今回はあの子が初登場!
「くそ……。」
今日は俺にしては珍しく寝坊をしてしまった。
体育祭の準備も始まり、今日はクラス競技の朝練があったから後で皆にどやされるのは確定だ。
既に一限は始まっているが、少しでも早く着くように近所の公園を突っ切ることにした。
「ぐすっ。うぅ……。」
「…………えぇ~?」
なんで今日に限って泣いている女の子がいるのだろう。
見たところ小学生みたいだが、なぜにこんな所で泣いているのか気になる。小学校も既に授業が始まっているだろうから、学校で何があったのかもしれない。
そんな考えをしながら走り抜けようとした瞬間に偶然顔を上げたその子と目が合った。
合ってしまった。
「……その、どうした?」
「ぐすっ。凛の格好変……?」
結局、無視することができずに立ち止まってしまった。
声をかけてみたらいきなり質問された。
その質問の意図がわからなかったが、取り敢えずその子の格好を見てみることにした。
オレンジ色のショートカットに涙で潤んだターコイズの瞳。服装はTシャツにミニスカートといった感じ。
普通の女子小学生だな。
「普通だな。」
「……変じゃない?」
「おう。」
少女の座っていたベンチ、彼女の隣に腰掛けると彼女は今朝の出来事を話し始めた。
昨日、母親と買い物に出かけて可愛いミニスカートを発見。男っぽい自分には似合わないと思いながらも、勇気を出して買ってもらった。そして今日、さっそく身につけて登校してみたところ男子にからかわれてしまったらしい。
それで酷く傷ついたこの子はここで泣いていたようだ。
「ぐずっ。やっぱり凛に可愛いのは無理なのかなぁ……?、」
「えーっと、そんなことないと思うぞ?普通に似合ってるし。」
「ほんと……?」
凛?の自信なさげな言葉に否定をしてみたが、さらに質問を重ねてきた。
よっぽど自分に自信が無いらしい。
「本当だ。」
「だって、凛の髪こんなに短いし……。」
「似合ってるんだから短くてもいいだろ。ショートカットのアイドルとか女優もいっぱいいるぞ……多分。」
「凛、運動しかしなくて全然女の子っぽくないし……。」
「健康的でいいじゃないか。なんなら、女性アスリートもいっぱいいるぞ?」
「……凛、可愛くないし。」
「はぁ……。」
こいつどんだけ自信ないんだよ。泣き虫だし。
こういうウジウジした奴ははっきり言って嫌いだ。なんて言葉は数週間前の自分にブーメランだから口にはしないけど。
ため息を吐いた俺を凛は不思議そうな顔をして見ていた。
「お前、可愛くないって言われたことあんの?」
「え?…………ない、と思うにゃ。」
「まー、お前可愛いからな。そりゃ言われないだろ。」
「にゃっ……!?」
「多分、その男子達は今まで友達のように接してた凛がいきなりスカートを履いてきたからびっくりしたんだろうよ。小6にもなれば女子って意識した瞬間、照れて本当のことを言えなくなったりするもんだ。」
「そ、そうなの……?」
「そうだ。」
多分な。俺はバスケしかして来なかったから分からん。
そこは置いといて、実際、凛は可愛いと思う。将来は綺麗な女性になりそうだ。
今言った通り小6男子なら、男友達だと思ってたら、その子は可愛い女の子だったって気がつく頃だろうし。
「凛が可愛いって気がついた男子は照れ隠しでそんなこと言ったんじゃないか?」
「……分からないにゃ。」
「まぁ、そこは俺にも分かんないな。話聞いただけだし。でも、凛が可愛いってのは間違いないと思うぞ。他のやつがどう言っても俺は自信持ってそう言える。」
「……にゃあ。」
照れんな。
柄にもないことしてる俺の方が何倍も恥ずかしいんだよ。こんな姿を誰かに見られた瞬間に引きこもりになるぞ。
「俺から言えるのはこれくらいだ。お前も早く学校行くなり帰るなりしろよ。」
「あっ……。」
これ以上はいらんことも言いそうだから離脱する事にした。凛の問題を解決できた訳では無いが、なんだかんだ泣き止んでいたから良しとしよう。
逃げるように公園から出る時、眼鏡をした女の子とすれ違った。少しだけ振り向いて見ると凛に話しかけているのが見えた。
彼女が話に出てきた「かよちん」だろう。授業よりも友達を優先できる優しい子らしい。
なんだか心がほっこりして気分も良くなってきたな。慣れないことをして恥ずかしいというのもあるが、なんだかいつもより少し軽い足取りで学校に向かうことが出来た。
ーーー
ーー
ー
「すんませんした。」
何がいつもより軽い足取りで学校に向かうことが出来ただ。
