新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
隠す気の無い本音は最初からさらけ出そう。
夏休みが終わり、学校が始まった。骨折は当然、学校が始まるまでに治らず、松葉杖で登校した。夏休みのバイトは途中から入れなくなり、給料もさほど入らなかったが、まぁ俺の不注意が原因なのでそれは仕方ない。
が、それ以上にアイドルアーニャさんと美人新田さんの連絡先を失った事の方が堪えたわ。L○NEのパスワードなどを忘れてしまったためデータの引き継ぎも出来なくなり、地元の友達と家族の連絡先しかなくなってしまった。ていうか、ぶっちゃけ失ったのは新田さんとアーニャさんの連絡先だけだ。
はっきり言って絶好のチャンスを逃した気分だ。PKを外した気分。あーあ……何してんだかなー俺。
何より、向こうは裏切られたと思っているだろう。自惚れかもしれないが、当日は俺も向こうもかなり楽しんでいたと思う。連絡先まで交換したのに、まさかの未読無視状態だもんなぁ。
まぁ、向こうはもう忘れてるだろう。何せあれから随分と時間が過ぎてるし、何より2人とも学生かつ社会人だ。人との出会いと別れなんて俺の倍は経験してるだろうし、一々俺の事なんて覚えていないはずだ。
そう思いながら、始業式を終えた俺は下校していた。しかし、骨折って本当に痛いのな。漫画とか読んでると平気で骨折してる連中多いけど、あいつらに同情すらするわ。
まぁ、お陰でしばらくは体育とか家庭科とかサボれるし、遅刻も許されるのでラッキーだと思うことにしよう。いや、痛いので全然ラッキーではないけど。
あ、今日の晩飯買いに行かなきゃ。まぁ、料理出来ないししばらくはインスタント食品しかないが。
「はぁ……」
近いうちに体調崩しそうだなぁ。そうなると学校にも行けなくなるし、負の連鎖な気がする。
まぁ、それもこれも全部自業自得だ。あそこの宿屋のおばちゃん知り合いだし、カッコつけないで泊めて貰えば良かったわ。
全開で後悔しながらスーパーに入り、カートにカゴを乗せた。そのカゴの中にカップ麺やら冷凍食品を重ねた。食材も買っといた方が……いや、無理は禁物かな。
支払いを済ませてレジを抜け、スーパーを出て横断歩道を渡り始めた時だ。
「おい、早くしろよ!映画始まるって!」
「待てって!ちょっ、おまっ、前!」
前から学生が2人ほど走って来て、俺と肩がぶつかった。松葉杖の俺は後ろに倒れ、尻餅をついた。その横をぶつかった学生達は走って通り抜けた。
「すいまっせーん!」
ほぉう、人にぶつかっといてそれだけか。ナメられたもんだぜベイべ。
足の怪我が無ければ、すぐに追い掛けて泣くまで殴ってるところだが、今の俺にそんな気力はない。
小さくため息をついて、落として袋から散らばった食品を拾い始めた。
残ったもう片方の松葉杖に体重をかけて立ち上がろうとすると「大丈夫ですか?」と声が掛かった。ふと顔を上げると、新田さんが俺に手を差し出していた。
「………あれ?」
「何してるのよ、北山くん」
「に、新田さん……?」
「ほら早く立って。信号変わっちゃうよ」
「えっ?あっ……」
ありがたく手を借りて立ち上がると、新田さんは道路に散らばった食品を全部袋に入れて、俺に肩を貸してくれた。胸が当たってるが、そんなのを気にする余裕は無いほど驚いていた。まさか、新田さんが俺に手を貸してくれるとは思わなかった。
スーパーの自販機の横のベンチまで歩き、そこに座って松葉杖を立てかけた。
「久し振り」
「は、はい……。お久し振りです」
会えたのは嬉しいけど、少し気まずいな。多分、L○NEしてくれてたし、不可抗力とはいえそれに返信できなかったんだから。
「どうしたの?その足」
「へっ?あ、あー……」
どうする、なんて答えるべきか。アーニャさんならともかく、新田さんはあの時かなり気にしてたから、正直に答えたら謝られそうだよなぁ。
「ば、バイトで酔っ払いに絡まれまして、それで足折られました」
「……そっか。大変だったね」
何とか誤魔化せたようで、ホッと胸をなでおろした。
「じゃあ、大変でしょ。その足で一人暮らしなんて」
「まぁ、そうですね。今日は1日目なんですけど、登校するだけでも一苦労です」
「みたいだね。さっきも大変そうだったし」
「あのガキども、次見かけたら泣くまで泣かしてやる」
「あ、あはは……。警察のお世話になるようなことにはならないようにね」
あ、止めないんだ。もしかして、一部始終見てたのか?
