新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。   作:バナハロ

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今回の話に登場する必殺技みたいなのは、物理もテニプリも何もかも無視してテキトーに考えたので実践不可能です。真似しないように。


里帰り(6)

 突如、始まった。俺対弟。これだからブラコンは困るってんだよ本当に……。

 まぁ、ここでコテンパにしておけば何とかなるだろ。姉の前で泣くほどフルボッコにしてやるよ。ファミスタみてぇなスコアにしてやるぜ。

 首と手首と足首をコキコキと回してると、美波が不安そうな表情で聞いてきた。

 

「遊歩くん、大丈夫なの?」

「何が?」

「勝てるの?」

「余裕だろ。木っ端微塵にしてやるよ」

「や、でも……あの子、私の弟だよ?」

「シスコンじゃん」

「……私の弟ってことは、運動神経もそれなりだから……」

 

 ……なるほど、そういうことか。まぁ、気持ちは分からないでもない。

 だが、俺だってそう簡単に負けてやるつもりはない。

 

「準備良いのか?」

「ああ、いつでも来いよ。朝一で姉ちゃんの鼻毛をほじくってた変態」

「ほっ、ほほっ、ほじくってないから! ちょっといじって遊んでただけだから! てか、どこから見てたんだよテメェ!」

「コテンパにしてやるからな」

「鼻水も鼻くそもない綺麗な鼻腔だったぞコラァ!」

「遊歩くん、やめて」

 

 そんな話をしながら、いざ試合開始。弟からのサーブだ。

 お前、テニスの経験あるの? と聞きたくなるほど綺麗なフォームで、鋭い球が俺の横を通過した。

 

「15-0」

 

 大竹さんから淡々とした声が聞こえる。

 ……なるほどな、たしかに美波の弟って感じのする、基本の型をこれでもかと反復練習を繰り返した球だ。多分、美波に少しでもくっついていられるように、だ。

 続いて、二度目のサーブ。弟は同じようにボールを放り「遥か遠き理想の型(バーフェクトサーブ)」を放つ。

 その球を、その場で左足を軸足にして回転しながら、右手の手首を若干、返し、ボールの上側を撫でるように打ち込んだ。

 

「!」

 

 卓球のドライブの如く勢いとスピンを増し、変なブレを生じて弟のラケットの下をくぐり、着弾した。

 

「15-15」

 

 大竹さんが淡々と宣言する。美波が見えない所で「おおっ……」と感心したような声を漏らした。

 

「……おいおい、なんだよ今の」

 

 冷や汗を浮かべた弟が、不敵な笑みを浮かべて聞いてきた。

 その弟にラケットの先端を向け、俺もニヤリと口を歪ませて、あくまで冷ややかに言い放った。

 

「『黄火嵐反射』」

「黄火、嵐……反射?」

 

 それならこっちは真逆のスタイルだな。うちの地元の変態運動神経二番手の俺は、独学であらゆるスポーツを学んで来たんだ。銀魂的に言うと、これは柳生流vs万事屋+真選組といったところか。

 

「やるな……。そんなん、俺がやってきたテニスの相手にゃいなかったぞ」

「落胆させてくれるなよ、この程度で怯むな」

「バカ言うな、少し面白くなってきたところだ」

「へぇ……言うじゃん」

 

 不適にお互いに微笑み、ゴゴゴゴッとオーラを醸し出す。

 

「……あの、大竹さん。あの二人は何を……?」

「燃えているのです、お嬢様を巡って。その温度に当てられ、長らく忘れていた『厨二魂』を思い出したのです」

「な、何? それ」

「四年ほど前、坊っちゃまにテニスの公式戦で眼帯を装備し、構える時に抜刀をし、点を取るたびにポーズを取っていた時期があったでしょう? アレです」

「あ、あー……」

「しかし、まさかユウくん様までそれをお持ちとは……私、些か驚きました」

「あの……大竹さん、私も『ユウくん』って呼んでみても平気、かな……」

 

 何か話してるのは聞こえるが、今の俺の神経は次のサーブに向いている。

 再びサーブが飛んできた。それを黄火嵐反射で返すと、向こうも負けじと返してくる。

 相変わらず、基本通りの綺麗なサーブだ。だが、ある意味では、俺と弟は相性抜群だ。何故なら、向こうは自分と同じように基本通りの相手としか戦ったことないはずだからだ。もしくは「守破離」というように、独特であってもベースとなる部分は基礎となってる相手。

