The World of us   作:君下俊樹

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どうも、妖怪感想くださいです。
異能系の作者全員が全員能力の細部までこだわってると思うな。
自分で時止めろよって思った箇所があったので該当箇所修正


イントゥーセカイ

「まあ、不満だとは思うけどね。校則だからそういうトコはしっかりして欲しいかな」

「はい」

 

 優しい顔したおじいちゃん先生に少しばかり叱られて項垂れているこの男が俺だった。新学期が始まってすぐの頭髪等検査でツーブロックの髪型が校則に違反しているとして生徒指導室に呼ばれた。まあ、うん。ファッションは我慢だ。三年くらいサーセンwwwしてれば逃れられるだろう。

 そうしていると、コンコンと生徒指導室の扉が叩かれた。メインキャストの到着だ、脇役たる俺は一歩下がった。

 

「どうぞ」

「失礼します、1-Dの二宮です」

 

 入ってきたのは春の半ばごろのおかしな時期に転校してきた美少女として一躍脚光を浴び、さらにはアイドルだなんだと孤高の花のような存在として一部から絶大な人気を誇る二宮飛鳥。仕事の関係でたまにしか見ないが同級生でもあった。

 

「はい、聞いてますよ。ネイルとエクステでしたか。今は?」

「取りました」

 

 彼女はかなり不機嫌そうに答えた。かなり失礼に見えるが、生徒指導の先生の笑顔が崩れることはなかった。この人、絶対生徒指導には向いてないと思うんだよな。

 そして先生は彼女に対して俺にしたものとほぼほぼ同じ内容の下らないジョークを添えたお叱りをして与え、俺ら二人に対してきちんと校則を遵守するようにと言って解散となった。

 

 

 俺が思う二宮飛鳥は『心底イタイ奴』だ。まあ、キャライメージというのもあるのかもしれないが。

 彼女はよく図書室にいる、らしい。らしいというのも俺が図書室を利用しないためである。友人づてに聞いた話によれば、小難しい英字の本をことさらゆっくりと読み、何度かページを戻したり何かメモに取りながら、決まって昼休み終了のチャイムの少し前に一冊も本を借りることなく退出するらしいぜ(伝聞調)。

 

 実際本を読むことは好きなのだろうし、英語についても全く理解しないまま眺めているだけというわけではないのだろう。だが、特別英語が好きというわけではないだろうし、その勉強のためでもないのではないかと思っている。彼女がカッコいいものを好むのだというのはクラスメイトとして見ていれば分かることだし、まあそういう語彙を増やすためというのが俺の中では有力である。

 俺の座席は彼女の左斜め後ろの席にある。一学期の期末テストの返却時、中学生アイドルの成績はどんなものだろうと下世話な思いからパッと時を止めてその紙を覗いてちょっと後悔した。それを誰にも見られないようにカバンの奥深くへとしまう彼女を見てさらに後悔した。流石に42点というのは本人にとっても悔しいのだろう。その日彼女の口数は普段よりもさらに少なかった。59点でもクラス平均を少し下回ると考えると、結構悔しいものは悔しいのだから。それはもう、うん。推して知るべしというやつで、うん。

 

 

 

 うん。

 

 

 

 閑話休題。

 生徒指導室を出て、その生徒指導室やら職員室やらが固まっている第一棟を抜ける。

 ウチの学校はデジタルで表されるような9のような形をしており、9の数字の背中側に都立にしては広めの校庭、ぽっかりと開いた空間にはベンチがあるだけの中庭、下の空間には駐車場と、全体としてもやはり都立としては珍しいくらいのデカさである。そして校舎の方は、上から第一棟第二棟第三棟……というわけではなく第一棟、第二棟と来て、次に来るのは体育館である。校舎自体はq型なのだ。下にぴょこっと体育館が付いているだけで。

 とすると自明、俺が第一棟を出てすぐ右手に曲がると主に教室のある第二棟に入るわけだ。第二棟は下から三年の教室、二年の教室、一年の教室、特別教室、と何の変哲も無い平凡な作りだ。

 

 何故、今こんな話をしたかって? そりゃあお前。

 

「…………」

「…………」

 

 俺が三階の自分の教室まで無言で歩くだけのこの時間に耐えられないからだよ。

 

 俺と二宮に接点はない。あるとすれば同じクラスで、席替えの際は常に窓際の席を所望していて、且つ毎回そこまで席が離れることはないというくらい。そこまでいって一度も会話がないというのもおかしな話だがあいにく同じ組み分けになったことはない。

