The World of us   作:君下俊樹

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実質夏休みなので初投稿です。
将来の夢はヒモなのでその為の勉強で執筆の時間が取れなかったのが遅れた理由の6割でポケモンが5割でシージが10割でThe crew2が120%です。


リピートセカイ

 自分の根源とは何か、とたまに考えることがある。何某かに選ばれたからこの能力を持つのか、それとも特別な理由などなく力を振るうことができるのか、あるいはこの能力を持つからこそ特別なのか。もしくは、特別ですらないのか。

 天才たる人間には天才足らしめる力があり、理由があり、きっかけがある。

 

「何か為すべき事があるのか」

 

 一体俺のそれは何だろうかと幾度となく考えてきたが、ついぞ答えが返ってきた事はなかった。この間目覚めたこの瞳だって未だに答えの出ていない現状。いわば詰み。ただ()る、()ることで答えを()るとはならないのだ。()のない問答ほど無意味なものはないのである。

 

 ハッと深黒な思考の底から目が覚めて、俺の意識は急速な浮上を始めてようやく辺りからの視線を感じた。その中には教師のものも含まれていて、言葉にならない感情が俺を急かす。どうやら四択の答えを言えと仰る。現在は数学の時間で、教科書の練習問題を解いている時間の様であった。

 寝ぼけた頭を酷使して時空を超えた頭が色彩と同時に3番と弾き出す前に、急かされて平常を保てなくなった口は直感から2と答えてしまう。

 これは怒られてしまうかと、表に出さず冷静な部分で悪態を吐く。しかしどういうことか教師は多少顔をしかめて、忌々しそうに2番に丸を付ける────。…………ふむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かによくよく考えてみると、2番であった。侮りがたし、分配法則。そして直感。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふらりふらりと揺れ動く頭が、眠気を如実に表して、麗らかな陽気がそれをまた助長させるかの様に身体を包み込む。俺と二宮はほぼ同時に、若干二宮がつられる様にして欠伸をした。そして、さらに遅れて一ノ瀬志希は大きな猫のように身体を伸ばした。それに合わせ、ブラックコーヒーよりも濃い黒が揺れる。

 けして一ノ瀬志希がこの場に居ることに不自然はない。彼女は特に学校も学年も違うがそもそも、ここは学校教育の場ですらない。

 

「お互いに苦労するな」

「そう、かもね」

 

 一ノ瀬に振り回された二宮はそう答え、寝惚け眼の一ノ瀬は何も答えなかった。

 今日の顛末はこうだ。二宮経由で、一ノ瀬が俺を呼び出したことに俺たちの放課後は始まり、二宮と共に向かったカフェで隈のひどい一ノ瀬志希と合流。アイスコーヒーを二つ頼んで今現在である。

 

「ところで、志希はどうしていきなり彼を呼び出したんだい? 遊馬、キミもずいぶんあっさりと承諾したね」

 

 それにはどう答えるべきか。対面に座る一ノ瀬と目が合う。コップをくるくると揺らして遊んでる様にも見えた。靄の奥に見える一ノ瀬の口元がにやけた。

 

「それは、前回の話の続きをするためだ。より良い答えを求めるため。近しく、且つ異なる視点と知恵はいくらあっても足りない」

「それは、前回は飛鳥ちゃんが隣にいたからかにゃー。別に嫌っているわけではなく、前回が飛鳥ちゃんとのデートだったからね。それが気に食わなかった」

 

 二宮は頬を引くつかせて互いを予想し代弁する俺たちを交互に見た。言葉遊びに近いもので特に意味はないことだから、俺たちがそれ以上言葉を重ねることはない。それにまた二宮はこめかみを抑える仕草をした。そんな二宮を見て、見上げて見下ろして、一ノ瀬はニンマリと笑顔を浮かべた。

 

「ダメだな、二宮はいない方がいい」

 

 遊ぶだろ、一ノ瀬。二宮が反応を起こす前に発した俺の呆れ混じりのそんな問いにそだねぇやっちゃうねぇ、と軽く応えてくる一ノ瀬。その瞬間すらチラチラと、二宮の逐一の行動を把握しようと瞳孔を忙しなく働かせている。普段からその自覚はあるだろう二宮は露骨に眉を顰めた。

 一ノ瀬は、ストローの挿さったオレンジジュースのコップを傾けて氷を噛み砕く。そんな何気無い瞬間に彼女の目がさめる。今までの寝惚けた笑顔の奥に鋭い捕食者の笑みを浮かべた。

 じゃあ、と上機嫌に唇を揺らして一ノ瀬は矢継ぎ早に質問を繰り出した。

 

 

 

 

 

 恐らく、二宮には俺たちが何故会話できているのかさえ理解することは難しいことだと思う。主語はなく、述語すらも怪しいものでひどければ「そうなの?」「そうだ」「ふーん」で一連の会話が終了する。俺自体完璧に把握できているわけではないが彼女が何を望んでいるのか、直前に何をしたか何を見たかと頑張ってようやく着いていけている程度。

