|)彡 サッ
体育祭の翌日。
本来なら昨日の疲れを取るべき休養日だが、不完全燃焼だった俺は朝っぱらからバスケの練習をしていた。
琥珀さんがコーチについてくれたあの日から、無理のない範囲という前提を持ちながらもそれなりに練習はしてきた。
大会が終わってすぐに関東の強豪校から推薦が来た琥珀さんはかなりの実力者であることは間違いない。その上で彼が最も評価されていたのは
ドリブル、パス、シュート、そしてそれらの組み合わせが上手い。一連の流れが綺麗すぎていつそのモーションに移ったのか分からなくなるレベルで基礎が染み付いている。
うちのバスケ部でも琥珀さんはお手本としてよく後輩にプレイを見せていたな。
基礎の出来ているプレイ
それは今までの俺のプレイとは程遠いものだった。今までやってきたのは型にハマらない自由なプレイだ。聞こえはいいだろう。しかし、その実態は中学生の体には無茶な動きだった。正に変態軌道と言っていい。
そして、その結果がこの前の大会での怪我だ。
『もし、怪我が治って元の動きを取り戻しても、同じプレイをしてたんじゃ同じ結果を招くだけだぜ。』
いつの日かの練習で琥珀さんはそう言っていた。
ぶっちゃけ、その時はそれでも構わないと思っていた。今でも半分くらいはそう考えている。
残った半分、それではダメなのだと急に思うようになった。
その原因はもしかしなくてもあの後輩達だろう。
怪我の完治を願って彼女たちから送られたミサンガ。何故か、それは大会に出たとしても、また怪我をしてほしくないと訴えかけているようにも感じられた。
だから、無理のない動きっていうのを自分で考えた。そして行き着いたのは基礎の出来た琥珀さんのプレイそのものだった。
……あの動きはたしかこんな感じだったっけ?
ある程度のイメージを浮かべ、それに乗せるように自分の動きを重ねる。
動き自体は単純なジャンプシュート。しかし、人の動きを意識して放ったせいか体に変な力が入りボールはリングに当たることすらせずに地面に落ちた。
そのまま転がっていったボールは近くにいた人の足にぶつかって止まった。
「ひっでえシュートだな。」
「……琥珀さん。」
ボールを拾い上げたのは琥珀さんだった。
ちょうど来たところで俺がシュートを撃とうとしていたから黙って見ていたらしい。
「膝の曲がり具合、腕の角度、指のかけ方と色々ダメすぎて話にならねえ。」
「ボロクソっすね。」
「何かを意識して放ったってのは分かる。何となく基礎に沿ってみたってのも。……珍しいな?」
琥珀さんから見たら俺が基礎を意識した動きをするのは珍しいようだ。俺もそう思う。
「なんにせよ、基礎をしっかりやりたいってのは大切だろうよ。俺からしたら特にな。」
「さっきのも琥珀さんの動きを真似て見たつもりだったんですけどね……。」
「はぁ?俺のフォームがあんな汚ねえ分けねえだろ。よく見てろタコ!」
ドリブルからジャンプシュート、改めて見るとやはり綺麗な動きをしていた。ボールは当然のようにゴールに収まった。
それを見て当然と言わんばかりに鼻を鳴らす琥珀さん。
「
「……ほう?」
何かを察したらしい琥珀さんにある後輩3人とのやり取りを話した。
それを聞いた彼の第一声はこうだ。
「リア充死ね!!」
そんな言葉と共に肩パンを喰らった。
よく分からないが、彼からしたら羨ましくてしょうがないらしい。理不尽だと思ったが、教えを請うためにも甘んじて受け入れた。
「たく、マジでムカつく。まぁ、理由はどうあれバスケが上手くなりたいってんなら協力してやる。」
「あ、あざす……。」
それから午前中はみっちり扱かれた。
途中の休憩で体育祭の結果ーどの競技が楽しかったとかーを聞いたら
『彼女なんか出来なかったわ!!』
って叫ばれて練習がキツくなった。
