皆さんお疲れ様ですわホンマ。
天才・ミーツ・天才
テレビでその姿を見た時、その肢体を黒い靄が覆っているなんてことはなかった。ぱっと見ただけで分かるような特異性もなく、天才だというのも聞けば、稀に見る程度のもので特別なにかがあると感じたことはなかった。いやもちろん、滅多に見ない様な美少女である事は確かだが。
しかしこうして近くに見て聞いて感じた分には、脈絡のなさは正しく聞いた通りの気まぐれで、手綱を握るのも一苦労だろうということ。それと、頭がおかしくなりそうな程の
言い換えるならオーラか、もしくは…………カリスマか。そうとしか言い表せないような不可思議な
「遊馬、聞いているかい?」
「ああもちろんだとも」
そう返しては、二宮の瞳に視線を合わせる。この魔眼とも呼べる瞳に、二宮は全く正常に映った。学校とは違った私服ではあるが、いつも通りの二宮である。しかし一ノ瀬志希は他の何かで誤魔化しようが無い程の異様なさまを見せた。
ライブの最中でも嫌ほど目立つ黒い靄は何故だか頻りにこちらを見つめては意味深に笑った。その度に周囲は沸き立ち、目深に帽子を被った二宮と共に苦笑いを溢した。
「確かにサービス精神が旺盛に過ぎたが、最終的にバレなかった訳だし、いいんじゃないか?」
「そうじゃなく、普段はあんな事をしないって話だよ」
そうなのか、と顎を撫でる。二宮は言う。一ノ瀬志希が誰かと目を合わせる事なんてほぼほぼない。彼女が見ているのはそのもっと奥であり、更に深いところであると。
「あまりこう言う事は言いたくないが、気を付けなよ。キミはメをつけられたかもしれないから」
「…………そうさせてもらうよ」
少なくともあの靄の正体が分かるまでは。最悪のケースだが、もしあの靄が
「減ってない様だが?」
「…………うるさいよ」
対して二宮のブラックは減っていなかった。
俺たちはカフェの長閑かつ、なだらかな喧騒の中の奥まった席でブレークタイムと洒落こむことになった。
こうして2人対面するのもあまりない事で、同じ高さから相手の声が聞こえることにすら違和感を覚えるぐらいだ。軽いライブの感想、それらを言い合っている内になれる程度のものだったが。
「ところで、二宮。この後は」
「なんだい、遊馬。改まって」
彼女がなんとかコーヒーを飲み干し、俺がまた、コーヒーを飲み干した頃にこの後の予定は、と聞けば察したのか少し照れくさそうに特に、ともにょもにょとなんらかの言葉を口の中で溶かした。
「なら、この後は────」
「なら、この後はあたしに買い取らせてもらってもいい?」
ひゅう、と柔らかな風が吹き、靄が、一ノ瀬志希が伝票を掠め取る。二宮も多少驚きはしたものの、一瞬一瞬毎に少しずつ落ち着きを取り戻し、平静を装う事はできていた。
「ぜひぜひ、お断りします」
「んっふー、そう言うと思った」
そして彼女は思わせぶりにウインクをして、こちらに擦り寄る。一瞬俺の瞳を見つめると、キョトンとしたように彼女は自らの右目を指差した。
「…………眼、赤いよ。花粉症?」
「ちょっと、寝不足なだけですよ」
少し擦ったからか、どうやら軽く赤くなっていたようだった。あまり見られてしまうのもよくないと思い、ふいと目を背け伝票を奪い返した。
「ダメだよ、志希ちゃん気づいちゃったもんね。キミ、ギフテッドだろ?」
それをまたがっしりと掴まれて女性とは思えない力で抱き込まれてしまう。動揺はなかった、事実そうであるし、彼女がそうであるというのも分かりきった事だ。故に、二宮のしているような驚愕はなく、女性らしい細やかな指先の感触を楽しむ余裕もなかった。
「そうだ。そして答えは変わらない、NOだ」
「いいや、キミにはするべきことがあるはずだよ。あたしにも」
若干会話が噛み合っていないようで神がかったように噛み合っている。ギフテッド同士の会話はこうなるのだなと客観的に考えつつも、主観的には苛立ちを隠すのにも限界が見えてきた。しかし、口は紡ぐ。積年の謎を、謂わば天才達の根源を。
「────俺らは」
「────あたし達は」
知らなくてはならない。解明しなくてはならないのだ。
「「なぜ、
靄の奥に見える一ノ瀬志希の表情が喜色に染まる。本物のギフテッドの始まりは自己の奥深さに恐怖することから始まる。そして奥へ、奥へと手を伸ばし、その底に掌が付いた瞬間。天才という称号はその意味を無くす。
「いつの間にか、随分と打ち解けたようだね」
その手が伸びる限り、天才は天才でいられるのだ。
二宮の困惑した視線も振り切って、伝票をなんとか奪い返した。しかし、その靄が席の通路側を陣取っている所為で立ち上がって会計には行けていない。
「……だが、そういうのは一人でやってくれ。今の俺には時間がないんだ」
「えぇー?」
そう言うと、明らかに失望した様子を浮かべて一ノ瀬は溜息をついた。そして視線を二宮に向け、チロリと小さな舌で唇を潤わせた。その二宮自身は話に付いてこれていないようだったが。
「飛鳥ちゃんかぁー、ずるいなぁ」
「何を言ってるんだ、志希は」
目を細め俺の隣へと無理やり座り込んだ。無意味に体を傾けて接触面を増やしている。二宮はもう流石に落ち着けたようで、呆れを多分に含んだ溜息をつき、冷やをゆっくりとコップに注いでいる。
「ね、あたしじゃダメ?」
「は」
それはどちらの声か、あるいは二人の声が重なったものか。二宮も口を開いた気もするし、俺の口から漏れ出た気もする。
「ほら、あたし結構尽くすよ? それなり以上に優良物件だと思わない?」
「二宮以上とは思えないものでね」
「そ、ざんねーん」
大して残念にも思ってなさそうに靄が揺れる。そして今度はテーブルに大きく身を乗り出して二宮へと詰め寄った。靄の奥に見えるピンクアッシュの長髪がふわりと揺れてミルクのような甘い匂いが漂う。
「ねえ、飛鳥ちゃん。この人あたしにちょーだい?」
「しつこいぞ」
それに、二宮に言ったところでどうにもならないのは承知しているはずだ。さらに言えばなんと言われようと俺はまだその命題を解く気は無いし、そもそも俺に関しては一人でやらなきゃいけない。程度が同じだったとしてもベクトルは全くもって違う。根本的に別物の才能なのだ。
「そっか、そっか。ちぇ、残念だなぁ」
ようやく実りがないと判断したのか一ノ瀬志希は立ち上がる。あでゅーと声を掛けて去って行く。まるで嵐のようだった。疲労を吐き出して対面の二宮と見つめ合う。やがてお互いに、ふっと苦笑するように息をこぼした。
「……お疲れ様」
「おう」
伝票は、持っていかれた。
天才の考えてることはわからない。故に一度引いて見る。
読まなくても読んでもいい設定。
《才能の匂い》
感じることの出来る人物はもれなく天才に片足突っ込んでいる。才能の塊。オーラとかカリスマって奴。一般人が感知できるならこの世は摩訶不思議アドベンチャー。
《ギフテッドな彼》
明らかに異常なほどの才能の匂いがする。才能の鎌足マン。
《一ノ瀬志希》
名前だけは何度か登場済みケミストアイドル。才能の塊ウーマン。才能を数値化できるなら主人公と同程度の数値を示す。