The World of us   作:君下俊樹

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ここからは完全に蛇足ですが俺が可愛い二宮飛鳥を書きたいだけなのでノーカンです(ハンチョウ並感)


蛇足
ドラマチックセカイ


 346プロにおいて、いわゆる男女間(あるいはごく稀に同性間)の恋愛と呼ばれるモノは案外近しいところにある。飛鳥のスタイリングを担当しているスタイリスト(31)も結婚して子供もいるし、アイドルたちも例外ではない。

 この業界自体昔は恋愛には厳しく、やれセンテンススプリングだ、やれモーニングサンだと、そんなネタを好き好んで探し回る者も多かった。

 だがとある国民的アイドルの電撃結婚から、業界全体の雰囲気が変わったというのは周知の事実であり、誰もかれもがそれを受け入れている。

 

 

 

 

 

 曰く、シンデレラには王子様がいるものだ────と。

 

 

 

 

 

 二宮飛鳥はソワソワと、まるで年相応の少女のように何度も座りを直して居心地の悪さを誤魔化していた。

 

「凛ちゃん! 見てください、これ」

「わ、これ卯月が作ったの? すごいね」

 

 イチャイチャと、友人にしては近過ぎるような距離感で2人──島村卯月と渋谷凛──は島村のスマートフォンの画面を覗き込む。飛鳥は織姫と彦星の間にある有象無象の河の星にでもなった気分だった。あるいは夫婦の寝室に飾られた絵画だとか。

 

 飛鳥も、ほら。と言われて見せてもらうと、たしかにそれは感嘆に相応しいもので、細部までこだわりを感じるブラウニーの写真だった。ほう、と嘆息を吐いてみせ当たり障りのない賛辞を送る。芸術に詳しいわけではないから、食べてもいないケーキを褒めるのは少し難しくはあった。難解な友人の言動よりはマシと考えることにする。

 

「それにしても……遅い、ね」

 

 何かあったのかな、と渋谷が溢す。30分ほど前に、彼女たちをこの部屋に案内してすぐに出て行ってしまった緑色の事務員によれば、会議が終わり次第今回の企画について説明と指示があるそうだが。

 

会議は踊る(The Congress dances)されど進まず(but it does not progress)というところかな。それとも踊らず(have not dances)さりとて進まず(and it does not progress)か」

 

 フッ、と嘲笑うような口調に島村はあっと笑顔を浮かべる。

 

「ウィーン会議ですね! 飛鳥ちゃんは賢いですねぇ」

 

 私はこの間習いましたけど、それまで知りませんでしたと、煽るでもなく純粋に彼女を尊敬するような視線に二宮もたじろぐ。彼女を例とする善意と良心の塊は二宮の最も苦手とする人種であり、天敵と言い換えてもいい。

 嫌いにはなれない。むしろ、善意と良心というのは一般に歓迎されるべき感情で、彼女自身もそれ自体は好きな部類だ。嫌いな善意と良心は度し難い阿呆のものである。特に誰というわけでも無い。

 

 

 そうして島村卯月が放出するオーラに渋谷とともに押されているとコンコンコンコンと扉の下の方から四度ノックの音が響いた。はあ、と渋谷はため息を吐いて扉を開いた。

 そこから現れたダンボール魔人は、人の上半身にあたる部分が四つの段ボールで出来ていて、頭と思しき部分からは乱雑に丸まった資料が飛び出ている────

 

 

「すまん、遅れた!」

 

 

 ─────ように見えるだけの、成人男性だ。

 ガッシャと多少乱暴に段ボールを机に置き、飛鳥達3人に向き直った男性はパシン、と手を合わせた。

 

「や、スマンスマン。ちょっと部長から呼び出しを食らってしまってな」

 

 青年と呼べるであろう若々しさと、整った容姿。高卒就職は伊達では無いようで、資格の数と若さ、それと熱意だけは他のプロデューサーとは段違いであるこの男。この場では、島村卯月と二宮飛鳥のプロデュースを担当している。渋谷凛のみ、担当はまた別の武内という大男である。

 

「ふーん? ま、いいけどさ。早く、企画書とか見せてよ」

「クソ生意気に育ちやがってまあ……。武内さんに言いつけてやろうか」

「やめてよ、シェイク奢るから」

 

 いいよ、とおざなりな返事を寄越して彼は段ボールを漁り始めた。几帳面にファイリングされた紙束が各々に渡されて、彼が彼女達の座る向かいに着席した時点で企画の説明が始まる。

 

「じゃあまず2pから。今回は君たち()()へのオファーです。事前にちひろさんから軽い説明はあったと思うけど、来月の第一木曜22:00放送予定の『きんぐだむ』に出演して貰います」

 

 ここまで、何かとプロデューサーはこちらに視線を向けるが、まだ映画で言えば映画泥棒の段階である。特に何も無い。

 

「それじゃあ4p。番組のだいたいの流れね、ここはまあ頭の片隅にでも。そんじゃ次ー」

 

 

 

 そうして説明は進みいよいよ資料も残すは最後のページとなった。彼女たち四人の新曲である《ベラドンナ》の宣伝時間を頂いているとのことで、スッと心持ちから引き締まるのが分かった。

 