今日は何かと理不尽なことが多い気がするな。
「あれ?南雲さん?」
「げっ……。」
練習が終わり解散しようとした所で面倒な奴に見つかってしまった。いや、琥珀さんはことり推しらしいから丁度いいかもしれない。世話になってる礼というわけではないが、悪いことじゃないだろう。
「琥珀さん、ことりに紹介……」
コーチングのお礼として紹介しようと振り返るとそこに琥珀さんの姿はなかった。
どこに消えたのか疑問に思ってるとスマホに通知があった。
【さきかえる!】
【どうしたんすか?】
【可愛すぎて面と向かって喋れない。】
【ただのヘタレか……。】
「なにしてるんですかぁ?」
「近い近い。汗かいてるから離れろ。」
琥珀さんに彼女が出来ない理由を何となく察していると、ことりが真横に来てスマホを覗き込んでいた。
無意識なのか腕が触れ合いそうな近さだ。薄々感づいていたが、こいつも穂乃果同様、無意識に男子を殺すタイプか……。
とりあえず、汗をかいてるのは女子的に気にするだろうから、それを理由にして離れてもらった。
ことりも普通に美少女だからさっきの距離だと思春期男子の心臓に悪い。
離れたことでようやくことりの顔がまともに見られ……、あれ?なんか不機嫌?
「その黒澤琥珀って誰ですか?」
「……近いって。」
ジト目でそう聞いてくることり。
スマホを覗いた時に彼の名前が見えたようだが、そんなに気になることだろうか?
段々近づいてきているのを指摘するも離れる気配がない。むしろ、圧をかけるようにさらに迫ってくる。
「琥珀さんはバスケ部の元部長だ。今は練習を見てもらってる。」
「なんだあ、あの部長さんでしたか。シュートが綺麗な人ですよね?」
普通に答えたらパッと離れて笑顔になった。さっきまで不機嫌そうだったのが嘘みたいだ。
名前こそ知らなかったものの、バスケ部部長ということで知っていたらしい。それにしても、素人目に見ても琥珀さんのプレイは綺麗だったのか。
「そうだな。後輩の面倒見が良くてな。バスケ部辞めた俺にもお節介を焼いてくれる人だ。」
「優しい人ですね。……あれ?という事は先輩はここで練習してるんですか?」
……こいつ、普段はほんわかオーラ漂うキャラなのに鋭いな。
出来ることならそれは知られたくないことだった。琥珀さんが消えるとなれば、練習の邪魔と言えてしまう。さすがにことりに対してそんな事は言えないから、どうにかはぐらかしたいところだ。
「……いや、練習はいつも別のところだ。外だとボールがすぐダメになるからな。」
バカなりに咄嗟に考えたにしては良い言い訳じゃないか?
ことりもなんとなく納得したようだから大丈夫そうだ。当然のようにいつもは何処で練習してるかも聞かれたが適当に近くの体育館と言っておいた。
「今度、練習見に行きますね!」
「不定期だから無理だと思うぞ。」
「じゃあ、次の練習の時は連絡してください。」
「はいはい。つーか、お前は何か用事があったんじゃないのか?見るからにお出かけ用のお洒落?してるけど。」
「あ、そうだった!うぅ、海未ちゃんに怒られちゃうよぉ……。南雲さん、また学校で!」
「おーう。」
俺の指摘にことりは焦ったように時計を見て、すぐに走っていった。いつもの3人組でどこかに行く約束をしていたんだろう。穂乃果はいつも遅刻してるし、怒るような奴じゃないから出てこなかったんだろう。
ことりを見送って、すぐに俺も帰宅した。
ーーー
ーー
ー
「ーーどう?」
「どう?じゃねーよ!」
サッと髪を払いながら振り返る様はどこか大人びて年不相応にかっこよさすら感じる。
今、目の前にいるのはピアノを弾き終わりドヤ顔で俺に感想を求めてくる小学生だ。
帰り際にでっかい豪邸の側を通ったら、ちょうど帰り際の先生に遭遇して、気がついたら家の中にいた。先生の話術恐るべし。