しかし、俺の味方をしてくれるとは。もしかして、あの後俺にL○NEとかしてないから、スマホの件は俺の考え過ぎだったのか?いや、それはそれで少しショックだが。
まぁ、とにかく怒ってないなら良いかな。あー良かった。
「そういえば、あの後はちゃんと帰れた?」
「いやそれが大変だったんですよ。雨の中走ってたら足滑らせて10メートルくらい転がって……それで携帯壊れるし散々だったんですから」
「それで骨折したの?」
「はい。………あっ」
この人誘導尋問上手いな。マジでビビるわ。
「………なんで嘘つくのかな」
「あ、いやー……変な責任感じちゃうかなって……」
俺が勝手に転んだだけなのに謝られるの嫌だったし。
「でも、そっか。返信なかったのはそんな事があったからなんだ」
「あ、やっぱりL○NEしてくれてたんですね」
「うん」
「こちらこそすみません……」
「ううん、そういう事情があったなら仕方ないよ。でも、アーニャちゃんも凹んでたから、連絡してあげてね」
「え、でも連絡先……」
「ほら、もっかい交換しよう?」
「あ、はい」
言われて、ポケットからスマホを取り出した。新田さんと連絡先を交換し、さらにアーニャさんの連絡先もいただいた。
話は終わったのか、新田さんは立ち上がった。
「さて、じゃあ行こうか」
「へっ?ど、何処に?」
何で急にお誘い?骨折してるのが分からないのか?
「北山くんのアパート。送ってあげるから」
「えっ?いやいいですよ別に。帰るだけですし」
「何かあったら困るでしょ?さっきみたいに松葉杖投げられても困るし」
あれはつい頭に血が上ってね……。
「いやでも新田さんだって何か用事あったんじゃ……」
「私は暇潰ししてただけだから。大学は夏休み長いからね」
「は、はぁ」
「ほら、鞄とか持ってあげるから」
「……じゃあ、お願いします」
2人で帰ることになった。買い物荷物だけではなく、わざわざ学校の鞄まで持ってくれた。なんか申し訳ないね、本当に。
「アーニャさんは元気ですか?」
世間話のつもりで軽く声を掛けてみた。
「ううん。あんまり」
「風邪でも引いてるんですか?」
「あなたと連絡取れないから」
「……あー、すみません」
「そんなつもりで言ったんじゃないのよ」
「いえ、アーニャ様を悲しませるなんてあってはならないことなので……」
「北山くん、アーニャちゃんのことなんでそんな好きなの?」
「いや、顔が好みなだけですよ。中身もこの前で好きになりましたが」
「あら、好きになったの?」
「いや恋愛的な意味じゃないですよ?アイドルに恋心抱くなんて痛々しいでしょ。その辺は弁えないと恥ずかしい思いをする事になりますから」
「あー……普通の人からしたらそうなのかも……」
「? 新田さんも普通の人ですよね?」
「えっ、あ、あーうん。ま、まぁ、私はアーニャちゃんのお友達だから」
ああ、アイドルが身近過ぎるとそういうものなのか。
「あ、そこ右です」
「はいはい。……じゃあ、外見はアーニャちゃんみたいな子が好みなんだ?」
「まぁ、そうですね。アーニャさん、可愛いじゃないですか。膝の上に乗せて頭を撫でてあげたい」
「そ、そっか……」
「最初はキョトンとするけど、だんだん恥ずかしくなって顔を赤くするアーニャさんを抱き締めたい」
「う、うん、分かったから……アーニャちゃんのリアクションを先読みしてる⁉︎」
「本当は嫌じゃないけど、恥ずかしいからつい抵抗しちゃうアーニャさんの後頭部に顔を突っ込んで匂いを」
「分かったから黙って変態!」
「いだだだだ!耳取れる耳取れるすみませんでした!」
耳たぶを思いっきり引っ張られ、慌てて謝り倒した。何とか耳から手を離してくれた新田さんは、変態は死ねという目で言った。
「……北山くんがアーニャちゃんと会う時は必ず私が同伴します」
「いや、冗談のつもりだったんだけど………」
「………」
「はい、すみません」
まぁ、今のはあくまで妄想だ。出来るはずないのはわかってるし、やればドン引きされるのもわかってる。いや、ドン引きどころか嫌われて警察行って人生終了ルートだな。
