新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
駅から2人の泊まってる宿までは、バスでは10分くらいで着くが、歩くと40分以上はかかる。坂道とか多いし。それに、道も山に入ると複雑なので、スマホのGPSを使っても大変だから、人の案内が必要だ。
しかし、それが理由というわけじゃなく、ただまだ離れたくないという理由で案内役を買って出た。家帰ってもすることないし。
俺の案内の元、三人で宿まで歩き始める。すると、ズキっと脹脛の痛みを感じた。1日のうちにこんなに出掛けたのは久し振りだから、多分疲れが出てきたのだろう。
「今日は楽しかったです、ミナミ」
「そうね、アーニャちゃん」
女の子2人は元気なようで、笑顔を絶やさずにニコニコしながら会話していた。
「全部、キタヤマのお陰です。こうして考えてみると、迷子になって良かったですね」
「コラ、アーニャちゃん。本当に私は心配したんだからね」
「あっ、す、すみません。ミナミ……」
「結果的には良かったから、気にしてはないよ。ただ、次からは気をつけてね」
「はい」
そこまで言われると流石に少し照れるわ。ていうか、この二人は友達というより親子っぽいな。
しかし、あの宿に行くのも久し振りだわ。昔は用もないのによく行って遊んでもらってたっけ。あの辺の森で良くカブトムシとか取れるんだよなぁ。まだあの木あんのかな。後で見に行ってみるか。
すると、アーニャさんが辺りを見回しながらボソッと呟いた。
「それにしても、こう……田舎の夜って暗いですね。さっきまでの活気が嘘みたいです」
「逆じゃないですか?東京の夜が明る過ぎるんですよ」
最初、東京で夜中に出掛けた時はビビったからな。懐中電灯持って出掛けた意味がないんだもん。
「そうですか?北海道も同じくらい明るいですよ?」
「えっ、なんで北海道?」
「あ、私北海道出身なんです」
マジでか。その綺麗な銀色の髪は雪の色かな?何を言ってんだ俺は。
「てか、それは北海道が都会なだけなんじゃないですか?」
「そうですね。札幌とかは割と都会かもしれないです。でも、ここは少し暗過ぎませんか?」
「日本の田舎なんてこんなもんですよ。ちゃんと下見て歩かないと川に落ちるから気を付けて。俺、前に落ちたことあるし」
「落ち………⁉︎」
あの時は痛かったなぁ。奇跡的に頬の擦り傷以外は無傷だったが。
「だ、大丈夫だったの?それ」
「はい。目立った外傷はありませんでしたよ」
昔はやんちゃ小僧だったのを覚えてる。というか、基本的に田舎のガキなんてみんなそうだ。だから、みんなとにかく頑丈だった。この街に救急車来た所見た事ないし。
「でも、こう……暗いと雰囲気あるよね」
自分の腕を抱きながら、新田さんが辺りを見回した。
「そうですね。昔はよく肝試しとかしてましたから」
「肝試し?」
「はい。お祭りで使ってた神社あるじゃないですか。あれ祭り以外だとメチャクチャ雰囲気出るんですよね。何人か霊を見たとか抜かしてる奴もいましたし」
「れ、霊………?」
「まぁ、噂ですけどね。中学の時はそんなもん信じる奴いなかったから、肝試しの場所変えてましたけど………何してんですか二人とも」
気が付けば、二人は俺の背中に隠れるように歩いていた。
「な、何でもないよ。気にせずに進んで?」
「わ、私は……お化けはダメで………」
アーニャさんは素直だなぁ。新田さんは歳上としての威厳を見せたいのか、少しでも怖がってないのを表そうとしている。 要するに、二人とも怖がっているようだ。
「いやいや、実際はいませんから。むしろ本当に怖いのはこれから向かう宿への道ですよ?」
「っ、な、何か出るの⁉︎」
「はい。中学の時はそこで肝試ししてましたから」
「や、やめてよ!私達そこにこれから泊まるんだから!」
新田さんが必死になってきた。そこまで必死になられると、俺としても意地悪したくなるんだわ。
「これから行く道にはね、出るんです」
「な、何がですか………?」
「あ、アーニャちゃん⁉︎何で聞くの⁉︎」
あ、アーニャさんとても気になってるみたい。この人は怖くてもホラーとか普通に楽しめるタイプみたいだな。
「霊的な何かよりよっぽど恐ろしい奴が」
「れ、霊的な何かより………?」
「言わないで!お願いだから!」
「昔、1人やられましてね。それ以来、一時期立ち入り禁止にも」
「やめてってば!」
「いやー、本当怖いですよね。スズメバチ」
「「………はっ?」」
2人揃って間抜けな声が出た。
「三年くらい前にスズメバチの巣がたくさんあったんですよね。だから通るだけでも襲いかかって来て、肝試しに持って来いだったんですよ。まぁ、1人刺されてタクシーで病院送りになったんで、先生にめちゃくちゃ怒られて駆除するまで立ち入り禁止にまでなったんです」
直後、自分がメチャクチャ怖がってた事に気付いた新田さんは、顔を真っ赤にして無言で俺の両頬を摘んできた。
「いふぁふぁふぁ!ごへんふぁふぁいごへんふぁふぁい!」
「むー!」
か、かわいい!怒ってる新田さん可愛いけど頬摘む力強い取れる取れる取れるってば!
