新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
翌日、リンゴーンと錆び付いた呼び鈴の音で目を覚ました。なんだよ、誰だよ……。まだ朝の9時過ぎだぞ……。あと2時間は寝かせろよ……。
いや、もう居留守決め込むか。そう決めて布団の中に潜った。その直後だった。スマホが震えた。
美波『おはよう』
美波『今、部屋の前にいるんだけど』
あ、新田さんか。そういえば、昨日俺の身の回りを世話してくれるとか何とか……。ありがたいけど、まさか朝から来るとは……。
まぁ、せっかくだから応対しないと。わざわざ来てもらって居留守は申し訳ない。
「あーい……」
玄関を開けると、新田さんが微笑みながら手を振っていた。右肩には鞄が下げられている。
「おはよ」
「どうも……」
「あ、さては今起きたんでしょ。ダメだよ、男子高校生がこんな時間まで寝てちゃ。もっと朝早く起きないと!」
「いやいや……あと2時間は寝たいとこなんですけど」
「ふーん?いつもはお昼まで寝てるんだ?」
「や、まぁ……うん」
ああ……こりゃ明日からは朝から起こされそうだ……。
「じゃ、お邪魔しまーす」
楽しそうな声で新田さんは俺の部屋に上がると、手洗いうがいをして布団を持った。
「って、ちょっと待て待て!布団をどうする気⁉︎」
「干すんだよ。もうお昼になるし」
「い、いいですよ別に!俺まだ布団の中にいたいし……!」
「ダメ」
クッ……!お母さんかよこいつは……!
ぼんやりしてる間に、新田さんは布団を全部干してしまった。
「じゃ、朝ご飯にするから、着替えちゃって」
「了解です」
タンスから服を引っ張り出して着替えた。
今日はこの後、病院に行かなければならないんだけど、新田さんついてきてくれるのかな。
「新田さん、今日はうちにはどれくらいいてくれるんですか?」
「うーん、ずっと?」
「実は俺、午後から病院行かないといけないんですけど……」
「あ、じゃあ送ってあげる」
「ほんとすみません。何から何まで」
「ううん。むしろ、そういう時のためにお手伝いするって言ったんだから」
良い人だなぁ。良い人っつーか、ここまで来るとお人好しなんじゃないだろうか。いや、俺自身はとても助かってるけどね。
料理が完成し、皿が机の上に運ばれた。本当は食器運ぶくらい手伝いたいのだが、足の怪我の所為で役に立てる気がしないのが心苦しい。
何とか椅子に座ると、箸を持った。
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
ふむ、チャーハンか。チャーハンほど、料理人の腕を見極めるのに持って来いのものはないよなぁ。バリエーション豊富だし。まぁ、特に舌が肥えてるとか無いから、互いに関してはさっぱり分からないんだが。
とにかく一口いただこう。昨日のビーフシチューの時点で期待値はマックスなわけだが……。
「え、何これ美味っ」
「ふふ、ありがと」
やっぱこの女の人天才だわ。料理も出来て優しくてお人好しで……もはや完璧超人だわ。
てか、大学生とか言ってたけど彼氏はいないのかな。これだけの美人さんでこの優しさなら誰だって欲しがると……あ、ていうかサークルとか無いのか?
