新田さんなら、例え暴力系ヒロインでも俺は受け入れる。 作:バナハロ
夜中。いつの間にか寝てしまっていた私はふと目を覚ました。見慣れない部屋の中、一瞬拉致監禁でもされたのかと思ったが、両手足は自由だし、何より隣で北山くんが寝てるので、そういえば寝落ちしてしまったことを思い出した。
当然、今更になって異性の部屋に泊まってる現状を理解し、1人で顔を真っ赤に染めた。
「な、何やってるのよ、もう……。美波のバカ」
はぁ……泊まりまでするつもりはなかったのに……。
時計を見たが、時刻は深夜の2時を回っている。流石に今の時間、1人で家を出るわけにはいかないのは理解していた。
だけど、このまま泊まっていっても良いのかと思うと、それもまたダメな気がする。隣の北山くんは気付いてくれないけど、私だって一応アイドルだ。それが付き合っても無い男の家で泊まりなんて大問題だろう。文香ちゃんのように付き合ってるならまだしも。
どうしたものか考えながら、とりあえず起き上がって水を飲みに行った。水道水を汲んで、一口飲むとトイレを借りて、再び布団に戻った。
うーん……どうしよう、やっぱ帰った方が良いかなぁ。
「……あっ」
私が寝ていた布団の枕元にジャージが畳まれてるのが見えた。その上にはメモ用紙が置いてある。
『起きたら着て下さい。オレより』
その手紙を見て、思わずクスッと微笑んだ。オレって……大体、2人しかいないんだから、誰が用意してくれたかなんて分かるわよ。
ま、今日くらいは泊まっても良いかな。せっかく用意してくれたからね。
着替えようと思い、その場で服に手を脱ごうとしたけど、目の前で寝てる北山くんが見えたので、一応洗面所に行くことにした。奈緒ちゃんや比奈さん的に言う「フラグ」というのを建てたくなかった。
洗面所で上半身に着てるものを脱いだ所で、ブラに手を掛けて動きを止めた。普段、寝る時は下着を外すのだが、今日は遊歩の家にいる。男の人の前でノーブラでいるのは、例え寝間着でも恥ずかしい気がした。ていうか、恥ずかしいよね。
「………」
あ、でも北山くんは朝は起きるの遅いんだよね。それなら、問題ないかな。万が一の時でもチャックを上げきれば問題ないよね。
ブラを外し、ズボンも脱いでジャージを履き、最後に上半身のジャージのチャックを上げようとした。
「……あれっ?」
だが、おへその少し上辺りで止まってしまう。胸が引っ掛かって上がり切らないのだ。あ、ていうか、北山くんって私より少し小さかったっけ……。てことは、サイズは当然小さいし、胸の分を考えればキツくなるのは当然だよね。
仕方ないので、力づくで無理矢理チャックを引き上げた。何とか上まで上がったが、胸の辺りがかなりキツイ。
「……これじゃブラしてるのと変わらないじゃない……」
何やってんだか……。や、もうこれで良いかな。
明日もつけなければならないので、ブラをタオルの横に掛けて、トボトボと布団に戻ると、北山くんの脚が視界に入った。ギプスが装着されていて、痛々しさが出ている。あれ、私達を送ってくれたから、怪我しちゃったんだよね……。多分、北山くんも疲れが出ていたんだと思う。考えれば、バイトしてお祭り行って私の事をおんぶしてくれたんだから、北山くんにだって疲れが出ないわけがない。
本人は「勝手に自分が転んだだけ」と言っていたが、やはり気になってしまう。気にしない方が本人は喜ぶと分かっていてもだ。
「………」
「……んっ……」
「!」
寝ているはずの北山くんの口から吐息が漏れた。やはり足の怪我が痛いのかな、そう思ったのだが、吐息の次に寝言が漏れた。
「……あーにゃ、さん………」
「………」
