新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
買い物と昼飯を終えて帰って来た俺は新田さんに支えられて部屋に入った。本当、この人には頭が上がらない。
行ってきたスーパーでは特売セールをやっていたのたが、新田さんの「療養中は新鮮なものを食べなさい」というセリフによって、特売品を買うことはなかった。お金払うの俺なんですけどね……。
気が付けば既に夕方の17時。いつもより早く起き、やった事と言えば病院に行ってスーパーで買い物していただけなのに、いつもより早く感じた。
やっぱり、新田さんがいるからだろう。正直、高2になってからは段々と一人ぼっちというものに慣れてきていたが、久々に誰かと一緒になってみるとやはり楽しい。
そういう点でも、新田さんには感謝しなければならないかもしれない。まぁ、流石に照れくさいから言えないけど。
そう思いながら、チラッと新田さんを見ると、ちょうど目があった。
「「何?」」
2人揃って同じ言葉で要件を聞き、2人揃って「クスッ」と微笑んでしまった。なんだこれ、俺達はバカップルかよ。
てか、話が進まないから先に聞こう。
「なんですか?」
「あ、私からですか?」
「はい。別に俺は用があったわけではないですし」
「大したことじゃ無いんですよ?ただ、普段は晩ご飯は何時頃に食べてるのかなって思って」
「あー……いつもバラバラですよ。気が向いた時、ですかね」
「じゃあ、お腹空いたらで良いかな?」
「はい」
何より、さっき飯食ったばかりだしな。
暇なので、椅子に座ってスマホをいじってると、新田さんが飲み物を入れてくれた。
「どうぞ」
「あ、すみません」
「ううん。じゃ、お布団しまっちゃうね」
「お願いします」
布団をしまってくれる新田さんを見ながら、なんだか自分が情けなくなった。なんというか、夏休み前に一人暮らししてた時はあらゆるものが面倒で、メイドとか欲しいなーそのまま恋愛関係になりたいなーなんて考えたもんだが、いざメイドでは無いにしてもお手伝いしてくれる人に来てもらうと、なんか申し訳なさでいっぱいだ。
人とは、望んでるものを手にした所で無力なのに変わりはないという事か……。怪我が治ったら新田さんを労ってあげよう。お礼に何かプレゼントするのも良いかもしれない。中学の時には彼女がいた事もあったし、プレゼント選びはそんなに困らな……いや、相手は大学生だし中学の時のデータなんて役に立たないか。
……そういえば、中学の時の彼女は元気だろうか。俺が東京出たのを機に自然消滅しちゃったからなぁ。
「何遠い目をしてるの?」
布団をしまい終えた新田さんから声が掛かった。
「あーいえ、中学の時の彼女はどうしてんのかなって思って」
「えっ?中学生の時彼女いたの?」
「言ってませんでしたっけ」
「聞いてないよ。どんな子?」
少しムッとしながら、質問してきた。どんな子って言われてもなぁ……。
「可愛い子」
「そういうんじゃなくて……アーニャちゃんとどっちの方が可愛い?」
「いやいや、アーニャさんはこの世の全ての女子と比較にならないから。あの方は最早、人間じゃなくて天使か何か……」
「通報するよ?」
「すみませんでした……」
そういう意味では新田さんも俺の中では人ではなく女神なんだけど……たまに怖いから女神とか天使というよりも、天使と悪魔が同じ生物として君臨してる感じ……こう、ルシファー的な?あ、あれは堕天使か。パズドラ並みのにわか知識しかないから分からん。
そんな事を考えてると、ぐいーっと頬を引っ張り回された。
「いだだだだ!捥げる、頬捥げるって!」
「今、失礼なこと考えてたでしょ」
「っ⁉︎ す、鋭い⁉︎」
「ほんとに考えてたんだ」
「いだだだ!ごめんなさい、ごめんなさいってば!」
ぐいーっと引っ張られた挙句、急に手を離されて後ろにひっくり返りそうになった。。うー……ヒリヒリする……。ていうかなんでわかんの。