「あの、新田さん。今更ですけど、サークルとかは平気なんですか?」
「あれ、私サークル入ってるって話したっけ?」
「あ、いえ。気になったから聞いてみたんですけど……やっぱり入ってるんですね。良かったんですか?夏休みとか活動は……」
「大丈夫だよ。大学のサークルなんてほとんど仲良しグループみたいなものだから」
「いや、でもその中に彼氏とか……」
「彼氏なんていないよー。大学の人達も良い人は多いんだけどね」
「まぁ、都会人ですからね。どうせ彼女欲しくて女の子の前だけ優しさを演じてるだけでしょうから」
「あの……北山くんのその都会人に対する憎悪は何なの……?」
「あー……いや、憎悪って程じゃないですよ」
ただ、憎くて腹立たしくて嫌悪感が隠せなくてムカつくだけだ。
「……何があったか聞いても?」
「あーはい。アレは高校一年の時でした……。自分の住居を探してこの辺歩いてたんですけど、道に迷っちゃったんですよね。それで、辺りをウロウロと歩いてたら、なんか警察の方に声をかけられまして」
「なんで?」
「……その時、ちょうどその辺でストーカー事件があったみたいで、犯人がまだ捕まってなかったんですよね。で、そのストーカーと服装が偶然一致して通報されて……違うっつってんのに『お姉さんの目は誤魔化せないぞ☆』の一点張りで話聞いてくれなくて……」
「………」
「なんか婦警さんだったんですけど、その場で30分くらい話しても全然、話通じなくて……無理矢理補導されそうになって抵抗したら『二日酔いなんだから言うこと聞いて』とか言って襲い掛かってきて……周りのすれ違う人もみんな野次馬になってワラワラと周りに集まってきて……その場でしばらく攻防が続いて……」
「攻防⁉︎早な……警官と⁉︎」
「当時は公務執行妨害って言葉を知らなかったんですよね……。まぁ、結局野次馬の中に本物が混ざってて助かったんですけど。その時の婦警さんのセリフが今でも忘れられなくて……」
「なんて言われたの?」
「『……お姉さん、信じてた』」
「………はっ?」
「それは裁判所で容疑の掛けられた人にかける言葉だし、間違っても容疑をかけた奴のセリフじゃねぇし、周りの野次馬どもは誰一人として落ち着いて話をしようと止めてくれる人はいなかったし、結局その日は夜中までアパートに到着できなかったし………都会人死ね」
「………」
言うと、気まずそうな表情で目を逸らす新田さん。いや、別にトラウマってわけじゃないから、そんな罪悪感感じなくても良いんですよ。
「……ごめんね、北山くん」
「あ、いえ。別にいいですよ。トラウマってわけでもないですし」
「いや、そういうんじゃなくて……。本当ごめん」
「はい?」
ちょっとよくわかんないんだけど。
チャーハンを口にかっ込み、飲み込んでから結論を言った。
「まぁ、そんなわけで、都会人は一生許しません」
「う、うん……。でも、悪い子ばかりじゃないよ?私の知り合いでは、結構良い子も多いし」
「いや、それはそうでしょうけど。でも、とりあえずその『良い人』を見つけるまで都会人を好きになれそうには無いですね。まぁ、新田さんやアーニャさんは別ですけど」
「そう?ありがと。でも、残念だけど私は都会人じゃないんだ」
「え、そうなんですか?」
「うん。広島出身だから」
「広島……?ああ、もしかしてアレですか?カ○プ女子」
「いえいえ、私は野球はそこまで……。あ、でも体動かすのは好きだよ。ラクロスとかゴルフとかテニスとか……」
「……ほんと、なんでもできるんですね」
「そんな事ないよ。北山くんだって、運動できそうに見えるけど?」
「苦手ではないですね。体育でやるようなものなら。うちの地元出身の連中なら全員運動できますよ」
「じゃあ、今度テニスやらない?」
「はい。治ったら」
「うん。約束」
そんな事を話しながら、食べ終えて「ごちそうさま」と挨拶して食器を流しに戻そうとしたら、その食器を新田さんが持ってくれた。
「私がやるから」
「本当、なんかすみません……」
「良いの」
頭を撫でながら立ち上がった。ちょっ、撫でるなよ。少し嬉しいだろ。
そのまま、ついでに洗い物までしてくれている新田さんが会話を再開した。
「ちなみに、テニスはやったことあるの?」
「あるよ。授業中にテニプリの真似とかしてた」
「あ、じゃあバスケとかも真似してたでしょ」
「俺は黒バス世代だから。スラダンじゃない方を真似してた」
「私、黒子のバスケってあまり見たことないんだよね。どんな技があるの?」
「ボールを殴って回転させるパスとか、全コートからシュート打つとか、相手を転ばせるとか?」
「……それ、できるの?」
「テニプリよりマシですよ」
なんかの技やった時に手からラケット離れて事故起こったからなぁ。うちの中学の先生は絶対苦労した。
ふぅ、と洗い物を終えた新田さんは、ぷらぷらと手を振りながら戻って来た。
「実際、新田さんって運動神経良さそうですもんね」
「あら、そう見える?」
「なんていうか、やっぱ運動してる人って分かりますよね」
「どんな特徴があるの?」
「うちの学校だと……大体、運動できる女子って髪長い人は束ねてますね。それと、やっぱり腕とか足は細い人が多いです。新田さんとかそうですよね」
「ふふ、ありがとうございます」
お、余裕に見えるけど少し照れたか?なぜか敬語になったぞ。若干、頬も赤いし。もっと照れさせてみたいな。
他に分かることと言えばー……あ、アレだ。
「あとアレだ。胸が大きい人はそこまで運動得意じゃないです」
「………んっ?」
そこで、自分のチョイスの誤りを悟った。流れるように後悔し始めたが、新田さんは微笑みながら俺の頭に手を置いた。
「……北山くん?どういう意味?」
「あ、いえ……その、何でもな」
「私の胸が小さいって言いたいのかな?セクハラなんていい度胸してるね」
「い、いやっ、そんなつもりじゃなくて!だ、大体新田さんは大きいと思いますけど痛ただたたたたた‼︎目ん玉飛び出る、目ん玉飛び出るって!」
頭に置かれた手に力が入り、片手アイアンクローが炸裂させられる。ていうかこの人、握力すごいな!流石、ラクロス、テニス、ゴルフと得物を持つスポーツやってるだけあるわ!
