ソード・メモリーズ──VRMMO復帰勢の戦闘録── 作:流星の瞳
もう待ち合わせ時間が近づいてきた。
とりあえず、ある程度は感覚が戻った気がする。自分がいない間のインフレが怖いがこれならある程度は何とかなりそうだ。
と、着いたっと。
いつもの場所、と言って待ち合わせしたのは、第二の街「ライブリフィア」にある大図書館の前広場だった。
アカネがまだ初心者だった頃、何故か先輩というか指南役になった俺は、こうしてここで待ち合わせしては、一緒にモンスターを狩ったりしたものだった。思い出すだけで懐かしい。
そう感慨深く思っていた俺に声が掛かる。
声の方向へ顔を向けると、こちらに向かって走ってくるアカネの姿が見えた。
「ツバサー!! ほんとにツバサだ!! 戻ってきたんだね!!」
そして、抱きつかれた。
一応言わせてもらうとアカネは、かなり可愛い少女アバターをしている。身長百五十五センチくらいの身長に、ドレスと鎧が一体化したような赤色のヴァルキリー装備。そして、何より可愛い。ん? 二回言った気がする。まぁ大事なことだから仕方ない。どれくらい可愛いって、確実に毎年バレンタインデーは大量のチョコを貰っているだろうと容易に予想ができる程度には可愛い。
バレンタインチョコは現実のイベントだから、アバターのMMORPGでは関係ないのでは? と言われるかもしれないが、この顔は、現実でも同じだろうと断言できる。
というのも、このMMORPG「ソード・メモリーズ」では、最初、性別や顔は現実を参考にしてアバターを作られる。身長や性別が現実と異なったら困るということだろう。顔のパーツ等はアバターらしく弄ることができるが、下手に弄ってもマネキンのようになってしまうのだ。せいぜい違和感が出ないのは軽いメイクと変わらない程度と言ったところだろうか。
だからこそアカネのこの顔は、現実でも同じと断言出来るのだ。
というかオフ会で一回会ったことあるし。
あと、この「ソード・メモリーズ」は男性に人気のゲームである。つまり女性プレイヤーは希少。さらに顔が可愛いとなるとさらに希少。
そんな希少な女の子に抱きつかれている。
なんか周囲の目が冷たくなった気がするが気のせいだろう。ハハハ……。
まぁ、周囲の視線的にも、ついこの前まで男子高校生とかいう人種だった自分的にも、このまま抱きつかれているのは問題がありそうなので、やんわりとアカネを引き離す。
なんか、物凄いいい香りがした。気のせい……ではないだろう、
「あ、ごめんね。嬉しくて。にしても、ほんと久しぶりだね」
「そうだな、今日からは今までのようにまたログインできると思う」
それを聞くと、アカネは嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「ホント!? 嬉しい!!」
そんなアカネを見るとこちらも嬉しくなる。
周囲もその笑顔に和んでいる気がする。
天使か。
「あ、ツバサ。それでね、私今ギルドに──」
「アカネちゃーん!!」
アカネのセリフはどこからか飛んできた男性の声で中断された。
見ると、そこには手を振りながら近づいてくる男性プレイヤーがいた。見た目は二十代くらい。顔はところどころアバター設定時に弄ったらしい箇所が見受けられ、まさに整形しましたって感じの整った顔。体型はガリガリ。
まぁ俺もかなり痩せてるから、あまり人のこと言えないが……。
あと、いくつか見覚えのある装備からして、レベル五十程度の中堅プレイヤーと言ったところだろうか。
「誰あれ? 知り合い?」
アカネに聞くと、首をふるふると横に振った。
「なんか、困っていたみたいだから数回素材集めとか手伝ってあげたんだけど、それ以降付き纏われちゃって……」
あぁー……。
アカネは初心者とか困ってるプレイヤーいると暇あれば手伝うからなぁ……。
それであの男プレイヤーは気があると勘違いしたというところか。
「ハァハァ……なんで逃げるのさアカネちゃん」
男は、息切れを起こしながらアカネに話しかける。
てか、どれだけダッシュしたか分からんけど、息切れを起こすって相当
数十秒経ってもまだ息切れしてる様子だと、もしかしたら準極振りレベルで偏ったステ振りがされてるかもしれない。
……って何冷静に分析してんだ俺。別に
そんな分析をしている間にもアカネと男性プレイヤーの状況は色々と進展していたらしい。
気づけばアカネが俺の背中に隠れていた。
……いやね、後輩の女の子に頼ってもらえるって嬉しいけどね。これって目の前の男からしたら逆効果何じゃないかなぁ。
というか、予想通り男性プレイヤーは顔を真っ赤にしていた。
「なんだ、キミ!! 僕のアカネちゃんを──」
「だれが僕のアカネちゃんだ。むしろ今ここでアカネと待ち合わせをしてたのは俺だ」
「なっ……!?」
よほどの衝撃だったのか口をパクパクしていた。
こいつ面白いな、もう少し弄ろうかなと少し思ったのは内緒だ。
「分かった!! お前がアカネちゃんを誑かしたんだな!! そんなやつはこの僕が成敗してやる!!」
そんなセリフと共に目の前にメニューが突如出現する。内容は『なぽりたんからデュエルの申請を受けました。戦いますか? Yes No』という昔毎日のように見た決闘の申し込みだ。
街は基本的に非戦闘エリアであり、HPは絶対減らないが、決闘を受けた時だけ例外的に戦うことができる。
正直言って、支離滅裂なセリフからどう見ても頭おかしいやつだしGMコールすれば一発では? と思ったが、懐かしい決闘という文字に惹かれてしまった。
右手がゆっくりと伸び、Yesと書かれたパネルをタップする。
「ちょっと!? 何イエス押してるのよ!!」
「まぁ、見てろって。ちゃっちゃと勝つから」
「そうだぞ!! アカネちゃん、よく見ておくがいい。この男が地面に這いつくばった姿をな」
俺と男性プレイヤー(なぽりたんというプレイヤーネームらしい。俺なら自分のアバターには絶対に付けないタイプの名前だ。)に、押されたアカネは口を少し尖らせたあと、ゆっくり引き下がった。
ブランクを加味しても俺の方が強いと信頼してくれたのか、それともこの戦闘狂と呆れられたか……。
元先輩としては、前者だと嬉しい。
そんなこんなで復帰後初のPVPが始まろうとしていた。