新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。   作:バナハロ

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里帰り(3)

 新田家に到着すると、俺は思わず唖然としてしまった。何故なら、家が馬鹿でかいからだ。本当にこんなとこに住んでる人いるんだ、と感心してしまうレベルでデカイ。

 庭を見るだけでも、木とか庭の草木とか相当お金かけて整えてるんだな、と分かるような家だ。

 ポカンと口を広げてボンヤリしてると、美波が俺の手を引いた。

 

「ほら、行くよ」

「……ここに?」

「うん」

 

 ……あれ、俺大丈夫かな。もしかして、とんでもないとこのメイドに喧嘩売ったんじゃ……いや、仲良くなったけど。

 家に着いたのに玄関まで歩くとかどうかしてるわ。家の敷地を出るだけでも5分弱くらい掛かるんじゃないか?

 

「……美波さ、高校や中学の時、この道歩いてたの?」

「うん、そうだよ?」

 

 なるほど、要するに日頃の登下校から既に体力は鍛えられていたわけだ。なんという英才教育。こりゃアイアンクローの強さも上がるわ。

 大竹さんが門を開けて、のんびりと玄関に向かうのを後から続いた。……本当に広いなぁ。なんていうか、ここだけ日本じゃない気すらするんだけど。

 

「北山様にはあまり馴染みない景色かもしれませんね」

 

 大竹さんが声をかけて来た。

 

「そうですね。こんな絵に描いたような豪邸があるなんて……」

「こちらにはテニスコートやフットサル場も揃っております。避暑地にはゴルフ場やアーチェリーもご用意してありますよ」

「……すごいですね、それは」

「ね、遊歩くん。時間があったらやりに行こっか?」

「良いね」

 

 ……なんでも出来るんだな、この家。もはやスポッチャの上位互換。

 

「それなら、大竹さんもどうですか?」

「へっ? わ、私も、ですか……?」

「美波がテニスウェアで暴れてるとこ見れますし、なんなら多分、パンツも見えますよ」

「ゆ、遊歩くん? 何処を勧めてるの?」

 

 美波が微笑んで威圧して来たので黙ると、大竹さんがキョトンとした顔で俺を見て来た。

 

「し、しかし……恋人というのは、なるべく二人きりの方が……」

「そんなん気にしなくて良いでしょ。ねぇ、美波?」

「……」

「あ、あれ……美波?」

 

 頬を膨らませたまま、そっぽを向いてしまっている。

 

「……もしかして、二人きりの方が良かった?」

「……」

「……あの、たまに前川さんとか多田さんとか姫川さんとか家に呼んで遊んでたけど、二人の方が良かった?」

「……」

 

 直後、大竹さんの視線が変わった。キュッと細くなり、問い詰めるような口調で俺に聞いて来た。

 

「……あなたは、美波様ともあろうパーフェクト☆ヴァルキリーがいるにも関わらず、他の女性にも手を出しているのですか?」

「へ? いや、違……」

「私はあなたが美波様の伴侶として認めようと考えておりましたが、そのようなことがあるのであれば、やはり考えを改めるべきでしょうか」

「わー! ち、違うから! ただ、美波と付き合う前からの付き合いの人で……!」

「付き合う前から付き合ってる?」

「違うわ!」

 

 なんでそうなるんだよ! 大体、他のメンバーはロクなもんじゃないからな⁉︎ 変な人しかいないから!

 

「……わ、分かったよ……。美波と遊ぶ時はなるべく他の人呼ばないから……」

「分かってくれれば良いよ」

 

 ……本当に申し訳ないです。そっか、基本的にやっぱり二人きりでいたいものなのか。てっきり、みんなでいた方が楽しいと思ってた。

 そんな話をしてるうちに、玄関に到着した。大竹さんが玄関を開くと、中でメイドさんと執事さんが待機していた。

 

「「「おかえりなさいませ、お嬢様」」」

 

 うお……マジかよ、こんな光景初めて見た……。

 何より、全員が全員、胸の内ポケット、或いは袖口が不自然にもっこりしてる。何か暗器を隠してるって事、だよな……?

