新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
真冬。鬼寒い日の夜、俺は新田家で料理をしていた。今日の飯は鍋にしようと思った。それもただの鍋ではなく火鍋だ。辛い代わりに健康には良い。アイドル業をしてる美波には持って来いなものだろう。
とりあえずスパイスとか香辛料とかぶち込んで煮込み、あとは野菜と肉の準備が出来た。
……さて、どうしようかな。美波が帰って来るまであと10分ほどか。火鍋の準備は整ってるし、迎えに行っても良いんだが……うん、行こう。
スマホで電話をかけた。
「もしもし、美波?」
『あ、遊歩くん? どうしたの?』
「迎えに行くけど、今どの辺?」
『え、いいよ〜。寒いでしょ?』
「くっ付けば暖かいだろ」
『……もう、えっちなんだから』
「で、どの辺?」
『ファミマ付近』
「今行くから」
『うん』
部屋を出て、鍵を閉めた。よっしゃ、行くか。
自転車に乗ってコンビニに向かうと、美波が両手に息を吹きかけて待っていた。
「あ、遊歩くーん」
……わざわざ外で待ってなくてもいだろうに。
「お待たせ。てか、中で待ってろよ。風邪引くぞ」
「大丈夫だよー。待ってたの2分くらいだもん」
「せめてなんかチキンとかあったかいもの食べてりゃ良かったのに」
「それも平気。だって、遊歩くん晩御飯作って待っててくれてるんでしょ?」
……ったく、俺の彼女は。本当に可愛いというかお姉さんしてるというか……。
ボンヤリしてる間に、美波は自転車の後ろに跨った。俺の腹の前に両手を回し、キュッと力を入れる。
「北山号、発進!」
「ブルートレインあたりにありそうな名前だな」
美波ってこういう時ノリ良いよな。ただ糞真面目なだけじゃない辺りが大学生っぽくて大好き。
……まぁ、そんなこと絶対言えないけどな……。
そんな話をしながら美波の部屋に到着した。
「今日の晩ご飯は何?」
「ん、火鍋」
「あー、良いね。あったまるし健康的だし」
「辛いの平気?」
「うん、それなりに」
「良かった」
言いながら、美波は洗面所で手を洗い、俺は美波が脱いだ上着を預かり、ハンガーを手に取った。
「……」
何となく、魔が差してコートを自分の顔にあてがった。あー……美波の匂いがする。香りじゃなくて匂い。多分、これ体臭だよなぁ……。俺と同じボディソープ使ってんのになんでこんな違うんだろう……。
こう、なんつーの? 人の匂い? 分かるかな、あの洗剤や石鹸じゃ表せない、物体にしたら柔らかそうで尚且つ卵肌そうで、その上エロそうな匂い。同じ匂いがするわけではないが、新品の本の匂いと系統は同じかもしれない。
「……クセになる」
直後、ガッと。ガッと後ろから首をロックされた。
「……何してるの?」
「……汚れを吸い込む掃除機になってみました」
「吸い込んでるのは私の匂いでしょ? ヘンタイさん」
「……」
……おっしゃる通りで。グググッと徐々に腕に力が入り、俺の喉仏を的確に締めていく。
「っ、ご、ごめんなさ……!」
「そういうのは私のいないところでやろうね?」
「……は、はい……」
いないところなら良いんだ、と思っても口に出さなかったのは当然だ。
そんなわけで、二人でコタツに入った。さ、食べるか。コンロの火を付けて、野菜や肉を鍋の中に投入していく。
「んー……辛そう……」
「そこは嘘でも美味しそうって言おうぜ……」
少し正直過ぎるぞ君。
鍋が茹ってきたので、いざお食事。二人で手を合わせて挨拶すると、よそって食べてみた。
「美味い?」
「うん。辛いけど、美味しい。なんかポカポカしてきたし」
「それはコタツに入ってるからでは?」
「もー、違うよー。いや、それもあるけど」
まぁ、辛いもの食ってる時はなんか暑い気がするのは分かる。だからこそ冬にこういうの食べたいよね。逆に夏とかクソオブクソ。
そういえば、もうすぐ年末だ。クリスマスも終わり、その時に購入したお揃いのネックレスを付けている。
「あ、遊歩くんっ」
「何?」
「年末、どうしよっか?」
「……あー」
どうするかな。せっかくだし一緒にいたい。予定を聞いて来るってことは美波も暇なんだろうし……。
「泊まりでどっか行く?」
「うん、それが良いかもね。どこにしよっか?」
「行きたい場所あるならそこで良いよ」
「うーん……じゃあ温泉でも行く?」
「あー良いなそれ。混浴で」
「ふーん、遊歩くんは私の裸を他の人に見られても良いんだ?」
「良いわけないだろいい加減にしろ」
「いい加減にするのはそっちだから。このすけべ」
……はい、すみませんでした。謝るので指を鳴らすのやめて。
「……プレイの最中はそっちの方がハッスルするくせに」
「何か言った?」
「イエ、何モ」
怖いなぁ、俺の彼女……。まぁ、でも美波が温泉が良いなら温泉で良いかな。
俺も温泉が嫌なわけじゃないし、何なら割と好きな方だ。特に、壁を隔てて女湯の人と話したりするのは夢でした。
「じゃ、温泉にしよっか」
「ああ。そういやうちの地元に良い温泉があるから」
「おお〜なんでもあるんだね、遊歩くんの実家は」
「まぁ、一応な」
「じゃあついでに、遊歩くんのご両親に挨拶でもしておこうかな」
「え、いいよそれは。うちの両親頭おかしいし」
「何、まだ反抗期?」
「いや、ほんとにおかしいから。中学の時の彼女紹介したら母親が一緒にお風呂入って尋問してたし……」
「お母さんが親バカって珍しいね……」
「父親は部屋をガンダムのジオラマで染め上げて母親に殺されかけてたし」
「お父さんは本当のバカなのね……」
うん、バカ。俺よりもバカ。だからあんまり会わせたくないんだが……まぁ、美波が挨拶だけでもしたいって言うならそれもやむなしかな。
そんなことを思ってる時だ。美波の部屋の電話が鳴った。
「あっ、出ようか?」
「いやダメでしょ。私が出るから、そこまで気を使わなくて良いよ」
そういや、一応俺の存在はお忍びだったな。アイドル以外には。
コタツから出た美波は鳴り響いてる子機を手に取って耳に当ててコタツに戻って来た。
「もしもし?」
『もしもし、美波か?』
電話中は静かにしないとな。
「うん、どうしたの? こんな時間に」
『いや、最近声を聞けてなかったから。忙しかったのか? それとも変な男に絡まれてるのか? だとしたらこちらから掃除屋を……』
「へ、平気よ。そんな気にしなくても」
『でも、前は月一で電話をくれてたじゃないか。もしかして、パパを嫌いになったのか? そんなことになったら……』
「そ、そんなことないから! 大丈夫、元気でやってるし、嫌いになってないよっ」
……なんだ? 元彼と電話か? それとも、まさか浮気なんてもんじゃないよな……?