「でも、そっか。彼女いたことあるんだ」
「自然消滅しましたけどね。新田さんだって彼氏いたことあるんじゃないんですか?」
「私はないよ?」
「えっ?」
嘘だ。全身から色気、気品、そして多少のエロスを醸し出し、性格も少し怖い所を除けば優しさの塊、一部の人ならその怖さもご褒美の一つに数えそうな新田さんを、男が放っておくわけがない。
「告白は何度かされたことあったんだけど、最初のうちは知らない人ばかりに告白されてね。なんか告白してくる人ってみんな私の内面は見てくれないんだなって思うようになっちゃってね……」
あー、なるほど。顔が可愛いから告白してくる連中ばかり……いや、顔だけじゃないかもしれないな。体目的の奴もいたかもしれない。
……てことは、新田さんって処女か。こんなに大人っぽいのに処女って、なんか可愛いな。
「今、セクハラまがいなこと考えてた」
「きゃっ、考えてませんから!」
なんで分かるんだよ、だから。何者なんだよマジで。
「まぁいいよ。その彼女はどんな子だったの?」
「アホの子」
「えっ?」
「ていうか、こう……アニメとか漫画が好きな子でしたね」
俺の漫画とかの知識はそこからきてるし。
「へぇ〜、じゃあ北山くんもアニメとか好きなの?」
「最近は見てないですね。ジャンプ系とかコナンとかは古本屋で読みますけど」
「そうなんだ。なんか少し意外だな、アニメとか好きなの」
「アニメのお陰で俺、食わず嫌いが治りましたよ」
「食わず嫌いだったの?」
「はい。最初はオタク系死ねとか思ってたんですけど、読んでみりゃ普通に面白いんですよね。それで、何事も中身を見てみない事には分からないなって思って。昔はスクランブルエッグとか食わず嫌いだったんですけど」
「そうなんだ。美味しいのに……」
「今では食べてから嫌いになりました」
「結局嫌いなの⁉︎」
「いや、あんなもん外見から食えないでしょ。バブルスライムの進化系みたいな奴でしょ」
シビレスライム的な。
「あの、他に食べられないものとかあるの?」
「あ、はい。なんていうか……外見が斬新なデザインのモンスターみたいな奴は無理です」
ていうか、俺の食わず嫌いセンサーは大体正しかったようで。食わず嫌いしてなかった奴は食べても本当に食えなかった。いやもう不味いこと不味いこと。
「いや、分からないから。例えば?」
「スクランブルエッグ、なんか汚いチーズ、ゆで卵、マヨネーズ、エスカルゴ、ウニ……」
「多くない?ていうかなんか汚いチーズって何?」
「なんかたまに見ませんか?胡椒みたいなの入ってる奴。なんなんですかね、あれ」
「いや分からないけど……。あとゆで卵は見た目普通じゃない」
「いやアレは臭過ぎでしょ。あれ食える人ってうんこの臭いするチョコ食えるのと同じだから」
「……あのね、北山くん。言い方気をつけて。目の前にゆで卵食べれる人いるから」
「いやそう言われましても……。あくまで俺の感想なだけで……」
「ところでさ、アーニャちゃんの目って釣り上がってて怖いよね」
「ああんッ⁉︎」
「それと一緒よ」
クッ……!的確な例えに思わず反論出来なくなってしまったぜ。
「……す、すみません………」
「そもそも、女の子がいるのにそういう事言わないで」
「そういう事?」
「そっ、そのっ……うっ……うんち……とか」
「はい?なんて?」
「だ、だから!うっ……んちよ!」
「はっきり言って下さいよ」
「もうっ!だから、うんちよ!」
「分かってますよ」
直後、ゴスッと正面から蹴りが来た。俺の脛に向かってつま先が繰り出された。流石に怪我してる脚の方では無いが、痛い事には変わらない。
「いっだ⁉︎」
しかも、それは一撃ではなかった。ゴッゴッゴッゴッと一定のリズムと傷を脛に刻んでくる。
「いだっ!ちょっ、無言でっ!ごめっ、ごめんなさっ……!」
「絶対にっ、許さないっ!」
「すっ、すみませっ…!調子こいてっ、いだっ!しゅっ、すみませっ、でしたッ!」
何とか謝り倒すと、ようやく蹴るのをやめてくれた。脛が腫れてきた……。超痛い。