流石にそんなリスクを背負ってまでアーニャさんを愛でる勇気はない。いや、アーニャさんどころか他の人でも無理。
そんな話をしてるうちに、俺のアパートに到着した。
「ここ」
「意外と近いのね」
「まぁ、一人暮らししてんのに高校から遠かったら意味ないですからね。すみません、わざわざ荷物運んでもらっちゃって」
「ううん。せっかくだから、部屋まで運ぶよ?」
「えっ、部屋に入るんですか?」
「大丈夫よ、その怪我なら襲われる心配もないし」
「襲いませんよ……。そんな命知らずじゃな」
「何か言った?」
「言ってません」
2人で階段に向かった。このアパートにエレベーター無いし。
松葉杖を一つにまとめると、手摺に手をついて片足で跳びながら一段一段と階段を上って行く。
そんな俺に、新田さんが手を差し伸べてくれた。
「……大変そうだね。手、貸そうか?」
「大丈夫ですよ。俺くらいの身体能力になれば、片足で4段飛ばしとか出来ますから」
「えっ?に、2段飛ばし?」
「こんな感じで。せーのっ!」
手摺に体重をかけて、思いっきり片足で跳んだ。4段目に着地しようとした時、つま先しか階段に着地出来ず、ズリッと3段目に落ちた。
足を持ってかれた俺は、身体が前に倒れ、折れてる方の足を余裕でぶつけた。
「うごっ……!あ、脚がッ………!」
「な、何やってるのよ⁉︎もう、世話が焼けるんだから……!」
結局、肩を借りて階段を上りきり、部屋の前に到着した。
鍵を開けて中に入り、靴を脱いで松葉杖を拭いた。
「お邪魔しまーす」
新田さんも部屋の中に入り、荷物を運んでくれた。
「これ、どうすれば良い?」
「あ、その辺置いといて下さい。本当、すみません。何から何まで」
「ううん。これくらい全然」
お礼を言いながら、洗面所で手を洗った。夏の終わりはインフルの始まりだからな。いや、流石に早すぎるわ。
「ちょっと、北山くん?」
「はい?」
呼ぶ声が聞こえて顔を出すと、心配そうな顔でスーパーの袋の中を見ていた。
「インスタント食品ばかりじゃない。これから寒くなるのに、体調崩しちゃうよ?」
「あーいや、脚の怪我で料理出来ないんですよ。まぁ、完治するまであと1〜2週間らしいんで、それまでの辛抱ですよ」
「あ、そ、そっか……」
呟きながら、新田さんは部屋の中を見渡した。今朝は足が痛くて、というか足が不自由で面倒だったから布団も干せなかったし、食器も洗ってない。パジャマも脱ぎ散らかっている。早い話が超汚い。
「ちょっ、あんま見ないで下さいよ。言っときますけど、普段は綺麗なんですからね」
「う、うん……」
生返事かよ……。いやまぁ別に良いけど。さっさと着替えないと制服がシワになる。
なんか新田さんがぼんやり部屋を見てる間に、洗面所で着替えた。今日は金曜だから明日は学校がない。洗濯しちまうか。
洗濯機に学校指定のポロシャツを放り込み、ズボンは衣紋掛けに掛けた。洗面所に置いてあるTシャツを着た。続いてズボンを履こうと、まずは折れてる方の脚を通し、続いて折れてない方を履こうとした。
一々、座るのが面倒だったため、ジャンプして足を通そうとした。見事に脚は通らず、普通にすっ転んだ。
「ぐああっ!あっ、脚が………!」
「なっ、何を……⁉︎だ、大丈夫北山くん⁉︎」
「だ、大丈夫です……。むしろ俺の学習能力が大丈夫じゃないです……」
転んでて下半身がパンツの俺と、落ちてるズボンを見て察したのか、小さくため息をついた。
「……本当、学習能力がないんだね」
「いや、一々座るのが面倒で……」
「ほら、ズボン貸して」
「えっ、な、なんで?」
「履かせてあげる」
「い、いやいやいや!別にいいですよ!そんな子供じゃないんだし!」
「子供みたいなんだもん」
「だ、大体、異性でしょうが⁉︎」
「私、昔は弟の世話とかしてたし、別に気にしないよ」
「俺が気にするんだよ‼︎」
別に見られる事はどうとも思わないけど、履かせてもらうのは流石にキツいです。
その心境を察してくれたようで、新田さんは「分かりました」と言って洗面所から出て行った。
何とか着替え終えて部屋に戻ると、布団は窓際に干されていて、パジャマはしっかりと畳まれていた。新田さんがやってくれたのか……?
