happy birthday to Asuka Ninomiya!
23:52分に大急ぎで完成させたので後々修正する恐れがあります。
屋上縛り?なんのこったよ(すっとぼけ)
圧巻。言語野を全て持ってかれてしまいそうなほどの高揚、湧き上がる観衆、六感にさえ響く爆音と閃光。ただただ凄いという感想を体全部で受け止める。
まさしく天上の瞬きのような節度のない煌めきが銀河の開闢のように広がっていく。ライブハウスとはまた違った感動。彼女が小さく見える。しかし、確実にそこにいるという存在感。遠いのに、俺たちは近い。アリーナ全体に響き渡る歌声はここにある全てを魅了した。俺だって例外じゃなかった。
二宮飛鳥というアイドルがそこにいた。
「なんだい、あれは」
「あれって……どれだよ」
手の中で転がしていた石が静かな水面に零れ落ち、にわかに波紋を立てる。今日のような暑い日は何となくプールサイドに行きたかったのか、二宮から「プールで待つ」と電話をいただいた次第である。用務員のおっさんにまたお前らかというような顔をされた。今度はコーヒーを差し入れるので見逃してほしい。
「ライブの後のメッセージだよ。『凄かった』って、小学生じゃあるまいに」
そうだろうか。もうアイドルというようなあの次元の話だと、一言で表すのが一番だと思うのだが。いくらペラペラと二宮飛鳥という偶像の素晴らしさを語ったところで、アイドルを知らない──というより、アイドルでない二宮飛鳥を知りすぎている──俺の言葉では薄っぺらい感想にしかならないだろう。まだ、心を込めた140字のツイートの方が内容があるに違いない。
「それとも、言葉を労して褒め称えた方がいいか? 結果は同じだがな」
それでも不服そうに、二宮はフンと声には出さずそっぽを向いた。頬をかく。あの感動は自分でもどう言語化すればいいのか、分かっていない。こういう時こそ、彼女の本心を聴くことができればいいのに、本当に使えやしない能力だ。彼女は拗ねている、それぐらいは聞かなくてもわかる。
「まあ、その、アレだ。凄かったよ」
「知ってるよ、キミから聞いた。ハァ────いいよ、ちゃんと伝わったから。けど、最後に。ボクの歌はキミに…………キミに、新しいセカイを見せてやれたかい?」
二宮は立ち上がり、その姿は月夜に照らされる。夜闇に紛れた会合もこれで何度目かのことだ。
言葉を選ぶ、こういう時はなんて言えばいいだろう。対人スキルのなさが如実に現れて、11秒きっかり悩んでも二宮の言葉になぞらえるなんてことしか出来ないのだ。
「ああ、シナリオライターだって驚くだろうさ。あんな歌を聞かされちゃあな」
「そう、ならいいんだ」
そう言って二宮はふわりと振り返る。喜色に移り変わった表情に一瞬見とれてしまうが、ハッとして目を逸らす。二宮は察したようだ。しかし恥じらいの心音は聞こえなかった。ため息を吐く。
「…………少し、恥じらいを持った方がいいんじゃないか」
「フフフ、別にただの布切れさ。見たところで…………そうだね、得るものがあったなら心の中に秘めておくのが一番だよ」
暗に見えても気が付かないふりをしろ、ということらしい。次回からはそうしようと思う。こうして外面だけはカッコつけてみても奥底は中学二年生男子に相応しい思考しか出来ない。そういう欲望に抗うのも一苦労である。抑えきれていない時点でこう言っても無駄かもしれないが、一応抑えてはいるのだ。
「やはり、水辺にいるだけで涼しく感じるね」
「んん、そうだな」
チャポ────と水音がする。ハッとして振り返るといつのまに脱いだのか、靴下を左手に持ち、素足で水面をゆらす二宮がいた。
「キミもどうだい、冷たいけど。昂りすぎた気持ちを鎮めるには丁度いいよ」
「俺は結構だ。まだ余韻を味わってたいんでね」
それに、水と戯れる二宮を見てれば十分納涼になっている────という言葉を押し込めた。もう少し節度を持つべきだ。少しモノクロの世界で心を落ち着かせることにして。深呼吸を一度。
次回はどうする、と聞かれ一瞬だけ戸惑う。次回とはおそらくこの『Live Parade』と呼ばれる一連のツアーの次回公演のことだろう。次回が首都圏最後の公演で、群馬開催だったはずだ。
「次は確か、来月か」
彼女は肯定した。御察しの通り、帰宅部である俺は来月であろうと再来月であろうと暇である。しかし、こういつまでも二宮に甘えている────というのは適切な表現かは分からないが────のもよくないだろう。
「多分、俺はお前の思っている以上にお前の歌声が好きだよ」
「────え? いや、あ。そ、そう。それは嬉しいな」
こうして、なんてことないように言葉にできるぐらいには好きなのだろう。彼女自身とは何の関係もなく二宮飛鳥というアイドルの歌声は俺の好みに合致している。だからこそ。
「次回からは必要ないだろう」
「え」
パシャン、と一際水が弾けた。跳ねた水が少しかかって、服を濡らした。文句の一つでもつけてやりたいところだが、愕然としたような二宮の顔を見て吹き飛んだ。
「…………そうか。それは────その、残念だ」
二宮は微かに俯いてすぐに顔を上げた。ほんの一瞬だけ沈んだ表情になり、消沈の心情が聴こえてすぐにまた格好をつけたようなニヒルな表情を浮かべる。言い方が悪かったのかも知れない。コミュニケーション能力の不足が顕著に現れ、むしろ恥ずかしくなる。
「勘違いしているかも知れんが、次回からは自分でチケットを取るから、必要ないということだよ」
確かに俺は彼女の友人であると思って居るし、親しい彼女のライブに誘われたなら行くだろう。
「だが、俺はもう二宮飛鳥のファンだ。こんなズルをしてちゃ、他の共感者達に申し訳が立たないだろう」
「…………そうか。良かった」
彼女の前では少しぐらいカッコつけたいし、ただ1人のファンでいたい。それが俺の望みだ。
「────けど、もう抽選は終わってるんだ」
「…………これきりで」
ああ、もちろん。彼女は笑いをこらえ切れないというようにそう言ってくれた。
読まなくても損しないキャラ紹介
寺田 遊馬
都立水代中学校2年Cクラス13番
一般家庭に生まれ育ち、生誕と同時に能力に目覚める。基本的に生まれる世界を間違えたレベルの異能力者。