「ごめんなさいは?」
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいすいませんでした!」
とにかく謝り倒すと、満足したのか手を離してくれた。あー……頭痛い……。カバに踏み潰されたかと思った……。
「まったく。女の子にそういうこと言っちゃいけません」
「だからって怪我人に手を上げるか……」
「何か言った?」
「イエ、ナニモ」
この人怒ると怖い。
でも、確かに運動してる人って分かるよね。
さて、これからどうするか。普段なら出掛けているが、今日は足の怪我のため外出は面倒だ。
早起きしたから病院行くまで時間あるし、部屋でのんびりするしかないわけだが、それじゃあ新田さんが退屈だろうなぁ。
「新田さん」
「? 何?」
「何かします?ゲームとか」
「良いね。何する?」
「まぁ、うちテレビないんで、こういうのになりますけど」
引き出しからトランプとかウノとか取り出した。ちなみに人生ゲームもある。友達できたらやろうと思ってて。初めて友達に近い人が家に来たので誘ってみた。
「うーん……その、何?北山くんはテレビとかテレビゲームとかは買わないの?」
「そんな金ありませんよ。あれば家から色々持って来れるんですけどね」
「あ、家にあるんだ」
「はい。ゲーム○ューブとか」
「懐かしいねー。うちの部室にもあるよ」
「えっ?そうですか?2〜3年前のゲームですよね?」
「えっ?」
「えっ?」
ち、違うの……?
「2〜3年前のゲームって言ったらW○iUだと思うけど……」
「We you?なんで代名詞が二つ並んでるんですか?」
「……何でもない」
え、何その反応。新田さんは何かを考え込んだあと、
「あの、北山くん。もし良かったら、近いうちに私の家に来ない?」
「えっ、なんですか急に」
「その……現代の科学を見せたいというか……」
「はい?」
何言ってんだこの人。そんなのこのスマホが全てを物語ってるだろ。日本の科学はゲームの進化が止まってスマホで全て済むようになったんだろう。
「う、うん。まぁ、とにかくトランプやウノはいいや」
「そ、そうですか?」
「まぁ、怪我してるんだから大人しくしててよ。病院には何時に行くの?」
「12時過ぎくらいです」
「じゃ、それまでのんびりしよう。お掃除とかは私がしてあげるから」
「本当ありがとうございますマジで……」
との事で、とりあえず寝転がる事にした。椅子から降りて、床の上でゴロゴロし始めた。
×××
病院に行って、診察してもらった。どうやら、あと一週間ほどでギプスが外れるようだ。
つまり、来週で新田さんがうちにいる期間は終わりだ。まぁ、それくらいの方が向こうにとっても都合が良いだろう。
新田さんの待ってる待合室に戻ったが、新田さんの姿がなかった。
あれ、どこ行ったのかな。トイレか?まぁ、それならしばらく待つか。
喉乾いたので、自販機に向かって歩いた。とりあえず糖分が欲しかったのでサイダーにした。
ボタンを押すと「売切」の赤字が出てきた。ラス1かこれ、ラッキー。
「あっ……」
直後、後ろから切なそうな声が聞こえた。ふと後ろを見ると、女の子がしょぼんとした顔で俺の手元のサイダーを見ていた。銀髪の髪に黒いゴスロリの女の子。なんでこいつ病院で傘差してんだ。
顔つきは幼いが、胸が大きい。肌が白くて髪も銀色で胸がそれなりにあるのは、何となくアーニャさんっぽかったが、おそらくアーニャさんより年下な気がする。