 これは、こちらから宣戦布告して優位に立とうとするよりも、一人ずつ懐柔して行った方が良さそうだ。

 

「こちら、私の彼氏の北山遊歩くんです」

 

 美波が俺を紹介すると、みんながみんな、若干、表情を曇らせる。ふっ、歓迎されないのなんていつものことさ。

 そんな中、美波は気にした様子なく、大竹さんに言った。

 

「大竹さん、私も遊歩くんも荷物は自分で運びますから、退がって大丈夫ですよ。それから、遊歩くんが部屋にいる時は誰も……特に弟は来させないで下さい」

「畏まりました」

 

 その指示で、メイドさんや執事はみんな退散する。それにホッと一息ついた美波は、俺に「こっち」と言って歩き始めたが、その言葉が耳に入っても脳まで届かなかった。

 ……だって広いんだもん、玄関。何人分の靴が揃えられるんだ?

 この玄関だけでうちのアパートの居間くらいはあ……あっ、美波のポスター貼ってある。

 しかも、かなりデカい水着のポスターが複数枚。

 

「……」

 

 すごいな、この家。親バカなんだな、やっぱり。こんなの貼っつけられたら俺なら帰りたくなくなるわ。

 

「ち、ちょっと、早く!」

 

 ぼんやり眺めてると、美波が恥ずかしそうな顔で引き返して来て、俺の腕を引いた。

 

「えー、これ写メ撮っちゃダメ?」

「ダメ! は、恥ずかしいんだから……!」

「えー、いいなー、美波のお父さんは。俺も貼ろうかな」

「だ、ダメだから! 大体、遊歩くんの部屋に貼ると他の人も来るんだから絶対にダメ!」

「いや、貼るのは美波の部屋だけど」

「自分の部屋に自分のポスター貼らせる気⁉︎」

 

 やっぱりダメか……。でも、こっちにもちゃんと理由がある。

 

「だ、だってさ……帰って目の前に美波のポスターが貼ってあったら、なんか美波が出迎えてくれてるみたいで嬉しいじゃん……」

「っ、ゆ、遊歩くん……」

 

 基本、アイドルで忙しい美波を出迎えることはあっても、俺が迎えられることはない。

 だから、こうやって飾るのも悪くない気がしたのは本当だ。

 美波もそれは理解したのか、少ししゅんっと困ったように俯いた。

 

「……で、でも、私の部屋はダメだから。貼るなら、遊歩くんのアパートにして」

「良いの?」

「……特別だからね」

 

 よっしゃ、流石、女神様だわ。優しい。

 

「ほら、じゃあもう行くよ」

「あ、美波。ポスターにする用の写真撮りたいから、とりあえず全裸になってくれない?」

「実はね、私の部屋にゴルフクラブがあるんだ」

「すみません、気が動転しておかしなことを口走りました……」

 

 うん、正直、冗談のつもりだったので勘弁して下さい。ゴルフクラブ……それもロングアイアンの殺傷能力は金属バットよりも高そうだ。

 美波の後を続き、部屋に向かう。その途中も家がデカすぎて辺りを見回してると「キョロキョロしない」と襟足を引っ張られた。

 

「……ふぅ、はい、ここ」

 

 美波が連れて来てくれた部屋に入ると、これまた広い部屋だった。マンションの一室かってレベル。

 

「うお、スッゲェ……」

「部屋は私と一緒で良いよね?」

「あ、ああ……。え、この部屋で一緒に居られるの?」

「パ……お父さんが許してくれればね」

 

 なるほど、それはつまり許されないパターンか……。

 

「その美波のパパはどこにいるの?」

「あ、そうね。挨拶した方が良いよね。荷物はその辺に置いといて良いから、とりあえず挨拶に行きましょうか」

「お土産の草加煎餅は?」

「持って行ってあげたら?」

「うい」

 

 実は他にもお土産はあるのだが、美波には見せていない。絶対に没収されるから。

 鞄の前で座ってお土産の準備をしてると、後ろから美波が抱きしめて来た。ギュっと力を入れられ、振り解けないことは一発でわかった。や、振り解く気なんかなかったけど。

 

「……どうした?」

「ん、もしかしたら、最悪のパターンだけど、私と遊歩くんはお泊りしてる間は二人きりになれないかもしれないから、今のうちに成分補充しておこうと思って」

「……そんなに娘が心配なんかね」

「心配、だと思うよ。親元を離れてアイドルやってるんだもん」

「……そういうもんかね?」

「遊歩くんも絶対、同じになると思うよ」

「どういうこと?」

「だから、将来結婚して娘が出来たら、超絶甘やかしそうだなって」

 

 ……え、俺そんなイメージあるの?

