The World of us   作:君下俊樹

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開く小説は間違ってないですよ(先手必勝)


間違ってないですよ(弐撃決殺)


間違ってないよ(二度あることは三度ある)

※サイレント無言修正


フラットセカイ

 その数字は7。白いヒゲを蓄えたガタイの良いディーラーが目を細める。その額は汗に滲み、僅かな焦りも見える。しかし、どこか安堵したような顔だ。

 7はトランプでジョーカーを除いた13種類のカードの内の中心の数字で、より高いか低いかを当てるこのゲームにおいて鬼門とも呼べる数字。しかし、俺に迷いはない。

 

「LOW」

 

 ペラリ、と緑のマットの上でトランプが捲られる。現れた数字は3。ほう、と安堵か気が緩んだのか溜め息が聞こえた。ディーラーは悔しさに顔を歪ませる。カジノトークンが倍の5120000枚に増える。もう今の時点で、向こう数年は遊んで暮らせる金額になる。

 

「LOW」

 

 その宣言にギャラリーがざわめき立つ。3という数字より低い数字は「2」の1種類、53枚のカードの中で4枚だけだ。つまり、3に対してはHIGHが定石であり、確率を言ってしまえば44:4。つまり、ここでLOWに賭けるのは馬鹿だ。愚かとしか言いようが無い。

 

 ディーラーが震える手でカードを捲る。しかし、これは極端に言ってしまえばアタリかハズレかを選ぶだけのゲーム。確率を無視すれば勝つか負けるか二分の一だ。非常に分かりやすい。故に。

 

 翻ったトランプは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────クローバーの2。

 

 馬鹿でもできる、そんなゲームだ。10240000枚のトークンが俺の物になる。これで10度にわたるダブルアップチャンスは終了だ。カジノ中が怒号と歓声に包まれ、俺を褒め称える声とともに、丸太のような腕で背中を叩かれる。ディーラーは崩れ落ち、その瞳を屈辱を通り越して怒りに震わせる。

 立ち去ろうとする俺を制止する声が聞こえ、振り向く。土下座だ。日本を遥々離れたこの地でまさかジャパニーズドゲザを見ることになるとは思わなくてビックリしてしまうが、観衆からはブーイングの嵐が吹き荒れる。俺はそれを気にせず、ディーラーを立ち上がらせる。ディーラーは明らかな喜色を振りまき、それすら無視して俺はもう一度椅子に座る。観客も再び集まり始め、全員が定位置に着く。そして、ディーラーが残り42枚のトランプを手にする。シャッフルが終わるのを見計らい、呟く。

 

「4」

 

 ディーラーも、観衆すらもシン、と静まりポカンと間抜けな顔を浮かべている。数秒停止しまだ誰も行動を起こさない。仕方がないので、トランプの一番上を捲る。

 

 ────ダイヤの4。

 

「8」

 

 ────ハートの8。

 

 9、Q、3、A、J…………。もはや誰も何も言葉を発することはない。淡々と捲られていくカードを見るだけだ。静まり返ったカジノには俺がカードを捲る音だけがいやに大きく響き、耳朶を優しく刺激する。

 

「JOKER」

 

 そして最後に捲られたカードは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見慣れた天井だった。

 

「……今日の夢はことさら意味が分からんな」

 

 夢を見た朝は妙に頭が冴える。気分はともかくとして晴れ晴れとした良い朝だった。

 

 

 

 

 今日は屋上に二宮の姿はなく、俺1人だ。彼女は中学生ながらに新進気鋭のアイドルである。今日のように撮影などの仕事をするため、学校を休むことは珍しいことではない。

 無論、俺は学生兼アイドルではないので、仕事だとか精神的動揺による休みは決してないと思っていただこう。

 

 ペットボトルの中身はお茶である。それも俺が最も好きな緑茶。ぐいとあおり、飲み干した。なんだかんだ言って二宮が居なければ手持ち無沙汰な俺は空のペットボトルを振り回し、雲を見つめる。こうして空を眺めて話題だったり言葉を探すのだ。

 ペットボトルの上端と下端に手の平を添わせて、そのまま手を合わせるように力を込める。しゅうしゅうと白色の煙を上げながらペットボトルは縮んでいった。長さが半分になった頃にはポタポタと手の平を水が伝い始め、屋上の床を濡らす。最終的には足元に小さな水溜りが出来上がる。

俺の能力は何の役にも立たないものから便利なものまで、色々とある。よく使うのは時を止めるくらいなのだが、こうしてエコの化身として使う分にはこの能力も中々どうして使い勝手が良いのではないか。調子に乗って、ハンバーガーを包んでいたラップも水にする。

 

 物質を溶かす。というより、物質を水にする能力か。こうしてちょっと意思と力を込めればどんな有害物質も、金属も、星すらも綺麗な水に変えてしまうエコの権化のような能力である。もちろん飲料水としても優秀な美味しい水である。本来の用途はまた違うのだろうが俺は専らゴミ処理に使っている。

 両手に滴る水滴を振り払う。二宮がいない時は、このように能力を行使することに躊躇いはない。自己顕示欲がないかと聞かれれば頷くことはできないだろうが、面倒ごとは嫌いなので大っぴらに能力を見せてやる事はない。が、言葉にしたところで信じられるものではないから巫山戯て口にすることはある。ゆえに、自己顕示欲はあると言っていい。