 つまり、最初から「離」のところにいる原住民みたいなやつを相手にするのは初めてのはずだ。逆に俺はたまにテニス部の奴とやりあったりしたからもんだから、相性的には有利だ。

 こっちは別の技を返した。

 

「『そういや、何セットゲームにする?」

「え? あー……」

「……と見せかけてスマーッシュ‼︎』」

「うおっ……て、てめっ……!」

 

 ふっ、姉に似て素直で肝心な所でマヌケな奴め。これで15-30だ。

 

「……ちっ」

「おら、どうした? で、何セット?」

「1セットだよ!」

「1セットぉ〜〜〜? 良いのかなぁ? そんなんでぇ! 大丈夫ぅ?」

「るせーよ!」

「……大竹さん、なんだか私の彼氏の方が悪役っぽいよ」

「……お嬢様はあれのどこに惚れたのですか?」

「き、聴きたい……?(隙あらば惚気る系女子)」

 

 ゴヌッと新たなサーブが打ち出される。それを俺も返した。俺の打球はそれは返しにくい事だろうな。何せ、手元に野球や卓球で培った変な返しを使ってるから、5回に3回くらいの確率で変な回転がかかるのだ。ある意味、100パーセントかかるよりも厄介だろう。

 さらに、追加点で15-40。

 

「おいおい、さっきまでの威勢はどうした? そんなんで良いのかよ、弟?」

「……ふん、確かにデカい口叩くだけの事はあるな。実にやりにくい」

「だろ? もう降参しない?」

「しねーよ。ちょうど、そっちのスタイルのくせを理解し始めた頃だ」

「……は?」

 

 なんだと?

 困惑してる間に、サーブを打たれた。それを相変わらずの変なスピンで返す。

 弟も見事に返してきた。それも、なんかブレも無く。

 

「!」

 

 しかし、決定打になるような球じゃない。俺も同じようにスピンで返した。

 が、それも上手く返してきた。それも、ネット側ギリギリになるように。

 

「うおっ……!」

 

 マジか、こいつ……!

 慌てて返すが、俺は向こうと違って緩い球になってしまった。しかも、ネットの前まで来てしまっている。向こうにとってはこれ以上にないほどに好機だ。

 これでもかというほどの豪速球を叩き込まれ、30-40となった。

 

「っ……!」

「基礎が出来てる、ということは、応用をいくらでも効かせられる、と言うことだ」

「てめっ……!」

「慣れてしまえば、貴様のトリックショットなど、タネの割れたぺてん師に過ぎん」

 

 クッ……マジかよ、こいつ。こりゃかなりシンドイな……。

 続いて、六度目のサーブ。それをスピンをかけて返すと、向こうも慣れた様子で強い球を打ち返す。

 しかし、だからと言ってこっちも向こうの球を返せなくなったわけではない。負けじと強く打ち返した。

 すると、向こうは軽めの球を返してきた。ネット際、ギリギリの球だ。

 それを、俺はラケットを大きく振りかぶり、その勢いを急に殺して軽く打ち返した。

 

「っ……!」

 

 残念だな、化かし合いなら負けねーよ。

 向こうはギリギリ飛び込み、ポーンと高く打ち上げた。コートの後方、ギリギリに収まるようにだ。

 が、それは読めてた。スタートダッシュは切っていたので、今度は速く打ち返した。

 しかし、向こうはそれにも食らいつく。……って、オイオイ。膝から血ぃ出てんじゃん。さっきの飛び込みか?

 

「このっ……!」

 

 打ち返され、それを俺は左端に振った。それにも向こうは追い付き、打ち返してくる。

 ……そんなに姉と一緒にいたいのか? シスコンっつっても限度があるだろ。俺に姉妹はいないが、今までずっと一緒に暮らしてた人と離れて暮らすのは、そんなに辛いのかね。

 しばらくラリーは続く。俺も弟も一進一退だ。美波はどちらを応援したら良いのか、大竹さんと何かお喋りしてる。

 とりあえず、さっさと決めよう。疲れてきたし。

 向こうから飛んできた、比較的緩い一撃の正面に立った。軽く後方に跳びながら、左肩にラケットを添えて振り下ろし、ボールの下半分を撫でるように打ち返した。

 

「!」

 

 それによって、ボールにはバックスパンが掛かる。ゴルフのアプローチと同じ感じを狙い、ネット際に落とした。

 

「チッ……!」

 