「……次、そういう事言ったら帰るからね」
「す、すみませんでした……」
「まったく、子供様なんだから」
さ、流石にやり過ぎた……。反省しないと。
「でも、嫌いな食べ物は分かったから。晩御飯は決まったよ」
今、いじられたばかりなのにちゃんと嫌いなものを避けてくれる辺り、やっぱこの人優しい。
「すみません……」
「ううん。それよりも、他にお手伝いすることない?」
「あ、えーっと……洗濯とかお願いしてもらっても良いですか?」
「分かった。任せて」
嫌な顔一つせずに洗濯しに行ってくれた。良い人だなやっぱ。
×××
時間は流れ、晩飯の時間。新田さんは台所で料理中。
その間、待機してる俺は椅子から立ち上がって伸びをした。
「? どうかした?北山くん」
「あ、いえ。ずっと座ってたんで逆に疲れちゃって……。あとちょっとトイレ」
「あーずっと座ってると疲れるよね。私も試験前とか勉強してて腰痛くなる事あるから」
「あーそれ分かります。痛みますよね」
「あ、お手洗いだっけ?肩貸そうか?」
「あ、いえ大丈夫です」
言いながら、トイレに向かった。
おしっこして出ると、良い香りが漂って来た。相変わらず、料理上手だ。こんな人に生活を保護してもらえるなんて、やはり俺は運が良いんだろう。
そんな事を考えながら、食卓に座った。のんびりしてると、新田さんが晩御飯を運んできてくれた。今日の晩飯は生姜焼きか。キャベツを添えて。美味そうだ。
「ほんとありがとうございます」
「もう、一々お礼なんて言わなくて良いのに」
や、そうかもしんないけどさ、やっぱりお礼は言わなきゃダメな気がして。
続いて机の上に運ばれてくる白米とお味噌汁、箸、牛乳。おお、生姜焼き定食。これで揃ったと思ったら、新田さんは台所に戻った。あれ?まだ何かあるの?
そう思った時、ツーンと鼻孔を刺激する嫌な臭いが香ってきた。うわ、もうこの臭い一発でわかったわ。
運ばれてきたのはゆで卵だった。
「はい、どうぞ」
「………あの、さっき食べれないって……」
「好き嫌いは良く無いから」
「……まだ怒ってるんですか?」
「怒ってないよ別に。ただ、私のゆで卵はうんちじゃないから」
もう普通にうんちって言ったぞ。一度言ったら同じってことか?いや、まぁ別にそもそも「うんち」って単語を発することは恥ずかしいことじゃないよな。
それだけで恥ずかしがる方が子供っぽいのでは?
「や、でもだからって別にわざわざ作らなくても……」
「食べないと明日から毎日、ゆで卵出すから」
もしかしたら、歳下にいじられたのが相当悔しかったらしい。この人のそういうとこ、もはや可愛いな。
「じゃ、いただきまーす」
新田さんは手を合わせて先に食べ始めた。仕方ないので、俺も「いただきます」と挨拶して箸を取った。
普段、食事の時間は良くも悪くも遅く感じるものだ。食事は美味いけど、他にやりたい事あったら飯の間はそれ出来ないわけだから、長く感じるみたいな。
だが、今日の飯は驚く程早く感じ、生姜焼き、キャベツ、米、味噌汁を平らげた。残りはゆで卵だけである。
「ごちそうさ」
「ゆで卵」
「………」
ですよねー。だって臭いがすごいんだもん……。何このアンモニアみたいな臭い。
冗談抜きで手が動かない。大体、これどうやって食べんの?ゆで卵だけは食わず嫌い治ってないんだよな。一応、箸で良いのかな。
箸を握って、手をプルプルと震わせていると、新田さんが俺の手から箸をとって、ゆで卵の先端を抉って摘んだ。
「はい、あーん♪」
「………」
退路は完全に塞がれた。この人、優しいのか鬼なのか分からないんだけど。
「……あの、自分のペースで食べたいので………」
「北山くんのペースに合わせたら、ゆで卵が腐るまで食べないで不可抗力にするつもりな気がするからダメ」
「そんな事しないですよ!」
「はいはい。良いから口開けて」
「っ………」
くっ、声の艶が半端じゃ無い……!そして、その声がまた可愛いんだよ畜生……!