どうやら、アーニャちゃんが夢に出ているようだ。
……なんか、気に入らないなぁ。私の方がたくさん関わってるのに、それでもアーニャちゃんが好きなのが。いや、恋愛的な意味じゃないのは分かってる。
でも、その、何?気に入らない。私の事はアイドルだって気付いてもくれないのに。気付いて欲しいわけでもないけど。
すると、寝言に続きがあることに気付いた。
「……けっこん、して下さ………」
「………」
この人、何言ってるんだろう……。比喩表現だよね。その辺大丈夫なんだよね?そんなにアーニャちゃんの外見が好みなのかな……。
「……ぅあっ、に、にったさん………!」
「っ!」
わ、私の名前が出てきた⁉︎ど、どんな夢なんだろ……。……って、なっ、なんで、少し喜んでるのよ、私。大体、北山くんの言うことなんて大抵、ロクなものでは……。
「……ごめんなさい怒らないで!そのゴリゴリに鍛え上げられた、バイスクロー……空中に浮いてるバスケットボールを片手で掴む技並み、ある意味では万力ともタメ張れる剛力握力でのアイアンクローは勘弁して下さい」
「なんで私への文句は流暢なのよ!」
寝言でも腹立つ!何なのこの人⁉︎流れるような例え文句!
もう……本当に変な子なんだから……。まぁ良いよ。寝てる人に腹を立てても仕方ないしね。
「はぁ……バカらし、寝よ……」
「いだだだだ!ごめんなさいごめんなさい御免なさい御免なさい!」
「う、うるさい……!」
どんな目に遭わされてるのよ……。あ、アイアンクローか。
……なんか申し訳ないし、少しは慰めてあげようかな。いや、夢の中でテンション上がってアーニャちゃんにプロポーズした北山くんが悪いんだけどね。
「それ、夢だから。安心して良いんだよ」
昔、怖い夢を見て泣いてる弟を慰めてあげたように、頭を撫でてそう言った。
これやると、不思議なことに怖い夢が解散されるようで、弟も目の前の北山くんも大人しくなった。こういう大人しい寝顔は子供っぽくて可愛いんだけどなぁ。目を覚ますと礼儀正しいヤンチャ高校生って感じ。
「あ、新田さん。後ろお化け」
「………」
ダメよ、イラっとしては。というか、さっき謝ったばかりなのに懲りないね、君も。もしかして、怒られたくてそういう事してるのかな?……あ、そう考えると、なんかカマってちゃんな小学生みたいで可愛いかも。
………って、何してるの私。微笑ましく思ってる場合じゃないよ。明日は北山くんより早く起きなきゃいけないんだから早く寝なきゃ。
北山くんの頭から手を離して布団の上にゴロンと寝転がった。
その直後だった。バツンッ、と。バツンッという何かが勢い良く外れる音と共に、何かが私の胸元で弾け飛んだ。
それと共に私の胸元から何かが発射され、それが北山くんのおデコにクリティカルヒットした。
「いだっ⁉︎」
「っ⁉︎」
何が起こったのか分からないが、とにかく私から何かが発射されたのは間違い無いので、慌てて寝返りをうって背中を向けた。
「ってぇ……な、なんだ?何が飛んできて……」
後ろからそんな声が聞こえて来る。多分、起きてしまったのだろう。うぅ、ごめんね。北山くん………。
しかし、何が起こったんだろう。発射元と思われる胸元を見ると、ハラリとジャージがはだけていた。下側の胸は乳首に至るまで丸出し状態だ。
「ーっ⁉︎っ⁉︎っ⁉︎」
慌てて両手で胸前を隠し、身体を隠すように蹲った。え、待ってなんで⁉︎どういう事⁉︎ち、チャックは……!
………あ、まさか。私の胸元から発射したのって……。
「あれ、なんだこれ……。………チャック?」
やっぱり!ていうか、マズい!変に勘の良い北山くんには気付かれるかも……!