『まぁ、それなら良いが……あ、まさか彼氏とか作ったのか?』
「っ⁉︎ そ、そんなんじゃないよ! 彼氏なんかいないから!」
『パパ忘れてないからな、「美波、大きくなったらパパと一緒にいる!」って言ってたの』
「もう、いつの話してるのよ!」
……本当に浮気か? え、だとしたら怖い。美波、普段は俺がアーニャさんを天使と呼ぶ度に嫉妬するくせに……!
そう思うとイラっとしたので、少し叫んでみることにした。
「美波のおっぱい、超柔らかかったなー!」
「ちょっ、バカ……!」
『……美波、なんだ今の声は?』
「っ、ち、違うの……! 今のは……!」
ふふ、焦ってやがる。まぁ、この反応次第で白黒はっきりするとするさ。
『男の声だったな、それも若いの』
「ビデオじゃないかしら?」
『名前呼んでたのにか?』
「あ、アイドルだしドラマくらいは……」
『実名でドラマ出るか?』
「バラエティだけど……」
『何にしてもおっぱい柔らかいってどういう事だ?』
「た、たまたま肘が当たっただけよ!」
『パパ以外の人に胸を触らせたのかお前は!』
「パパにも触らせてないけど⁉︎」
パ、パパ⁉︎ え、お父さんだったの……? あ、これまずい流れなんじゃ……。
『……そんなに隠さなければならないような彼氏なのか?』
「ち、違うよ! だって、仮に彼氏ならパパ本気でCQC習い始めるでしょ⁉︎」
今から習うのかよ! にしても怖いな美波の親父!
『そんな事はしない。ただ、美波の男に相応しいか、500通り程拷問を……』
「尚更ダメだよ!」
尚更ダメなことされるの⁉︎ 何されんの⁉︎
『だがな、美波。お前も親になってみればわかる。ただでさえ、女の子が一人で東京とかいうコンクリートジャングルで暮らしてるだけでも心配なのに、その上彼氏なんて作られた暁には詐欺かなんかなんじゃないかって、もう心配で心配で……』
「パパ……いや、でもだからって拷問はないよね」
『っ、わ、分かった! じゃあこうしよう、正月くらいは顔出してくれるんだろう?』
「え? う、うーん……」
『そのときに彼氏くんも一緒に連れて来なさい』
「えっ……」
ん、なんだ? なんか嫌な予感が……。
「ほ、本気……? や、無理だよ。彼、普通の学生だしお金が……」
『うちが全額出す。だから誘か……連れて来なさい』
「待って、今なんかすごい言い間違いしなかった?」
『でなければ交際は認めない。こちらから大竹を送り込むからな』
「大竹さんを⁉︎」
誰だよ大竹さん。
「大竹さんはダメよ! あの人、じ、自分で言うの恥ずかしいけど……私のこととても溺愛してたんだから!」
……んだそいつ、殺したろか。
『嫌ならちゃんと連れて帰って来なさい。良いね?』
「っ……わ、分かったわよ……」
『それと美波、その彼氏くんとエッ』
そこで通話を切り、子機を元に戻す美波。
……何があったのか聞きにくいな。絶対俺の所為だし……。と、思ったら聞くまでもなかった。美波が涙目で俺を睨んできた。
「……あの、怒ってる?」
「……遊歩くんの所為なんだからね」
「えっ……てか溺愛って……」
「お正月、私の実家に帰ることになったから」
「えっ……」
「パ……お父さんとお母さんと弟に挨拶するから」
「挨拶って⁉︎ 結婚を前提にしたお付き合いだったっけ⁉︎」
「とにかくそういう事だから」
そう言うと、美波はさっさとコタツに入って火鍋を食べ始めた。
そんなわけで、なんだかとんでもないことになってきてしまい、俺も飯を食いながら心底、くだらない事で嫉妬したことに後悔した。