 

 

 

 ハッと俺の鋭敏な感覚が何某かの足音を聞き取る。安息の時間も終わりという事で、時を止めて人目につかない所へ移動する。

 

 

 

 ────ガチャガチャ、カチャン、ギキィ。なんとも言えない音を立てて古びた扉が開かれる。この扉はかなり古く、開ける際に少し下に力を込めて押さえつけないとこうして異音がなる。十分開かれたであろう頃合いを見計らって時を止める。扉を開けていたのは数学の教師で眼鏡をかけた男性だ。名を高塚と言う。

 うちのクラスの担当ではないのでその為人は分からないがとてもイイ性格をしていると聞く。面倒くさいので遊ぶ事はせずその横をするりと通り抜けて、下の階のトイレの個室に逃げ込んだ。ふぅ、とため息を付き便座に座って携帯の画面を確認する。もう昼休みも残り10分といった所。まあ、丁度いい具合なのでそのまま教室へと戻ることにする。よかったな、今日の俺は紳士的だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の俺は好戦的である。

 

「どうしたんだい、いきなり」

「いや、少し嫌な予感がする。離れよう」

 

 突然舌打ちをした俺を不思議に思ったのか、二宮は柔らかい声音で尋ねた。俺は昼食を邪魔されたことに苛立ちつつも、なるべく表情に出さないように二宮を煽った。

 二宮はそれに疑問を持つことなく、俺と共に屋上を後にする。とは言ってもここでそのまま階段を降りれば奴と鉢合わせてしまうだろう。よって、あたかも踊り場で昼食を取っていましたというように腰を落ち着ける。二宮も、踊り場の隅に放置してある机に腰掛けてペットボトルの水を口に含んだ。

 

「こんにちは」

 

 例のヤツが現れた。律儀にも俺たち2人に一度ずつぺこりと一礼し、合計二礼。俺と二宮もつられるようにして会釈を返す。ども、という簡素なものだが気にした様子はない。

 

「君たちはいつもここで昼食をとるのかね?」

「ここでというか、なるべく静かな場所でですが。まあ、概ね」

 

 一呼吸置いて、フッと浮かんできた言葉を返す。ふむ、と高塚は頷き、ここは埃っぽいだろうから、と忠告をして帰っていった。

 カツカツと階段を降りていくのを見送って、ため息を一つ。

 

「…………まるで、未来が見えてるようだね」

「そうかもな」

 

 驚く二宮に対し、おどける様に肩をすくめてみせる。実際見えているわけではなく階段を上る足音が聞こえたりシックスセンスで何かが屋上に向かってきていると思ったりしただけであり、起きている間は未来視なんて出来ない。ただ異常に勘がいい、くらいに収まる代物だろう。

 

「確かに、それも天からの才能ってヤツなのかもね」

 

 そりゃ、そうなのかもしれん。が、そうでないかもしれない。これが努力であるとか、あるいは血筋だとかの遺伝であるなら天からのとは言い難い。まあ母は兎も角、親父はギャグでやってるのかってくらい反応が鈍い。血筋(それ)はないだろう、隔世遺伝ならばなきにしもあらずだが。努力も生まれてこのかたしたことがない。知覚を鍛えるトレーニングなんて聞いたこともなかった。

 

「ほら、言っただろう。俺はそれなりに天才だと」

「どうかな。才能はオルタナティブなものではないから」

「器用貧乏だってか。二宮も大概だと思うけどね」

「…………」

 

 ジト目を向けてくる二宮から目を逸らす。俺だって体育の成績は平凡であるものの、運動神経が悪いわけではないし、なんだったら足も速いしボールも止まって見える──止めることもできる──し、二宮の知ったことではないが稲妻11みたいなこともできる。それでいて器用貧乏だというなら全世界に器用大富豪など存在しないだろう。

 なおテストの方はお互いにトップ100に張り出される程度だが、俺の方が若干上である。英語は2人ともお粗末なものだが国語なんかは2人して高い。これも毎度のように言葉遊びに耽っている厨二病の特権である。あと歴史なんかも無駄に高い。カッコいいからな。

 

「…………ふ、確かに認めるべきかな。キミは多少なりカミサマに愛されてると。キミになら居るのかもね」

「お前は信じないのか?」

「下手な勧誘はお断り、さ。居るというなら居るんだろう。彼らのタマシイの中にでもね」

 

 俺が無神論者でよかったな、と軽口を飛ばして時計を気にする。まだ時間はあるので、無意味に伸ばした膝を組み直す。俺たちは普段は見ない天井を見上げた。俺たちはお互いに話題に困ると空を見上げる癖がある、何方からともなく笑い始めた。今日見つけられたのは廊下のものと変わらない天井だけで、流石に俺も二宮も天井トリビアなんてものは持ち合わせていないのだった。

 

「戻るか?」

「いや、もう少しだけ」

 

 俺ももう少しだけこの空気を感じていたかった。結局、昼休みが終わる直前まで俺たちはこの澱んだ空間で他愛もない話を続けた。

 

 

 




ないです。(四天王)

蛇足や番外として屋上外の話を書くかもしれないですけどまず本編を完成させたい。
一週間かけてこれかよって思ってるあなた。違うんです。5日間くらい何もせず昨日今日で書き上げたからこれなんです。
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