新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
どこかしらの空港。時早くして年末になり、俺と美波は広島に行くことになった。
広島でも、別にドームとか見に行くんじゃなくて美波の実家に行くのだ。まぁ、大学生の一人暮らしであの高層マンションで暮らしてる時点で察したが、金持ちらしい。まぁ、そうじゃなきゃ俺の分の交通費まで出してくれないわな。
まぁ、金持ちの家なんて行くのは初めてだし、正直少し楽しみだったりする。
……当の美波はとても面倒臭そうな顔をしているが。
「なぁ、美波。落ち着けって。何がそんな不安なんだよ」
「全部よ、全部」
「全部って……なんで」
「私のお父さん……」
「パパだろ?」
肘打ちが顔面に入り、鼻血が垂れた。
「私のお父さん、とても厳しい人なの……」
「う、うん……」
良く何事もなかったかのように話を進められるなこの人……。その厳しさは遺伝でしっかりと受け継がれている。
「厳しいって……どんな風に?」
「えーっとね……自分に厳しく子供に甘い人だったの。だから、美波や弟は散々、甘やかされたけど、仕事の人やうちのメイドさんや執事さんには厳しい人だった」
……えっ、メイドや執事がいるの? 絵に描いたようなお金持ちかよ。スネちゃまかな? ……ミナちゃま? やばい、語呂悪すぎてあんま可愛くない。
「だから、多分……というか確実に遊歩くんへの当たりは強くなると思うけど……」
……なるほど。俺あんまメンタル強くないしなぁ。
「……まぁ、なんとかなるでしょ。それよりさ、東京土産に買ったの草加煎餅なんだけど、どう? 喜んでくれるかな?」
「なんで東京で草加煎餅なのよ……」
「東京も草加と似たようなもんでしょ」
「……ほんと、不安になってきた……」
尚更、困り果てたように額に手を当てる美波だった。
「はぁ……」
「え、ダメなの?」
「うーん……まぁ、パパはお煎餅好きだし大丈夫だと思うよ」
「マジ? ベストチョイスやん」
「でも、草加って東京じゃないから、そこは気を付けてね」
「え? だってこれ、東京駅で……」
「東京駅でも白○恋人売ってるでしょ?」
「あ、な、なるほど……これだから都会人は……!」
「いや、無知過ぎる遊歩くんが悪いでしょ」
「無知の知、アリストテレス」
「ソクラテスだよ」
……相当、機嫌悪いのかな……。なんだか切り返しがいつもより早いし冷たい。そんなに不安かなぁ、俺と美波のご家族が対面するの。
まぁ、その辺は結局、俺の日頃の行いが悪いからそうなってるんだろうけど……。
まぁ、こう言う時に美波を落ち着かせるのは俺の役目だ。
「大丈夫だ、美波」
「何が?」
「俺はこう見えて地元だと色んな大人に好かれてるんだ」
全員、友達の両親と学校の教師だが。
「だから、海では友達の親の海の家でバイトさせてもらえたんだ。大人の人心掌握術は任せておけ」
意識してやったことはないが、最近では高校の先生にも好かれて来たし。
根拠の無い話ではないから、美波も少しは信じてくれる……と、思ったのだが、何だか機嫌が悪そうにジト目で俺を睨んでいる。
納得行かなさそうな顔で、頭痛を抑えるようにコメカミに手を当てると、本気で呆れてるようにため息をついた。
「……私の気持ちには一切、気付かない人に言われてもなぁ」
「何言ってんだ? 美波はまだまだ子供だろ」
「……へっ?」
キョトンとする美波だが、こっちがキョトンだわ。
「だって、私……結構、大人びてるって……。楓さんや瑞樹さんにはよく飲みに誘われるし、第一もう二十歳だし……」
「感情的になると一人称が『美波』になって、夜とか……特に仕事で嫌なことがあった時は膝枕をせがむくらい甘えん坊になって、朝とか起きると人を抱き枕にしてる人に大人とか言われてもなぁ……」
そう言ってやると、美波の表情は徐々に真っ赤に染まって行く。
「……い、意外と人のこと見てるんだね……」
「そりゃ、彼女のことなら尚更な」
「……でも、不安なのは変わらないんだからね。いくら遊歩くんがその辺はしっかりしてたとしても、相手は私のお父さんなんだから」
そう言いながらも、美波はこっちに徐々に体重をかけて来た。肩に頭を乗せると、右手を俺の左手に重ねて、ほんの少しだけ安堵したような声を漏らした。
「……でも、少し安心した」
「なら良かった」
「このまま寝ちゃっても良い、かな……?」
「良いよ」
そう言って、美波は俺の肩で目を閉じた。
×××
広島に到着し、空港に降りた。荷物を受け取って、迷路みたいになってる空港を歩いてると、美波が「あっ」と嫌そうな声を上げて足を止めた。
何事かと思ったら、なんか正面にスーツを着てる女の人が立っていた。……なんか胸の辺りがおっぱいではない不自然な膨らみがある女の人。
「……美波、あの人……」
「……わかる?」
「……銃持ってる?」
「ううん、アレ一応はペイント弾。私に近付く男の目を潰すためだってパ……お父さんが」
「てことは、メイドさん?」
「うん、メイドの大竹さん」
「……大竹さん、女性の方だったんだ」
……美波に近付く男……その時点で俺に向けられてるような……。
もういい、駆け引きはここから始まってるってことか……。勉強に活かされない頭の良さを使う時だ。
