新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
宿に到着した2人、新田美波とアナスタシアは、女将さんに敷いてもらったタオルの上を歩きながら、大浴場に向かった。
服を脱ぎながら、アーニャが濡れた髪を触りながら言った。
「ふぅ……ビショビショです………。でも、夏の雨は少し気持ち良いですね」
「そうだね。ちょっと寒いけどね………」
鳥肌の立ってる肌を摩りながら、心配そうな表情で宿の出口の方を見た。
そんな美波の心情を察したアナスタシアが、声を掛けた。
「キタヤマが心配なんですか?」
「う、うん。少しね」
外の雨はかなり強くなって来ている。風邪を引くとかそれ以前に、本当に帰れるのか心配だ。
「きっと大丈夫ですよ。それより、早くお風呂に入らないと私達が風邪を引きますよ」
「………そうだね。入っちゃおっか」
既に裸になってるアナスタシアに促され、美波も下半身のズボンと下着を脱いで、タオルを持った。
大浴場に向かおうと足を踏み出したところで「痛ッ……」と美波が小さく声を漏らした。右脚の腫れが悪化している。
「どうし……あ、だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。歩けないほどじゃないから」
「ううっ……ご、こめんなさい………」
「だから気にしないでよ。ね?」
「でも……あ、じゃあ私、肩貸しますね!」
「えっ?」
何を思ったのか、アナスタシアは裸のまま裸の美波の腕を自分の肩に乗せて立ち上がった。2人の生の胸と胸がぶつかり、いくら女の子同士でも流石に恥ずかしくなり、カアッと美波の頬は真っ赤に染まった。
「あっ、アーニャちゃん⁉︎だ、大丈夫だから!」
「いえ、こうなったのも私の所為ですので、私が運びます」
「い、いやいやいや!だ、誰も見てないとはいえ、恥ずかし……!」
「大丈夫です。今度はちゃんと運びますから」
「そ、そういう問題じゃなくてぇ〜……」
恥ずかしさのあまり、まともに会話すら出来なくなってきた。
そんな美波の気も知らず、アナスタシアは肩を組んで胸をくっつけたまま、大浴場の中入った。
シャワーの前に座り、ようやく美波を離した。
「ミナミ、せっかくなので洗いっこを……ミナミ⁉︎か、顔が赤いですよ⁉︎」
「……アーニャちゃんの所為だから」
「わ、私ですか⁉︎ま、また私、ミナミに何か……!」
「………気にしないで」
言ってもわからないだろうと思い、美波は心臓の動悸を抑えながらシャワーの前の椅子に座った。
釈然としないながらも、アナスタシアも隣に座った。まずは雨に濡れた頭を洗い、続いて身体を洗い始めた。
「み、ミナミ。良ければ背中を洗いますよ」
「えっ?あー……」
本当に足の怪我に関しては気にしてないし、何よりさっきの事もあるので丁重にお断りしようとしたが、さっきついうっかり「アーニャちゃんの所為」と言ってしまったことも含めてかなり気にしてるみたいで、涙目で声を掛けられていた。
気にしなくても良いというのに気にされ、もう背中を洗ってくれる事で気にしないでくれるならそれでも良いかなと思い、流してもらうことにした。
「じゃあ、お願いしようかな」
「! ハイ!」
許可するだけで嬉しそうな顔をされて少しキュンとしたが、何とか抑えて後ろの髪を掻き上げて背中を向けた。
「ミナミの背中、綺麗ですね」
「そ、そうかな………」
「はい。それに、すべすべしてます」
褒められながら背中を磨かれ、少しまた恥ずかしくなってきた。
「でも、アーニャちゃんだってお肌白くて綺麗じゃない」
「いえ、ミナミの肌は……こう、すべすべしててモチモチしてます」
「あら、私そんなに太った?」
「ち、違っ……そういう意味じゃなくて……!も、もうっ、意地悪言わないでください!」
「ふふ、可愛い」
「もうっ……ミナミ、意外と意地悪です」
軽い仕返しのつもりで言うと、ぷくっとアナスタシアは頬を膨らませた。やり過ぎた、と思った美波はアナスタシアの頭を撫でながらシャワーで自分の体を流し、アナスタシアの後ろに回った。
「ごめんね。私もアーニャちゃんの背中洗ってあげる」
「スパスィーバ、ミナミ」
後ろからアナスタシアの背中をゴシゴシと洗う美波。美波はほけーっと目を閉じて気持ち良さそうな表情を浮かべていた。
「はい、シャワーで流しますよー」
「ダー……」
お互いに体を洗い終え、お風呂に入った。お風呂の脇にタオルを畳んで置いた美波と、畳んだタオルを頭に乗せたアナスタシアは2人揃って「はふぅ〜……」と息を吐いた。
「気持ち良いですね……」
「うん………。心の芯まで温まるとはこの事だねー」
肩までどっぷりとお湯の中に浸かり、天井を見上げた。ボンヤリ見上げてるようで、美波はやっぱりさっきの少年が気になった。無事に帰れたのか、風邪は引かなかったのか、仮に無事だったとしても、今日半日、ずっとお世話になりっぱなしな気がしたので申し訳なかった。
そんな悩んでる感じの表情が表に出てたのか、アナスタシアも不安そうな表情で聞いた。
「やっぱりキタヤマが心配ですか?」
「あ、うん。あの雨の中だったから、最悪私達の部屋にでも泊まっていってもらった方が良かったかなって思って………」
