新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。   作:バナハロ

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あけましておめでとうございます。
関係ないけど、大晦日に投稿する予定の話でした。


里帰り(7)

 弟を撃退し、ようやく二人きりでのんびり出来ることになった。

 それからと言うのも、色んなスポーツをした。テニス、フットサル、バドミントン、バレーボールととにかく色々。

 で、今やってるのはバスケ。ほんとなんでこんな施設あんだよこの家。

 1on1で、俺と美波は向き合っていた。その表情に、お互いに笑みはない。むしろ、表情や身体の動きから隙を伺うようにジッと止まっていた。

 現在、スコアは4-5、俺がリードしてる。何故かバスケでデュースというルールを作ってしまったため、5点先取なのに6点目に挑んでいた。だって、美波が意外にもお願いして来たんだもん。

 ボールを手にしてるのは俺の方。全神経を張り詰め、マジ顔の美波と目を合わせていた。

 

「……」

「……」

 

 中腰の姿勢のまま、しばらく固まってると、俺は不意に目を逸らした。それにピクッと反応し、スティールを狙ってきたが、それこそ俺の思う壺だ。右側に体を回転させながらドリブルし、一気に横を抜いた。

 が、この程度で抜けるほど甘くはない。読んでいた……いや、正確には備えていたように反対側から回り込み、横から付いてくる美波。

 俺は急ブレーキをかけ、バックステップでシュートモーションに入った。

 

「ーっ!」

 

 が、それも読まれていた。左手が伸びてきて、肩口に運んだ所でカットされてしまった。

 

「遊歩くんならそう来ると思った」

「身内読みやめろよ」

「さ、次は私の番ね」

 

 美波がボールを拾い、攻守交代。再び、お互いに構えて向かい合い、しばらくにらみ合った。

 が、今度は美波が動き出した。左に身体を傾けてフェイントも無しに抜こうとするが、そんなので俺も抜かれるほどぬるくない。

 前に踏み出すと、切り返して逆側から攻めてきた。バカみたいな反射神経で喰らい付く。両手を広げながらついていって、ゴール下まで競り合った。

 それでも強引に抜こうとする美波に手を伸ばしたが、それを読んでいたように美波はバックステップでシュートを放った。

 

「っ、のやろっ……!」

 

 反射的に跳び、指先が触れたが、ボールの軌道を変えられるほどではなかった。ゴールにボールは収まり、これで5-5。

 

「……なぁ、やっぱデュースっておかしくね? これバスケだよ?」

「逃げるんだ?」

 

 ……この意外と負けず嫌いさんめ……! そんな風に言われたら、俺だって負けられない。

 俺も姿勢を低くしてボールを持った。攻守入れ替えは、攻撃に成功しようがしまいが交互だ。

 再び、隙を伺う睨み合い。直後、俺はシュートモーションに入った。それに合わせて跳ぶ美波。はい、引っかかった。

 フェイクにモロに引っかかった美波のすぐ横を抜け、ドリブルし、レイアップシュートで決めた。

 

「……あのさぁ、なんで遊歩くんってフェイントだけ異様に上手いの?」

「他の奴と違ってシュートよりもドリブルの練習してたから、かなぁ」

「……その時から性格悪かったんだ」

「お前それは言い過ぎだろ……」

「はいはい、攻守交代」

 

 ボールを拾ってハーフラインに戻った。

 

「一応聞くけど、賭けの内容覚えてるよな?」

「もちろん」

「5-6だからな今?」

「分かってるから早く」

 

 よっしゃ。じゃあ、さっさと勝つか。

 再び美波がボールを持ち、俺はその前で構える。……というか、異性の美波にここまで張り合われてるのは、ある意味情けないな。高校入ってからはあんま運動してなかったからかな。

 なんにしても、負けるわけにはいかない。俺の羞恥心のためにも!