理由は色々とあるが、決めては表情読み取りやすい所がまだまだ子供っぽい。多分、サイダーが欲しいんだろう。
「あ、これいります?」
「えっ?」
別に俺はサイダーじゃなくても良いからな。甘けりゃ良いだけで。
女の子はどうしたら良いか悩んだのか、俺に握られてるサイダーに手を伸ばしては引っ込めたりを繰り返した。いらないなら良いけど、迷ってる時点でいらないってことはないだろう。もう一押しだな。
「俺は別にサイダーが良いわけじゃないんで」
そう言うと、もらうことにしたのかサイダーを手に取った。
受け取るなり、女の子は突然ニヤリと不敵に微笑み、
「感謝する、我が眷属よ」
「はっ?」
何言ってんだこいつ。眷属って何?意味わかってて使ってる?
「取引の対価を払おう」
え、取引の対価って……ああ、金か。なんか知らない女の子からお金もらうのって気が引けるな。
「いや、いいよ別に」
「へっ?で、でも……!」
「このくらい平気ですから。じゃ」
それ以上のやり取りは面倒だったので、会話を切り上げた。アーニャさんより年下という事は、中学生くらいということになる。そんな小さい子からお金取れるかよ。たかが飲み物で。
………あっ、結局俺の飲み物買ってねぇや。まぁ、自販機くらい何処にでもあんだろ。
「わっ」
「ひゃうっ⁉︎」
後ろから突然、声をかけられ、思わず変な声を出してしまった。おそるおそる振り返ると、新田さんが胸前で手を振っていた。
「ちょっと、脅かさないで下さいよ……」
「ひゃうっ、て……。意外と可愛いリアクションするんだ?」
「ほっといてください。てか、どこ行ってたんですか?」
「ん、ちょっとお花摘みに」
「うんこ?」
直後、風が吹いた。ノーモーションで放たれたビンタ。それが俺の顔の前で放たれ、鼻の頭を掠めた。指先だったから良かったものの、爪だったら血が出ていたかもしれない。
「次は当てるよ?」
「………あの、なんで?」
「女の子に対する口の聞き方、気を付けてね?」
「………すみませんでした」
謝った。そ、そっか。つい友達感覚で聞いちゃったけど、新田さん女の子だからダメなのか……。
「でも、少し見直しちゃった。いや、元々優しいのは知ってたけど、優しいんだね。女の子に飲み物あげるなんて」
「見てたんですか……」
なら声かけてくれよ……。
「いや、そういうんじゃないですから。たまたま買った飲み物がその子の目当ての飲み物で売り切れちゃったんで譲ってあげただけです」
「お金はもらってもよかったんじゃ無いの?」
「いやいや、あんな小さい子からお金取れないでしょ」
結果的にもらわなくてよかったし。なんか眷属とか言うし室内で傘さしてるしで、あのガキ冗談抜きでワケワカメだったからな。お金もらってたら、すべての金に「魔導貨」とか書いてあったかもしれない。
「じゃあ、そんな優しい北山くんには私から飲み物をプレゼントしてあげる」
「はい?」
「はい、どうぞ」
言いながら手渡されたのは缶のミルクティーだった。
「すみません、わざわざ。いくらでした?」
「いいわよ、110円くらい」
「えっ、いやでも……」
「気にしないで。怪我人からお金は取れないから」
クッ……その言い回しは卑怯だ。俺が女の子からお金を取らなかったのとほぼ同じ理由。それなら俺も追及はできない。
「それで、検査はどうだったの?」
「来週にはギプス取れるみたいです」
「そっか。早く治りそうで良かったよ」
「そうですね」
「じゃ、帰ろっか?寄り道して行く?」
「あーじゃあ、晩御飯買いに行きましょうか」
「そうだね」
病院から出た。