汗をかいてるのを理由に帰ろうとしたらシャワーを借りるハメになった。着替えは客人用のものを貰った。
昼飯が、と言いかけた瞬間にダイニングに座らせられた。先生は料理も出来る人だった。
お世話になりすぎるのも悪いと帰ろうとしたら真姫に見つかった。ピアノを聴いてほしいと連行された。
イマココ。
「俺、音楽の授業レベルしかわかんないんだけど?」
「知ってるわ。でも、普通の人の感想も大事でしょ?」
「普通の人だから普通に上手かったとしか言えないなぁ。」
感想と言われても素直にそういうぐらいしかできない。
しかし、真姫はそんな感想では満足出来ないのか黙ったままじっとこちらを見つめている。
これ以上、素人に何を言えというのか。
「……そうだな。演奏のことはさっぱりだけど、真姫は楽しそうにピアノ弾くんだなって思った。」
「えっ?」
「いつものクールな感じじゃなくて、小学生らしい笑顔だったというか。うん、そんな感じだな。音楽が好きなのはよく伝わってきた。」
「そ、そう?」
とって付け加えたような感想に照れたのか髪をくるくる弄り出す真姫。相変わらず、褒められるのに慣れていない。
それなのに感想を求めるとかMの気質があるのではなかろうか。
「いてっ!」
「今、変な事考えてたわよね?」
「全く考えてないから抓るのをやめろ。」
女の勘、というやつなのか俺の内心を察知した真姫に腕を抓られた。結構容赦ない抓りだ。MじゃなくてSだったーー
「痛い痛い!悪かった!」
「ふん!」
なんだこいつ?もしかしてエスパーか?
西木野さんちのお嬢様は超能力まで使えたのか。
まぁ、そんな冗談は置いといて、真姫がなんだか楽しそうにしているように見える。音楽素人の俺と話してても得るものは何も無いと思うんだがなぁ……。
狙った訳ではないが、ここで話を逸らせたのは嬉しい。このまま話題を変えよう。これ以上感想求められても真姫ちゃん可愛いかきくけこしか言えなくなる。
なんだそれ?
「そう言えば、真姫はどこの中学に行くんだ?やっぱり私立のいいところ?」
「音中よ。」
「……そうか。」
ぱっと思いついた話題は知りたくない事実を発覚させただけだった。
体育祭の時に話した凛や
ーーそのうち音楽室に拉致られるようになるのではないか?
そんな考えが頭を過ぎった。
いや、来年はバスケ部に復帰して全力を注ぐって決めてるからそう構えることは無いか。こいつにかける時間はそうないだろう。
「何よ?私が後輩になるのが嫌なの?」
「いんや。ただ俺はバスケやるから構えないってだけだ。……ちゃんと、友達作れよ?」
「う、うるさいわよ!」
素直じゃないし、照れた時は怒ったと取られるかもしれないから友達作るのは難しいかもな……。
もし、ぼっち脱出できないようなら、凛と花陽に頼んでみるか?
いや、いらん世話か。真姫の為にもならないだろうし。
「……何よ?」
「なんでもない。そろそろ時間だから帰るわ。」
「そ。」
もう少し拘束されるかと思ったが、意外にもすんなり解放してくれるようだ。帰り支度を済ませると見送ってくれるのか真姫も門の所までついてきた。
「じゃあな。」
「えぇ。……またピアノ聴いてくれるかしら?」
「今日みたいにいきなりじゃなけばな。」
ホントにいきなりは勘弁してほしい。真姫の事は嫌いではないが、音楽を聴いてると眠くなってきてしまうのが本音だ。もし、そんなことがあれば文句言われるだろうし。
そんなことを考えていたら真姫がソワソワしだした。
「どうかしたか?」
「…………とう。」
「うん?」
「き、今日は付き合わせちゃったから、その、ありがとう……。」
真姫が絞り出したように発した言葉は今までで1番小さく聞こえた声だったけど、何故かしっかりと聞き取れた。
「……おう!」
案外、すぐに友達も出来るかもしれないな。