仕方ないので、控えめに口を開いた。それに合わせて新田さんの箸に摘まれたゆで卵の端が侵入してきた。舌の上に乗せ、咀嚼して飲み込む。
「どう?」
「……ま、まぁ、不味くはないです………」
美味しくもないが。料理上手の新田さんが作ったゆで卵で、ようやく食べられなくはないレベルって事は、やはりゆで卵は好きにはなれないかな。
だが、新田さんは別の意味で捉えてしまったようだ。
「ふふ、素直じゃないんだね。意外と」
「……や、そういうんじゃないんですけど」
「はい、二口目。あーん」
「………」
結局、丸々一個食べ終えた。美味いとは思えなかっただけあって、かなりキツくて机に伏せたら、フワッと頭に手が乗せられた。
「はい、よく頑張ったね」
普段の三倍くらい優しい声音で頭を撫でてくれた。その声が優し過ぎて、なんか姉にあやされてる気分で逆に恥ずかしくて、カァッと顔が赤くなったのを感じた。
「こ、子供ですか俺は!」
「ふふ、ごめんね。なんだか何となく弟に似てて可愛かったから」
「も、もう、ご馳走さま!」
それだけ言って食器を流しに戻して洗面所で歯磨きを始めた。なんか、昼間の仕返しをされた気分だ。
その仕返しをした新田さんは、俺が黙々と歯磨きをしてる間に、新田さんは食器を洗ってくれている。その姿を見ると、さっきからかわれたのをすっかり忘れ、再び感謝したくなってしまう。
そういえば、一週間後の新田さんへのプレゼント、何にしようかなぁ。これから冬だし、やっぱりマフラーとかそういうのが良いかな。でも、使ってくれるのは随分と先になりそうだし……。まぁ、一週間あるし、それは後々考えるか。
歯磨きを終えて、ついでにシャワーを浴びる事にした。シャワーってあれなんだよな。骨折してる時は専用のビニールが必要で面倒臭いんだよな。まぁ、仕方ないんだけどさ。
ビニールを装着して身体を洗い、さっさと上がった。まだ夏出たばかりだし、お湯に浸かる必要はないだろう。ていうか骨折してる時は湯船浸かれないでしょ。
体を拭いてパジャマになって居間に戻ると、床で新田さんが寝息を立てていた。
「すぅ……すぅ……」
……なんか、寝顔も色っぽいな………。この人、本当に大学生?てか、なんで寝てんの?いや、今日一日中は俺の世話をしてくれてたんだから、疲れが溜まってたんだろうけど……。
にしても、その……骨折してるとはいえもう少し男の部屋を意識して欲しかったんだけど………。
「………」
ええと、どうしよう。本当は起こすべきなんだろうけど、疲れてるんだろうなぁって思うと起こせない。
てか、もう21時半過ぎてるし、女の子をこんな時間に歩かせるわけにはいかないか。俺、骨折してて送れないし。
取り込んでくれた布団を敷いて、新田さんをその上に置いた。もちろん、脚の所為で持ち上げることはできないので、両手で新田さんの脇の下から手を通し、ケンケンをしながら引き摺って布団の上に乗せた。結構、衝撃走った気がしたんだけど、よっぽど疲れていたのかピクリとも起きなかった。
………さて、俺も寝るか。流石に同じ布団で寝るわけにはいかないので、押入れから布団をもう一枚出した。友達が出来て、泊りに来た用に二枚用意してあったんだよな。使い道がこんな感じで来るとは。
新田さんの布団の隣に敷いて、その上に寝転がった。
「………」
何となく惜しい気がして、新田さんの寝顔を写メった。さて、寝るか……あ、でも今更だけど新田さんパジャマじゃないんだよな……。夜中起きるかもしんないし、一応、ジャージだけ用意しておくか。