美少女指揮官(♂)と艦船達の日常   作:ゆっくりいんⅡ

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 初見の方は始めまして、そうでない方はスイマセン久しぶりで明けましておめでとうございます(遅)、ゆっくりいんです。今回はアズールレーンにドハマリしたのでリハビリも兼ねて書いてみることにしました。
 ……え、緋弾のアリアの方はどうしたって? ハハハ、勿論忘れてませんと(銃声)



その愛の源は

 

『……督、……く?』

『……い?』

 海底にいるようなまどろみの中、自分を呼ぶ複数の声。しかしそれらは靄がかかるように小さくなっていき、今では何を言っているのか分からなくなってしまう。

『……官、……揮官』

 代わりに聞こえてくる別の呼称。そちらの声は徐々に明瞭となっていき、自身にとって馴染み深いものと認識していく。

 ああそうだ、今の自分は――

 

 

「……」

 目が覚めた。移ろう夢でも見ていたのだろうか。

 寝起きの頭で思考してみるが、夢なのだし詮無いことと結論付け、身体を起こす。

「おはようございます指揮官様、お目覚めはいかがですか?」

 横合いから聞こえてくる声で一気に覚醒した。側に立て掛けてあった軍刀を掴み、同時懐に忍び込ませた拳銃を取り出し、侵入者に銃口を向ける。

「あら、驚かせてしまったようですね……申し訳ありません、配慮が足りませんでした。

 でも、寝惚け眼の指揮官様も愛らしかったですが、今の凛々しいお顔も素敵ですわあ。ふふふ」

「……赤城か、おはよう」

 相手が自艦隊の艦船であると分かり、銃口を下ろす。

 名を呼ばれた彼女、重桜所属赤城型航空母艦一番艦赤城は嬉しそうに微笑む。

「はい、おはようございます指揮官様。良い朝ですね」

「まだ暗いけどな」

 時計を見ると朝の五時半、年も明けたばかりの時期では太陽が顔を覗かせる時間ではない。

「……銃を向けたのは悪かった。習慣なんでな」

「お気になさらず、指揮官様の事なら把握していますわ」

「そうか。で、早朝から何か用か」

「今日はこの赤城が秘書官の日なので、指揮官様の寝顔を堪能させていただきながら待機していました」

「……気配には敏感なつもりなんだが」

 自室で待機してろとか鍵掛けてあったんだがとかツッコミどころは山程あったが、とりあえず一番気になったところを聞いてみると、

「三歩下がって影踏まず、愛する方の安眠を妨げないよう気を遣うのは当然のことですわ」

「……その方法を聞いてるんだが」

「愛の成せる業です」

「……」

 目が本気だったので詮索はやめる。少なくとも空母である彼女にステルス系統の機能・兵装はないのだが――やめよう、考えると朝から疲れてくる。布団に入られてなかっただけ良しとしよう。

「……まあ、少し早いくらいだな。準備するか」

「二度寝をされても大丈夫ですよ?」

「ガン見されて寝られるほど神経図太くない。……オイ、今から着替えるんだが」

「赤城は気にしませんわ」

「俺が気にするんだよ」

 部屋から追い出し軍服姿に着替える。……終わってすぐいつの間にか入っていたのは恐怖でしかないが。本当どうやってるんだコイツ。

「~~♪」

 座って書類に目を通している間、俺の髪を整えてくれる赤城は上機嫌に鼻歌を歌っている。

「……男の髪を弄るのがそんなに楽しいか?」

「指揮官様の髪だから楽しいんです。加賀もそうですけど折角綺麗なものをもってるんですから、どうしてもお世話したくなりますわ」

「櫛を通せば充分だと思うが」

「加賀も同じこと言ってましたね」クスクス

「いっそ面倒だし切――」

「……」<・><・>

「……りはしないから、整えてくれると助かる」

「はい、勿論ですわ♡」

 なんでウチの連中は人が髪を切る発言をすると似たような反応をするのだろうか。

 まあ確かに女顔だが、と鏡に映る華奢な自分の姿を見て溜息を吐く。自分でもこの黒髪ロングが一番似合うと分かるため、複雑な気分だ。この顔のせいで女と間違われて告白されたことなど数えるのも億劫だが、まさか赤城は同姓あ「指揮官様なら女性でも構いませんよ?」当然のように心を読むな。