 直後、美波は右側にドライブした。斜めに体を捻り込み、乳揺れなんぞ御構い無しに突っ込んだ。

 俺の身体をあっさり抜いて、レイアップへ。しかし、今のはわざと抜かせた。後ろから跳んで球を弾いた。

 

「あっ……!」

「あー、これ最後まで取っといてよかった」

「性格悪いわよ、ほんとうに!」

 

 うるせぇ。勝ちゃ良いんだよ、勝ちゃ。ルール違反はしてないし。

 さて、あとはここで決めれば勝ちだな。両手でボールを持ち、美波と正面から向き合う。

 ここを取れば勝ちだ。だが、それは逆に言えば、美波にとってここを取られれば負けとなるのだ。

 それは美波も当然、理解していて、最警戒モードへと移行している。これは簡単には勝たせてくれなさそうだ。

 ……なら、出すしかないな。さっきのわざと抜かせて油断させるような作戦ではなく、本当の切り札ってヤツを。

 眉間にしわを寄せ、右手首のスナップでドリブルを始めた。動かず、その場でだ。美波もそれに伴い、俺の目から眼を離す事はしなくなった。

 心臓の音がやけにうるさい。柄にもなくプレッシャーを感じているようだ。しかし、この緊張感は嫌いではない。むしろ心地良いものだ。これだからスポーツはやめられないんだよな。

 

「……」

「……」

 

 美波の張り詰めた神経が途切れる様子はない。だからこそ、俺は確信を持って行動した。

 ーーーここだ、と。

 白目を剥き、唇を尖らせて吊り上げ、鼻の穴を広げた。そう、変顔作戦だ。

 直後、美波の目は点となり、呆気にとられる。が、やがて、プフッと吹き出した。

 その隙を逃すほど俺は愚かではない。自分の出せる最高速で美波の横を通り過ぎ、レイアップを叩き込んだ。

 

「あ、あー!」

 

 美波が悲鳴にも似た叫びを上げた頃にはシュートを決め終えたあとだ。

 ドヤ顔で美波の方を見ると、怒ったように顔を赤くして人差し指を俺に突き立てながら接近し、胸を突いてきた。

 

「ち、ちょっと! 今のズルでしょ⁉︎」

「何が?」

「へ、変顔を突然するのはダメだよ!」

「いやいや、あれが変顔とは失敬な。マジ顔だから」

「嘘だ!」

「人間、力むと変な顔になっちゃうでしょ。それを変な顔って言うのは少し失礼じゃないかい?」

「むぐぐっ……!」

 

 奥歯を噛み締め、悔しそうな表情を浮かべる美波。が、やがて小さくため息をついた。

 

「もう……わかったわよ……」

「はい、賭けは俺の勝ちな」

「まったく……男の子の癖に小さいんだから」

「勝負事では小さい奴が勝つんだよ」

「誇らしく言わないで。ムカつくから」

 

 む、ムカつくの? まぁ、ムカつかれても俺の勝ちだし、別に良いけどね。

 ……まぁ、罪悪感がないわけでも無いが。仕方ないな。

 

「……コタツの時は美波の脚の間に入るから」

「……え、それで良いの?」

「ああ」

「じゃ、決まりね? 今日はもうお部屋に戻ろっか?」

「はいはい……」

 

 美波は爛々とした様子でボールを倉庫に仕舞いに行った。

 賭けの対象は「部屋で二人でどこかに座るとき、どちらがどっちの膝の上に座るか」である。

 俺が上に座るのは男なのになんか恥ずかしいし、かと言って美波は歳上なので恥ずかしい。じゃあ座らなきゃ良いじゃん、とはならない。だって少しでも多い面積で触れ合いたいでしょ。

 ちなみに、コタツの時に膝の上に座るのは流石にキツイので、コタツに限っては脚の間ということになった。

 

「遊歩くーん、早くー!」

 

 元気に手を振る美波。アイドルのメンツによれば、美波は事務所ではお姉さんの立場であることが多いらしい。

 つまり、ああいった子供っぽい面は俺の前でしか出していないわけだ。それを思うと、何となく嬉しく思えてしまう。世界中で俺しか見れない、美波の一面や素直さがある。それだけで、美波が俺の彼女であることを実感出来てしまう。

 ーーーまぁ、最も。

 

「ところで遊歩くん、部屋についたら先にコタツに座る? それともソファーにする?」

「ソファーだろ」

「私はコタツが良いなぁ」

「……」

「……」

 

