ソード・メモリーズ──VRMMO復帰勢の戦闘録── 作:流星の瞳
図書館前広場には、今は二人を囲むように人だかりが出来ていた。まぁ街で決闘なんてそうそう見かけることもないだろうし、いい見世物なのだろう。
とはいえ戦闘の邪魔にはならないようには気をつけているようで広場の大部分は戦闘として使えるようだった。
俺はアイテムポーチから、ゆっくりと刀を取り出す。
『
見た目は鞘も鍔が存在せず、持ち手に布がぞんざいに巻かれただけの無骨な刀である。だが、生産職の友人に頼み込まれて、昔、俺が素材集めに翻弄された挙句できた刀であり、そんじょそこらのボスドロップ品の性能には劣らない自信がある。
あくまで一年前の頃の話だが……
「こちらは準備できたぞ!」
そう声をかけるなぽりたんはと言うと、思いっきり俺から距離を取ってるところだった。
二人の間の距離は十メートルくらいだろうか?
本来の決闘の開始時は三メートルから五メートル程度の距離でやるのが普通のはずなのだが……
「こちらも準備いいぞ!! 地面を這いつくばる用意はいいか!!」
そう言いながら杖を構えるなぽりたん。
どう見ても俺を遠距離で何もさせない間合いから嬲り殺すつもりだな。
……まぁ、いい。相手の方から油断してくるというのならむしろ大助かりだ。
にしても、かなり自信満々な顔をしている。自身の勝ちを信じて疑わない顔だ。
実際俺から勝つのはそう不可能な事ではない。相手のレベルは恐らく五十前後。対する俺のレベルは一年前は最高レベルだった六十だ。一見するとレベル差からこちらが有利に見えるのだが、この「ソード・メモリーズ」はレベルゲーじゃない。極振りのような例外を除けばレベルによるステータスの差は他ゲーより小さいのだ。
むしろ問題は武器である。よく武器ゲーとか言われるように、ほぼ武器がすべてと言っても過言ではない。何しろ他ゲーの魔法に当たるバフ、デバフ、回復、遠距離攻撃等は全て武器ごとに設定されている「武装記憶解放」で行うのだ。
ぶっちゃけ、レベル差で多少ステータス負けてても、強い武器持ってたので強力な技連発したら勝ちましたとか、この「ソード・メモリーズ」ならそう珍しいことではない。
なぽりたんも恐らくそれ故に俺に対して勝てる見込みは十分にあると踏んでいるのだろう。
遂に決闘が始まる。
二人の間で大きな数字が出現して、カウントダウンを始めた。
10……9……8──
俺は鎌鼬を構えた。鞘はないが、周囲からはまるで今にも鞘から抜刀を行おうとしているように見えるだろう。
4……3──
「解放レベルⅠ『旋風』」
なぽりたんには聞こえないように呟く。
1……0!!
二人の間で『デュエルスタート!!』という文字が浮かぶ。
そしてその瞬間決着がついていた。
なぽりたんは勝負前と同じ勝ち誇った顔をしたまま、倒れた。
俺の鎌鼬の「記憶解放レベルⅠ『旋風』」に切られたのだ。
別に良くある抜刀切りなのだが、射程が他の武器の抜刀切りの三倍以上という特異的な特徴を持っている。当然ながら十メートル先にいる相手にも届く。
武装記憶解放が全ての武器にある以上、十メートルも離れたら相手の間合いから抜けたと油断したなぽりたんは、馬鹿かPVP慣れしてなかったのだろう。
なぽりたんは倒れたまま起き上がる気配はない。VITにステ振りをほとんど行わなかったのか、装備がよほど紙装備だったのか旋風の一撃だけで死亡したらしい。
デスペナルティとして、五分間は恐らくそのままだろう。
俺は敗者から身ぐるみを剥ぐ趣味はないが、これだけ人がいるのだ。五分間身体を見張ってくれるような人もいなさそうだしリスポーンする頃にはもしかしたら装備の半分くらいが消えてるかもしれない。まぁ自業自得だ。
俺の上には『Winner ツバサ』の文字。
知ってはいたけど味気ない。
鎌鼬をしまいながらそう思う。久しぶりのPVPだし、もう少し楽しんでも良かったかもしれない。
「ツバサ!!」
グハッ。
不意打ちでまたアカネに抱きつかれた。物思いに耽ってたからか気づかなかった。
またふわっといい香りが漂う。
なぜ少女という生物は同じ人間のはずなのに男子と臭いがこうも違うのだろうか。
「もぅ……心配はいらなかったみたいだね」
「だから言ったろ。ちゃっちゃと勝つって。ちょっとくらいは信用してくれよ」
胸を張りながらそう答える。
一年間やってなかったとはいえ、まだ格下や同レベルの相手にPVPで負ける気はしない。
「……ごめんね」
「別に謝ることじゃないさ。それより場所を変えよう。目立ってるし」
今度は更に人が集まるなかアカネに抱きつかれたせいか、周囲がかなりざわついていた。これはさっさと離れるに限る。
アカネの手を引いて、人だかりのできた広場を離れる。
久しぶりの「ソード・メモリーズ」だが、この様子ならこれからが楽しくなりそうだ。