「ご主人様、おはようございます」

「おはようベルファスト。いつも通り早いな、ご苦労様」

 部屋を出て廊下を歩いていると、朝食の準備中だろうベルファストに遭遇した。

「勿体無いお言葉です、このくらいメイドとして当然のことですから」

「あら、ゲテモノ国のメイドは朝から点数稼ぎに余念がないわね」

 間髪入れずに赤城(腕をこちらに絡めている)の嫌味が飛ぶ。頭を上げたベルファストは常の笑顔のまま、

「纏わりつくしか脳の無い狐モドキよりマシだと思いますが?」

「……うふふふふふ」

「……」ニコニコ

(また始まったか……)

 笑顔で火花を散らしあう姿に溜息を吐く。

 見れば分かるがこの二隻、物凄く仲が悪い。顔を付き合わせれば毎度口喧嘩から実力行使(流石にそうなったら止めるが)になる。赤城曰く『指揮官様に近付く悪い虫の中で最たるもの』とのことだが……個人的には近親憎悪ではないかと思う。

「ねえ指揮官様ぁ、お願いがあるので、あいた」

「ベルファストを沈めようとするなっての」

 ヤバイ目をして袖から艦載機(愛用の零戦52型T3)を投げ付けようとするので、脳天にチョップしておく。宿舎が壊れるっての。

「……うふふ」

「何で叩かれて嬉しそうなんだよ」

「だって、指揮官様があのゲテモノじゃなくて私を見てくれるんですもの」

「武装取り出せばそっちを見るに決まってるだろ……そもそも、今日の秘書官はお前なんだし優先するのは当たり前だ」

「――!」パアアァァァ

 嬉しそうな顔で再度腕に抱きついてきた。そうなると必然、豊満な女性の象徴が押し付けられる訳で。

「……当たってるぞ」

「ダメですか?」

 上目遣いで見てきた。懇願されるのは予想外、目を逸らして「……好きにしろ」とだけ言った。

 そろそろ俺が男だという事を自覚して欲しい。顔は女だが欲求は普通にあるのだ。何のとは言わないが。

(……殺す気なんて、無い癖にな)

 そんなことを考えながら、朝の食堂へと向かった。

 

 結局一日中赤城に引っ付かれて仕事をする羽目になった。周囲も生暖かい目を向けることはあるが、触れるものはいない。誰かこの状態に何か言えよ、ベルファスト以外で。

 寮舎の入口で(何かツヤツヤしてる)赤城と別れ、自室へ足を向ける。

「……疲れる」

「何故そんな顔をする? お前とて姉様を嫌っているわけではないだろう、喜ぶなり己の欲求に従えばいいだろうに」

「そんな野獣の思考は持ち合わせてない。で、待ち伏せしてまでどうかしたのか加賀」

 廊下の先で壁に背中を預けていた赤城の妹(実際そうなのかは微妙なところだが)、加賀はこちらへ近付き、手に持っていたもの――酒瓶を掲げる。

「少し、話がしたいと思ってな。日々の労いも兼ねて、酌でもしよう。最近は飲んでいなかっただろう?」

「年末年始でさんざっぱら飲まされたからな」

 主に酔って絡んでくるオイゲンに。正直、よく胃が壊れなかったものだと我ながら思う。

 とりあえず俺の部屋で飲むことにし、加賀と二人窓越しの月を肴に酒盛りが始まった。といっても多弁な方ではないため、互いに対面でありながら冬の夜空を眺めつつ黙々と杯を傾けているのだが。