 ーーー勝負で負けを認めるつもりはない。

 この後は卓球勝負だ。

 

 ×××

 

 シャワーを浴び終えて、飯を終えた俺と美波は、早速部屋に入った。卓球では俺は負けてしまったので、コタツで美波の足の間でぬくぬくしていた。

 でも、まぁ、なんだ。恥ずかしいわ、やっぱ。女の子の上に乗るのはエッチの時だけだ。

 一方の美波はとても嬉しそうに微笑みながら、俺の脇腹から左手を回し、頭を撫でてくれた。

 

「……ふふ、遊歩くんが甘えてくれてる……♪」

「……甘えてねーから」

「良い子良い子」

 

 この野郎め……全然、話聞いてねえな……。まぁ良い、俺だって美波に甘えるのが嫌なわけじゃない。ただ、気恥ずかしいだけで。

 しかし、ここまでご機嫌ならそれはそれで面白いかもしれない。

 

「美波、背中のオッパイが柔らかい」

「絞めるよ?」

 

 ご機嫌な殺人予告だった。まぁ、そんなんでも可愛いから良いが。

 ……はぁ、ことこうなったら仕方ないな。見え張ってても意味ないし、とことん甘えてやるか。

 そう決めると、美波の方に体重を預けた。身長は伸びてきて美波を少し追い越したくらいなので、頭の高さは同じくらい。

 だから、腰の位置をずらして胸の上に後頭部を置いた。

 

「っ、な、なに?」

「……どうせ恥ずかしい思いするなら、思いっきり甘えてやろうと思っただけだよ」

「ふふ、素直で可愛い」

「言っとくけど、後からポジション変わるんだからな?」

「年末くらいはこたつでのんびりと……」

「一年の締めくらい、こたつから出ようぜ」

 

 絶対に折れない。そもそも、元々バスケで勝ったのは俺だからな。……まぁ、今はその話は良いか。

 だらーんと美波に体重を預けると、美波は俺を抱きしめて後ろに仰け反った。

 こたつに寝転がる形になり、流石に俺を上には乗せられないようで、横に二人して寝転がった。で、お互いに顔を見合わせる。

 何がおかしいのかわからなかったが、何かおかしくて二人で吹き出し、笑い合った。

 

「あはは、なんか……やっぱり楽しいね。二人でいるの」

「それなー。やっぱ、好きな人と暮らせるのは良いなぁ」

「ふふ、しかも両親公認だし、堂々としていられるから尚更、ね」

「ああ」

 

 そんな話をしながら、美波は俺の両頬に手を当て、唇に軽く唇で触れた。

 

「ふふ、好きだよ。遊歩くん」

「……舌は?」

「今は普通にイチャイチャしてたいの。遊歩くんみたいにいつもムラムラしてないの」

「アイドルがムラムラとか言うなよ……」

 

 そういうとこが、なんか俺の彼女って感じするんだけどさ。

 そのまま二人で寝転がりながら、頬をつついたりキスしたり、近距離で脇腹をつついたり……と、とにかく色々。

 これはこれで楽しいと思うし、高校生如きで幸せなんてものも感じてしまう。

 しかも、今は俺が愛でられる番のため、頭も撫でてくれるし、胸の谷間に顔を自分から埋めさせて来る。変態的な行為ではなく、ただただ甘えさせるためだろう。こっちは二重の意味で美味しいが。

 

「柔らかい……」

「女の子は柔らかいものだよ? お腹周り以外」

 

 ……あれ? 変態的な意味無いんだよね?

 まぁ、美波が良いなら俺は全然、良いんだけどね。

 ……けど、その、何? そろそろ交代じゃね?