必死に何度も謝ると、何とか手を離してくれた。
「うー…頬がヒリヒリする」
「まったく……意地悪なんだから」
「いやー新田さんもお化けとか怖いんですね。今日1日、割と冷静な所しか見てなかったから新鮮な感じが………」
「…………」
「はい、すみません」
一瞥されて、速攻で謝った。
すると、アーニャさんが新田さんの後ろから肩をツンツンと突いた。
「なぁに?アーニャちゃん」
「怖がってるミナミも可愛かったですよ」
「…………」
「いふぁふぁふぁ!なんでおへなんふぁよ!」
アーニャさんにからかわれ、恥ずかしくなった新田さんは再び俺の頬を抓った。
「もう、そういうのやめてよね」
「わ、分かりましたけど何で俺の頬抓るんですか………」
「………何か言った?」
「イエ、ナニモ」
この人、怒ると怖いなぁ。怖いのに可愛いとか反則でしょ。可愛いからまたからかいたくなってくる。嫌われたくないから、からかわないけど。
×××
そうこうしてるうちに、山道に到着した。ここの道を登れば宿があるのだが、まぁそれなりに遠い。
時刻は10:30を回っている。これは急がないと宿にも入れてもらえないんじゃないか?いや、俺とは知り合いだから大丈夫だとは思うけど。
最初は楽しそうにしていたアーニャさんの顔に、若干疲れが見えてきた。まぁ、今日一日遊び倒していたからな。いや、アーニャさんだけじゃなくて新田さんにも疲れが見えている。
「大丈夫ですか?二人とも」
「私は大丈夫。アーニャちゃんは平気?」
「は、ハイ………。でも、少し眠いです………」
まぁ、遊び倒した日ってのは眠くなるもんだよなぁ。
そういや、この坂道付近には確か………。ああ、あった。自販機が見えたため、そっちに走った。ブラックが飲めない場合を考慮して、微糖の缶コーヒーを2本買った。
「2人とも、どうぞ」
「………でも、キタヤマの分は……?」
「俺の分は大丈夫ですよ。喉乾いてませんし」
小銭がなかったとは言えない。缶コーヒー1本のために千円札崩すの馬鹿らしいし。
缶コーヒーを飲み始める2人を見ながら、俺は街灯に寄り掛かった。その俺に、新田さんは申し訳なさそうに言った。
「わざわざすみません、私の分まで」
「いえいえ、新田さんだってお疲れでしょ?」
「は、はい。まぁ……」
「あ、砂糖入ってない方が良かったですか?」
「いえ、疲れてるので甘い方が良いですよ」
それは良かった。
ふぅ、と息をついて空を見上げた。なんだかんだ、俺も少し疲れてるな。帰ったら即寝だなこりゃ。
………あれ、なんか星が全然見えないな。ていうか、雲が多い。夜でよく見えないけど、あれ多分雨雲か?なんか嫌な予感するし、少しペースを上げて帰った方が良いかもしれない。
そんなことを考えつつ、伸びをしながら欠伸をしてると、新田さんが隣に立って缶コーヒーを渡してきた。
「あの、良かったら一口どうぞ」
「へっ?」
「やっばり、私達だけで飲むのは何だか申し訳ないから」
「…………」
うーん、どうしよう。こういうのってありがたくもらった方が良いのかな。ていうか、間接キスとか良いのか?俺はあんま気にしないが。
まぁ、でも人の好意は受け取るべきだろう。
「じゃあ、いただきます」
そう言って、一口だけいただいた。というか、一口分しか残ってなかった。………なんか、美人さんとの間接キスは嫌に緊張するな。コーヒーの味全然分かんなかったぞ。
「ふぅ、ごちこうさまです。キタヤマ!」
「あ、いえ」
アーニャさんも飲み終えたようで、帰宅後半戦に入った。
缶はゴミ箱に入れて、山道を登る。山道っていってもコンクリートで舗装はされてるけど。
「久々に来たなぁ、この山」
「そうなの?」
ボソッと呟くと、新田さんが反応してくれた。
「はい。昔はここでよくカブトムシ取りしてたんですよ。まだいんのかなーと思って」
「カブトムシ、ですか?」
「はい。昔は板拾ってきて、真ん中にゼリーを出して、その両サイドにカブトムシを並べて戦われせてましたね。今にして思えば最悪なことしてたなぁって」
「子供らしくて良いじゃない。流石に今、それをやってたらちょっとアレだけど」
「確かに、カブトムシだけじゃなくて色々いそうですね。スズメバチも昔はいたですよね?」
「うん。もしかしたら、また巣作ってるかも」
直後、新田さんが不満そうな顔で呟いた。
「ちょっと、やめてよ。そういうの」
「新田さんって虫もダメなんですか?」
「ま、まぁ、得意ではないかな………」
「………あっ、新田さん足元」
「きゃっ⁉︎な、何⁉︎」
「いや、葉っぱ落ちてる」
「〜〜〜っ!き、北山くん!」
「あっ、やべっ……」