「話とは、赤城に言いにくいことか?」

 こちらから沈黙を破って問いかけると、三杯目を注いでいた加賀の耳がピクリ、と動く。表情は変わってないが丸分かりだな。

「流石指揮官、鋭いな」

「あいつを誘ってない時点で予想は付くさ」

 二人一組がデフォと思える加賀が、急に一対一《サシ》で飲みたいと言えば予想は付くだろう。

「そうか? ……まあ、確かに姉様とは一緒のことが多いからな。そう思われるのも仕方ない、か」

 あまり自覚がないらしい。少し赤い顔で腕を組みふむと頷いているが、一人で行動してれば異常と感じられるくらいだぞお前等。

「そうだな、では単刀直入に聞くとしよう。

 指揮官、姉様がお前に向ける感情は(・・・・・・・・・・・・)本物だと思うか(・・・・・・・)?」

「……また妙な質問だな」

 俺が赤城を好きかどうか、という質問なら分かるが、赤城の恋慕が本物かどうかと来たか。

「それを聞いて、お前はどうしたいんだ?」

「別に、何も。ただ、お前自身が姉様の愛をどう思っているのか、聞きたかっただけだ。

 ……まあ、返答次第では手が滑ってしまうかもしれないが」

「聞く気なのか殺す気なのかどっちなんだ」

「殺しなどしない、そんなことをすれば姉様が本当に壊れてしまうからな。精々仕置きの範囲だ」

 目と動きを見るに、本気でやりかねない。まあそれでも、答えは変わらないのだが。

「今は依存半分、恋慕半分といったところか」

「……正直だな、この状況で。半分、というのは?」

「出会った当初は依存が大半だったろう。ただ、時間が経つ毎にそれは思慕に変わっている」

 運命の出会い、と彼女は言っていた。それが本気なのかどうかまでは分からない、が。

「例え最初が縋るものを欲しただけでも……別に、構わんと俺は思う」

「……気付いていたのか、姉様の傷に」

「これでも指揮官だ、お前達のことは見てるつもりだ。

 お前は戦だからと割り切っているようだが……赤城は、そうでもないみたいだな」

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)。戦場帰りが多く掛かるという心の病。赤城の場合は――言うまでもない、ミッドウェーで四席の空母を失った『運命の五分』だろう。以前瑞鶴から『グレイゴースト』の名を聞いただけで発狂しかけたことが、この結論を補強している。

 かつて艦だった頃に受けた傷。それは人の形になることで『喪失』への恐怖となり、他人を欲する『依存』となった。実際敵には加賀共々一切容赦ないが、味方であれば『害虫』『帰ってこなければいい』などと言いつつ、かつての怨敵であろうと傷の一つ付けていない。それどころかユニオンやロイヤルの艦でも(一部例外はあるが)指導や面倒を見てやる姿もよく見られる。