 

 静かな空間には慣れている。こんな能力があって静かな空間に慣れていないなんてのも変な話であるし、むしろ、煩いのは嫌いだ。かといって時が止まったまま動かなくなってそのまま……なんて事は。一度考えて、体調を崩した。

 

「キミは……」

 

 あまりにも声が小さすぎて、気のせいかと思った。だが違うらしい。確かに彼女は俺に向けて声をかけたようだ。

 

「なんだ」

「……意外と声が低いんだね」

 

 確かに、背もそこまで高いわけでもなく顔もどちらかといえば童顔だろう。自分で言うのもアレだが。だが、それが何だと言うのか。声だけ早熟なのは若干気にしているのだ。

 

「何が言いたい」

「失礼。キミは、ボクのことをどう思う?」

「はぁ?」

 

 これは、何を聞かれているんだろうか。アイドルとしてどう思うか聞かれているのか、クラスメイトとしてどう思うか聞かれているのか、それともアイドルがクラスメイトなのをどう思うのか聞かれているのか、はたまた……これ以上はやめておこう。

 しかし、こうして自分の評価を気にするあたり、やはりイタイ奴はキャラとかじゃないのではないかと思う。

 

「……保留で」

「は?」

「あいにく、テレビは見ねーんだ。だから、よく休む奴くらいのイメージしかない」

 

 これは事実。親との折り合いが悪いわけではないが、あまり家で会話をしないため、俺は普段自室に引きこもって実況動画だったり音楽を聴いている。そのためテレビを見る機会自体が少ない。夕食、朝食、風呂の前後の時間にはリビングにいるのでその時くらいか。

 

「それは求められてるのとは違うだろ? だから、保留で」

 

 若干早口ぎみにこうは言ったが、実際は大体が見栄と厨二心だ。カッコつけたかったってのが6割くらい。普通に別の野郎に──修学旅行のノリで──聞かれたなら「可愛いよな。結構好きなタイプ」ぐらいは平気で言う。だが、こうして会話をするのは初めてで、俺は無駄に緊張しているし、いきなり好きとか言ってイメージダウンするぐらいならカッコつけたい。男ってそういうもんだ。

 

 だが、後で考えれば俺はこの時こう答えた事で彼女に目を付けられたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学年は一つ上がり、俺たちは中学二年生。男どもは一斉にアホになり、女は急に怖くなる。そんな春である。

 卒業式の後、俺は先輩から屋上の鍵を頂いた。

 

 うちの学校の屋上は立ち入り禁止である。だがそれも形式上のもので、こうして合鍵が3つほど、生徒の中で出回っている。1人は三年生。サッカー部の部長で、これは常にジャンケンで勝った部活の部長が預かるという一番良く知られている鍵だ。初めは弓道部が誤って鍵を壊してしまい、それを秘密裏に業者に直してもらう際に一つ余分に作ったというもの。

 もう一つは名前は伏せるが、地域には名の知れた不良が自作したもの。わざわざ型を取り一から作ったそうだが、かなり精巧に出来ている。代々の持ち主が一番信用している後輩に受け継がれるこれが、俺の持つ鍵。前の持ち主である人物にいたく気に入られていた俺が受け取ったというものである。

 もう一つは出所不明の謎の鍵。今の持ち主が誰かも知らないし、いつから、誰が、どうして作られたのかもわかっていない正に謎の鍵。

 

 以上三つの持ち主がこの学校のクソガバセキュリティを潜り抜けることのできる選ばれし人。そう言うとかっこよく聞こえるのだが、要は重大な校則違反を繰り返す、生粋の不良である。まあ、厳密に生徒手帳に『屋上に立ち入ってはならない』と書かれているわけではないのだが当然褒められたことではない。

 

 しかし、黙認されているのかバレていないのか、殊勝にも昼休みを使って屋上の見回りに来る教師はいやしない。そもそも、屋上のある棟と職員室のある棟は違う建物だし、2メートルあるかどうかの柵に寄りかかって手でも降らない限り外から見える事はない。

 

 だから俺はこうして屋上でのんびりとご飯を食べることができる。時々時間を弄びながら。

 

 

 

 

 

 ガチャガチャ、とドアノブが不自然に揺れた。一瞬で体が冷える。

 今の俺は、屋上でイヤホンをスマートフォンに繋げ、好きなバンドの音楽を聴きながらお弁当を食べている。咄嗟に動く事は出来なかった。

 