 いち早く、狙いを察知した弟は飛び込んだ。向こう側のネットに着弾したボールはネットの方に向かうが、それにラケットの先端をギリギリ当てた。

 うわ、マジか。あの野郎、追いつきやがった。

 逆に、後方にとんでた俺はその球には追いつかない。打ち返すどころか、走ることもできなかった。

 これで、40-40。デュースだ。だが、弟に問題が起こった。膝からの出血がひどい。

 

「! ぼっちゃま……!」

 

 気付いた大竹さんが弟の方に行こうとしたので、俺が美波に声を掛けた。

 

「美波」

「何?」

「美波が見てあげて」

「へ?」

「怪我」

「……良いの?」

「良いの」

 

 すると、大竹さんと一緒に弟の膝を手当てし始める。羨ましいなぁ……俺も怪我しようかなぁ……。

 手当が終わり、軽く両足を伸ばしたり振ったりする弟を待ちながら、審判席の横に戻って来た美波に、小声で声を掛けた。

 

「なぁ、美波」

「何?」

「弟は、好きか?」

「え、ええ、まぁそれは……」

「……そうか」

 

 ……まぁ、あの膝じゃあ厳しいだろうしな……。弟がサーブを打つ前に大竹さんに声を掛けた。

 

「引き分けで良いですか?」

「へっ?」

「半日だけ、美波を弟に貸す……これで手を打ちます」

「よろしいのですか?」

「よろしいのです」

 

 そう言って、ラケットを担ぎ、テニスコートの出口に歩いた。

 

「それで良いな? 弟」

「お、お前……」

「そんかわり、美波のおっぱいと太ももと首筋と股間に触れたらマジぶっ殺すからな」

 

 それだけ言って、美波の部屋に戻った。

 

 ×××

 

 午後2時。アレから4、5時間ほど経過した。俺は寂しさのあまり、美波のベッドでゴロゴロしていた。あーあ……格好付けすぎた……。

 畜生、こういうとこだよな……。ちょうど、美波と出会った時もだ。同じ部屋とは言わないまでも、宿の人と知り合いなんだから泊まらせて貰えば良かったものを、カッコつけて帰って転んで足折ったのを思い出した。

 でもさぁ、姉と一緒に過ごしたいからって足をあんなに抉ってまで頑張られたら、遠慮しちゃうじゃん。好き嫌いは関係ないんだよ、こういうのには。

 

「……誰かに構ってもらいたいなぁ」

 

 と、口ずさむのは5回目だ。が、みんな何故か電話に出ない。まぁ、仕事で忙しいんだろう。

 ……よし、美波の部屋でも漁ろうかな。もしかしたら、案外エロ本とか落ちてるかもしんないし。

 

「……」

 

 ……やめよう、なんか弟を利用して本人がいない間に下着を探す変態みたいだ。

 あー、流石に半日は長かった。5時間くらいにしておけばよかった……。美波に会いたい……。

 ちなみに、弟も含めて一緒にというのは無い。百パー喧嘩になるし、美波の重たい蹴りを喰らうのは俺の方だし。

 

「はぁ……」

「何をため息ついてるの?」

「うぇいっ」

 

 急に声をかけられ、変な声が漏れた。

 顔を上げると、美波が微笑みながら手を振っていた。

 

「あ、あれ? 美波……?」

「さ、遊びに行こっか」

「や、行こっか、じゃなくて……なんでここにいんの?」

「ふふ、あの子が行けってさ。十分、構ってもらえたし、怪我に気を使われるのも嫌だしって」

「え?」

「それから『あのバカは自分で言って絶対後悔してる』って」

 

 ……あのやろ。当たってんのが腹立つ。

 小さく舌打ちすると、美波がニコニコ微笑みながら俺の頭に手を置いた。

 

「ふふ、でも本当に後悔してたでしょ?」

「っ」

「やっぱり遊歩くん可愛い」

「……うるせーから」

「良い子良い子」

「本当にうるせーよ」

 

 撫でてくる頭を軽く払い、身体を起こした。

 そんな俺に美波はニコニコ微笑んだまま俺と手を繋いだ。

 

「さ、次は何する?」

「フットサル」

「良いね。怪我しないようにね?」

「わーってるよ。美波は怪我して良いよ。俺が手当てするから」

「怪我してないところも触られそうだから結構です」

 

 そんな風に軽口を叩き合いながら、再び表に出た。

 

 




里帰り編、思ったより長くなりました。あと1〜2話で終わります。
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