 ……一瞬で自分を含めた四隻が沈められるという悪夢のような現実に苛まれ、それでも誰一人死んで欲しくないから。そんな思いが、彼女を突き動かしているのだろう。

 それでも自分だけで立っているのは限界がある。そこで出会ったのが俺、ということなのだろう。

「赤城は強い女だ。いくら艦とはいえ普通なら塞ぎ込むなり、逃げてもいいことなのにな。

 口ではともかくあいつの生き方は、思慕は、尊い本物だと思うぞ」

「……そう、か。そこまで分かっているなら、私が口を挟むのは野暮だったな。

 では趣向を変えるとしよう。お前は姉様のことをどう思っている」

「……一気に与太話になったな」

「酒の席には相応しいだろう? そもそも、姉さまの事は聞いてもお前の気持ちは終ぞ聞いてなかったからな」

 喋っている間も酒がすすんでいたせいか、薄笑いを浮かべた白い顔はより赤みを増している。よく見ると頭のケモミミも赤いような。

「……正直、恋愛なんぞよく分からん。長いこと戦争に明け暮れてそういうことは空っきしなんでな。

 赤城が向けてくる好意にどう返せばいいのかも思い付かんが……まあ、嫌いではないし、報いてやりたいとは思う」

 どちらかというと好きな方だ、とは口に出さないでおいた。幾ら酒でタガが外れかけてるとはいえ、そこまで言うには羞恥心が邪魔をする。

 もっとも、目の前でオモチャを見つけた顔をしている白狐にはばれているのか、満足そうに頷くと、

「それだけ聞ければ十分だ。では、そろそろお暇するとしよう。

 ……指揮官、姉様を頼んだぞ」

 言うだけ言って酒杯を片付け、部屋を出て行こうとする加賀に、

「それは違うだろう」

 否定の言葉を投げかける。振り向いた気配はするが、俺の視線は月に向けたままで、

「俺に赤城を任せるんじゃない。俺とお前で赤城を助け、俺と赤城でお前を助け、赤城とお前が俺を助ける。

 赤城が信頼できる相手は俺一人じゃない、お前も含まれているんだ。三人寄れば、大抵のことは何とかなるだろうよ」

 壊れかけていた赤城がそれでも踏みとどまれたのは加賀、お前の功績なんだよ。

「なんだ、口説かれているのか私は?」

「真面目な話だ阿呆。そもそも、口説き文句なんぞどういうものなのかも知らん」

「ふ、確かにそうだな。まあ、お前にそこまで言われたのなら私も働くとしよう。何せ、私はお前のものだからな」

 その誤解を呼ぶ発言はどうにかならんのか、と文句を言ったのだが、聞く耳持たず去った後だった。

「まったく……」

 酒のせいか、随分らしくないことを口走った気がする。さっさと寝るかと立ち上がったところで、

「むぎゅ」

 何かに抱きしめられた。顔面に何かいい匂いがする柔らかいものを押し付けられ――

「指揮官様、指揮官さまぁ……」

 誰だかすぐに分かった。いつ入ったのかは(恐ろしいことに)不明だが、赤城の方が背は高いためすっぽりと収められるようになってしまう。

「赤城は、赤城は幸せモノです。指揮官様にここまで理解していただいて、受け入れてくださって、加賀と一緒に居ていいと言われて……」

「……姉妹なんだろ、一緒にいて当然だろう」

 というより加賀の方が姉への依存度は高い気がするため、一人にしたら狂戦士《バーサーカー》になりそうで怖い(無自覚だろうが)。

「指揮官様が愛してくださると!」

「待てどんな脳内へんか――むきゅ」

 より一層強く抱きしめられて遮られた。

「ああ指揮官様、一瞬でも貴方様が私のことなど眼中にもないと思ってしまったこと、お許しください……赤城は、赤城はこんなに見てもらえていたのに……」

「……口にしないんだ、疑うのも無理はないだろう」

 お前は悪くない、そんな思いを込めて抱きしめ返す。華奢で今にも折れそうなのにそれでも立ち続ける、気高き彼女を支えようと。

「でも、でも指揮官様……赤城は、それでも貴方を信じきれない最低な部分があります……いつか、いなくなってしまうのではないかと。だから……」

 その先は続けられなかった。互いに抱きしめたまま、潤んだ目の顔が徐々に近付いていき――

「そこまでです発情キツネ、ご主人様から離れてください」

 ――いつから居たのか、ベルファストによって強制的に引き剥がされた。

「ご主人様、大丈夫ですか? 変なことはされていませんか? まだ未遂ですか?」

「――ベル、ファスト?」

「はい、貴方様のベルファストです」

「見て、た?」

「はい、抱き合うところからですが」

「――――!!!」

 羞恥心が一気に駆け上がり、その場にうずくまってしまう。ムードに流されて、違う、本心、いやでもそれじゃあ。……ダメだ、考えがまとまらない。絶対カオマッカー!! になってるぞこれ。

「ふふ、羞恥に悶えるご主人様の姿、大変愛らしゅうございます。もっとも」

「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「そこの女狐が原因でなければ、ですが」

「イギリス女は空気をぶち壊すクズ淑女ばかりなのかしら?」

「ご主人様を魔の手から護るのも、メイドの勤めです」

「自分に魅力がないからと醜い嫉妬で妨害する虫けらは心底不愉快ね」

「時も場所も立場も弁えない色ボケよりはマシかと」

「――もう語る必要はないわ、死になさい」

「そっくりそのままお返しします」

 双方艦載機と主砲を構えた、ぶつかるのは時間の問題だろう。

「……ああもう」

 羞恥に浸る時間もないとは、どれだけ仲が悪いのかこの二人は。

 とりあえず最初に、喧嘩を止めるとしよう。その間はまあ、さっきのことは考えなくていいだろう。

 

 

 




あとがき
 はい、というわけで赤城さん編でした。ストーリーと過去を見る限りヤンデレなのにはこういう理由なのかなーと適当に思い浮かんで書いてみました。……後半加賀さんとの対談メインになっちゃいましたけど、まあ同じ一航戦だしね?(何
 ちなみにベルファストと仲が悪いのは本作の仕様です、そもそも原作では関わるところが全くないし……まああれです、どっかの自称良妻狐とJK公家だと思っていただければ(雑
 では、今回はここまでで。次回はプリンツ・オイゲン編を予定してます。もう一話書いたらチラシの裏から正式に上がる予定です。
 感想・誤字脱字コメントお待ちしております。読んでいただきありがとうございました。今年はちゃんと書きます!! 多分!!(目逸らし)
 




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