 

 

 

白黒の世界で扉の奥に目を凝らす、薄ぼんやりとしたガラスの向こうに移るのは一度見れば忘れないであろう、彼女がいた。小さく息を吐く。

 

 キィ、と扉は開かれて、そこから姿を現したのは二宮飛鳥だった。少し冷や汗をかいた。

 

「キミは……」

 

 たしか、そう、あの時と同じ。小さな声でそう呟いた。

 

「────ふふ、こうしてみると、キミもまたかなりイタい奴に見えるね?」

 

 それは確かに否定はできないだろう。うなじを指で掻き、自分を第三者の視線になって俯瞰してみる。屋上で自らの力をひけらかし、黄昏ながら飯を食う……こうして文字に起こしてみると、我ながらひどい厨二病だな。だが簡単に認めてしまうのも癪だ。

 

「どうだろうな」

「そう誤魔化さなくてもいい。その返答が答えのようなものだろ?」

 

 言葉につまる。だが考えてほしい。図星を突かれてカッコ悪い姿を晒すよりミステリアスにカッコ良くありたいというのは誰しも持つ感情ではなかろうか。

 

「クサい言い回しだね。だが嫌いじゃない」

「お前こそ、随分と饒舌じゃないか。一年の頃はもっととっつきにくかったと記憶しているが?」

「……よく休む奴だった。それだけの話さ」

 

 思わず吹き出した。喉の奥から溢れる笑いが止まらない。なるほど、確かに彼女はエンターテイナーだ。それも相当にキマったセンスの塊だ。

 

「……いつまで笑っている気だい」

「クッ、クク……失礼。いや、二宮。お前、サイッコーにカッコいいぜ」

 

 存外、静岡もバカにできたものじゃない。お茶っぱとイかれた三角頭ぐらいしか居ないもんだと思っていたが、二宮が居るとは流石に知らなかった。

 一頻り笑って、ようやく落ち着いた。彼女も給水塔の下を陣取り、可愛らしい弁当箱を広げた。

 俺はもうすでに弁当を食べ終えて、チャポチャポとペットボトルを揺らすだけ。もしくは、もう少し彼女と話をしていたいだけ。

 

「キミはこの世界を生き辛いと思った事はないかい」

「ないね。何か言われたのか」

「いいや、そういう訳ではないよ」

 

 ほーん。まるで聞いていないし、興味も無いかのような返事を晒す。彼女は続けた。キミと今までこういう話をしたことがなかったのは、もしかして俺がそれを隠していたからでは無いかと。

 少し、考える。そして彼女はこうも言った。

 

「ボクらの住むセカイが、もし一つのシナリオの通りに進んでいるとしてライターは一つ間違いを犯した」

 

 彼女は役になりきる演者のように、自分に溺れる愚か者のように、世を危ぶむ聖者のように儚く笑った。二宮飛鳥という偶像(アイドル)は、この寂れた都会を見下ろして昼中を照らすようなライトアップを嘲笑してみせた。

 

「彼は、【演者はシナリオを書き換えてはならない】そう言うべきだった」

 

 虚無的に、退廃的に、蠱惑的に、まるで心を溶かす媚薬のような微笑みに、そう。まるで陳腐なラブストーリーのように、蛇足のように付け足された二束三文のお話のように、今まさに飛び立とうとしている龍の瞳のように、

 

「それ、誰の言葉?」

「ボクだよ。なら、こう付け足すべきかな。by Asuka Ninomiya」

 

 

 俺は、恋に落ちた。

 

「…………こんな言葉を知っているか?」

「なんだい?」

 

「ジェスターの有難い御言葉はピエロットには難しすぎる。ピエロットの悲しみはジェスターには理解できない。だが、観客にはどちらも度し難い道化でしかないのさ」

 

 それは正しく俺たちの事だ。

 

「それは、誰の言葉だい?」

「今考えた。付け足した方がいいか? by Yuma Teradaってな」

 

 二人して顔を見合わせて笑った。俺たちはお互いに何も知らないはずだ。なにせ、会話を交わすのですら1年ぶりで学年が変わり彼女を見るのも初めてだった。快晴の空が妙に近い屋上に、一年ぶり彼女は見たこともないような朗らかな笑顔を見せた。

 




言い回しは洋画や結構アレ系の物を参考にしてたりします。が、書き溜めなんて器用なことは出来ないので次回はかなり遅くなります。
どうも、妖怪感想くださいでした。
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