「なんでこんなもんが……」
お願い!それ以上追求しないで……!
「ま、どーでも良いや……。ふわあぁあぁぁ……眠っ……」
後ろから、カチャッと小さいものが床に落ちた音がした。
……た、助かった、のかな……?ホッと胸を撫で下ろしながら、チャックが失くなり、開きっぱなしになったジャージで必死に胸を隠してると、後ろからムクッと起き上がる音が聞こえた。
「おしっこ……」
「っ!」
な、なんてタイミングでッ……!ていうか、女の子の前でそういうことは言うなと……!いや、私は寝てると思ってるだろうし仕方ないには仕方ないけど……!
モゾモゾと動いて胸を隠すと、廊下の奥に北山くんは消えて行った。い、今のうちにチャックを回収しないと……!チャックがあればまだ直せるはず……!
そう思って、さっき聞こえた音の方に目を向けた。チャックを手に取ると、慌てて付け始めた。だ、大丈夫……!こういうのの直し方は響子ちゃんに教わって……!
カチャカチャと手元を動かしてると、バシャアァッと水を流す音が聞こえた。流石、男の子。用を足すのも早い。
「ふぃ〜……」
早く布団に戻って!じゃないと落ち着いて作業も出来ないから……!
「喉乾いたわ。水飲もう」
早く戻ってってば!台所からここは丸見えなんだから!
ジャージを着てるように見せるために、ほとんど無理矢理両手を組んでジャージを着てる形を取り繕っている。けど、じっくり見られたらとても隠し通せない。
「………なんで新田さん、腕組んで偉そうに寝てんだ?」
ほっといてよ!蹲ってるんだから偉そうには見えないでしょ⁉︎ていうか、いいから早く寝てよ!
「……ああ、そういうことか」
「ーっ!」
ば、バレた……?ヤバイ、このままじゃ痴女認定されるかも……!いや、下手したら襲われる可能性だってゼロでは……!
だが、北山くんは何を思ったか、居間を出て何処かに行った。な、なんかよくわからないけど、今のうちにチャックをつければ……!
「ふー、これこれ」
もう戻って来た⁉︎ていうか、さっきからまさかわざとじゃないよね⁉︎
そもそも、何を取りに行ったの?ダメだ、目を閉じてると聴覚情報しか入ってこないから不安だ。SMプレイで感じてる人達は絶対にイカれてる。ていうか、私まで少し思考が変になってきてるような……!
そうこう考えてるうちに、足音は私の枕元で止まった。えっ、まさか……本当に襲う気なんじゃ……!
冷たい汗が頬を伝った直後、フワッと何かが私の身体に掛けられた。目を閉じていても分かる。これは……薄生地の毛布……?
「おやすみなさい、新田さん」
照れ臭そうな声で頭上からそう言うと、北山くんは私の隣に寝転がり、寝息を立て始めた。
なんで毛布を持ってきたか、それはすぐに分かった。私の事情を察してでは無い。ただ、ジャージで胸を隠して寝てる姿を、偉そうに腕を組んでると思ったのではなく、寒いから両手で身体をさすってると見たのだ。
だから、自分の用は済んでるのに、足の怪我もあるのに、わざわざ別室まで戻って毛布を持って来て、私に掛けてくれた。
結果、私はチャックを直すのに最高のコンディションを手に入れたわけだ。
さっきまでとは違い、落ち着いてチャックを直し、ジーッと上に挙げた。チャックは胸の登りの途中で壊れていて、上まで上げることは叶わなかったが、私は気にしなかった。
正直、この時期に毛布は暑苦しい。だからだろうか、北山くんが毛布をかけてくれた意図を理解してから、緊張してる時のように身体が熱い。心臓の動悸が収まらない。
この心臓の動悸の理由は、この時の私はまだ分からなかった。ただ、翌日はとても気分良く目を覚ますことができた。