怒った新田さんが追いかけてきたので、慌てて逃げようとしたが躓いて普通にすっ転んだ。
「いってぇ……あっ」
「この口はなんでそういう意地悪言うのかな〜!」
「いだだだ!そこコメカミィイイイイ‼︎」
コメカミをグリグリと攻める新田さんと悲鳴をあげる俺を見て、アーニャさんがボソッとつぶやいた。
「2人とも、仲良いですね」
「どの辺りが⁉︎」
ツッコミを入れると、ようやく離してくれた。
「まったく………。ほら、もう行くよ」
「いや人のこと粛清しておいて何を仕切って………」
「もう一回行く?」
「何でもないです………」
仕方ない、行くか………。そう思った時だ。ポツッと鼻の頭に何かが当たったのを感じた。ふと上を見上げると、雨が降ってきていた。
「うわっ、やっぱ降ってきやがった」
「嘘っ………」
「リーヴィニ……!」
マジか。早いな思ったより。
「急ぎましょう!」
「あ、アーニャちゃん!走ったら危ないよ!」
「てか道わかんないでしょう。俺先走りますから」
慌てて、アーニャさんの後を追い掛けた。直後、後ろからドシンッと音がした。
振り返ると、新田さんが躓いて転んでるのが見えた。
「み、ミナミ!」
「に、新田さん⁉︎大丈夫ですか⁉︎」
「っつぅ〜……だ、大丈夫です………。足、滑らせちゃっただけだから………」
アーニャさんと慌てて駆け寄ると、膝を擦りむいているのが見えた。
「ミナミ、膝が………」
「大丈夫よ、アーニャちゃん。さ、それより急ごう?風邪ひいちゃう」
そう言って新田さんは立ち上がったが「痛ッ……」と声が聞こえた。足首が腫れ上がっている。
「あーあ……捻ったでしょこれ」
「う、うん………。実はちょっと」
「み、ミナミぃ………」
グスッと鼻を啜り上げる音が聞こえた。アーニャさんが涙目になっている。多分、かなり気にしてるんだろう。
「だ、大丈夫よ、アーニャちゃん。気にしないで」
「で、でも……私の所為で」
「大丈夫だから」
「まぁ、そうは言ってももう走れないでしょ。のんびり行きましょう」
そう言って、新田さんに手を差し伸べた。その手を取ろうとする新田さんの手を、アーニャさんが横から取った。
「ミナミ、掴まって下さい」
「へっ?」
「私がおんぶします」
「………えっ?」
えっ?無理じゃね?
「い、いいよアーニャちゃん!私、45kgもあるし……!」
「へぇ、意外と痩せ型……ブフッ」
顔面に張り手が飛んできて後ろに尻餅ついた。
「大丈夫です。私だって、レッスンしてますから、体力には自信があります!」
「で、でも………」
首、ゴキっつったんだけど………。首を回しながら立ち上がると、アーニャさんが新田さんを背中に乗せようとしてるのが見えた。
「ん〜……っ!」
「あ、アーニャちゃん。無理しなくても………」
ああ、なるほど。そういう事か。けど、雨の中この坂道をおんぶするのは無理だろう。………やるなら俺しかないか。
新田さんの腕を掴んで、体を支えた。
「俺が持ちますよ」
「ダー……」
「スベイダー?」
「はい?」
「北山くん、それは通じないわよ」
「とにかく、持ちますって。俺なら余裕で持てますから」
「ううっ……すみません、キタヤマ……」
「いやいや、女の子に持たせて男の俺が手ぶらがなんてあり得ないから」
その手の教育は父親から嫌という程されてるからな。何より俺もそう思うからな。
新田さんの前にしゃがんで背追い込んだ。うわっ、柔らかい山が二つ当たってる………。
「ごめんね、北山くん……」
「いえいえ」
「あと、体重の事は忘れてね」
「え、45kg?」
「…………」
「や、すみません。はい」
そのまま山の上の宿まで運んだ。
×××
宿に到着した。入り口に入ると女将さんが出てきたので、タオルを取りに行ってもらった。
新田さんを下ろし、今度こそいよいよお別れである。
「じゃ、俺帰りますね」
「え、い、今から帰るの?外、雨すごいけど………」
「はい」
「キタヤマ、今度こそお別れ、ですね」
アーニャさんと新田さんが、少し寂しそうな表情を向けてきた。
「まぁ、連絡先交換したんですし、またいつでも話せるじゃないですか」
「そ、そうですが………。せ、せめて雨が止むまで一緒にいませんか?」
「いやいや、明日朝早いから。じゃあ、また」
あまり湿っぽい別れは好きじゃないので、さっさと切り上げることにした。
これから会うにしろ会わないにしろ、連絡先を交換しておけば自由に会話は出来るんだ。だから、名残惜しく思う必要はない。
俺は足早に家に走った。帰り道、下り坂となった坂道で足を滑らせ、10メートルほど転がって骨折、スマホがぶっ壊れた上に入院して、連絡をとることができなくなった。