完全に遅刻していることを忘れていた。気がついたら朝練どころか二限にあった体育(体育祭の練習)もブッチしていた。
教室に入った途端、男子に簀巻きにされ女子には蹴られるという罰ゲームが待っていた。
いや、罰ゲームだから。なんで何人か羨ましそうに見てんだよ。
そこのメガネ、分かってるよって顔でこっち見んな。
「太一がこんな時間まで寝坊するなんて珍しいな。」
「体育祭の準備で久しぶりに動いたから疲れが溜まったんじゃないすか?」
「体力バカの君に限ってそれはないな。」
やっと解放された頃に英二が話しかけてきた。労っているように見えるが、そもそも俺を簀巻きにしたのがこいつだ。未だに紐が解かれないし。
「それで、何があった?」
「ちょっとな。」
「ふーん。俺にも言えないことね。」
「まぁな。」
「皆ー、太一は俺達が体育祭の練習してる間、他校の女の子と遊んでたってー。」
「「「殺す!」」」
「うおぉい!?」
「ただでさえ高坂さんたちと仲良いのにお前はァ!!」
嫉妬に狂った男子達によるリンチはしばらく続いた。
先生(独身のおっさん、結婚願望強)は、止めてくれなかった……。
「なんてことがあった。」
「南雲さんの自業自得だと思います。」
放課後、今日は色々あったから早く帰ろう。そう思ってチャイムと同時にスタートダッシュを切ったが昇降口で普通に捕まった。しかし、いつもと違って今日いるのは南だけだ。
園田は弓道部、高坂は職員室に顔を出しているらしい。
多分、高坂は説教されてるな。
そんな事情で今日は南と二人きりで下校することになった。
「……。」
「……。」
いつもは高坂が騒いでいるからか、南と二人きりになると何話せばいいか分かんないな。
向こうも同じ状況らしくチラチラとこっちを見ては視線を他に移すというのを繰り返している。
気まずい。
これが園田だったらトレーニングの話とかできそうなのに。女子と話す内容がソレなのもどうかと思うが……。
「あー、悪いな。」
「ぴぃ!?い、いきなりどうしたんですか?」
「今までバスケだけで生きてたから、こういう時に何話せばいいか分からないんだ。」
「別に謝る必要はないですよ。私も同じです。」
そういう南の表情に僅かながら陰が差したような気がした。多分、気のせいだろう。
またしばらく無言で歩く時間が続いた。
このまま見送って帰ることになるかなー、と考えていたら南が急に立ち止まった。
「ちょっと、寄っていきませんか?」
そう言って指差したのはすぐそこの小さな公園だった。
おい、お互い話すことがないのに何故そんな提案をする?
もしかしたら今になって話したいことが出来たのかもしれない。それなら、付き合ってやるか。
「わかった。」
「やった!」
肯定の言葉を返すと小さくガッツポーズをする南。その仕草は不覚にもドキッとした。こいつも高坂と同じで男子を無自覚に落としているような気がしてきた。
この分だと普段から男子の視線を気をつけていそうな園田も二人に釣られてやっちゃってそうだな。
3人と同じクラスの男子は色々苦労しているんじゃないだろうか?
変なことを考えているうちに手頃なベンチを発見。
自販機で飲み物を買ってから並んで腰掛けた。
ーーちょっとデートっぽい
そう考えた瞬間、急に恥ずかしくなってきた。
俺の考えに気づいていない南はどこか懐かしむように語り始めた。
あれ?けっこう真面目な話ですか……。
「南雲さん、今年の大会のこと覚えてますか?」
「俺が怪我した時のか?……当たり前だろ。」
「実はその時、私たちも応援に行ってたんです。」
そういえば、初めてあった時に高坂もそんなことを言っていた気がする。
今年の大会のとある試合。格上相手に俺が無茶をしすぎて故障の原因となった時の話だ。
なんで南は急にこんな事を話し始めたのだろう?
「最初はバスケ部の人が応援に来てほしいって頼まれて成り行きで行っただけなんです。」
「まぁ、大抵そんなもんだろ。1年っていうと二宮あたりか。」
「そうです。二宮くんは穂乃果ちゃんのことが好きみたいで。だから、穂乃果ちゃんにかっこいい所を見せたかったんだと思います。」
二宮というのはバスケ部1年のエース的存在だ。実力は相当高く、1年ながらにしてベンチ入りをしていた奴だ。ちなみに俺とそいつは仲が悪い。あいつ部活サボりがちだったし、向こうは何故か俺のことが気に食わないらしい。要するに馬が合わないのだ。
そんな彼は高坂のことが好きらしい。最近、奴と出くわすと前より嫌そうな顔をしていたのはそのせいか。
あれ?でも、あの日はあいつ試合出てなくね?