と思って部屋の中を見回すと、新田さんは台所で洗い物をしていた。
「新田さん?何を……」
「ん?洗い物」
「え、布団とパジャマもやってくれたんですか?」
「うん。余計なお世話だったかな」
「い、いえ!ありがたいですけど……な、なんでかなって……」
「骨折して何だか大変そうだから、これくらいお手伝いしてあげたくて」
「に、新田さん………!」
あ、ヤバい。涙が………。東京に来て初めて心の暖かい人を見た気がする………。都会人の中にもこういう人はいるんだなぁ。
そうか、これが、心か………。
なんて第4十刃のような事を考えてる間に、新田さんは冷蔵庫を開けていた。
「も〜、何も入ってないじゃない」
「い、いや昨日こっちに着いたばかりだから……」
「ちょっと待っててくれる?今から食材買いに行ってくるから」
「………へっ?な、なんで……?」
「決まってるじゃない。お昼を作るの」
「い、いやいやいや!そこまでしてもらうのは流石に……!」
「ダメ。毎日、冷凍食品は体壊しちゃうから。特に、怪我してて運動も出来ないんだし」
「い、いやでもそんなわざわざ……」
「良いの。とにかく待ってて」
それだけ言うと、新田さんは玄関まで歩いていった。や、ヤバイ。流石にそれは申し訳ない。
「あ、に、新田さん待った!」
「何?言っとくけど、止めても無駄だからね」
「グッ……!あ、じ、じゃあもう分かりましたから、せめて俺がお金払いますから!」
そう言うと、財布から三千円出して手渡した。
「そんないいのに……」
「だ、ダメですよ!これ受け取ってくれないと鍵閉めますから!」
「もう……分かった」
お金を受け取ると、新田さんは靴を履き始めた。玄関に手をかけ、扉を開けかけた時、「あっ」と何かを思い出したように俺に言った。
「ご飯の後、一つだけお願いがあるんだけど、良いかな?」
「は?あ、は、はい……」
「ありがと。じゃ、行ってきます」
まるで自宅から出掛けるかのような挨拶を残して、新田さんは買い物に出掛けて行った。
×××
帰って来た新田さんは、早速昼飯を作ってくれた。メチャクチャ美味いビーフシチューを作ってくれて、完食した俺は後ろに寝転がった。
「ぃやっはぁー!美味かった。ほんとすみませんね、作ってもらっちゃって!」
「コラ、起きなさい。牛になるよ」
怒られたので体を起こした。しかし、まさか俺の人生でこんな美人さんの手作りをご馳走してもらうことになるとは……。人生捨てたもんじゃないわ、マジで。
「北山くん、お話良いかな?」
「いやーマジで美味かった。俺もう死ぬのかなー。この前死にかけたけど。てか童貞捨てられりゃ今死んでも本望だわー」
「北山くん、聞いてくれない?」
「ていうかこれ、死ぬんじゃないかな?こんな良い事が何度も続いて……えっ、俺死ぬの?………死んじゃうの?」
「北山くん」
「もしかして、神様が最後に夢見させようとして……」
直後、ペチッとおデコにデコピンが直撃した。デコピンなのに蚊に刺された時のような腫れが出来るレベルの威力。
そんな俺に、新田さんは氷点下並みに冷たい笑顔で聞いてきた。
「話、聞いてくれる?」
「……調子に乗ってすみませんでした………」
謝った。
さて、と言った感じでコホンと新田さんは咳払いすると、語り始めた。
「……一つだけ確認しても良い?」
「え、何?」
「ご家族の方は一緒にいないの?」
「あ、あーそれ親にも『治るまで一緒にいようか?』って言われたんですけど、親も仕事ありますし断りました」
俺が一人暮らししてるだけでも金かかるのに、仕事の邪魔までするわけにはいかない。
「じゃあさ、私にお手伝いさせてくれない?」
「…………へっ?」
「足が治るまで……せめて1人で生活できるようになるまで、私に生活のお手伝いさせて欲しいなって。1人じゃ大変そうなんだもん」
「いっ、いやいやいや!いいですよそんな!」
是非お願いしたいです!
「大丈夫、基本的には学校ないから暇だし……まぁ、何日かはちょっと予定ある日があるから無理だけど、空いてる日はお手伝いさせて欲しいな。元はと言えば、その怪我は私達を宿まで送ってくれた所為だから……」
「い、いやほんと違いますからそれは!俺が勝手に転んだだけで……」
平日は毎朝7時45分起き、帰宅時間は大体16時頃になります!
「それに、今日思ったけど北山くん危なかしくて。このままだと完治まで何日延びるか分からないんだもん。せっかく東京で会えたんだから、また一緒に3人で遊びに行きたいでしょ?」
「そ、それはそうですけど……。では、暇な日だけで良いのでよろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
あ、やばい。ついうっかり本音が漏れた。
向こうは間髪入れずに頷いてしまっている。……まぁ、こんな綺麗で可愛い年上のお姉さんに身の回りをお世話してもらえるんだ。それはラッキーだと思おう。
………それ以上に俺の心臓が保たなさそうだ。