「宣伝ね。まあそこは適当でいいよ。渋谷、一応君がリーダーだから。君に任せる」

 

 彼の常であるへにゃっとした笑顔に場の空気が弛緩する。屋上とは違う室内だからというのもあるが、また別の和やかさを持つ柔和な空間になった。二宮としてはこの雰囲気は流されそうで、あまり好きでは無いはずだがどこか好ましく感じている自分もいるのはまた事実。渋谷もどちらかと言えばこちら側の人間で、呆れたような諦めたような苦笑い。島村も多少の陰りはあるものの、もう慣れたと言わんばかりの笑顔である。そして渋谷はもう一度だけ幸せを手放して愚痴った。

 

「適当って、それでいいの?」

「いいんだよ、君たちが楽しめるかどうかの方が大事だからね」

 

 これが人誑したる所以か、と二宮は心の中で呟く。

 彼が優れるのはそのスカウト力で、人懐こい笑顔と良い意味での気安さから、色々なアイドルをプロデュースしてきている。しかし、他の事務能力が疎かであるかと言えばそうではない。自身もアイドルを始めてから此処に至るまで彼の助けを何度も借りているのは確かだ。

 

「はいはい、じゃあ。番組内の企画の事前アンケート、6pね」

 

 思考を一時中断し、言われるがままに6pを開く。先程は彼の指示で飛ばした部分だ。

 

「えー、まず《最近の一番高いお買い物》、《HR級に嬉しかった出来事》、何だこれ。まあ良いや、それと《趣味が高じて此処まできました》だね」

 

 ふーん、と渋谷ではないが相槌を打って、考え込む。買い物、嬉しい出来事、趣味、とたしかに話す要素としては困らないが、これといった事も思い浮かばない。喉と頭の渇きを潤すためにジュースに口を付ける。

 

「来週までにこの中から二つ以上、好きなのを回答してね」

「あれ? プロデューサーさん、次のページもアンケートだったと思うんですけど」

「あれ、そうだったかな? あ、本当だ」

 

 ちゃんとしてよもう、そんな感じで緩い雰囲気のまま島村と渋谷と笑うプロデューサーの言葉を聞き流して、アンケートについて頭を働かせる。しかしどうしたことか、余計なことばかりが頭に浮かんで本題に集中できる気がしなかった。

 

 

 

 

「────それと、《ビックリした友人の告白》、この四つから選んでくれ」

「グッ!?」

 

 口の中身を吹き出さなかったのが唯一の幸いだった。荒ぶる脳内のアラートを抑え込んで、何度か咳き込んで何もないかのように振る舞うが、既に3人の視線は彼女へと突き刺さり、何もないと言うには難し過ぎる状況だった。

 

「…………なんでもない」

 

 それ以上の追求はなく、何とか逃れたと思っていいのだろうか。彼女は何となく顔を逸らして部屋の隅を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはどうだろうか」

 

 人気のない屋上で、いつかの様に俺は、給水塔に腰かけたまま二宮を見下ろした。

 二宮は難しい表情を浮かべて此方に凛とした視線を向けた。

 

「“どう”とは?」

「そのままさ。果たしてそれは本当に彼女の望んだ姿だったのか? あの結末は彼の願望ではないのか?」

 

 俺のその台詞に二宮はそうか、と呟きまた思考へと没頭していった。

 結局、俺たちの関係は特筆すべき変化もなく、今日もまたこうして屋上の一角を間借りして昼食と麗らかな陽射しをデザートに、平和な日常を享受していた。あるいは3時間目後の休み時間に言った、また屋上でという言葉によるものかもしれないが。

 

「そういう見方もあるね。けどそれも、常に自分の中にカタルシスを求めた彼女の思惑の内になるとは思わないかい?」

 

 彼女は相当に読み込んだのであろう、現在話題のタネとしている小説をペラペラと片手でめくってみせた。

 こうして一つのタイトルについて、理解を深めることを目的に話し合うのは久しぶりの事で、盛り上がりも一入だ。二宮にとっても思い入れの深い作品であるらしく、それを語る時の二宮は活き活きとした表情で此方もつい熱が入り、議論もヒートアップしていた。

 

 

 

 

 

 

「どうした?」

 

 まるで、音が消えたかの様に急に黙りこくる二宮。訝しんだ俺は二宮を見つめるが、返事は期待出来そうにない。二宮はふいと顔を逸らした。

 

「…………なんでもない」

「そうか」

 

 なんでもないという事はないだろうが、追及したって有意義な時間が得られるとは思わなかった。会話は一度そこで途切れたが、数十秒立つ頃には、またその作品の深みへと嵌まっていった。

 

 屋上を去るときは作品の主人公の別れの言葉になぞらえて。

 

「『また、いつかの夜にきます』」

 

 2人の声は同時に響き、俺だけが言葉を続ける。明日の昼にでも、クスリと笑う。二宮も、釣られて笑った。




ギリギリまで編集してます。

読まなくても良い用語紹介

《きんぐだむ》
木曜22時からのバラエティ番組。人気は高い。また長寿番組だが、旬の芸能人を起用することから流行に敏感な若者たちもこぞって見るという。
《ベラドンナ》
二宮飛鳥含む4人によるユニット、またそのシングル。

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