「導入なので二宮くんのことはいいんです。」
「そ、そう……。」
「その時に初めて南雲さんを見たんです。」
「ふーん?」
「誰よりも楽しそうにプレイしていた南雲さんを見て私も、穂乃果ちゃんたちもいつの間にか夢中になって応援してました。」
「そりゃ嬉しいね。」
「でも、先輩は途中で倒れちゃいました。」
「そうだな。結局試合も負けちゃったし。」
「それで、あの時のことで聞きたい事があるんです。」
「うん?」
長々と思い出すように話を進めていたがここからが本題らしい。
「南雲さんはどうしてあんな無茶をしたんですか?まだ2年生で最後の大会は来年なのに……。」
目を伏せて少し悲しげに質問してくる南。
質問の意図は全く分からなかったが、その答えは単純すぎるものだ。
「バスケが好きだからな。試合じゃ勝ちたいし、何より全力を出している時が一番楽しい。」
「怪我をしちゃってもですか……?」
「まぁ、あの時は楽し過ぎて後先考えてなかったからな。後の数日に多少響く程度だと思ったらこのザマだよ。」
「……南雲さんはおバカさんですね。」
「それは自覚してるがあまり直球で言うな。グサッとくるから。」
せっかく質問に答えてやったのに何故か馬鹿にされた。この後輩、中々良い性格をしているのかもしれない。
「南雲さんは来年、ううん、これからどうするんですか?大好きなバスケは出来なくなっちゃったのに……。」
「これから、か……。」
「はい。」
いやに真面目な目でこちらを見つめてくる南。
こいつが何を考えてこうして俺と話しているのかいまいち掴めないままだ。しかし、こいつが一つ勘違いしていることが分かった。
そして、この質問もまた単純な答えで返せるものだった。
「まずはコレ治さないとな。来年の大会出られなくなる。」
「え……?」
「どうした?」
「だって、怪我のせいでバスケ部辞めたって……。」
「部の空気も悪かったからな。でも、それは頼れる部長が何とかするって言ったんだ。」
「でも、怪我は……?」
「何とかするさ。南は勘違いしてるみたいだが、治らなくもないらしい。かなりギリギリになりそうだけどな。それでも、またバスケが出来るかもしれないんだ。やるしかないだろ?」
「そう、ですか……?」
「うおぉ!?ちょ、なんで泣いてんの!?」
俺が来年の大会に出るつもりでいる。
その話を続けていくうちにいきなり南が泣き出した。
いやいやいや、これは俺悪くないよね?
そこのお母さん。俺を避難するような視線はやめてくださいよ。
ったく、なんで1日に二人も泣いてる女子の相手しなくちゃいけないんだ!どっちも俺は悪くねえし!
「おぉう、どした?」
どうしたらいいか分からず、取り敢えず頭を撫でて落ち着いてくれないかなー?って感じでやってみた。
嫌がる素振りは見せなかったから取り敢えず続けていると落ち着いたようですぐに泣き止んだ。
「ぐすっ……、多分、嬉しいんだと思います。」
「なんでお前がそうなるんだよ?」
「南雲さんがバスケを大好きなのはあの日の試合を見てすぐに分かりました。怪我で倒れたのを見た時、その後噂でバスケが出来なくなったって聞いた時は私も心が苦しくなったんです。えぇと、それで……、」
「それが違うと分かってほっとした?」
「そんな感じです。」
「ふーん。」
よく分からんが南は感受性が豊か?なんだろうか?
優しいという括りに当てはまるのは確かだ。
他人の境遇を知って苦しくなったり喜んだりなんてそうそう出来ることじゃないだろう。ましてや、その時の南は俺のことをよく知らない訳だから余計簡単に出来ることじゃないだろう。俺は『ふーん、ちょっと気の毒かな。』程度で片付けるから絶対無理。
「あの、手……。」
「っと、悪い。」
「あっ……。」
南の声で、泣き止んでもそのまま撫で続けていた手に気が付きすぐに彼女の頭から離した。
ちょっと名残惜しそうな顔するんじゃない。髪のサラサラな触り心地の誘惑に負けそうになるだろ。
「どう纏めたらいいか分かんないけど。とにかく、俺はバスケ部に戻って来年も大会に出る、でOK?」
「はい。えへへ。」
「え?なんでいきなり笑ってんの?ちょっとキモ、」
「南雲さん?それ以上は女の子に言っちゃダメですよ?」
「気味悪いんだが?」
「ダメって言ったじゃないですかー!」
なんだよ?ダメって言われたから言葉を変えたのに。
ぽかぽか右肩を叩いてくる南はどこか嬉しそうである。不安定だった感情も元に戻って元気も少し出てきたようだ。
俺的には終始目的の分からん会話だったけど、何となく南との距離が近づいた気がした。
1日に2人の女の子を泣かせるなんて罪な男ですね。
なお、TN君は容疑を否認してるようです。
バスケを見に来たことほのうみの中で1番感動してたのはことりちゃんです。