま、私としては助かっちゃったけど」
言いながら二人で部屋の中に入った。
手洗いうがいだけ済ませて一緒にソファーに座ると、俺のお腹から「グゥッ」と音が鳴った。
「……」
「何も食べてないの?」
「掃除に夢中で……」
「ちゃんと食べなきゃダメじゃない……。今、何か作るね」
「や、いいよ。自分でやるから」
「大丈夫。こういうのは普通、女の子の仕事だから」
そうは言われてもな……。しかし、美波はやると言ったら聞かない人だ。
仕方なく美波に料理を作ってもらい、大人しく待機した。しばらく待つ事数分、美波が持って来たのは炒飯だった。
「はい。簡単だけど……」
「サンキュー」
俺の隣に座ると「んーっ」と伸びをしながら背もたれにもたれ掛かる美波。胸が強調されてとてもエロかったので、さっさと炒飯を食べて煩悩を打ち払うことにした。
「そういや、今日で撮影終わりだったっけか?」
「うん。もう大変だったよ……」
「じゃ、明日は打ち上げだな」
「あら、お祝いしてくれるの?」
「お疲れ様会がお祝いに含まれるかは微妙だけどな。誰呼ぶか。アーニャ様と多田さんとはるちんと……」
人数を数える俺の手を美波は止めた。何? と視線で問うと、何故か顔を若干、赤くした美波は少し照れた様子で頬をポリポリ掻いて言った。
「……明日は、遊歩くんと二人きりが良いな」
「……それで良いの?」
「うん。たまには二人で表にデートしに行こうよ」
「了解。どこ行きたい?」
「そこを考えるのは男の子の仕事だよ?」
……なるほど。デートコース考えないといけないわけか。それも今から明日までに。こいつは大変だ。
「了解。少し遠いとこでも良い?」
「良いけど……自分で言うのもあれだけど、そんな張り切らなくて良いからね? たかだかドラマ撮影終了の打ち上げなんだし」
「そうはいかないでしょ。……多分、一生ないと思う俺と美波が二人で出てるドラマなんだし」
エキストラで何回か出てたからな……。多田さんと恋人役で。今にして思えば、美波のあの視線は嫉妬だったんだよなぁ。
「……そっか。じゃ、その辺は遊歩君に任せるよ」
「了解」
「さて、何しよっか?」
「今日はもう疲れたでしょ? 寝ようぜ」
「そうだね」
「お風呂沸かしておいたから。俺、炒飯食べてから入るから先に入って良いよ」
「……」
すると、美波は唐突に頬を赤く染めて俯いた。で、何を思ったのかチラチラと俺を見ながら、コホンと咳払いしてドラマ撮影を終えた後のアイドルとは思えないほど下手くそな演技で言った。
「わ、わー……疲れちゃったなー。これは、誰かにお風呂でマッサージしてもらいたいなー……」
「……」
……ほんと、俺の彼女は……。
「すぐ食べ終わるから待ってろよ」
「う、うん……。むしろ、先に入って待ってても良い、かな?」
「了解」
この後、滅茶苦茶マッサージした。