 

「……美波」

「なぁに?」

「そろそろ俺の膝に乗らない?」

「……乗る」

 

 よっしゃ。

 

「もうコタツのままで良いか?」

「うん。……じゃあ、その……よろしくお願い、します……」

 

 頬を赤くしながら、小さく俺の胸前に頭を下げた。恥ずかしがってる癖に、甘えたいとかほんと素直で可愛い。

 その美波を俺の胸板に当てて、頭を優しく撫でてやった。

 

「……やっぱり恥ずかしい」

「我慢しろ」

「……別に、嫌じゃないから」

「……あそう」

 

 ああ……かわいい。今はガ○使を見てるけど、笑いよりイチャイチャを優先しちゃってるし。

 

「……遊歩くん」

「何?」

「良かったら、さ……腕枕、して欲しいな……」

「腕?」

「そう、腕」

 

 ……まぁ、それくらいなら良いけど。

 腕を広げると、美波はその上に控えめに頭を置いた。

 

「……腕硬いね」

「寝心地悪いでしょ」

「ううん。良い匂いするし、割と気持ち良いよ」

「……え、匂いって……?」

「私と同じ洗剤を使ってるのに別の匂いがするってことは、遊歩くんの匂いってことだよね?」

「……あの、恥ずかしいからやめてくんない?」

 

 ……だめだ、やっぱりこの人には勝てない気がしてきた。

 

「……もうすぐ、年明けるね」

「ああ」

「来年、どうしよっか?」

「どうするって?」

「二人での旅行。今年のうちに、行きたいところとかピックアップしておかない?」

「ああ、なるほど」

 

 行きたい所、か……。

 

「……うーん、美波といられればどこでも……それに、来年は受験生だし」

「だからこそだよ。春休み中に何処か行きたいじゃない?」

 

 なるほどね。そう言われると、俺もどこかに行きたくなる。なるべくなら、俺も美波行ったことないとこが良いけど……でも、美波はこの家だし、しかもアイドルだしで普通に行ったことない場所なんて無さそう。

 

「……でも、そっかぁ。遊歩くんも受験生、かぁ……」

 

 遠い目をしながら美波は天井を眺めた後、唐突に不安そうな表情に切り替わった。

 

「……大丈夫なの? てか、大学行くの?」

「うるせーよ……。てか、そりゃ行くよ」

「前まで高卒で働くとか言ってなかった?」

「……まぁ、美波にあれだけ面倒見てもらったからな」

「……大学は勉強しに行く所だよ?」

「分かってるわ!」

「……女の子の多いサークルに入るつもり?」

「あ、それも良いか……や、良くないけどね?」

「遅いからね?」

「……謝るからお腹つねるのやめて」

 

 離してくれた。

 

「……まぁ、でも勉強する気になってくれたのは良い事だから、頑張ろうね」

「うん」

「人間、1週間10時間睡眠でも死にはしないからね」

「……んっ?」

 

 あれ? 今なんか物騒な言葉が聞こえたような……。

 冷や汗をかいてる間に、美波は鮮やかに続けて言った。

 

「じゃあ、勉強も兼ねて海外に行こうか?」

「は? か、海外……?」

「うん。それまでに英会話、頑張ろうね」

「……」

 

 受験生とか言うべきじゃなかったな……。

 そうこうしてるうちに、あと少しで年明けとなった。俺と美波は身体を起こし、テレビを眺めたまま手を繋いだ。

 

「もうすぐ、だね」

「……なんか、寂しそうだな」

「うーん……まぁ、遊歩くんと付き合えて、知り合えた歳とお別れと思うと、少しね」

 

 なんだ、どんだけ可愛いんだ俺の彼女。

 しかし、俺の感情とは真逆に「子供みたいだな」と少し自虐気味に微笑む美波。

 その美波の肩を抱き寄せると、頭を胸の中に埋めるように抱きしめてやった。

 

「っ、ち、ちょっと……遊歩くん⁉︎ どうしたの⁉︎」

「あーくそっ、俺の彼女可愛すぎんだろ」

「うえっ!」

「大学生の癖になんだよこの子もー」

「う、うううるさいから!」

「大丈夫だよー、歳を失うたびに思い出は増えて行くからねー」

「ちょっと良い事言わないで!」

「だから、ずっと一緒に居られるからなー」

「うう〜……と、年越しだからって恥ずかしいこと言わなきゃよかった……」

 

 そうこうしてるうちに、歳が明けてしまった。

 が、美波は両手で顔を覆ってしまってるため、なんか「明けましておめでとう」の雰囲気ではなかった。

 

「明けましておめでとう、美波」

 

 でも言った。

 

「……おめでとう……」

 

 か細い声で、美波も言った。

 

 

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