「そうですね……。まぁ、キタヤマにとっては地元なので大丈夫だとは思いますけど……」
「うん。でも、灯りも街灯しかなかったし、雨降ってる坂道だし、やっぱり危ないと思うから」
不安げな表情を浮かべていると、アナスタシアはふと気になったので、ストレートに聞いてみた。
「………ミナミは、キタヤマが好きなのですか?」
「ふえっ⁉︎な、何よいきなり⁉︎」
「あ、いえ、ふと気になったので………」
「ち、違うよ!会ったばかりの人をそんな好きになるなんて……!まぁ、良い人だとは思ったけど、歳下だし……身長も下だし……」
顔を赤らめながら目を逸らす美波。その様子にキョトンと首を傾げるアナスタシアだった。
「なんで照れてるんですか?」
「て、照れてないわよ。急だったから少し驚いただけ。大体、北山くんはアーニャちゃんのファンなのよ?」
「へっ……?」
「気付いてなかったの?明らかにアーニャちゃんにだけ態度が違ったじゃない。マドモアゼルーなんて言っちゃって」
「…………」
今更「確かに………」と呟くと、アナスタシアは「えへへっ」と嬉しそうにはにかんだ。
「ファン、ですか……。えへっ、えへへっ……」
「良かったわね、アーニャちゃん。今日はファンの方とお出掛け出来たんだよ?」
「確かに……。それなら、写真撮っておいて良かったです」
「へっ?写真撮ったの?」
「はい。さっき、ミナミがバスの時間を確認してる間に」
「そっか……。私も撮っておけば良かったかなぁ………」
んーっ、と伸びをしながら呟いく美波を、アナスタシアはジーッと見つめた。自分より2センチほど大きい胸が浮いてるのが気になった。
「……? アーニャちゃん?」
「ミナミ……大きいです」
「へっ?」
「……流石、大学生ですね……。色っぽいです……」
「あ、アーニャちゃん……?なんで手をワキワキさせてるの……?」
「………少しだけ」
「だ、ダメだよアーニャちゃん……!大体、アーニャちゃんだって十分色っぽいと思うし、15歳なんだからまだまだ成長期……!」
「…………」
「アーニャちゃん、目が!目が本………」
揉みしだかれた。
×××
「まったく……」
「うう……スミマセン」
浴衣に着替えた美波と、眉間にチョップされたアナスタシアは宿の廊下を歩いていた。本当はこの後、卓球をする予定だったのだが、夜遅くなってしまい、卓球場は既に閉まっている。
仕方ないので、部屋でのんびりとお茶を飲むことになった。
部屋に入り、布団を敷いてから、備え付けのお茶を淹れて机を挟んで2人で座った。
「あの、ミナミ……怒ってますか?」
「ううん。謝ってくれたからそんなに。でも、次からはやめてね」
「ハイ………」
「大体、私より文香ちゃんや奏さんの方が大きいんだから」
言いながら、美波はお茶を一口飲んだ。
「それにしても、アーニャちゃん浴衣似合うね」
「そ、そうですか?」
「うん。銀髪の女の子の浴衣っていうのも、需要ありそうだなー。プロデューサーさんに今度意見とかしてみようか?」
「そしたら、温泉にお仕事も行けますね!」
そんな話をしながら、アナスタシアもお茶を啜った。
「……苦いです」
「慣れれば美味しく感じるものだよ」
「そうでしょうか……?どうもこれは慣れない気が………」
「コーヒーだって苦いじゃない」
「………なるほど。そういうものですか」
今度は2人揃ってお茶を啜った。
「………やっぱり苦いです」
「あ、あははっ………。ま、まぁ、それよりお祭りはどうだった?楽しかった?」
「はい。ワタアメもりんご飴も美味しかったです」
「良かった。もしかしたら、アーニャちゃんの口には合わないかもって思ってたから」
「日本のお菓子は個性的なものが多いですね」
「そうだね。お祭りとかだと特に多いかな。今日は買わなかったけど、たい焼きっていう魚の形したお菓子もあるんだよ」
「あ、それはミクと食べに行きました」
「あ、そうなんだ。美味しかったでしょ」
「はい♪外の生地はサクッともちもちしてて、中からは甘いあんこが口の中に流れてきて、とても美味しかったです」
幸せそうな顔で思い出してるアナスタシアを見ながらお茶を一口啜った。
「そんなに美味しかったんだ?」
「ハイ……。また食べに行く約束をしてしまいました」
「じゃ、今度私と文香ちゃんが見つけた美味しいたい焼き屋さんに連れて行ってあげる」
「本当ですか⁉︎」
「うん」
「楽しみです♪」
「ちなみに、たい焼きとお茶ってとても合うんだよ?」
「………これと、ですか?」
「うん。だから、今のうちに慣らしておいた方が良いかもね」
「…………」
ゴクッと唾を飲み込み、アナスタシアは深呼吸するとお茶を一口飲んだ。
「………やっぱり苦いです」
「あ、あはは………まぁ、無理する事ないから」
その後もしばらく2人でお茶を飲んだ。
×××
歯磨きを終えて、2人は布団の中。アナスタシアが隣で寝息を立ててる中、美波はスマホをいじっていた。
歯磨きをする前、大体20分ほど前に遊歩にL○NEを送ったのだが、返信どころか既読もつかなかった。
時刻は0時を回っているため、寝ていてもおかしくはない。ただ、何となく嫌な予感がしていた。
「…………」
まぁ、今晩はもう諦めよう。そう思って、美波はスマホを充電器に挿して枕に頭を置いた。