「美波」
「何……んんっ⁉︎」
美波のネクタイを引っ張り、口を近づけてキスをした。正直、恥ずかしいなんてものじゃないが、これも相手に負けないためだ。
口と口を離し、真っ赤になった美波が俺の頭を握り、ギリギリと万力の如きアイアンクローをかました。
「い、き、な、り! 何するのよあなたは本当に‼︎」
「嫌だった?」
「いやじゃ、ないけど……こんな、公衆の面前で……うー……」
照れてるのに一切、力が緩まない辺り、本当にアイアンクローに慣れたなぁ。でも痛いからやめてね。
「ごめんごめん、でもこうでもしないと俺が撃たれてた」
「どういうことよ?」
「キスまですれば、どんなバカでも付き合ってるってわかるだろ。これで俺にペイント弾を撃てば『ストーカーかと思った』って言う言い訳は通用しないし、むしろ美波の彼氏に失礼を働いた事になる。奴らの行動原理は全て美波のためだから」
「……その思考がなんで勉強に活かされないのかなぁ」
「まぁ、何より……宣戦布告、だな」
「喧嘩売ってどうするのよ……」
違うわ。攻めの守りだ。守ってばかりじゃ向こうの攻めが熾烈になるばかりだ。
二人であまりの怒りに頬をヒクヒクと痙攣させてる大竹さんとやらに歩み寄った。
「ただいま、大竹さん」
「お、おかえりなさいませ。お嬢様」
「はい。あ、ご紹介しますね。北山遊歩くん、私の恋人です」
「そ、そうでしたか……」
「遊歩くん、こちら大竹さん。私が小さい頃から仲良くしてくれてるメイドさんだよ。今はスーツだけど」
「よろしくお願い致します、大竹さん」
余計な挑発はしない。その場で礼儀正しく頭を下げた。
「そ、そうですか……。人前でキスするだなんて、大胆な方ですね」
「海外では挨拶みたいなものですけどね」
「ここは日本ですよ?」
「そういうスキンシップは真似しても良いんじゃないかと思っただけです」
「ふふ、変わった考え方ですね」
「良く言われます」
目でお互いにメンチを切りあってる時だ。俺の肩に手が乗せられた。そんな真似するのは美波しかいない。
なんだ? 恐れてるのか? ははーん、まぁ任せろ。確かにあの人の真顔は怖いが、俺はそう簡単に眼力には……あれ? 美波? 俺の肩を握る握力強くない? ちょっ、なんかミシミシいってるような……おーい、美波さーん?
徐々に額から冷や汗をかかせてると、美波が俺の耳元で囁くように言った。
「……やり過ぎよ?」
「……すみません」
怒らせてしまった。うん、俺もそう思う。
俺から手を離すと、美波は大竹さんの方に歩いて、手を出した。何か思った大竹さんはもしかしたら握手なのかと思ったのか手を握ろうとすると、美波は微笑みながら首を横に振った。
「違います。銃を渡してください」
「えっ? で、ですが……これは、ご主人様から……」
「いいから。遊歩くんへの無礼は私が許しません。ですが、大竹さんのことは許してあげたいんです。ですから、争いの道具なんか持ち歩かないで下さい」
「お、お嬢様……」
流石、美波だ。こういうところはお姉さんっぽいし、風格すら感じる。
大竹さんは大竹さんで「許してあげたい」と言われてかなり嬉しそうにしている。
観念したようで、懐から本物そっくりのピストルを美波の手の上に置いた。おい、それ本物じゃないんだろうな。
「うん、じゃあ行きましょうか」
自分の懐に銃をしまった美波を真ん中にして、俺と大竹さんは歩き始めた。俺もその懐にしまって欲しいなぁ……。
行き先は(おそらく)VIPの駐車場。一台だけ明らかにおかしいオーラのリムジンが止まっていた。おい、これ俺乗って良いのかよ。
「もちろん、乗っても構いませんよ。お嬢様の金魚のフ……いえ、お友達の方ですから」
「……大竹さん」
うん、流石に怒ってくれ美波。金魚のフンは流石に言い過ぎ。
つーか、あの人今、俺の考えを読んで答えてたよな? 気が抜けない年越しになりそうなんだけど。
「遊歩くんは、私の恋人です」
あ、美波はそこにキレてたんだ。
「し、しかしお嬢様……!」
「しかしも何もないです。遊歩くんは……」
「私と結婚するって言うお話はどうなるのですか⁉︎」
ブハッと吹き出す美波と、ジト目で美波を睨む俺。や、大体の事情は察してるが。
「……そ、それは子供の頃の話です! 大体、同性の結婚は認められていません!」
「でも言いました! 結婚するって!
子供の頃でも言ったことには責任取ってください! ご主人様に怒られますよ⁉︎」
「そんな事になったら私が怒り返してやるんだから!」
……えー、どうしよう、これ。まぁ、別に流石にこれに嫉妬はしないけど。
むしろさ、ちょっと微笑ましいよね。
「……あの、大竹さん」
「なんですか」
「もしかして美波ってさ、父親とか母親とか弟とかにもやたら結婚結婚言ってました?」
「ええ、それはもう」
「うわあ……」
「ゆ、遊歩くん⁉︎ 何、その目⁉︎」
「……いや、まぁ、子供らしくて可愛くて良いんじゃないですかね」
「なんで敬語⁉︎」
「ところで大竹さん、実は美波のウルトラ可愛い写真が2万枚ほどあるんですが、良かったら美波の幼少期の写真と交換しません?」
「北山さん……どうやら、私はあなたのことを誤解していたようだ」
「ふ、二人とも⁉︎ なんで結託してるの⁉︎」
メイドさんと仲良くなった。