 さりげなく二宮に視線を送って一ノ瀬に疑問を投げかけてみたところ、いらないよと答えたので彼女を巻き込むつもりはないらしいかった。故に俺も異能力に関して隠しつつも素直に協力する事にしたし、さらけ出した。全て才能という括りにしてしまえばなんて事はなく、一ノ瀬が多少疑念を持つのは分かったがそれも追及される事はなかった。彼女は本当に気まぐれで、靄の最中に見える心情が秒毎、もしかしたらフレーム毎に移り変わり別の色を叫ぶ。童子のように全力で生きているのが分かった。

 

「時間、だよ。志希、そろそろ」

「時間?」

「そう、時間、撮影。飛鳥ちゃんも一緒だよ」

 

 二宮を見ると、頷いた。2人なら時間を忘れて話し続けていたかもしれない。二宮を連れてきたのはこのためかもしれないなと思いつつ、なんと豪華なアラームだろうかと呆れもした。一ノ瀬から投げつけられた平成元年の500円玉硬貨を白黒の世界で受け止めるそぶりをして、一ノ瀬からの視線に気が付いて敢えて受け取らずに頬で受けた。恨みがましい視線を向けると、黒い一ノ瀬は薄く笑った。

 

「────じゃあね、遊馬」

 

 一ノ瀬からそう呼ばれた事に驚いたが、特に表に出す事はなく別れの言葉を告げる。視界から黒が消えてすぐ。瞳の奥から痛みを訴える声が聞こえてくる。特に見たくもないものを見せられて勝手に痛むとは随分な事だとぼやき、俺も直ぐに店を出る。

 

「じゃあまた、志希」

 

 驚くほど簡単に飛び出たその言葉に、驚異的な聴力でそれを聞き取った一ノ瀬は振り返る。笑顔、離れた場所にある黒い靄はきっと笑っているのだろう。なんとなくそうだと思った。アイドルとは、そういうものだ。彼女たちは職業とかそんな形式張ったものではなく、もうその在り方からアイドルなのだ。ファンに夢を与えて自らも夢を叶える。それはまさに唯一無二の存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────。

 

 テストなど比較にならないほどに難解だ。

 二宮飛鳥は置いてかれていると気が付いた。いや、正確に言うならば今ようやく、言葉を発さずに見つめ合う彼らがとうに走り始めていることに気が付いたのだ。

 彼らは本当に会話をしているのかとも思う。一言何かを発して一言の何かで返して、カフェという、比較的明るく開放的な空間にあって2人だけが隔絶された別の時空に居るような、閉鎖的で真っ暗な須臾の隙間に入り込んで居るのではないかと錯覚してしまう。

 結局最後まで二宮飛鳥が口を挟むことはできないまま、2人の会話は終わってしまった。

 

 

 

 ここから事務所までは歩いて五分程度の近い距離にある。荷物をそこへと置いてから仕事場へと向かう予定と成り、その事務所への道すがら。わざわざ人通りの多い道を避けて歩いた。この猫は真っ直ぐには歩きたがらないから。

 ほうと惚けたフリをして、隣を歩く一ノ瀬を見た。彼女は呑気に鼻歌を歌っている。

 

「キミに、彼はどう映った?」

 

 その陳腐すぎる問いに彼女は指で四角を作り、空へとフォーカスを合わせた。華奢で美しいほどに長い枠に囲われたレンズの向こうに、雲3割といった程度の空が見えた。真似をしてみればそのレンズの奥にはビルと雲と青空が広がっていた。眉根を寄ったのを自覚して、ビルを四角の中から排斥した。

 

「超人、かな」

 

 彼女のその言葉は常人と比べて重い。その評価はきっと、ボクの思うそれよりももっとずっと超人なのだ。人を超えた人。その評価はよくテレビで使われるようなものではなく、もしかしたら本当に人ですらないのかもしれないと思わせる。

 

「天才じゃないけどー、あたしと同じ。あたしとは違うのにー、明らかに天才である。これはもう、人間じゃない方が納得できるかも?」

 

 志希の誰かに聞かせるわけではなさそうな、むしろ自分で確認しているかの様な独り言には、あえて触れる事はない。しかし、あの一ノ瀬志希と同列に並ぶ彼を羨む感情は抑えられなかった。あるいは、逆なのかもしれない。自分の心を測るにしても、彼と彼女の後ろ姿は遠すぎた。その影は振り向きもせずすいすいと険しい道を、あえて表現するならば人生を、水をかき分けて行くように進んでいく。きっと天才とはそう生まれた生き物なのだろう、彼ら自身の言う通りに。天才とは誰かを表すものでなく、その在り方を示すものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────。

 

 

 

 

 

 すごく遠い。遥か遠い。

 

 彼女たちが見ている景色は、ずっと、ずっとずぅっと向こうなのだろう。

 純粋に羨ましいとも思うし、不思議にも思う。それはきっと自分には無いもので、2人はそれを持っている。けれど程度や、あるいはその方向でも、2人は同一だとは言えないだろう。

 それでも、2人の間には確かな同一のもの(きずな)が見えた。2人の間に光り輝くそれは余りにも眩しすぎて、目を背けた。

 

 

 

 

 なんだか自分が危うい土台に立っている気がしてしまって、思わず足元を見た。アスファルトと目があった

 

 




天才の真似事なんてするもんじゃねぇ!

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