 

「で、私が苦労しそうだなーって」

「えっ」

「違う? 今だって私、遊歩くんに手を焼いてるし」

「や、そうじゃなくて。美波の中では俺と結婚する気満々なんだなって」

「……あっ」

 

 カアァァッと顔を真っ赤にする美波。あ、うん。ここはからかう所だ。

 

「ふむ……そうか。美波の頭の中では、将来、俺と一緒に幸せな家庭を築いてるわけだな」

「っ、ち、ちょっ、やめて遊歩くん……!」

「となると……新田遊歩……いや、北山美波かな。北と南どっちだよって感じだな。なぁ、美波?」

「ーっ、ゆ、遊歩くんやめて!」

「でも割とゴロは良いな。北山美波。で、美波の中で子供の名前はどんな感じになっ」

「〜〜〜っ! や、やめてったら!」

「ほぐっ⁉︎」

 

 可愛らしいセリフと声と顔から飛び出したのは、威力が全く可愛くない減り込みボディブローだった。

 

「もうっ……今のは遊歩くんが悪いんだからね!」

「……はい。申し訳ありませんでした」

「まったく……ほら、早く挨拶に行くよ」

 

 ……少しくらい心配してくれても良いんじゃないですかね。

 少しげんなりしながら、挨拶のお土産を揃えてると、扉の奥でガタガタと音がした。

 なんだ、騒がしいな。誰か部屋の前にいるのか?

 

「……何?」

「多分、私が男の子連れて来たから、メイドさん達が何かしてるのよ」

「あー……」

 

 まぁ、気持ちはわからんでもない。ただでさえ美波は可愛がられるみたいだし。しかし、そういうのは当事者からしたらとても迷惑だ。

 案の定、美波は小さくため息をついてから、怒ったような表情で部屋の扉の前まで歩いてドアノブに手をかけた。

 

「何を騒いでるんで……」

「お、おぼっちゃま!」

「ダメですって! お嬢様に言われてるんですから!」

「うるさい! 俺は姉ちゃんに用が……あ、姉ちゃん!」

 

 ……なんだ? やかましいな。まぁ、弟だろうけど。姉ちゃんって言ってたし。

 挨拶しようと思ったのだが、姉弟の再会に口を挟むほど無粋ではない。ひと段落ついてから……。

 

「っ、ね、姉ちゃん……! 帰って、たんだ……」

「え? う、うん」

 

 帰ってたんだって……知ってたくせに何を照れ隠ししてんだ。

 

「え、会いに来てくれたんじゃないの?」

「っ、ち、違っ……くはないけど、たまたま……通り掛かったから……」

 

 どっちだよ。完全に会いに来てんじゃん。

 

「そっか……久しぶり。ごめんね、帰ってくるのギリギリになって」

「べ、別に……お盆だって顔出してくれたし……帰って来いなんて言ってないし」

 

 ……おい、どういう文脈なんだよそのセリフは。帰って来て嬉しかったのに帰って来いなんて言ってないの?

 

「元気だった?」

「ま、まぁ……大竹さん達が、構ってくれたし……」

「そっか、良かった」

「ね、姉ちゃんは……?」

「私も元気だったよ」

 

 と、まぁ色々とツッコミどころは多々あったが、まず分かったのはあの弟は相当なシスコンだということだ。そして、美波はそれに全く気付いていないということ。

 で、その結論から導き出される、美波の行動は手に取るようにわかる。

 

「あ、そだ。紹介したい人がいるんだ」

 

 ……あ、ヤバい。手招きしてる。胸前で両手でバツを作るが、そうはいかなかった。美波は弟を部屋の中に入れた。

 

「こちら、北山遊歩くん。私の彼氏」

「……は?」

 

 弟の視線に敵意が湧いた。

 

 

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