ソード・メモリーズ──VRMMO復帰勢の戦闘録── 作:流星の瞳
それじゃ、さっさとアイテム取りに行くわとだけ打つと、チャットを閉じる。
現在、俺はヘルヘイムギルドホール一階の応接間にいた。応接間と言っても名前だけで、客などほぼいないのでみんなの共用のくつろぎルーム的な扱いだ。
港町らしい倉庫が外観のヘルヘイムのギルドホールだが、この応接間も含め、ギルメンの部屋がある二階まで内装は完全に洋館のような造りとなっている。
聞いたところによるとギルメンの誰か趣味らしい。まぁ、ギルマスの罪歌は格好からミリオタっぽいので恐らく他の誰かだろう。
んで、黒騎士に殺されてからギルドホールへ戻った俺がここで何をしていたかというと、チャットやらネットやらで情報収集をしていた。
ちなみにマイルームではなく、一階のここにしたのは単純にここのソファーの座り心地が良かったからだ。VRの世界とはいえ、やはりこういった作業はくつろげる空間の方が良い。
で、結論として分かったのは……ほとんど無い。
情報がほとんど無い。あっても信ぴょう性が薄い。滅多に現れないからか、人によってはデマとすら思われているようだった。
一番知りたかった出現場所もさっぱりだ。
今回の騒ぎになるレベルの集団PKをしたのは初らしく、どうやら黒騎士は今まで相当こっそり活動していたらしい。
ただ、そんな動きを含めて、黒騎士はプレイヤー、もしくはそれに関係する何かだと俺は予想した。
掲示板で書かれていたような運営のイベントやNPCなどではない。
なぜなら俺の刀、
殺されたプレイヤーはしばらく死体と呼ばれる操作不能状態となり、五分間そのまま放置される。これがいわゆるこのゲームのデスデメリットであり、ゲームプレイ出来ないだけでなくその間死体はアイテムや装備が自由に盗れる状態となる。
自由に盗れる、と言ってもさすがに量等に制限はかかるが、かなり好き放題やれる。
だからこそ冒険に出る前にレアアイテムは安全な場所に保管する必要があり、そこでまたギルドホールの価値があったりする。
閑話休題。
だが、黒騎士はモノはとらない。ただ、周囲のプレイヤーを倒すだけ。
そう言われていた。今回盗まれたという報告が聞かないあたりからこれは信ぴょう性が高いと思われる。
しかし、メニュー欄を開いても、アイテムポーチを漁っても鎌鼬が消えていたのは事実。
そして、鎌鼬を盗れるタイミングはあの黒騎士に殺されたタイミングしか無かったのもまた事実。
死体が消えるまでずっと黒騎士が見張っていたのだから盗れるのは黒騎士しかいない。
運営絡みなら、個人たった一人の武器だけ取るなんてことはしないだろう。
よって、運営説はない。
そのはずだ。
「しかし、なぜ鎌鼬のみを……」
別に鎌鼬は最高レアという訳では無い。
製作可能の武器の中では最高クラスだが、レイドボスドロップ品やイベント品ではこれを上回る性能のモノも存在する。
「雪月花」等、鎌鼬程度のレア度の武器なら割と高レベルプレイヤーならポピュラーなのだ。
なのに、鎌鼬のみが消えている。
あえて鎌鼬のみが狙われた理由を考えるとしたら、鎌鼬の特異性に目をつけた、と言ったところだろうか。
遠距離アンチの性能を持つ刀なんてそうそうないだろう。それに、初日から、なぽりたんやらタツキやらPVPでよく使ったため、多くの人に見られており、掲示板でも漁ればだいたいの性能くらいはバレているだろう。
次に思いつくのは──
「邪魔しますよ」
その声と共に部屋の扉が開き、俺の思考は中断される。
そう言いながら部屋に入ってきたのは、ヘルヘイムのサブギルドマスターのカボチャさんだった。
カボチャの名の通り、ハロウィンイベント装備のジャック・オ・ランタンっぽい被り物を被っているのが特徴だ。
サブマスに任命されるくらい古参かつ実力者らしい。まだ会ってから日にちは浅いが、物腰は柔らかく紳士ないい人だとは思う……のだが格好で台無しだとも思う。
なんで、MMOってこういう格好をしたヤツが定期的に現れるのだろうか……
いや、まぁ別に否定する気はないが。
「あ、ツバサさんだけでしたか」
「あぁ、他のメンバーは外に出てるか非ログイン状態だ」
「まぁ、人数考えればいつも通りですけどね」
無駄に加入条件の厳しいエリート思想なヘルヘイム。
そのせいか、人数は驚きの俺を含めても十人だ。
どれくらい少ないかというと、かつての所属ギルド、symphonyの半分もいない。ランク一位のトップギルド、白龍騎士団に至っては人数五十人越えなので、いかに少ないかがわかる。
その人数でありながら、イベント時に下の方とはいえ、大手ギルドを抑えてランクインする時もあると聞いた時は驚いたが。
「カボチャさんって今ヒマ?」
「なんのお誘いですか?」
「ちょっとダンジョン攻略をね」
「うーん……お誘いは嬉しいのですが、これから罪歌さん達ととあるダンジョンを攻略する予定がありまして……」
カボチャさんが申し訳なさそうに断る。
被り物で顔が見えないのに凄い申し訳ないとこちらに感じさせるのは凄いと思う。
「ならいいや。わざわざごめん」
「いえいえ。にしても珍しいですね。ツバサさんならソロでも大体攻略できそうなものですが」
不思議そうに聞いてくる。
さすがにそれは買いかぶり過ぎだと思う。
あくまで俺はPVP特化であり、ダンジョンのモンスターによってはあっさり殺られることもそれなりにある。
「さすがにソロで行けるは買いかぶり過ぎだ。特に今回はモンスター相性的に遠距離型のプレイヤーが欲しいし」
刀の武装記憶解放はほぼ近距離技だ。
稀に遠距離技もないとは言わないが、使い勝手が悪い。
更に数少ない遠距離対応の鎌鼬は盗まれたのか消えてるし。
その点、カボチャさんは確かアーチャーのはずで誘うのに良いかと思ったんだが……。
「あぁ、なるほど」
なら、とカボチャさんはメニューを開いて操作し始めた。
「はい。今、私のフレンドで一人手伝えそうな方がいましたので、その方と行ってはいかがでしょうか?」
「えっ? それって悪くない? 大丈夫?」
さすがに知り合いでもない人に頼むのは少し気が引ける。
「いや、かなり暇しているそうですし、大丈夫らしいですよ。それにどこに行くつもりかは知りませんが、ツバサさんの足を引っ張らない程度の実力はあると私が保証しましょう」
「……なら、お願いしようかな」
カボチャさんの勢いに押されるように頷いてしまった。
ただ、まぁコンビ組んでくれそうな遠距離型のプレイヤーが今いなくて困っていたのも事実。
……ここはありがたく一緒に行かせてもらいますか。
「第七の街ポータルを待ち合わせにしましたので。では」
カボチャさんはそう言うと、出ていった。
なんか、意味深に少し笑っていた気がする。
いや、被り物で表情なんて見えないんだけど。
「あ、てかそのプレイヤーの名前聞いてないな。……まぁ、待ち合わせ場所に行けば分かるか」
俺はカボチャさんの後を追うように立ち上がるとヘルヘイムを後にした。